個性的な魅力で多くのギタリストたちを虜にする“ビザール・ギター”を、週イチで1本ずつ紹介していく連載、“週刊ビザール”。今週はグヤトーンが海外輸出用として作っていたジェイ・モーリアのLG40。愛らしいルックスの1本だが、グヤトーン製ギターの進化過程を紐解くうえで、かなり重要なのでは?というレアなモデルである。さっそく、その詳細をみていこう。
文=編集部 撮影=星野俊 ギター提供=伊藤あしゅら紅丸
歴史のミッシングリンク。
グヤトーンの進化の過程が
ついに解明できるかも?
もっこりとした、ジャジィな音色
まず初めに言っておきたいのだが、これはかなり珍しい。
もう一度言おう。これはなかなかお目にかかれない逸品だ。
本器は、グヤトーンが海外輸出用に作っていたLG40というモデル。ヘッドに貼られた“J.mauriat”はイギリスの輸入商社であることから、英国向けのものなのだろう。
一部の好事家の間でしばしば話題にのぼるのが、50年代後半から60年代前半にかけての数年間で、グヤトーンのコンセプトが激変しているということ。ものすご〜く簡単に言えば、ギブソン路線を感じさせる50年代に比べ、60年代に入ると一気にフェンダー路線に近づくのだ。
そのため、“何か移行期のモデルがあるんじゃないか……?”と、想像していた人もいるはず。
そして、その間を埋める“進化のミッシング・リンク”となるのが、今回発見されたこのLG40ではないか、というのがGM編集部の見解だ。
例えば左右非対称のシェイプは、同社のLG-70(国内発売は62年頃)などにみられるフェンダー路線のそれであるが、本器はそれらに採用されていたデタッチャブル・ネックではなく、それ以前に多く見られるセットネック仕様である。また、ボディにコンター加工はなく、バインディングが施されたフラットなトップ&バックは、LG-60B(国内発売は58年頃)のようなレスポール風の作りだ。
ほかにも、ブランコ・テイルピースはギブソン系で、ピックアップのオン/オフ・スイッチはジャガー的だし……と、50’sグヤトーンと60’sグヤトーンの両方の特徴を備えているのだ(というより二強の融合と言ったほうが正しいか)。
本器の製造年代については残念ながら不明だが、10フレットにポジション・マークがあるため、50年代製である可能性が高そう(当時の日本製は、なぜか10フレットにポジション・マークがあるものが多かった)。
50年代のグヤトーンは輸出が中心で、輸入楽器商ごとにヘッド形状やパーツの仕様変更があったため、無数のバリエーションが存在する。先に述べた路線変更についても、輸出先の意向が多分に影響していたのかもしれない。いずれにせよ、いろいろな妄想をかき立てられる1本である。
ジェイ・モーリア LG40/1950年代後半製
本記事はギター・マガジン2016年9月号『弾きたいビザール』に掲載された記事を再編集したものです。本誌では、哀愁たっぷりのシェイプを持つ愛しいギターをこれでもかと紹介。好事家のプロ・ギタリストたちが持つビザール・ギターも掲載しています。