個性的な魅力で多くのギタリストたちを虜にする“ビザール・ギター”を、週イチで1本ずつ紹介していく連載、“週刊ビザール”。今週は見覚えのある人も多いのでは? ジャック・ホワイトがホワイト・ストライプスで愛用していたことでもおなじみの、エアライン・ブランドのアンギュラー・シェイプ・ギターをご紹介!
文=編集部 撮影=三島タカユキ 協力/ギター提供=伊藤あしゅら紅丸 デザイン=久米康大
Airline
mid1960’s Angular Shape “Jetsons”
ジャック・ホワイトの愛用器
ビザール・ギターについて語る時、よく出るブランドとしてこの“エアライン”がある。しかし、エアライン・ブランドについて詳しく知っている人はあまり多くないのでは? まずは簡単にブランドについておさらいしておこう。
エアラインは1958年にモンゴメリー・ワード社のハウス・ブランドとして立ち上がった。同社は1872年創業のメール・オーダー式総合小売業者で、同じシカゴのシアーズ・ローバック社とともに、通信販売の先駆けとなった会社だ。
カタログにはデパートのように商品が満載されていたが、その中にはギターやベース、アンプ、ラップ・スティールなどの楽器もラインナップされていた。それらの楽器にはモンゴメリー社のプライベート・ブランドとしてエアラインの名が冠されたのだ。これらの商品がメール・オーダーでUSA全土から購入できたほか、大都市部には直営ストアもあり、モンゴメリーが卸していた小売店でも入手することができた。
そして、このエアライン・ブランドの楽器製造を外注として担っていたのがヴァルコやケイ、ハーモニーだが、単なるブランド名の貼り替えではなく、シアーズ向けなどとは異なるオリジナル・モデルをデザインしていた。このあたりは、“ブランドとして個性化してほしい”というオーダーがあったのだろう。
※現在、エアライン・ブランドはリイシュー・ビザール・ギターで有名なEASTWOODが所有しており、ヴァルコ系のモデルにエアラインのバッジを付けてリリースしている。
今回紹介するアンギュラー(尖った)・シェイプの通称“Jetsons”は、同一モデルをジャック・ホワイトが使用していることで知る人も多いが、もとは名スライド・ブルースマン=J.B.ハットーがトレードマークとしていた。ナショナルを擁するヴァルコが手がけたレゾグラス・ボディのモデルだ。
レゾグラスとはFRP=ガラス繊維強化プラスティックのことで、当時のプロトタイプ車やレーシング・カーに使用された新素材だった。以前この週刊ビザールでも紹介したマップ・シェイプのナショナル・グレンウッド95と同じ手法なので、ヘッドやボディなどに似た雰囲気を感じるだろう。ヴァルコは上位機種にこのレゾグラスを採用し、先進性を強調していた。
通称となっている“Jetsons”は、本モデルが発売された当初に放映されていたハンナ&バーベラの同名TVアニメーション=邦題『宇宙家族』(NHK総合で1963年から1964年に放映/原題『The Jetsons』)から付けられたが、作品中にこのギターが出てくるわけではない。50sのスペース・エイジを具現化した形が、いかにもこのアニメに登場しそうな未来的なシェイプということで、マニアやディーラー間で呼ばれていた愛称が一般化したものだ。
同様に特徴的なヘッドは“ガンビー・ヘッド”と呼ばれており、これはアート・クローキーのクレイ・アニメーション=Gumby(1956年8月に放送)にシェイプが似ていることからついた呼称。よくよくカートゥーンに縁があるギターということになるが、それだけ一般市場からすると、ユニークであったという証左でもある。なお、同アンギュラー・モデルには、片側6連ペグのスプロ・ブランド・モデルもあったが、かなり印象が異なる(下写真)。
ボディはトップとバックが別々のパーツとして成型され、中央部に木材のセンター・ブロックが配してサンドされている。コントロールも少し独特で、フロント・ピックアップ横のふたつがフロント・ボリューム&トーン、リア側がリア・ボリューム&ローカット・ツマミ、そして3ウェイ・ピックアップ・セレクターとジャック近くのマスター・ボリュームという構成だ。
また、ハムバッカーに見えるピックアップの中身はシングルコイルで、中音域にややクセがありカリっとした音質で、中空のレゾグラス・ボディならではのレゾナンス成分も加わって独特のサウンドを生み出している。
ちなみに2ピックアップ仕様の本器は1965〜1968年(※注1)に販売され、当時の価格は99.95ドルだった(日本円で36,000円/1968年の大卒初任給が月給36,000円)。
※注1:『Gruhn’s Guide to Vintage Guitars』(HAL LEONARD)の年代を参照。