西海岸の香り漂うスタンデル カスタム・モデル201|週刊ビザール・ギター 西海岸の香り漂うスタンデル カスタム・モデル201|週刊ビザール・ギター

西海岸の香り漂う
スタンデル カスタム・モデル201|週刊ビザール・ギター

個性的な魅力で多くのギタリストたちを虜にする“ビザール・ギター”を、週イチで1本ずつ紹介していく連載、“週刊ビザール”。今回紹介するのはスタンデルのカスタム・モデル201だ! スタンデルが立ち上がったのはカリフォルニア州南部。アンプを主戦力としてきた彼らも、60年代の西海岸での需要に合わせて自社ブランドのエレキ・ギターを作っていた。このカスタム・モデル201にはモズライトなどからの影響も垣間見れるが、その背景について当時の状況とともに紹介していこう。

文=編集部 撮影=三島タカユキ 協力/ギター提供=伊藤あしゅら紅丸 デザイン=久米康大

Standel Custom Model 201

Standel/Custom Model 201

群雄割拠のベーカーズフィールド


アンプ・ブランドとして有名なスタンデル社の始まりは1953年のこと。カリフォルニア州テンプル・シティでスタンダード・エレクトロニクスというラジオ店を営んでいた技術者のボブ・クルックスが、ビグスビーの創設者=ポール・ビグスビーから、彼が作ったエレキ・ギターに合うアンプの制作依頼を受けた。HiFiとは違う楽器アンプの特性に苦労しながらもクルックスはプロが満足するアンプ=25L15(JBLのD-130スピーカーと807パワー菅プッシュプル)を完成。店名のStandardとElectronicsをつなげて“STANDEL”というブランドを立ち上げることになる。

クルックスがスタンデルを発足させた1950年代は、カリフォルニア南部が音楽産業で盛んになっていった時代だ。大都市ロサンゼルスではキャピトル・レコードといったメジャー・レーベルがポップスやジャズで盛り立てたのはもちろん、ギターを取り巻く環境としては、ベーカーズフィールドを軸としたカントリー・ミュージックの隆盛が大きい。ベーカーズフィールド・サウンドの花形楽器となりつつあったエレキ・ギターの需要が大きくなっていき、モズライトやマーフ(Murph)など、同地周辺にはギター・ブランドが多く立ち上がっていったのだ。そんな状況の中、スタンデルは同地のアンプ需要に応えていった。

マール・トラヴィスやスピーディー・ウエストが愛用したことでスタンデル・アンプの名はプロを中心に広まっていくが、、60年代に入り、より大きな音量が求められるようになると、ソリッドステート・アンプの開発も始め、高出力なモデルをリリースしていく。これらはウェス・モンゴメリーなどのジャズ界隈で愛用され、モジュラー化され樹脂で固められた回路を搭載するなど先進的な設計だった。

今回紹介するカスタム・モデル201はそんな時代の中に生まれた1本で、同社の高出力なアンプとマッチするローインピーダンスのピックアップを搭載しているのが特徴だ。

そんなスタンデルも、アンプだけでなくギター需要にも応えるべく市場に進出するが、あまり成功はできなかった。そのため、ギターの生産数は少なく、情報も乏しい。一説には、モズライトのもとで働いていたジョー・ホール(ホールマーク・ギターズの創設者)やビル・グルゲットが手がけていたというが、本当のところは定かではない。それが真実であるかはさておき、3対3の非対称ヘッド(その形状からウッドペッカー・ヘッドとも呼ばれている)やゼロフレットの採用など、その作りにはモズライトの雰囲気を色濃く感じるだろう。

サウンドは、トゥワンギーな部分がありながら、いかにもローインピーダンス系の分離のいい音で、高音域のきらびやかな感覚は、クルックスがアンプ製作の時に聴き込んだというレス・ポール「Lover」のニュアンスに似ている。この個体は両方のピックアップをオンにするとフェイズ・アウト・サウンドになる仕様であり、今日でも使い勝手がよい。

ちなみに、今回紹介したカスタム・モデル201の上位機種に当たるモデルとして、カスタム・“デラックス”・モデル101も同時期にラインナップされていた。これは、ジャーマン・カーヴが施されたマッチング・ヘッド仕様で、ピックアップにはおそらくカーヴィン製と思われるシングルコイル・モデルが採用されている。また、各ピックアップで独立したボリューム&トーンを備え、リズム/リード切替スイッチも付属した、ゴージャスなスペックを持っていた。このモデルの以前にNAMMショウで発表されたギターは、もっとモズライト・ライクなルックスだったようで、それぞれを別々のビルダーが制作していたという説が一番うなづけるようである。

この201などのラインナップは1966年に発売され1970年には製造中止になったが、スタンデル・ギターはその後、ニュージャージーのハープトーン(Haprtone)でサム・クーンツの監修の元にホロウ・ボディ・モデルを制作する。しかし、こちらも短命に終わってしまった。

なお、アンプのほうはフェンダーのセールス・マネージャーが立ち上げたランドール(Randall)に吸収されあとに同社も倒産したが、1997年になってスタンデル・ブランドが復活し、名機25L15モデルが復刻されている。