奇抜なルックス、独自の製品コンセプト、唯一無二のサウンドで、着々とその知名度を上げているエフェクター・ブランドがある──“BEE=蜂”を標榜するカリフォルニアのメーカー、“BEETRONICS”。今回はブランドのヒストリーを辿るとともに、ラインナップの大半を占めるオーバードライブ/ファズ系ペダル6機種を田渕ひさ子に弾いてもらい、その実力と魅力に迫っていく。
取材=井戸沼尚也 製品解説=今井靖 撮影=小原啓樹 動画撮影/録音/編集=川村健司
田渕ひさ子×BEETRONICS
フラッグシップ・モデルの実力を徹底チェック!!
田渕ひさ子にフラッグシップ・モデルである“ROYAL JELLY”、“OVERHIVE”、“VEZZPA”の3機種を試奏してもらった。オルタナティブに掻き鳴らしたビートロニクス・サウンドを、ぜひ爆音でご堪能いただきたい。
田渕ひさ子がBEETRONICSの全ラインナップ6機種を試奏!
田渕が動画で試奏してくれた3機種を含めた、ビートロニクスの歪みペダル6製品をチェックしていこう。各モデルの解説と田渕によるコメントで、お気に入りの1台を探してみてほしい。
FATBEE
伝説的エンジニアと生み出した
ウォームな質感のオーバードライブ
小型のエンクロージャーがトレード・マークの“BABEE”シリーズ、そのファースト・プロダクトとしてラインナップされたアイコニックなオーバードライブ。ハワード・デービス(Deluxe Memory Manの開発者)との共作で生まれたこの歪みは、ウォームな主張に頼らない鮮烈なレスポンス、そして、ガッシリとした胴回りの太い本格的なアンプ・ライク・ドライブが持ち味だ。バーサタイルな汎用性でコンシューマー層にアピールする、有能な働き蜂だ。
Tabuchi’s Impression
ちっちゃい! けど音は太いですね……こりゃあ、太い(笑)。ローがゴンと出て、上がキラキラしています。歪みの粒はけっこう粗めで、そこまでめちゃくちゃハイゲインってわけではないですね。チューブアンプみたい。3ピースのバンドとかで単音フレーズで使うと、音が薄くならずギターが前に出ていいんじゃないでしょうか。
SWARM
弾き手の感性を否応なく刺激する
アナログ・ファズ・ハーモナイザー
PLL(位相同期回路=この場合、周期定速を外部シグナルに同期させる手法のこと)ベースのフィードバック・フィルターをシンプルなコントロール体系に落とし込んだ、狂乱のアナログ・ファズ・ハーモナイザー。2重のオクターブ間の度数を設定し、そこに背徳感溢れるファズと、天へ地へとグラインドし、時に不機嫌に停止するピッチ・モジュレーションを加えた際に訪れるアイロニーな脈動は圧巻。蜜壷の中でくり返される禁忌の詠唱が、サウンドに破滅の美をもたらす。
Tabuchi’s Impression
凄いですね、ギターの音程と関係なしにピヨーとか色々な音が鳴って、どんな音が出てくるかわからないです。一度出した同じ音をまた出せるのかもわからないですし、これはライブ中にしゃがんで操作して“どうだ!”って使うのがいいかも。ファズの音もノイズの音も凄く太いので、ノイズの音質にもこだわるという方にオススメです。
OCTAHIVE
“あの名機”を想起させるカラーリングを纏った
実用性バツグンのオクターブ・ファズ
Octaviaを彷彿とさせる激甚のアッパー・スクリームのみならず、そこからオクターブ・サウンドを取り除いた、70年代ど真ん中のムチムチとしたマットな歪みまでも選択肢として磨き上げた、使い勝手の良いファズ・ユニット。いずれのモードも、ユニティからフルまですべての音がシンプルにカッコいい! しかもアタックのカラーが明瞭でコードが“立つ”うえ、色気のあるサスティーンまで備わっている。蜂毒の華やかな攻撃性を、スマートに注入すべし。
Tabuchi’s Impression
このモデルも音が太いんですけど、ローとハイだけではなく真ん中も凄く出ているので、ギター・ソロで使うと気持ちよさそうです。音の太さが、高いオクターブのところにも効いていると感じました。あとは、あえてコードを弾いてグシャッとさせるのもアリだと思います。新品なのに使い込んだような見た目もいいですね。
ROYAL JELLY
トレンドのドライ・ミックス機能までも盛り込んだ
2 in 1のドライブ・ペダル
たっぷりと肩まで浸るようなビッグ・ドライブと、ザラついた古典的ファズを、1つのノブで自由にブレンドできる新感覚のハイプ・マシン。音像の分離感を保ったままピーキーな歪み成分をシームレスに加えていく感覚は唯一無二。さらにドライ・ミックスやファズ・パートへの独立した高域レンジ拡張機能も備え、その時々のライブ感で直感的な音作りを楽しめる。オーバードライブ/ファズの固定観念をもぶち破る、“蜂のひと刺し”のための至極のツールだ。
Tabuchi’s Impression
ツマミは多いんですけど、操作が簡単で扱いやすいです。ローとハイを足したり、ドライを足したりできるので、音作りの幅が広いのもいいですね。音質に関してはちょっと粒が粗くてゴリゴリしていて、力強い感じがしました。ミュートでローがグングンくる感じが心地良くて、弾いていてピッキングの仕方も変わってきましたね。
OVERHIVE
プレイ・スタイルに合わせたコンプ感を選べる
濃密な質感のオーバードライブ
レトロなルックスに計算されたモダンな適応力を秘める、アカデミック・オーバードライブ。古いアンプのようにダークでやや泥臭く立ち上がるゲインの中で、程よくスウィートな“雑味”が伸びやかな音の広がりを創出する。ファット(コンプ感あり)/タイト(オープン)という2つのプレイ・フィールにおいて、それぞれ良好なバランスを保つダイナミクスが心地よい。“Sweet As Honey Tone”──ストローク1発で、極上の甘露がギター・サウンドに滴り落ちる。
Tabuchi’s Impression
音質は、歪みの粒が細かくて真ん中がツヤッとしていますね。ゲインを調整するツマミが大きくて足で操作できそうですし、フットスイッチと離れているので足が当たって事故が起こる心配もないと思います。音も操作性も、使い勝手が良さそう。新品なのに誰かの家の押し入れから出てきたみたいな風貌も可愛いです(笑)。
VEZZPA
モーメンタリー・スイッチ機能も内包した
ゲート・オクターブ・ファズ
まるで蜂の羽音のようなジブジブとしたゲート・ドライブと、高域ばかりに偏った邪悪なピアシング・オクターブ・トーンを、足下のマルチ・スイッチで自由に入れ替えることのできる“BABEE”の新作ファズ。踏んだ瞬間にアングラなグリッヂが翻るその凄まじい唸りの中でも、不思議と音楽的な均衡を失わないのがさすがの蜂工房チューニング。プレイヤーの怒りを、慟哭を、嘆きを、ダイレクトに致死量の毒素に変換するための、最もシンプルなサルベージ・ギア。
Tabuchi’s Impression
ゲートがけっこうキツくかかるんですが、それが面白いですね。わざと音を止めてみたり、伸ばしてみたり、弾いていて楽しかったです。フットスイッチで切り替えができるオクターブ・モードでは、本当に派手なオクターブが足されて“ギャッ”となる感じ。このファズは色んなジャンルでおしゃれに使えると思います。
総評:田渕ひさ子が感じた、BEETRONICSの魅力
強い個性がありながらどこの現場でも使えそうで、凄くバランスがいいんですよ。
今日は6機種を弾かせてもらったのですが、BEETRONICSは、見た目もパーツも音も、凄くこだわりのあるブランドだと思いました。どのモデルもちょっと乾いた音が共通していて、ローやハイの出具合はモデルによって違うんですが、カラッとした感じがブランドの個性なのかなと感じましたね。
FATBEEやVEZZPAのような小さいモデルは、ツマミが奥に付いていて、ライブで使う時に不用意に動かないようなデザインになっているんですよ。こういった、弾く人のことをちゃんと考えているところが好印象です。
それとブランドのHPを見たんですけど、そこに基板の写真が載っていて、それが蜂や蜂の巣の形になっていて面白いんです。でもよく考えればBEETRONICSの製品はアダプター駆動で電池交換をしないから、誰も裏蓋を開けて見ないかもしれないのに、中までこだわっているのが凄いなと思いました。そういうところも好きになりましたね。
今日弾いた中で、特に印象に残っているのは3機種です。まずVEZZPAは癖が強いんですけど、癖があるから弾きにくいとかではなく“プレイしやすい癖”という感じで弾いていて楽しかったですね。それからOVERHIVEの音も好きですし、ROYAL JELLYは音作りの幅が広くて、様々なシチュエーションで使えそうだなと感じました。
あと、今回色々弾いてみて、ファズに対する印象も少し変わりましたね。ファズってどの現場でも使えるというよりも、限られたジャンルや曲で使うものというイメージだったんですけど、そんな事は関係なく使えるんじゃないかと感じました。
どのモデルも、強い個性がありながらどこでも使えそうで、凄くバランスがいいんですよ。だから、個性的な歪みが欲しい人にはもちろん、何か1台歪みが欲しいという人が買っても面白いと思います。ジャケ買いしても大丈夫かもというくらいどれも使える歪みでした。