【会員限定】アイドルズのマーク・ボーウェンが2025年1月の来日公演で使用した、2台のシンセサイザーとサンプラー 【会員限定】アイドルズのマーク・ボーウェンが2025年1月の来日公演で使用した、2台のシンセサイザーとサンプラー

【会員限定】アイドルズのマーク・ボーウェンが2025年1月の来日公演で使用した、2台のシンセサイザーとサンプラー

現代のイギリスを代表するロック・バンドに成長をとげたアイドルズが、2025年1月に約6年半ぶりとなる単独来日ツアーを開催した。1月27日(月)のZepp DiverCity公演にて、マーク・ボーウェンとリー・キアナンの機材撮影に成功。さらにマーク・ボーウェンの対面インタビューも行なうことができたので、膨大なシステムを解説してもらった。本記事では、マークが来日公演で使用したシンセサイザーとサンプラーを本人のコメントと共にご紹介。

取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モリー 機材撮影=星野俊

Mark Bowen’s Synthesizers

・Sequential / Prophet-5(Right)
・Arturia / KeyLab 88 MkⅡ(Left)

Sequential / Prophet-5、Arturia / KeyLab 88 MkⅡ

アイドルズの楽曲に奥行きを与える鍵盤

マークの立ち位置のうしろにはアンプが3台置かれ、さらにL字になるようにSequentialのProphet-5(シンセサイザー)とArturiaのKeyLab 88 MkⅡ(MIDIキーボード)がセッティングされていた。

マークは楽曲により鍵盤を弾いたり、ギターと鍵盤をフレーズによって交互に鳴らすことがあるため、とてつもない機材量を持ち運んでいる。


Sequential
Prophet-5 Rev.4

Sequential / Prophet-5

『TANGK』(2024年)のレコーディングでプロデュースを務めたナイジェル・ゴッドリッチの影響で導入したというSequentialのシンセサイザー、Prophet-5。

本機の上に置かれた大きなボードは“クローラー・マシン”と呼ばれるもので、ギターだけでなく、時にはボーカルやドラムなどのサウンドにもシンセのようなエフェクトやノイズを加えるためのペダルが並べられている。

2枚目のペダルボート

Prophet-5のAUDIO OUTからは、足下に置かれたボード内の①Walrus Audio / Canvas Passive Re-Amp(パッシブ・リアンプ・ボックス)と②Moose Electronics / Dobsky Fuzz(ファズ)を通り、③Rupert Neve Designs / RNDI(DI)を経由してPAに出力されている。

Rupert Neve Designs / RNDI、Radial / J48 Stereo、Radial / J48 Stereo、Rupert Neve Designs / RNDI-S

DIは4つ用意されており、③RNDIはProphet-5用。⑥Radial / J48 StereoはProphet-5とKeyLab 88 MkⅡ兼用。⑪J48 StereoはAKAI Professional / MPC One+(サンプラー)用。⑫Rupert Neve Designs / RNDI-Sはクローラー・マシン内に置かれた2台のstrymon / IRIDIUM(アンプ&IRキャビネット・シミュレーター)用。

KayLab 88 MkⅡの下に置かれたペダルボート
Electro-Harmonix / 95000

③RNDIのTHRUからは、KeyLab 88 MkⅡの下に置かれたボード内の④Custom Pedal Boards製ジャンクション・ボックスと、KeyLab 88 MKⅡの上に置かれた⑤Electro-Harmonix / 95000(ルーパー)を通り、⑥J48 Stereoの片方のインプットに接続されている。

全景

使用楽曲(2025年1月27日@Zepp DiverCity)

  • 「Gratitude」
  • 「POP POP POP」

Arturia
KeyLab 88 MkⅡ

Arturia / KeyLab 88 MkⅡ
Native Instruments / Kontakt 8 Player

Native InstrumentsのKontakt 8 Player(アプリケーション)を操作するために用意されたArturiaのMIDIキーボード、KeyLab 88 MkⅡ。本機の信号は④ジャンクション・ボックスと⑤95000(ルーパー)のもう片方のイン/アウトを経由し、⑥J48 Stereo(DI)のもう片方のインプットへ。

KeyLab 88 MkⅡの下に置かれたボード内の⑧Mastermind LTは、⑤95000をMIDIでコントロールためのもの。⑦SP-25-Pro-Aeroも⑤95000用にセットされているのだが、現状では何もアサインされておらず、今後の使い道を考えているとのこと。⑨⑩ジャンク・ションボックスも片方の端子にだけケーブルがインプットされているが、未使用だと思われる。

KayLab 88 MkⅡの下に置かれたペダルボート

Kontakt 8 Playerではおもにピアノの音色を選択し、「IDEA 01」、「I’m Scum」の間奏(観客をしゃがませる際)、「POP POP POP」、「The Beachland Ballroom」で使用していた。

使用楽曲(2025年1月27日@Zepp DiverCity)

  • 「IDEA 01」
  • 「I’m Scum」
  • 「POP POP POP」
  • 「The Beachland Ballroom」

Mark Bowen’s Sampler

AKAI Professional / MPC One+

AKAI / Professional MPC One+

『TANGK』(2024年)のレコーディングで作成したサウンドをライブで再現するために導入したAKAIのサンプラー。本機のサウンドは⑪J48 Stereoを通ってPAから出力されている。

「Roy」、「Jungle」、「Gratitude」、「POP POP POP」で使用された。

Interview

サンプラーを使うことによって、
オーディエンスのライブ体験がより一層深まるんだ。

ステージにはProphet-5とKeyLab 88 MkⅡが用意されていました。なぜこの2台を愛用しているんですか?

Prophet-5は僕のお気に入りのシンセサイザーだ。アイドルズがナイジェル・ゴッドリッチと一緒に作った音楽には絶対に欠かせないもので、『TANGK』(2024年)の大きな要素だったよ。ナイジェル・ゴッドリッチはProphet-5を多用していてね。レディオヘッドもシンセを印象的に使い、70年代風のサウンドを効果的に作り出していた。しかも、僕が本当に好きな美的感覚でね。僕は『TANGK』では、ジョン・カーペンターがやっていたことと同じものを目指したんだ。

Prophet-5を使っているのはナイジェル・ゴッドリッチの影響なんですね。

Prophet-5は明らかに初心者向けのシンセサイザーとしては適していないよね(笑)。とはいえ、高価なシンセサイザーでありながらも、入門用のユーザー・インターフェースとしては適していると思う。使い勝手も非常に良いし、プリセットなんかも簡単で扱いやすいよ。頻繁に目にするシンセサイザーだけど、素晴らしいサウンドを生み出せる。だからとても気に入っているんだ。

MIDIキーボードのKeyLab 88 MkⅡは、どう使っているんですか?

これはKontakt 8 Player(アプリケーション)のコントローラーだね。おもにピアノとして使っているけど、オルガンの音を出すこともある。DAWでも大活躍しているんだ。

制作と結びついているんですね。

機材を追加すると、機材についてもっと詳しくなるよね? 最近気づいたんだけど、新しい機材を導入すると、その次に作るアルバムではそれがたくさん使われるようになる。そういう流れがあるんだ。『CRAWLER』(2021年)のセッションではたくさんのペダルを使って多くのプロダクションを行なったから、ライブでも導入する必要が出てきたんだよね。だからそのためにクローラー・マシンを組み上げ、僕のテクニシャンのギャビン(・マクスウェル)が使いやすい形にしてくれた。手軽に操作してパッチを作成し、サウンドを作れるようになったんだ。

AKAIのサンプラー、MPC One+はどういう使い方を?

『TANGK』のレコーディングでは一点物のサウンドをたくさん作ったんだけど、再現がかなり難しくて、ライブで演奏するのは不可能に近い。実際に試してみたけど、上手くいかなかったよ。そんな時、AKAIのサンプラーを使うことで問題の解決になったんだ。「POP POP POP」を始め、ほかにも多くのパート、それこそボーカルの波形も切り刻んでAKAIに取り込み、再生している。

『TANGK』には僕がギターとピアノを同時に弾いている曲もあって、ライブでそれはできない。でもサンプラーを使うことで、ギターを弾きながらもピアノを少し流すことができる。「Roy」ではオルガンのシーケンスを弾きながらギターを弾く、なんていうこともやっているよ。

楽曲の再現ができるようになったと。

それと、このサンプラーには『TANGK』で使ったドラムのサンプルも入っている。どんなサウンドかというと、たくさんのキックとスネアをMoogのシンセのパッチで合成したものなんだ。スネアの“トン、トン”という音や、アタックを強調したキックのようなものでね。ジョン(・ビーヴィス)のドラム・パートだけではなく、それらをサンプラーで加えることができるようになったよ。ジョンのドラム・サウンド自体はそういった加工したものとは別物だから、こういった機材を使わざるを得ないんだよね。サンプラーを使うことによって、オーディエンスのライブ体験がより一層深まるんだ。

LCDサウンドシステムが参加した「Dancer」を始め、アイドルズの楽曲はパンクだけではなく、様々な音楽やアートからの影響が感じられます。そういう中でどのようなアプローチを心がけていますか?

僕らはすべてに対してオープンで、それは今後も目指し続けるものだと思う。だからこそ、“パンク”という言葉を自分たちに当てはめることを避けているんだ。僕らの音楽には、刹那的でハード、簡単な3コード……そういったパンクの美学が込められているから、多くの人々がそうしたがるのも理解できる。でも、“ポスト・パンク”のほうがもっとピッタリだと思うんだ。

というのも、ポスト・パンクは何でもできるからね。突然サックスを入れても大丈夫なんだ。軽やかな演奏をしながら、華やかなキーボードと荒々しいギターを同時にプレイしたって問題ない。ただし、僕らは曲を作る際、常にそれらの曲のコンテクストを考えている。自分たちが作っているのがノイズ・ロックなのか、それともパンクの曲なのか、もしくはクラウト・ロック、ソウル・ミュージックなのか? といった具合にね。

楽曲の文脈や背景を意識していると。

例えば、「Roy」や「The Beachland Ballroom」のような曲はソウル・ミュージックを参考にしている。60年代後半のスタイルリッシュな音楽……それこそロイ・オービソンもそうだし、もっとさかのぼって60年代前半や50年代の音楽だって参考にしているよ。その一方で、エイフェックス・ツインやマーズ・ヴォルタが自分たちのバックグラウンドに存在していることだってわかっている。彼らがどのようにアプローチしたかを考えると、すべてをグチャグチャに破壊し、それらの中から新しい形を生み出してきたんだ。60年代の音楽が、どうやってサン O)))やマーズ・ヴォルタくらい歪んだ音楽にいたったのか? 時々そういうことを考えるんだ。“どうやってそんなことができたんだ?”って感じでね。

2025年1月27日(月)Zepp DiverCity

【Setlist】
01. IDEA 01
02. Colossus
03. Gift House
04. Mr. Motivator
05. Mother
06. Car Crash
07. I’m Scum
08. Roy
09. 1049 Gotho
10. Jungle
11. The Wheel
12. When The Lights Come On
13. Divided and Conquer
14. Gratitude
15. Benzocaine
16. POP POP POP
17. Television
18. Crawl!
19. The Beachland Ballroom
20. Never Fight A Man With A Perm
21. Dancer
22. Danny Nedelko
23. All I Want For Christmas Is You
24. Rottweiler