アメリカのオクラホマ州を拠点とするブティック・ペダル・ブランド、Old Blood Noise Endeavors(以下OBNE)。彼らの独創性が詰まった4機種をピックアップして紹介しよう。オリジナリティ溢れるセッティング例も参考にしてほしい。
文:今井靖 写真:八島崇
*本記事はギター・マガジン2022年8月号の特集『OLD BLOOD NOISE ENDEAVORS 深遠な音世界へと誘うペダル・ブランド』を再編集したものです。
Sunlight
Dynamic Hold Reverb
音の強弱で残響をトリガー
高密度な空間を生み出すリバーブ。
リバーブを“追いがけ”することにより、高密度な干渉空間を持続させる新感覚のアンビエント・マシン。リバーブ・エンジンが反応するたびに先の残響はゆるやかに減衰し、新たなプレイから生み出された膨張するフィードバックと交差しながらサウンドを埋めていく。トレイルされるエレメントがサステインではなく再びリバーブであることが特徴で、連続した人工的な響きが無慈悲に空間を満たすさまは、まさに降り注ぐ熱波をイメージさせる。INPUTでリバーブが駆動する閾値(しきいち)を任意に設定し、プレイの強弱のみでリバーブの発声タイミングを自在に出し入れする感覚も極めてユニークだ。
選択可能なモードは、規格外の巨大なうねりを生み出せる“TAPE”、多層ディレイによって位相のコム・フィルターを形成する“COMB”、周波数カットと継続するホールド機能でリバーブ全体にシンセ・サウンドのような変異を加える“PASS”の3つで、そこにDECAYを最大値に振り切ったフリーズ(ホールド)やエクスプレッション・ペダルを組み合わせれば、リバーブというエフェクトの可能性は新たな解釈に達するだろう。“あらゆる余韻の破裂をコントロールする”というその斬新な音楽性に、OBNEの哲学が凝縮されている。
【セッティング例】 ランダムに派生する“瘤”のような残響アルペジエイター
ビキョビキョという金属質なエネルギーが、不穏な明滅を創出。ストロークでも巻き弦のうなりが前に出るようにINPUTは上げめの設定。白玉で踏めば、喉をかきむしるような緊迫と破滅の連続をフレーズに注入できる。
【スペック】
コントロール:RATE、DEPTH、MIX、INPUT、DECAY、TAPE/COMB/PASSスイッチ、ALTスイッチ、BYPASSスイッチ
入出力:インプット、アウトプット、エクスプレッション
電源:9Vアダプター
外形寸法:68(W)×58(H)×127(D)mm
重量:約307g
【価格】
32,340円(税込)
Sunlight製品情報(umbrella-company.jp)
Dark Star
Pad Reverb
荘厳なピッチ・シフトにも対応
暗く濃い色を与えるダーク・リバーブ。
光を吸い上げるようなほとんど反射のない深淵に、アルカイックな覚醒を織り込むことのできる気鋭のダーク・リバーブ。その分厚く沈殿する残響下でのプレイは、黒い影の上により濃い色を重ねる行為に似たアンチモラルな気配を空間に解き放つ。もしリバーブそのものに重力を与えたならば、まさにこういったサウンドになるのだろう。
比較的スタンダードな音作りには、DELAYモードがお薦めだ。リバーブの後段に配置されたディレイによって、響きの中に柔らかなフィードバックの“呼吸”を敷き詰めることができる。CTRL 2を上げていけば教科書通りに発振までしてくれるので、使い方で迷うこともないはずだ。PITCHモードとCRUSHモードは、どちらも-1〜+1のオクターブ可変を併用した攻撃的なモジュレーション・リバーブ。このピッチ・シフトはどれだけハーモニーを重ねてもシマーのようにきらびやかなサウンドにはならないため、2つのピッチ・シフトを持つPITCHでは決して交わることのない荘厳な推進力を、マットなうねりを構築するCRUSHでは低いビット・レートの軋みに奥行きのある陰影をそれぞれ与えてくれる。凪いだ暗黒に広がる臨界……これは、宇宙の“鳴り”だ。
【セッティング例】 2つの低音が奏でる退廃のビッグ・インタールード
ピッチ・シフトを両方ともマイナス側へ振ることで生まれる、地にたまるような咆哮。アタックを消すことで、プリ・ディレイから湧き上がる野太いレゾナンスを体感できる。ファズと組み合わせるとさらなる深淵が口を開ける。
【スペック】
コントロール:CTRL 1、CTRL 2、MIX、REVERB、PITCH/DELAY/CRUSHスイッチ、HOLDスイッチ、BYPASSスイッチ
入出力:インプット、アウトプット、エクスプレッション
電源:9Vアダプター
外形寸法:68(W)×56(H)×127(D)mm
重量:約293g
【価格】
30,580円(税込)
Minim
Immediate Ambient Machine
強烈なリバース・サウンドも出せる
互いに干渉し合うディレイ&リバーブ。
直感的な操作により、既存のバランスされた残響空間に劇的な“サビ”を出現させることのできるディレイ+リバーブの複合ユニット。ハーモニックな響きを持つディレイに、溶け感のあるトーナル・リバーブを結びつけた瀟酒(しょうしゃ)で耳馴染みの良いサウンドを基本とする一方、ディレイ・パートのみをリバース再生する強烈な飛び道具を装備。モーメンタリーにも対応したフット・スイッチ一発で、ひるがえった時間軸の中を行き場を失った奔流が融解しながら甲高いフローとなって押し寄せ、混濁したパラダイムシフトの中に叩き込まれる。柔らかなピッキングで音からベクトルを奪う行為は、麻薬にも似た凄まじい快感と禁忌で脳を痺れさせるだろう。
シンプルな操作系にまとめていながら、干渉し合うディレイ、ピッチ、トレモロ、リバーブ、さらにはリバース・セクションのすべてが、どんなノブ設定でも見事に調和する絶妙なチューニングとなっており、OBNEらしい高い完成度を誇る。リバーブを常にバックグラウンドで動作させるので、世界観を継続したまま徹底的にサウンドを加工できるのもこのモデルの大きな強みだ。明日もまた、新しい音が見つかるかも知れない。
【セッティング例】 きらめくディレイに浮かび上がる深海のカテドラル
ディレイ・タイムを絞って基音のピッチ(コーラス)感を強調することで、余韻にパイプ・オルガンのような人工的なスウェイが混ざる。鋭角な連続ピーク音を得るために、リバースのスピードは倍速を選択。
【スペック】
コントロール:BLEND、DELAY、TIME、FEEDBACK、REVERB、MODULATION、DECAY、ORDERスイッチ、SPEEDスイッチ、REVERSEスイッチ、BYPASSスイッチ
入出力:インプット、アウトプット、エクスプレッション
電源:9Vアダプター
外形寸法:119(W)×60(H)×104(D)mm
重量:約418g
【価格】
35,200円(税込)
Alpha Haunt
Gate Fuzz
各パラメーターが複雑に連動
理想を追い求められるファズ。
ファズのあらゆるパラメーターを自在に設定できるのならば、どのようなコントロールが効率的なのか……。荒野のような更地からすべての歪みを設計するこの究極のビルドアップ・ファズにOBNEが与えたのは、感性をプレイに結びつけるための最短距離のメソッドだ。
12個のパラメーターは、独立したゲート、クリーン・ミックス、2つのEQセクションのほかは、上部の3つのファンクションを選択するだけと意外にもシンプルな構成。その基本さえ理解できれば、ひしりあげる透明なハウリングや、ジグジグと死滅して腐り落ちる汚泥のようなアシッド・トーンへも、いつかは自然にたどり着くだろう。むしろ難しいのはその先だ。すべての値がほかの何かしらのパラメーターと複雑に連動しているため、一度決めたノブを1目盛、スライダーを1mm動かしただけでも全コントロールを調整し直さなければならないほど音が変わる。こだわりの強い人ほど、ピッキングも微調整しつつ、理想に最も近い設定を“動かしては崩す”という終わりのない底なし沼にどっぷりと浸ることになる。が、それが楽しいから仕方がない。野生のファズに最後まで付き合う覚悟ができたら、“良い声”で鳴くまで狼と一緒にノブを回し続けよう。
【セッティング例】 ファズ・ビーストをむしばむせん妄狂おしき倍音の檻
ややミッドの薄いブライトな音像に、エンハンスで箱鳴り感を挿入。わずかにゲートを加えることで、ラウドでありながら行き場を失った歪みが外径に集中し、強いピッキングでスクエアな輪郭を呼び出せる。
【スペック】
コントロール:FUZZ、GATE、TONE、LOW、MID、HIGH、MASTER、FUZZ VOL、ENHANCE、BIASスイッチ、DISTORTIONスイッチ、LPFスイッチ
入出力:インプット、アウトプット
電源:9Vアダプター
外形寸法:119(W)×61(H)×99(D)mm
重量:約395g
【価格】
35,200円(税込)
ギター・マガジン2022年8月号
『スタジオ・ギタリストの仕事』
2022年7月13日(水)発売