4機種のコンプレッサーをピックアップしてその実力をチェック! コンプで得られるトーンは音楽性にかなり影響を与えるので、エンジニア/アレンジャー/ギタリストの鈴木Daichi秀行氏によるレビュー&サンプル・セッティングを参考に、ぜひ試して自分に合ったペダルを見つけてほしい。
取材/文=編集部 図版デザイン=須藤廣高 撮影=小原啓樹
※本記事はギター・マガジン2023年1月号『ギターの旨みを引き出す! EQ&コンプ・レシピ』から一部抜粋/再編集したものです。
①BOSS/CP-1X
マルチバンドの処理で芯のある音をキープ
BOSSお馴染みの筐体に、鏡面のパネルが光るXシリーズのコンプ。採用されているMDPという技術は、多次元的信号処理を意味するMulti-Dimensional Processingの略で、音の表現力を高めてくれるBOSS独自の信号処理技術だ。
MDPによるエフェクターは、ピッチやダイナミクス、トーンといったギターのサウンドを作る要素に合わせて最適な処理を行ない、原音の良さを損なわないのが特徴となっている。
コンプの場合、従来方式はアタック時に大きく発生する倍音につられて基音も抑えられていたが、MDPでは抑えたい倍音のみを抑えるため基音はしっかりと残り、自然なコンプレッションを実現。芯のある音を保ってくれる。
CP-1Xはサウンド・エンジニアが多用する、周波数帯に合わせたコンプレッションを行なうマルチバンド・コンプレッサーとなっており、さらに前述のMDP技術が組み合わさることで、今までにない自然な弾き心地とサウンドを実現している。
コントローラーはアウトプット・レベルのLEVEL、アタック・タイムを決めるATTACK、圧縮比率を調整するRATIO、スレッショルドに値するCOMPの4つとシンプルだが、内部では複合的な処理がされており、コンプに慣れていないユーザーでも難しいパラメーターを意識せずに好みのセッティングが見つけられるだろう。
本体のパネル上にはゲイン・リダクション・メーターが備わっており、コンプレッション具合が一目で確認できる。また、内部昇圧で18Vで駆動するため、余裕のあるヘッドルームを実現しているのもポイントだ。
Suzuki’s Impression
サステインがきれいに伸びてくれる
みんなが想像する“ギターのコンプレッサー”といったサウンドで、わかりやすさがあります。はっきりとしたコンプ感が得られますが、いわゆるパコパコ系とも違って、パラメーターのコントロールで対応できるサウンドの幅が広いです。
RATIOとCOMPの加減で様々なシチュエーションにハマります。また、CP-1Xを通すことで、音が少し丸みを帯びる印象も受けました。
パネル上にゲイン・リダクション・メーターが付いているので、操作に慣れていない人でもコンプレッション具合が視覚的に確認できるので便利です。強く弾いた時に–6dBくらいコンプレッションされるのを基準に音作りをしていくと良いと思います。
パラメーターはわかりやすいものになっていますが、処理的にはマルチ・バンド・コンプとして動作しているのも特筆すべき点です。コンプはどうしても音量が大きい低域に反応しがちなのですが、CP-1Xでは低域が過度に抑えられることなく、音痩せもありません。低域を押し出した太いサウンドを保ってくれますね。
サステインがしっかり伸びてくれるので、空間系やコーラスなどのエフェクターと相性が良さそうです。
Sample Setting 1
アルペジオの響きを美しくする
サステインの伸びを活かした、アルペジオでの使用を想定したセッティング。ATTACKは少し遅めにすることで、ピッキングのアタック感をキープしました。
わかりやすいコンプ感を出してくれるペダルなので、RATIOはあまり上げすぎないようにして、コンプ臭さがないようにしています。リバーブやコーラスといったエフェクターを後段につなぎ、空間を演出するのがオススメです。
Sample Setting 2
音を均して他楽器と馴染ませる
アンサンブルにおいて音をまとめるための例。ギターの粒立ちを整えることで、他楽器との馴染み具合が良くなります。
ATTACKは少し速めにセットし、ピッキングのアタック感が飛び出ないようにしました。RATIOも控えめにしています。目安としては、–6dBほどのゲイン・リダクション量になるように。かけすぎると音が詰まったような印象になるので、注意しましょう。
②Empress Effects/Compressor MKII
サイドチェイン・コンプ対応のアタックが速いFET系コンプレッサー
FETコンプの名機であるUREI 1176にインスパイアされたモデル。1176は非常に速いアタック・タイムが特徴で、Compressor MKIIもアタック・タイムが5μ〜50msと速くなっている。
リリース・タイムは50〜1000ms、レシオは2:1/4:1/10:1から選択可能だ。スレッショルドのパラメーターはないが、1176と同様に入力レベル(INPUT)を上げることでコンプへのかかり具合を決め、最終的なレベルはOUTPUTで調整するようになっている。
MIXノブではドライ音とウェット音をブレンドすることが可能だ。パラレル・コンプレッションというテクニックで、コンプ処理をしつつも原音のダイナミクスを活かすような目的で行なわれる。通常は複雑なルーティングが必要だが、Compressor MKIIでは1つのノブでコントロールできるので便利だ。
また、MKIIで追加されたTONEノブはティルト・タイプと呼ばれるEQとなっている。500Hzを中心とし、ノブを右に回すと高域ブースト&低域カット、左に回すと高域カット&低域ブーストとして働く。
SIDECHAIN HPFは、信号の120または240Hz以下をカットすることで、コンプが低域に反応しすぎないようにできる。これはコンプを動作させる信号にのみ働き、出力の低域はカットされない。こうした処理はサイドチェイン・コンプと呼ばれる。
また、リア・パネルのTRSフォーン・ミニ端子にサイドチェイン用信号の入力が可能。例えば、4つ打ちキックを入力すれば、そのリズムに合わせてギターがコンプレッションされるようなエフェクティブな効果も生み出せる。
Suzuki’s Impression
通すだけで付加されるキャラクターがある
1176の音がしますね! ギターのコンプとしては珍しいFETタイプなので、操作に慣れる必要があるかもしれません。サイドチェイン・フィルターや外部入力があるのには驚きです。
パラレル・コンプができるMIXもあり、まさにラックのコンプ並みの機能がそろっています。多くのギター用コンプと比べてかなり反応速度が速いので、そこが難しくもあり、音作りの幅広さにもつながっています。ATTACKは、大体10時〜2時の間を基準とすると良いでしょう。いわゆるパコパコ系と違ったニュアンスで、シャープさがありますね。
レシオは2:1/4:1/10:1の3種類が選べるので十分です。通常は4:1で、コンプが強すぎると感じる場合は2:1にするとよいでしょう。10:1はリミッター的な抑え方です。TONEがあることで、さらに音作りの幅が広がっています。コンプレッションによる音色変化の補正でも、積極的なサウンドメイクでも使えますね。
1176もそうですが、このCompressor MKIIも通すだけで付加されるキャラクターがあります。コンプをかけるだけでなく、そのキャラクターを活かすような使い方も面白いと思います。
Sample Setting 1
歪みの暴れを抑えファットなサウンドに
前段に歪みペダルを使うパターンを考えてみました。歪みで暴れている部分をコンプレッションし、太く響かせるイメージです。強めにかけて、MIXは50%にしています。
サステインが長くなり、低域も持ち上がりますが、過度に感じるようであればTONEで調整しましょう。音の粒立ちが良くなり、押し出し感が生まれるので、演奏もしやすくなると思います。
Sample Setting 2
リリース最速で音圧をアップさせる
この例はSIDECHAIN HPFを120Hzに設定しています。小さいアンプだとわかりづらいかもしれませんが、これによって低域が前に出てくるので、ブリッジ・ミュートなどに向いたサウンドになります。
ATTACKは遅めにすることで、ピッキングのアタック感を出しました。サステインを大きくして音圧が欲しい人は、RELEASEを最速にするのがオススメです。
③Limetone Audio/focus
ワン・ノブ・コンプで直感的に操作
EQとサチュレーションも備えた万能機
ギタリスト/エンジニアの今西勇仁がデザイナーを務めるブランド=Limetone Audioのコンプレッサー。ソフトなコンプレッションを得意とするペダルだが、ハードな設定まで幅広く対応し、演奏のニュアンスを損なわないスタジオ・グレードのサウンドとなっている。
パラメーターは、compression、level、gain、treble、bassの5つを用意。アタック・タイムやリリース・タイム、レシオ、スレッショルドといったコンプの操作項目を取り払い、ワン・ノブだけでコントロールできるように設計されている。compressionノブ下にはLEDを搭載し、点灯するタイミング、光の強さ、消灯するタイミングで、コンプレッションの状態を直感的に把握することが可能だ。
levelとgainはどちらもcompressionの後段に位置している。levelでは、コンプレッションによって下がってしまった音量を、クリーンな状態で持ち上げることが可能。gainでは真空管アンプのような暖かみのある増幅ができる。
もちろん、両方を組み合わせてレベルを補正することも可能なので、サチュレーションによるサウンドメイクの幅も広い。trebleとbassでは、高域と低域を簡単に調整可能。どちらも12時がフラット状態となる。
単純明快なコンプ・ペダルというだけでなく、コンプレッション設定→レベル(サチュレーション)調整→EQ補正という3ステップで直感的に音作りが可能な、複合的なエフェクトだと言えるだろう。通常カラー(写真)のほか、特別デザインのfocusもラインナップしており、見た目でも楽しめるペダルだ。
Suzuki’s Impression
コンプだけ使うのはもったいないペダル
パコッとしたタイプのコンプレッサーで、アタックが前に出てきます。アタック・タイムは少し遅め、リリース・タイムは速めなイメージです。音を均すというよりも、アタックを聴かせるようなサウンドに向いているので、カッティングなどにぴったりですね。
軽くコンプレッションするだけでも、パコッとしたキャラクターははっきり出てくれました。深くコンプレッションすればアタックは見えつつ、サステインも伸びていきます。アルペジオで使えば、粒立ちがはっきりしてまとまりが良くなるでしょう。
コンプは様々なパラメーターを操作して扱うことが多いですが、focusはいわゆるワン・ノブ・コンプになっているので、ギタリストにとって使いやすいと思います。
ポイントは、gainとEQセクションです。gainは真空管のような暖かみのある歪みを作れて、フルテンにしても気持ち良いサウンドになります。EQはかなり反応が良く、軽い補正から積極的なサウンドメイクまで可能な、キャラの濃いタイプです。
コンプレッサーという枠組みですが、コンプだけで使うのはもったいない。1台で音作りを済ませられる、万能なペダルになっていると思います。
Sample Setting 1
カッティングが気持ち良いシンプル・セッティング
focusはぜひgainとEQセクションを活用してほしいペダルですが、まずはシンプルにコンプレッサー機能のみを使った例を挙げます。
コンプのキャラクターとしてVCA的なコンプレッションで、アタックの押し出し感が強いタイプなので、やはりカッティングに使ってみたくなるサウンドです。この例ではcompressionを2時くらいに設定しました。
Sample Setting 2
キレイな歪みを作るコンプとゲインの組み合わせ
暖かい歪みを得られるgainとcompressionの組み合わせの例です。compressionはgainの前段に位置しているので、コンプによって音を均し、gainの歪みのノリを良くする目的で11時ほどにセット。
gainはマックスにしても心地良いサチュレーションが加わります。あとはお好みでbassとtrebleをセッティングしてみましょう。
④PRS/MARY CRIES
スタジオの名機を元にしたオプティカル・コンプレッサー
ギター・ブランドのPRSが初のペダル・ラインナップを発表。オーバードライブのHORSEMEAT、フランジャーのWIND THROUGH THE TREESと共に並ぶのが、コンプレッサー・ペダルのMARY CRIESだ。洗練されたブラック・カラーのボディには、PRSを代表する鳥のインレイが由来となっている波形のアート・ワークがデザインされている。
MARY CRIESは、スタジオ・レコーディングでの定番コンプであるTELETRONIX(現UNIVERSAL AUDIO)のLA-2Aをベースに開発されたペダル。オプティカル(光学式)と呼ばれるタイプのコンプレッサーになっている。
LA-2Aと同等の回路がペダル・サイズに備わっており、ギターはもちろん、ほかの楽器やボーカルまでカバーできる性能になっているとのことだ。
パラメーターはなんと2つのノブのみ。というのも、LA-2Aも複雑なパラメーターになっておらず、それを踏襲したためだろう。LA-2Aは、スレッショルドに値するPEAK REDUCTIONノブでコンプのかかり具合を決め、GAINノブで出力レベルを調整するという、2つのノブのみで操作する。
MARY CRIESではCOMPRESSIONと書かれたノブがLA-2Aで言うPEAK REDUCTIONで、コンプレッション具合をコントロール可能だ。OUTPUT GAINで、コンプレッション後の出力レベルを調整できる。コンプレッションを低めにしてOUTPUT GAINを上げれば、ブースターとしても使えるだろう。
オプティカルの特徴である、アタックへの反応が遅く、優しいコンプレッションが得られ、音楽的なギター・サウンドを作り出してくれるペダルだ。
Suzuki’s Impression
タッチを活かす柔らかなコンプレッション
パコパコしたコンプ感を求めるよりも、全体の音量を均す用途に向いたコンプレッサーです。元となっているオプティカル・コンプのLA-2Aはアタック・タイムが大体10msくらいで、リリース・タイムも遅め。MARY CRIESではCOMPRESSIONノブの加減と入力信号によって、それらのパラメーターは変わってきます。
オプティカル・コンプらしい柔らかいコンプレッションで、ピッキングの強弱による音量のムラを整えてくれるので、演奏もしやすくなるでしょう。
LEDの光り方に合わせてコンプがかかるイメージなので、オプティカル以外のコンプと比べるとタッチでコンプレッションをコントロールしやすいと思います。アンプ直で演奏しているギタリストや、クリーン〜クランチでオブリを弾くようなブルース/ジャズ系プレイヤーなど、タッチのニュアンスを大事にする人に向くペダルですね。
ほかの方式と比べて音色変化が少ないこともオプティカル・コンプの特徴です。どんなギターの種類、エフェクターとの組み合わせでもマッチするサウンドですが、トランスペアレントなブースターとしての活用もオススメできます。
Sample Setting 1
オプト・コンプらしい全体を均す設定
オプティカル・コンプレッサーらしく、全体の音量を均すセッティングにしました。COMPRESSIONは大体2時くらいにしており、レベルの強くなった部分をまんべんなく抑えてくれます。
コード、リード、カッティング、ソロなど、どんなシチュエーションでも聴きやすいサウンドになるはずです。強めにコンプレッションされてもコンプ臭さはなく、音の力強さだけ上がってくれます。
Sample Setting 2
トランスペアレントなブーストを実現
こちらはブースターとしての活用を想定したセッティングです。COMPRESSIONはSetting1よりも若干下げていますが、ここはお好みで問題ありません。
OUTPUT GAINを上げて、オンにした時にしっかりブーストされるようにしました。トランスペアレントなサウンドのため、真空管アンプをドライブするような用途にはうってつけです。ルーツ系の音楽にはピッタリでしょう。
ギター・マガジン2023年1月号
特集:ビートルズ『Revolver』
本記事はギター・マガジン2023年1月号の『ギターの旨みを引き出す! EQ&コンプ・レシピ』内に掲載されています。それぞれの基本的な知識や、効果的な使い方などを注目の機種のレビューと共にお届け!