カネコアヤノの新作『タオルケットは穏やかな』を彩った林宏敏のアンプ&エフェクター カネコアヤノの新作『タオルケットは穏やかな』を彩った林宏敏のアンプ&エフェクター

カネコアヤノの新作『タオルケットは穏やかな』を彩った
林宏敏のアンプ&エフェクター

この1年強の間に日本武道館で3度も単独公演を行ない、日の出の勢いで存在感を大きくしていくカネコアヤノ。去る1月に発表した新作『タオルケットは穏やかな』は、歌を支える林宏敏の伴奏の冴え具合や有機的な音色で語るアルペジオ、時に暴力的に、時に音響的にと表情豊かに聴かせるファズ・サウンド、滋味深いソロなど、これまで以上に存在感を増したギター・パートに耳を奪われる。ギター・マガジン2023年3月号ではカネコアヤノと林の2人のインタビューと最新ギターをお届けしているが、ギタマガWEBでは特別にそれぞれの愛用アンプ&ペダルボードをご紹介しよう。まずは林宏敏から!

取材=錦織文子 写真=山川哲矢

Amplifier

Victoria 20112-T

Victoria 20112-T

“指と結びつく”絶妙な歪み具合

 林のメイン・アンプは、ツイードのフェンダーDeluxeのオリジナル回路を再現したビクトリアのモデル。プリ管を2基、パワー管を3基採用し、MojoToneの12インチ・スピーカーを1発搭載した14W出力のモデルだ。

 林が時折出演していたブルース・バー、江古田倶楽部のマスターが逝去し、閉店の際に形見分けで本機を譲ってもらったとのこと。

 新作でアンプ録りしたものはすべて本機を使用。インプットはBRIGHTの1を使用し、ツマミのセッティングはVOLUMEが3〜4時、TONEは12時を基本にしている。

 サウンドについては絶妙なクランチ具合がお気に入りだそうで、小さい音量でもいい塩梅で歪み具合が追従してくれるとのこと。“「月明かり」のサビ前に指弾きでポロンと弾いた時、わずかに歪む感じもすごく気に入っていて。手元の強弱によって歪みの反応をコントロールできて、自分の指と結びついてくれる感じが好きですね”(林談)。

Effects for Recording

 まずは、新作『タオルケットは穏やかな』のレコーディングで活躍した林のエフェクター類を紹介しよう。

KORG / Stage Echo SE-300(テープ・エコー)
Electro-Harmonix / Micro Synthesizer(アナログ・シンセ・ペダル)
Manlay Sound / Super-Bender(ファズ)
BOSS / CE-1(コーラス)

【Effector List】
❶ KORG / Stage Echo SE-300(テープ・エコー)
❷ Electro-Harmonix / Micro Synthesizer(アナログ・シンセ・ペダル)
❸ Manlay Sound / Super-Bender(ファズ)
❹ BOSS / CE-1(コーラス)

新作に彩りを与えた林のエフェクターたち

 78年に発売されたKORGのテープ・エコー&スプリング・リバーブ・ユニット、❶Stage Echo。今回はおもにスプリング・リバーブとして活用し、「わたしたちへ」や「タオルケットは穏やかな」でその音色を聴かせている。ほかに、「やさしいギター」などでプリアンプ的に音を通すだけという使い方もしたそうだ。

 数年前に購入して以来、レコーディングで活躍しているという❷Micro Synthesizer。フィルターとして使用するほか、ファズやオクターバーとしても活用。今作では「月明かり」の終盤における左右にパン振りされたノイズを本機のファズで録ったそうだ。

 林曰く“このファズをかけたうえで和音を弾くと音が潰れちゃうんですけど、それを逆に利用しました”とのことで、塊感があり曲中で埋もれない印象的なノイズを創出している。

 トーンベンダー系のファズ❸Super-Bender。独特のゲート感が気に入っており、今作では「予感」の中盤にファズが入るパートで使用。LEVEL/ATTACK共にMAXにしてラインで録り、分厚くヘヴィなサウンドを演出している。「月明かり」の間奏や「気分」ではカネコも使用したそうだ。

 「やさしいギター」のワウの裏でかかっているビブラートは❹CE-1によるもの。“この揺れがあるから、音色に可愛らしさが出てるかな”と言い、音作りのポイントになっているとのこと。ビブラートは深めを意識し、depth/rate共に2〜3時ほどに設定。

Pedalboard for Stage

林宏敏のペダルボード

【Pedal List】
①TC Electronic / polytune 3(チューナー)
②Fulltone / Clyde Standard Wah(ワウ)
③CULT / TS808 #1 Cloning mod. V.2(オーバードライブ)
④Xotic / Soul Driven(オーバードライブ)
⑤Electro-Harmonix / OP-AMP Big Muff (ファズ)
⑥UNION TUBE & TRANSISTOR / Tone Druid(オーバードライブ)
⑦strymon / Lex Rotary(ロータリー・スピーカー・エミュレーター)
⑧strymon / TIMELINE(ディレイ)
⑨strymon / FLINT(トレモロ/リバーブ)
⑩TBCFX / Micro Echoplex Preamp(ブースター・プリアンプ)
⑪UOZ PEDAL / UOZ BOD01(ブースター/オーバードライブ )
⑫F-Sugar / fsp Proline Custom(パワーサプライ)

アンサンブルを支える有機的な音色を創出

 林の最新のライブ用ボード。ギターからの接続順は①〜⑩の番号の通りで、すべて直列。歪み系がおもに前方に、空間/モジュレーション系は後方に配置されている構成だが、セッティングは現在調整中とのこと。

 歪み系ペダルは③〜⑥。④Soul Drivenは常時オンにしている。メイン・ギターをファイアーバードからTLタイプに換えた関係で、中低域の存在感を出せて音が太くなる本機を重宝しているそうだ。

 さらに少し歪みを足したい時は③TS808を踏み、音量を単純に上げたい時は⑥Tone Druidを使用。ファズは⑤OP-AMP Big Muffを使用し、先日の武道館公演(1月18日)でもその轟音を聴かせていた。ソロを弾く時は③〜⑥をすべてオンにする時もあるそう。

 ちなみに⑪UOZ BOD01は、ギタリストの魚頭圭が製作しているブースター/オーバードライブ。林曰く“アンプの歪みの良いところが得られる、最高の音。カッコ良すぎてまだ使いこなせていない”とのことで、現在はボードには組み込まれておらず、配置を検討中だそう。

 空間系に関しては以前よりもシンプルに考えるようになったと語っており、歴代のライブ/レコーディングで愛用してきた⑦Lex Rotaryや⑨FLINTはそのまま組み込まれているが、ディレイはBOSSのDD-7から⑧TIMELINEに交代。ディレイは本機がすべてを担い、リバーブを加えたい時はMIXツマミで足していく程度だという。

 “アンサンブルを考えた時に、空間系を自分1人で担わなくていいんじゃないかと思って。今はこれで十分ですね”と林。また、「月明かり」のレコーディングではLo-Fiモードでスクラッチ・ノイズのようなサウンドを創出するなど、飛び道具的な使い方もしたそうだ。

 最後は、⑩Micro Echoplex PreampはエコープレックスEP-3のプリアンプ部分を再現したモデル。一度は手放したが、再度欲しくなり同じモデルを手に入れたそうだ。“必要な音だけがちゃんと前に出てくるし、温かみが味付けされる感じが気に入っている”とのこと。

 なおパワーサプライは⑫fsp Proline Customを愛用。上面に貼られているのはSSW/ギタリスト三輪二郎のシール。

ギター・マガジン2023年3月号
『現代ジャズ・ギター入門』
2023年2月13日(月)発売

『タオルケットは穏やかな』 カネコアヤノ

1994 Inc./NNFC-11/2023年1月25日リリース

―Track List―

1. わたしたちへ(album ver.)
2. やさしいギター
3. 季節の果物
4. 眠れない
5. 予感
6. 気分
7. 月明かり
8. こんな日に限って
9. タオルケットは穏やかな
10. もしも

―Guitarists―

林宏敏、カネコアヤノ