ジェフ・ベックが「ピープル・ゲット・レディ」で使ったのは、ジャクソンのソロイストだった?! ジェフ・ベックが「ピープル・ゲット・レディ」で使ったのは、ジャクソンのソロイストだった?!

ジェフ・ベックが「ピープル・ゲット・レディ」で使ったのは、ジャクソンのソロイストだった?!

ギタリストではないリスナーであれば、ジェフ・ベックと言われてロッド・スチュワートとの「ピープル・ゲット・レディ」を思い浮かべる人も多いのでは? この名カバーはミュージック・ビデオとともに語れることも多く、ブラックガードのテレキャスターを弾いているベックの姿は特に印象的だ。しかし、本曲にはアーミング・プレイがあるし、このテレキャスターは借り物!? 今回はこの不朽の名曲とベックの使用ギターについての物語をお届けしよう。

文=近藤正義 Photo by Jeffrey Mayer/Getty Images

ロッド・スチュワートとの共演が実現した経緯とは?

ジェフ・ベックの長いキャリアの中で、ボーカル曲のファンにもインスト曲のファンにも人気の高いのが「ピープル・ゲット・レディ」。約13年ぶりとなるロッド・スチュワートとの共演が大きな話題となった。

この曲は『フラッシュ』(85年リリース)の収録曲で、時代はまさに音楽ビジネスが巨大化して行った頃。MTVの登場によりMVも盛んに作られていた。「ピープル・ゲット・レディ」のMVもタイムリーに公開され、ジェフとロッドの再会をイメージする味のある映像が良い味を醸し出していた。

サウンドも、60年代風のトラディショナルなソウル・ミュージックでありながら80年代のテイストも持ったモダンな仕上がりが素晴らしい。

この渋いソウルの名曲はカーティス・メイフィールドがインプレッションズ時代に発表した曲。

ベック・ボガート&アピス(B,B&A)時代にアルバム『ベック・ボガート・アンド・アピス』で同じくインプレッションズの「アイム・ソー・プラウド」をカバーしていたくらい、ジェフはソウル・ミュージックが大好き。この「ピープル・ゲット・レディ」もB,B&A時代にライブで演奏されることがあった。

そこへ目をつけたのが、B,B&Aのドラマーだったカーマイン・アピス。彼はB,B&A解散後である70年代の後半、ロッド・スチュワートのバンドにいたこともあり、ジェフとロッドの仲を取り持つことを考え、2人を再会させた。

そして、元カクタスのデュアン・ヒッチングス(k)がプログラミングしてトラックを作り上げ、ジェフのギターを加えて「ピープル・ゲット・レディ」のテープを制作する。当初、ジェフはインストにするつもりだったらしい。

しかし、どのタイミングでのデモ・テープなのかは不明だが、たまたまそのテープを聴いたロッドは自分が歌うことを志願する。ここにカーマインの企ては見事に成功したわけである。これはアルバム『フラッシュ』のレコーディングが始まる2年ほど前のことなので、おそらく83年あたりのことだろう。

この曲に関してはロッドもジェフも主役であり、どちら名義にするのか? あるいは共同名義にするのか? マネージメントがこじれそうな状況だが、直後に制作に入ったロッドのアルバム『カムフラージュ』(84年)の3曲、「おまえにヒート・アップ(インファチュエーション)」、「友達でいさせて」、「バッド・フォー・ユー」にジェフがゲスト参加することを交換条件に、ジェフのアルバムに収録されることになった。この経緯はジェフ本人がインタビューで語っている。

また、『フラッシュ』がまだ完成していない84年にジェフはロッドの上記アルバムのツアーに参加しており、そこで「ピープル・ゲット・レディ」は演奏されている。こちらはブートレグのライブCDで確認できる。

ジャクソン・ソロイストでモダンな音作り

80年代の10年間、ジェフ名義のアルバムは『ゼア・アンド・バック』(80年)、『フラッシュ』(85年)、『ギター・ショップ』(89年)の3枚だけ。しかし、この時期のジェフはほかのアーティストのアルバムに多数ゲスト参加していた。ティナ・ターナー、ロッド・スチュワート、ミック・ジャガー、ダイアナ・ロス等々。

重要なのは、その10年間で指弾き、ハーモニクス、アーミングなどこれ以降におけるジェフのプレイ・スタイルが具体的に形成されたこと。この曲「ピープル・ゲット・レディ」もそんな時期における1曲なのだ。

さて、この曲「ピープル・ゲット・レディ」のMVでは、ジェフは50年代製のフェンダー・テレキャスターで登場している。

「ピープル・ゲット・レディ」のMV撮影時の一コマ。
「ピープル・ゲット・レディ」のMV撮影時は50年代前半のブラックガード・テレキャスターを持っている。これはセイモア・ダンカンから借りたものだそう。(Photo by Jeffrey Mayer/Getty Images)

しかし、音源で聴けるギター・サウンドはテレキャスターの音ではない。理由の1つは、アームを使って弾いている箇所があるからだ。

それでは、アーム付きのギターならばストラトキャスターなのか? そうではない。実はジャクソンのソロイストなのだ。

ティナ・ターナーの「スティール・クロー」のMVではケーラー・ユニットをマウントしたピンク色のジャクソンを使用しており、新しいギターであるジャクソンを積極的に試していた時期でもある。ジェフはさらにフロイド・ローズのトレモロを搭載したオレンジ色のソロイストも持っている。

ジャクソン・ソロイストを持つジェフ・ベック。
フロイドローズを搭載したオレンジ色のジャクソン・ソロイストを持つジェフ・ベック。(Photo by Robert Knight Archive/Redferns)

ただ、1985年のアルバム『FLASH』に関するジェフのインタビューで、オレンジをメインで使ったという記事と、ピンクを使ったという記事の2つが確認できる。また、ピンクをメインで使ったというインタビュー記事では、さらに細かく本曲でもケーラー搭載器を使ったと証言している。しかし、オレンジとピンクを単に”ジャクソンのモデル”として混同している可能性もあるため、本曲もどちらを使用したかは断定できない。だが、いずれにせよジャクソンのソロイストで奏でられたということだ。

また、レコードで聴ける音もストラトとマーシャルで作ったビンテージなオーバードライブ・サウンドではなく、もっと80年代寄りのモダンなサウンドだ。ただ、83年頃のレコーディングであることから、まだ空間系や揺れ系のエフェクターはギリギリ、アナログであるはず。

それならば、薄っすらとかかったコーラスは何を使っているのか? そして、この気持ち良く伸びるサステインは?

これはインタビューによると、ロックマンを使用しラインで録音したようだ。歪みはラットであろう。アルバム『ギター・ショップ』リリース時のインタビュー(89年)でも、ジェフがロックマンのライン録りやラットの使用について語っている。

目まぐるしい進化の過程にあった80年代のジェフ・ベックは、奏法だけでなくギターや機材に関しても模索を続けていたのである。

『ギター・マガジン 2023年4月号 (追悼大特集:ジェフ・ベック)』

定価1,595円(本体1,450円+税10%)