塗装が剥がされた、ミック・ロンソンの象徴的なレス・ポール・カスタム 塗装が剥がされた、ミック・ロンソンの象徴的なレス・ポール・カスタム

塗装が剥がされた、ミック・ロンソンの象徴的なレス・ポール・カスタム

デヴィッド・ボウイの相棒として活躍したミック・ロンソン。グラムロックのギター・ヒーローもやはり、王者レス・ポール・カスタムを従えた。ボディの塗装が剥がされた彼の愛器の詳細を見ていこう。

文=細川真平 Photo by Colin Fuller/Redferns/Getty Images

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デヴィッド・ボウイを魅了したギター・プレイ

1970年代前半、デヴィッド・ボウイの右腕として大活躍したギタリスト、ミック・ロンソン。

1971年のアルバム『The Man Who Sold the World(世界を売った男)』から参加しているが、最も有名なのは、ボウイが異星から来たロック・スター、“ジギー・スターダスト”にふんし、ロンソンがそのバック・バンドであるザ・スパイダーズ・フロム・マーズのギタリスト役を務めた、1972年のアルバム『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars(ジギー・スターダスト)』だろう。

この作品で、ボウイとともに彼は、グラム・ロックを象徴するアーティストの1人となった。

ボウイはロンソンを信頼し、彼のギター・プレイを愛していた。ジェフ・ベックの証言によると、ボウイはいつもロンソンのことを、“俺のジェフ・ベック”と言っていたそうだ。

ちなみに、1973年7月3日のボウイの(ジギー・スターダスト&ザ・スパイダーズ・フロム・マーズの)ハマースミス・オデオン公演にはジェフがゲスト出演し、ロンソンと共演を果たしている。ボウイにとっては、まさにジェフ・ベックが2人いる状態で、その喜びは限りなかったに違いない。

ボウイのもとを去ったあとには、1974年にソロ・アルバム『Slaughter on 10th Avenue』、1975年には『Play Don’t Worry』を発表。また、モット・ザ・フープルに短期間在籍したり、モットを脱退したシンガーのイアン・ハンターと活動を共にしたり、1975〜76年に行なわれたボブ・ディランのツアー、“Rolling Thunder Revue”に参加したりしている。

1992年には、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで行なわれた“フレディ・マーキュリー追悼コンサート”に出演し、クイーンのメンバーのほか、デヴィッド・ボウイ、イアン・ハンターらとともに、モット・ザ・フープルの「All the Young Dudes(すべての若き野郎ども)」を演奏。

しかし翌1993年、癌のために46歳で亡くなった。

それから時間が経ち、今では語られることも少なくなってしまったロンソンだが、間違いなく、もっともっと評価されてしかるべきギタリストだ。

ミック・ロンソン

“音の良さ”を求めて剥がされた塗装

彼のトレードマークとも言えるギターは、『Play Don’t Worry』のジャケットにも登場した、ギブソン・レス・ポール・カスタム。

ミック・ロンソン『Play Don't Worry』
ミック・ロンソン『Play Don’t Worry』

1968年製の再生産モデルなので、オール・マホガニー・ボディではなくメイプル・トップ仕様で、ピックアップは2基搭載されている。

最大の特徴は、当初はもちろんブラックだったトップのフィニッシュが剥がされていることだろう。これについてはロンソン自身が、“塗装を剥がして木に呼吸させたほうが音が良くなると聞いたから、自分で剥がした”と語っている。

当ギター・マガジンWEBの、“改造”テレキャスター特集のロビー・ロバートソンの回で、やはり彼が同じ理由でテレキャスターの塗装を剥がした話を書いたが、当時はこの説が信憑性をともなって流布していたようだ。

もちろん現在でもこの説はあるし、ただし全部は剥がさないほうが音が締まるという主張もあったりするということは、余談の1つとしてお伝えしておきたい。

それ以外は、ピックアップを含めてストックのままのようだ。ただしピックアップ・カバーは、“ジギー・スターダスト期”のどこかのタイミングではずされたようで、カバーあり/なし両方の写真が残されている。

ちなみに、前述したジェフ・ベックが出演した1973年7月3日公演でははずされていることが確認できる。また、ピックガードもはずされているが、これは塗装を剥いだ時に同時にはずしたものと思われる。

刻まれた“I’m still rockin’”の文字

このカスタムは、1980年代終わり頃にハード・ロック・カフェに寄贈され、その後はオーストラリアの店の壁に無造作に飾られていたという。その時点で、ヘッドにはメイプル(?)板が上から貼られるモディファイ、もしくは補修がなされていた。

そして、塗装の剥がされたトップには、ロンソンの手で、“I’m still rockin’ Mick Ronson”と書かれていた。なんとこのギターに、そしてロンソンに相応しい言葉だろう。

その後、ロンソンの熱狂的なファンであるアメリカのリック・テデスコ氏がこれを取り戻すことに成功し、2年間、米クリーブランドのロックの殿堂に展示されるなどしたが、今では、やはりロンソンの大ファンであるイギリスの実業家の手に渡っている。

このギターとのお別れの日に、最後にこれを演奏するテデスコ氏の映像がYouTubeに上がっているので、ぜひご覧になっていただきたい。

“I’m still rockin’”と、このカスタムが叫んでいる気がするから。

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