ミラー・ガードが輝く、ジョン・サイクスのレス・ポール・カスタム ミラー・ガードが輝く、ジョン・サイクスのレス・ポール・カスタム

ミラー・ガードが輝く、ジョン・サイクスのレス・ポール・カスタム

シン・リジィ、ホワイトスネイク、ブルー・マーダーなど、名だたるバンドでギターを弾いてきたジョン・サイクス。彼の相棒といえば、ミラー・ピックガードにクローム・ハードウェアを備えた精悍なルックスの、1978年製レス・ポール・カスタムだ。その改造の経緯などを見ていこう。

文=細川真平 Photo by Pete Still/Redferns/Getty Images

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“NWOBHM”が生んだギター・ヒーロー

1970年代終わりに、“NWOBHM”(ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビー・メタル)というムーブメントが起こった。
その名のとおりイギリス発祥だが、その波はすぐに日本にも伝わってきた。筆者は当時、ラジオ番組で音楽評論家の伊藤政則氏が“NWOBHM”について、“凄いムーブメントがイギリスで巻き起こっている!”と興奮気味に紹介していたのを今でも覚えている。

余談だが、その時に流れた曲が、ガールというバンドの「Hollywood Tease」だった記憶がある。

この曲がリリースされたのは1980年だから、そのラジオ放送も同じ年だったのだろう。ガールはあまり売れなかったが、ここにはL.A.ガンズのフィリップ・ルイス(vo)、デフ・レパードのフィル・コリン(g)が在籍していた。あまり売れなかったと書いたが、筆者を含めその周辺では「Hollywood Tease」は非常に人気が高かったし、今聴いても当時のワクワクするような気持ちが甦ってくる。

さて、その“NWOBHM”ムーブメントの中から、やはり1980年に登場してきたのがタイガース・オブ・パンタンだ。ギタリストはジョン・サイクス。

彼は1981年リリースの3枚目のアルバム『Crazy Nights』を最後に、ランディ・ローズが亡くなったために新ギタリストを探していたオジー・オズボーン・バンドのオーディションを受けるためにタイガース・オブ・パンタンを脱退。オーディションには受からなかったが(ナイト・レンジャーのブラッド・ギルスが合格)、その後シン・リジィ、ホワイトスネイク、ブルー・マーダーで活躍し、ギター・ヒーローとして大きな人気を誇るようになった。

その彼の愛器はブラックのレス・ポール・カスタム。このギターが彼には最高に似合っていた。

ゲイリー・ムーアからの大きな影響

ジョンは幼い頃に家族と行ったクラブで、出演バンドのギタリストがカスタムを使っているのを見て、このギターに憧れたという。だから、最初に手に入れたエレクトリック・ギターも、カスタムのコピー・モデルだったそうだ。

本物を手に入れたのは、1980年にタイガース・オブ・パンタンに加入する少し前のことだった。同じバンドのギタリストがこのカスタムをローンで買ったが、支払いができずに店に返品したのを、必死でアルバイトをしたお金で手に入れたのだという。

このカスタムは78年製でブラック・フィニッシュ、年式的には3ピース・メイプル・トップ/マホガニー・ボディ、3ピース・メイプル・ネック仕様という特徴がある。指板はもちろんエボニーだ。

そして、ジョンのカスタムと言えば、ミラー・ピックガードにクローム・ハードウェア。

ジョン・サイクス

この改造を施したのは、シン・リジィに加入し、アルバム『Thunder and Lightning』(1983年)を制作していた時のこと。ミラー・ピックガードに関しては、フィル・ライノットが黒のプレシジョン・ベースにミラーのピックガードを付けたのに影響されて自分も付けたと語っている。クローム・ハードウェア(ペグ・ポスト、エスカッション、ブリッジなど)については、時期的なことは語っていないが、ミラー・ピックガードに合わせてということだったのではないだろうか。

またこのギターは、リア・ピックアップがギブソン“Dirty Fingers”に、ペグがグローバー製に交換されている(ピックアップは、現在では“PAF”リイシューに交換されているそうだ)。ジョンはゲイリー・ムーアから大きな影響を受けているが、それらはゲイリーからの勧めがあったからだという。

“Dirty Fingers”への交換は、タイガース・オブ・パンタンのアルバム『Spellbound』(1981年)を制作している頃のこと。スタジオによく遊びに来ていたゲイリーから、“(Dirty Fingersを)とにかく使ってみろ”と言われて試してみたところ、気に入ったそうだ。
グローバー・ペグに関しては、いつの時期にゲイリーから勧められたのかは不明だが、交換したのはシン・リジィに加入してからのようだ。

また、彼のカスタムはセレクター・ノブのキャップがはずされており、ナットはブラス製に交換されている。これらがいつからなのかは不明だが、シン・リジィ期の写真ですでにこうなっていることがわかる。

とにかくこのカスタムは、ジョンのトレードマーク……と言うよりもいっそ、ジョンの顔と言いたくなってしまうほど、ジョンと深く、固く結び付いている。

“NWOBHM”からすでに45年ほどが経つ。

あのムーブメントからは、多くのバンドやアーティストが出てきた。生き残った者もいれば、消え去った者もいる。栄光を勝ち得た者もいれば、忘れ去られた者もいる。

その中で、ブリティッシュ・ロックの王道を突き進んできたジョンは、さすがに第一線にいるとは言えないものの、今でも活動を続けており、新たなソロ・アルバムのリリースについても、ファンの間で長年ささやかれ続けている。

2021年にシングル「Dawning of a Brand New Day」と「Out Alive」が発表された時には、アルバム・リリースも近いかと期待されたのだが、残念ながら今のところ次なるアナウンスはない。

ジョンと、彼の煌めくブラック・ビューティーを、ファンは待ち侘び、待ち構えている。

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