轟音の咆哮を生み出す、ザック・ワイルドとレス・ポール・カスタムのコンビ 轟音の咆哮を生み出す、ザック・ワイルドとレス・ポール・カスタムのコンビ

轟音の咆哮を生み出す、ザック・ワイルドとレス・ポール・カスタムのコンビ

白と黒が波紋のように交互に折り重なるデザインを見れば、本サイトの読者は1人の男を思い出すはずだ。そう、ザック・ワイルド。彼が愛用する、ロック・ギター・シーンで最も有名なルックスのレス・ポール・カスタムを紹介しよう。“ブルズ・アイ”と呼ばれるあのデザイン、実はザックが想定したものではなかった!?

文=細川真平 Photo by Mick Hutson/Redferns/Getty Images

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ランディ・ローズへの憧れとオジー・オズボーンとの絆

オジー・オズボーンのバンドには、数多くの優秀なギタリストが参加してきた。ランディ・ローズ(1979〜82年)、バーニー・トーメ(1982年)、ブラッド・ギルス(1982〜83年)、ジェイク・E・リー(1983〜87年)、ジョー・ホームズ(1995〜98年、99〜2001年) ガス・G(2009〜2017年)など錚々たるラインナップだが、中でも最も長く在籍しているのがザック・ワイルドだ。

彼は、ジェイク・E・リーの後任として1987年にバンドに参加し、1987〜92年、1995年、1998年、2001〜09年、そして2017年以降、オジー・バンドで活躍してきた。ただし、2023年2月にオジーはツアー活動からの引退を表明しており、ステージ上で彼らが並び立つ雄姿はもう見られないかもしれない。

ザックはオジー・バンド以外でも、自身が率いるプライド・アンド・グローリー、ブラック・レーベル・ソサエティで素晴らしいプレイ、作品を世に送り出しているので、聴いたことがない方にはぜひお聴きいただきたい。

現在の彼は、“ワイルド”という名前(本名はジェフリー・フィリップ・ウィーランド/Jeffrey Phillip Wielandt)に相応しい、野獣のようなワイルドさ(wildとwyldeで綴りは異なっている)を全身に醸し出しているが、20歳でオジー・バンドに加入した頃は、まさに金髪の美少年と言ってもいいようなルックスだった。

オーディションで彼を選んだオジーは、ザックにランディ・ローズと重なるものを感じたのではないかと思うし、実際ザックはランディから大きな影響を受けている。

彼が初参加したアルバム『No Rest for the Wicked』(1988年)の1曲目「Miracle Man」のソロを聴けば、フレーズや全体の組み立てなどからそれがよくわかるはずだ。ランディのギター・ソロについてザックは、“曲の中にある(もう1つ別の)曲だ”と語っているが、彼が目指したのもそういうソロだったに違いない。

そして、愛用のギターもランディと同じくギブソン・レス・ポール・カスタムだった。

想定外のペイントがトレードマークに

ザックはオジー・バンド加入とほぼ同時に、レス・ポール・カスタムを友人から入手した。これは1981年製で、3ピース・メイプル・トップにマホガニー・ボディ(パンケーキ構造の採用は終了している)、3ピース・メイプル・ネックという特徴がある。

そして、何より目を引くのは、ホワイト(クリーム)のボディに黒で描かれた、幾重ものサークル模様のペインティングだ。これは、ランディとの差別化を図るために施したものだというから、ザックは自他ともに認めるランディ似だったことがうかがえる。

ザック・ワイルド
1989年、若き日のザック・ワイルド(Photo by Koh Hasebe/Shinko Music/Getty Images)

このデザインは“ブルズ・アイ”(標的、的)と呼ばれるのだが、当初の狙いは違っていた。ザックのクラフトマンへのリクエストは、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画『めまい』(1958年)のポスターのような、らせん状の模様だった。

しかし、意向がうまく伝わらなかったのか、もしくは技術的な問題があったのか、らせん状ではない大小のサークルから成る“ブルズ・アイ”になってしまったのだという。ザックは“くそったれ”と思ったそうだが、翌日にバンドの写真撮影があったために、このまま使わざるを得なかった。しかし言うまでもなく、今ではこのデザインはザックのトレードマークとして、ロック・シーンに広く浸透している。

改造点としては、フロント・ピックアップにEMG“85”を、リア・ピックアップにEMG“81”を搭載。これらはアクティブPUで、“パンチを利かせたヘヴィなサウンドを出すために欠かせない”とザックは語っている。だが、彼のサウンドを聴くと、たしかに“パンチの利いたヘヴィなサウンド”ではあるが、芯の部分にはクリーンさがあることに気づく。まるで、澄み切った水に着色をしたような、とでも言いたくなる歪みサウンドであり、これこそEMGピックアップならではなのではないかと思う。

実は、この改造はザックが施したものではなく、彼が入手した時にはすでにこうなっていた。彼は“The Grail”(聖杯)と呼ぶほどにほれ込んでこのギターを手に入れたのだが、それはEMGのサウンドも込みでほれ込んだということのようだ。

それ以外では、ペインティング・デザインを活かすためだろうと思うが、ピックガードがはずされている。また、ペグはグローバー製のものに変更。ネック裏の塗装が剥がされているのも特徴だが、彼はラッカー塗装の手触りが嫌いで、どのギターでも必ずこの部分の塗装を剥がすのだという。

奇跡のカムバックを果たした“The Grail”

このカスタムは2000年に米テキサス州で、走行中の機材トラックの扉が開いて、道路に落とされてしまうという悲劇的な事故を体験している。しっかりとしたツアー・ケースに入っていたためにギター自体は無事だったのだが、通りすがりの人に拾得される羽目に。

単なる使い込まれたザック・ワイルドのシグネチャー・モデルだと思い込んだその人物は、これを質屋に売り払い、それをジェリー・ワイシンガーという男が250ドルで購入する。このギターを家に持ち帰ったジェリーは、内部の掃除をしようとピックアップをはずし、キャビティ内に文字が書かれているのを発見。それは、ザックのギター・テックであるフレッド・コワロが書いたものだったのだが、そこに何かを感じたジェリーは、ネットでザックのカスタムについて調べ、これが本物だと確信した。

ジェリーはザックのマネージメントに連絡、こうして“The Grail”はザックのもとに無事帰ってきた。

さて、キャビティ内には何が書かれていたか? フレッドは、その何年か前にザックのギター・テックとなり、初めて“The Grail”のセッティングをし、ピックアップの交換もした。その時に、この仕事を与えてもらったことへの感謝の気持ちを込めて、こう書きつけたのだという。

ZW
Thank You Zakk for the Gig. FK

ZWへ ザック、この仕事をありがとう。FKより

※ここでの“gig”はライブ演奏のことではなく、“(契約に基づく)仕事”を意味します。

このギターの面倒を見る仕事ができることに感謝するテックの気持ちが、このギターを特定する手掛かりとなったというのは、なんと素敵な話だろう。

そして、本特集で紹介したピーター・フランプトンのレス・ポール・カスタム、“フェニックス”と同じような話がここにもあることに驚いてしまう。

“フェニックス”は不死鳥の如く甦り、“聖杯”は奇跡を創造した。

ザック・ワイルド

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