毎月1人のギタリストの足下を調査する連載企画、『月刊 足下調査隊!』。第5回は、9mm Parabellum Bulletのギタリスト、滝 善充のペダルボードをご紹介! ギター・マガジン本誌の連載“9mm滝のまたやっちゃいました~世界の滝工房から”でも、エフェクター愛を綴ってくれている滝がたどり着いた、最新のペダルボード事情を見ていこう。
取材/文=伊藤雅景 写真=大谷鼓太郎
ペダルボード
【Pedal List】
①Mesa/Boogie/High Wire(ブースター/ジャンクション・ボックス)
②KORG/Pitchblack Custom(チューナー)
③滝工房製ライン・セレクター【黒】
④Maxon/CP9Pro+(コンプレッサー)
⑤Guyatone/SWR2(オート・ワウ)
⑥BOSS/SY-1(ギター・シンセサイザー)
⑦Providence/PRX-L1(ライン・セレクター)
⑧YAMAHA/OC-01(オクターバー)
⑨BOSS/MO-2(オクターバー)
⑩Maxon/Fire Blade delay(ディレイ)
⑪Guyatone/MD3(デジタル・ディレイ)
⑫滝工房製ライン・セレクター【緑】
⑬EarthQuaker Devices/Afterneath(ディレイ/リバーブ)
⑭ARION/Stereo Chorus(コーラス)
⑮BEHRINGER/Ultra Vibrato(ビブラート)
⑯ZOOM/MS-50G(マルチ・エフェクター)
⑰ZOOM/MS-100BT(マルチ・エフェクター)
⑱Butterfly Effects/Lotus Reverb(リバーブ)
⑲滝工房製ライン・セレクター【紺】
⑳滝工房製ファズ
㉑Mesa/Boogie/GridSlammer(オーバードライブ)
㉒Mesa/Boogie/Big Foot(チャンネル・セレクター)
合計22個のエフェクターのほかに、パワーサプライ、アンプのフット・スイッチなどが組み込まれた、滝お手製の要塞ペダルボード。
ここではおおまかな接続順を解説していこう。
ギターの信号は、最初にブースター/ジャンクション・ボックス(①)に入力される。その後は各ライン・セレクター/スイッチャー(③→⑦→⑲)を経由し、ボード左下のオーバードライブ(㉑)を通過後、アンプのインプットへ向かう。チューナー(②)は①のチューナーアウトに接続されている。
各ライン・セレクター/スイッチャー(③、⑦、⑲)には複数のペダルがループ接続されている。
各機でコントロールしているペダルは以下のとおり。
- ①Mesa/Boogie/High Wire
チューナー(②)とアウト・プットの2つに分岐。センド/リターンは使用していない。 - ③滝工房製ライン・セレクター【黒】
ループ内:コンプレッサー(④)→オート・ワウ(⑤)→ギター・シンセサイザー(⑥) - ⑦Providence/PRX-L1
L1(オクターバー系):⑧→⑨
L2(ディレイ系):⑩→⑪→⑫(⑫のループ内に⑬)
L3(モジュレーション系):⑭→⑮→⑯→⑰→⑱ - ⑲滝工房製ライン・セレクター【紺】
ループ内:滝工房製ファズ(⑳)
このように、各ループごとにエフェクトのジャンルをある程度棲み分けたルーティングになっている。
クリーン、クランチ、ディストーションなどのおもなサウンド・メイクは、アンプのチャンネル切り替えスイッチ(㉒)で対応しているため、歪み系のペダルは意外と少なく、⑳と㉑の2つのみ。
本人インタビュー&徹底解説
テーマは“ローコスト、手作り”(笑)。
先頭のブースター/ジャンクション・ボックス(①)には2つのブースト機能が付いていますが、どういった時に使いますか?
ブースターは、クリーンのボリュームを調整する時にごく稀に踏みますね。+3dBのレベル・コンプ(ミニ・スイッチ)は、ハムバッカーからシングルコイルのギターに持ち替えた時に使います。そうするとシングルコイルでも音が遠くならないんですよ。あと、これに搭載されているバッファー自体の音色も良いし、チューナー・アウトや、2系統のアウトがあるのも便利です。それと、メサ・ブギーのファンなので、なるべくメサ・ブギーの製品を使おうと思って入れています(笑)。
滝工房製ライン・セレクター【黒】(③)にはコンプレッサー(④)、オート・ワウ(⑤)、ギター・シンセサイザー(⑥)が接続されています。コンプ(④)はマクソンなんですね。
これはクリーンをちょっとだけ前に出したい時や、カッティングのレベルを揃えたりする時に使いますね。あとは歪みのサステインを伸ばしたりとか。オンにした時にレベルが少しだけ上がるくらいの設定にしてあります。歪みが少し遠くなる感覚もあるんですけど、その効果を狙って使うこともありますね。色んな使い方をしていますが、どれもセッティングは同じです。
“パコパコ”なコンプ・サウンドではないということですね。
そうですね。ピークを抑えた分、レベルを上げるって感覚です。
グヤトーンのオート・ワウ(⑤)は昔からおなじみの個体ですね。
これは9mmを始める前に友達から貰ったもので、ずっと使ってますね。
ディレイ(⑪)もそうですが、滝さんはグヤトーン製のペダルを多く愛用していますよね。
当時、財布に優しくて、音も良くて見た目も可愛いっていうのが、このシリーズだったんですよ。
グヤトーン製ペダルでほかに試したモデルは?
実はほかのモデルはほとんど弾いたことがないんですよ。ディストーションは試しましたけど、アウトプットのレベルが小さくて使いづらくて……。でも、今使っているMD3(⑪)は、不思議とレベルが少し上がるんです。その分は歪んだ状態で出てくるっていう(笑)。なので、思いっきりインプットの音量を突っ込むと割れちゃうんで、気を使いつつ使っております。
BOSSのSY-1(⑥)は、SFXモードなんですね。
リハでみんながサウンド・チェックをしてる間に適当にイジったりして、面白い音が出たら“その日の飛び道具”って感じで使ってます。設定も覚えられませんし(笑)。なので適当にイジって、毎回違う音で使っていますね。いわばお楽しみコーナーです(笑)。
次はProvidenceのスイッチャー(⑦)で制御しているエフェクターについて聞かせて下さい。
右(L1)がオクターバー系、真ん中(L2)がディレイ系、左(L3)がモジュレーション系っていう並びなんですが、その順番は昔からの名残ですね。そこをずらしちゃうと、俺は多分踏み間違いとかでライブがしっかりできなくなっちゃう。
自分が一番慣れ親しんだ並び順にしているわけですね。
そうですね。操作感重視です。
作曲の際もこのボードを使っているんですか?
一切使わないです。重くて家に持って帰るのがツラくて。でも、家には似たようなペダルが一通りあります。ここにあるペダルより、ずっと良いエフェクターたちなんですけど(笑)。
作曲とライブではエフェクターを分けているんですね。
やっぱりライブで使っているとボロボロになっちゃうなっていう。あと、少しでもペダルを入れ替えると、音がめちゃくちゃ変わっちゃうので。マクソンのディレイ(⑩Maxon/Fire Blade delay)は最近ボードに入れたんですけど、このディレイが1台入っただけで、もう数十分くらいセッティングに悩んじゃって。だから、あまりペダルは変えたくないんですよね。
今まではMD3(⑪)だったんですけど、調子が悪くなっちゃったのでマクソンを導入しました。でもトラブルのはっきりした原因はわからなくて……。
プラスチックの筐体で、ライブで酷使するには少々心配な……。
そうですね。“絶対に踏んではいけないやつ”です(笑)。なので直接踏めないところに置いていますね。ちなみに、ボードの手前から3列目までは足で直接踏みますけど、4列目はスイッチャーでしか制御しないペダルになってます。なのでローディーさんには一番上の列だけオンにしておいて下さいとお願いしていて。
それぞれのディレイの用途は?
Fire Blade delay(⑩)がショート、MD3(⑪)がミディアム、Afterneath(⑬)は、もっとバーッと広げたい時に踏みます。
スイッチャー(⑦)のL1に入っているオクターバー(⑧、⑨)についても聞かせて下さい。特にヤマハのオクターバー(⑧)はずっと愛用していますよね。
若い時に、BOSSのOC-2を“絶対9mmというバンドにはこういうのが必要だから”と思って買ったんですけど、レコーディングで使う前にライブハウスで盗まれてしまって。で、そのあとにどうにか骨董品屋で探して買ったオクターバーが、このヤマハのOC-01だったんです。これのおかげでいっぱい曲ができて。
でも、9V電源が使えないから、色んなギター・テックの人から“9Vが使える普通のオクターバーにしたら?”って言われて、ほかのペダルを何台も試したんですけど、納得いくものが1つもなくて。
別の機種をライブで使った時に、お客さんから“オクターバー、もとに戻して下さい”って言われたぐらい、独特な音がするんです。お客さんもわかるレベルっていうことにびっくりしちゃって。なのでこれはもう変えられませんね。これ以外に良いオクターバーがあったら教えてほしいっていうレベルです(笑)。
BOSSのMO-2(⑨)はどういう時に使ってますか?
これはシンセっぽい感じかな。モード3にするとオクターブが出るんですけど、これはわずかに発音が遅れるんです。なので、オクターブ下はヤマハにして、MO-2(⑨)は原音と1オクターブ上を出すっていう使い方にしています。原音が二重になって、しかもちょっと揺れた状態で出るみたいな。シンセっぽく派手になって、不思議な厚みが出ますね。独特なペダルです。
モジュレーション系はスイッチャー(⑦)のL3にまとめられています。先頭のアリオンのコーラス(⑭)はいつ頃から導入しましたか?
これは9mmの『Dawning』(2013年)を録る時に、どうしてもコーラスが必要で買ったものですね。レコーディングでメンバーと“やっぱアリオン最高だね”となりました。でも、これもマクソンのディレイと同じで踏み潰すのが怖いから、ほかのコーラス・ペダルを色々と試してみたんですよ。でも、なに1つアリオンに勝てるペダルがなかった。
爽やかなコーラスが多いんですが、アリオンは泥臭さや汗臭い表現に向いているっていう感じなんですよ。なので、9mmではこれを選ぶしかないなと。ただ、最近はあまり売っていないですよね。正直、3万円くらいで売ってもいいエフェクターだなと昔から思っているんですよ。
ZOOMのマルチ2台(⑯、⑰)は、どのように使い分けていますか?
“みんな使ってるけど、そんなに良いのかな?”と思って試しに買ってみたら、びっくりするくらい便利で。で、1台あるならもう1台も良いだろうと思って金色も買って。
金色(⑯)は普通のフェイザーとして運用してます。Bluetoothモデル(⑰)は友達から譲ってもらったやつですが、面白い音がたくさん作れるので、ついでに入れてあります。
つい最近、新しいモデル(ZOOM/MS-50G+)も出ましたね!
4コマ漫画みたいなスイッチのやつですよね(笑)。もちろん気になってますよ。1台くらい買ってみようかなと思ってます。
滝工房製ファズ(⑳)は、どういったサウンドをイメージして作りましたか?
ユニボックスのスーパーファズですね。本物に付いているTONEスイッチの、ドンシャリのチャンネルだけを作って使えるようにしたものです。これは使い始めて10年くらい経ちますが、一度も壊れずに稼働してますね。
中身はどんどんアップデートされているんですか?
変わってないですね。このペダルの先代はスーパーファミコン筐体の自作ファズだったんですけど、そっちはロー感を欲張りすぎて、音がズモーっとなりすぎちゃって。それを、もう少しハイがでるように、安い部品を取り入れてアップデートした回路が入ってます。
滝さんといえばファミコン・ファズですから、あちらもまた見たいですね。
そうですね〜。また作りたいんですけど……。
ちなみにそれぞれのツマミの役割は?
わかりません(笑)。どっちかがボリュームで、どっちかがゲインですが、まあどこでもだいたい同じ音しか出ないので、どっちでも良いんです(笑)。
9mmのカオティックなセクションで“グシャー”っとした音を出してるのはこのファズということですね。
そうですね。こいつが命です。
ボード下部は、自作のパワーサプライが2台入っていますが、その詳細を教えて下さい。
下にはパワーサプライとスイッチング電源が2台ずつ入っています。出力は全部9Vで、1つのサプライから10本が供給されています。1台で合計1A(1000mA)取っても大丈夫なように設計していて、バイパス・コンデンサーもめちゃくちゃ良いやつを大量に積んでいるので、普通に手に入るレベルのパワーサプライではございません(笑)。でも総工費、5000円くらいだったんじゃないかな。作るのに2日ぐらいかかりますけど。
サプライまで自作してる人はなかなかいないですよ。
歪みペダルとかはちょくちょく自作してる人もいますが、パワーサプライは作るより買ったほうが早いですからね(笑)。
DCケーブルにこだわりは?
こだわりがあるかないかで言ったらあるんですけど、こだわらないようにしてます。どこで買ったものかわからないものも入っていますし(笑)。
色々試した結果、バラバラでOKという境地にたどり着いたわけですね(笑)。
最近、エフェクター・ボードで一番大事なのは“音が出ること”だと気がついて(笑)。そこを確実に守っていれば、楽しく音楽ができますから。こだわるのはそのあとでいいな、ということですね。パッチ・ケーブルの種類もバラバラですけど、性能が悪いボードになっているとは思っていないんで。あとは、手作り感の面白さもいいなと。ねじ止め具合とか、けっこうエモいものがありますから。
最後に、このボードのテーマを教えて下さい。
やっぱり“ローコスト、手作り”(笑)。