エルヴィス・コステロがスティーヴ・ナイーヴとのデュオ・ライブで使用した6本のギター エルヴィス・コステロがスティーヴ・ナイーヴとのデュオ・ライブで使用した6本のギター

エルヴィス・コステロがスティーヴ・ナイーヴとのデュオ・ライブで使用した6本のギター

2024年4月、アトラクションズ時代からの盟友スティーヴ・ナイーヴ(k)とのデュオ編成で8年ぶりとなる来日公演を行なったエルヴィス・コステロ。今回はインポスターズのオーストラリア公演直後の来日デュオ・ライブということで機材は少なめ。しかし、コステロのこだわりが詰まった貴重なギターの数々を持ち込んでくれた。

取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モリー 機材撮影=星野俊

Elvis Costello’s Guitars

1966 Fender/Jazzmaster

1966 Fender/Jazzmaster(前面)
1966 Fender/Jazzmaster(背面)

鮮やかなブルーがお気に入りの66年製

シリアル・ナンバー“119082”、バウンド・ネックやスモール・ヘッドなどの特徴を持つ66年製ジャズマスター。ダークなサウンドが特徴で、デュオ・ライブでのメインに選ばれたそうだ。ブリッジはMastery製に交換されている。ピックアップも両方Lindy Fralinのカスタム・ピックアップに交換。ギター・テック曰く“オリジナルのものはノイズが多かったから、コイルを多めに巻いてもらったものに換えている。P-90とハムバッカーの中間のような出力”とのこと。普段のメインである64年製ジャズマスターはプリセット・スイッチの配線がカットされているが、本器はカットしていないのでオンにならないようテープで固定されている。エレキの弦はErnie Ballの.010〜.046を使用。また、本器に関して特別にコステロ本人からコメントをもらうことができた。

使用楽曲(4月12日@浅草公会堂)

  • 「Watching The Detectives / Shot With His Own Gun」
  • 「Radio Radio」
  • 「Battered Old Bird」
  • 「Tokyo Storm Warning」

1938 Martin/000-28

1938 Martin/000-28(前面)
1938 Martin/000-28(背面)

『King Of America』で活躍した38年製

ザ・コステロ・ショウ名義でリリースされた『King Of America』(86年)のほとんどの楽曲のレコーディングで使用されたという、38年製000-28。サドルやブリッジ・ピンなどを始め、パーツの交換箇所が多いとのこと。ブリッジ下にFishmanのピエゾ・ピックアップが取り付けられている。弦高がかなり高めにセッティングされていたが、ギター・テックは“これでもコステロは十分快適に弾いているよ”とコメント。アコースティック・ギターの弦はErnie Ballの.012〜もしくは.013〜のゲージをギターによって使い分けているそうだ。また、アコースティック・ギターを使用する際は、Radial J48(アクティブDI)を経由してPAに信号が送られる。

使用楽曲(4月12日@浅草公会堂)

  • 「Unwanted Number」
  • 「New Amsterdam / You’ve Got To Hide Your Love Away」
  • 「(What’s So Funny ‘Bout)Peace, Love And Understanding」

1930’s Harmony/The Vagabond

1930's Harmony/The Vagabond(前面)
1930's Harmony/The Vagabond(背面)

DeArmond搭載のアコースティック

ギター・テック曰く38〜39年製だという、HarmonyのThe Vagabondという14フレット・ジョイントのアコースティック・ギター。当時、The Vagabondはボディ・サイズやカラーなど、いくつかのスペック違いのモデルがラインナップされており、本器はスモール・サイズの1本。そのためどこまでがオリジナルの仕様なのかは判断が難しいが、指板には左右に縦のラインが入っており(指板ごと貼り替えられている可能性も)、ヘッドの表にはパーロイドが貼られている。コステロはブランコ・テイルピースと木製のブリッジを搭載し、Rowe Industries製のピックアップDeArmond FHC-Cをインストール。本器にはエレキ用の弦を張り、フェンダーの54年製Deluxeに接続されていた。クリーンにするか歪ませるかはピックアップのボリュームで調整しているとのこと。ちなみに、今回はコステロがホテルに持って行っていたため撮影できなかったのだが、ギブソンの黒いL-00も用意されていた。

使用楽曲(4月12日@浅草公会堂)

  • 「So Like Candy」
  • 「Magnificent Hurt」
  • 「The Man You Love To Hate」
  • 「More Than Rain」
  • 「I Want You」(前半のみ)

Vicente Carrillo/Original Gut Guitar

Vicente Carrillo/Original Gut Guitar(前面)
Vicente Carrillo/Original Gut Guitar(背面)

ホルヘ・ドレクスラーからのプレゼント

スペインのクエンカに工房を構える、ヴィセンテ・カリージョ(Vicente Carrillo)が手がけたガット・ギター。パコ・デ・ルシアを始め、キース・リチャーズやロン・ウッドなども愛用するメーカーだ。2021年にリリースされた『Spanish Model』(※アトラクションズの名盤『This Year’s Model』のオリジナル演奏音源に、スペイン語アーティストたちによる新ボーカル・トラックを加えた全編スペイン語のコラボ・アルバム)収録の「La Turba(Night Rally)」に参加したホルヘ・ドレクスラーがヴィセンテ・カリージョのガット・ギターを所有しており、ホルヘがコステロのために自身の所有器と近いスペックの1本をオーダーして、今年に入ってプレゼントしたものだという。

使用楽曲(4月12日@浅草公会堂)

  • 「Clubland」
  • 「That Blue Look」
  • 「I Want You」(後半のみ)

Prudencio Sáez/Model 3-FL CW

Prudencio Sáez/Model 3-FL CW(前面)
Prudencio Sáez/Model 3-FL CW(背面)

ドロップDチューニング用のフラメンコ・ギター

1963年にスペインのバレンシアでスタートしたハンドメイド・ギター・ブランド、プルデンシオ・サエス(Prudencio Sáez)。本器は3-FL CWというフラメンコ・ギターで、長年コステロのプロデューサーを務めるセバスチャン・クリスから新品でプレゼントされたものだという。ボディ・トップはジャーマン・スプルース、サイドとバックはホワイト・エボニー、指板はエボニー、ブリッジはローズウッドが採用されている。ピックアップ/プリアンプはFishmanのClasica Ⅱを搭載。今回はドロップDチューニングにセッティングされ(ほかのギターはすべてレギュラー・チューニング)、モーズ・アリソンのカバー曲「Everybody’s Crying Mercy」のみで使用された。

使用楽曲(4月12日@浅草公会堂)

  • 「Everybody’s Crying Mercy」

Cali Guitars/The Ascender P90 Solo

Cali Guitars/The Ascender P90 Solo(前面)
Cali Guitars/The Ascender P90 Solo(背面)

観客を驚かせた折りたたみギター

アンコールではCali Guitarsの折りたたみギター、The Ascender P90 Soloを持って登場し、「Farewell, OK」と「Alison」を演奏。ステージから退場する際はギターを折りたたんで観客を驚かせていた。コステロは本モデルを2023年のNAMM Showで見つけたそうで、ギター・テックに“このギター良くないかな?”と連絡。それを受けてテックはメーカーにコンタクトを取ろうとしたが、コステロはすでに手に入れていたという。以前、ヨーロッパでユニット・ライブを行なうことになった際、“荷物が空港でロストバゲージしても普段から使っているギターが1本あればなんとかなるだろう”という理由で、飛行機での持ち運びの際にもリュックに入れられる本器を購入したそうだ。

折りたたんだ様子

使用楽曲(4月12日@浅草公会堂)

  • 「Farewell, OK」
  • 「Alison」

Others

愛用のピック、カポ、トローチ

ピックはJim DunlopのTortex Standard .60mmを愛用。カポはShubb製。缶の中身は喉用のトローチ(生姜味)が入っている。


拡声器

拡声器が用意されていたが、最終日の浅草公会堂でのライブでは使用されなかった。