1961年の登場以来、世界中で長きにわたり愛され続けているギブソンSG。その逸話や魅力を、ギタリストとの物語をとおしてお届けする“ロックの歴史を作り上げた、伝説のSG特集”。第5回は、“ロックンロールの母”、シスター・ロゼッタ・サープと1961年製ギブソンSGカスタムの物語をお届け。
文=細川真平 Photo by Tony Evans/Getty Images
のちのロックンロール・スターたちを魅了したギター・プレイ
女性ゴスペル・シンガーでありギタリストのシスター・ロゼッタ・サープは、ロックンロール〜ロックの歴史において絶対に忘れてはいけない存在だ。
1915年に米アーカンソー州に生まれたサープの初レコーディングは1938年のこと。
その時に録られた1曲に「Rock Me」がある。この曲は、エルヴィス・プレスリー、リトル・リチャード、ジェリー・リー・ルイスなど、のちにロックンロールの大スターになっていく者たちに大きな影響を与えることになった。(1944年にエレクトリック・バージョンもリリースされており、直接的に影響を与えたのはそちらのほうかもしれない)。
ゴスペルとは神への愛を歌うものであり、ここでの“Rock Me”も、“愛の揺りかごの中にいる私を揺らして下さい”という神への祈り。のちのブルースやロック・ナンバーによく出てくるエロティックな意味での“Rock Me”とはまったく違うのだが、なぜか共通したフィーリングも感じさせるから不思議だし、そこにある魔力のようなものが、のちのロックンロール・スターたちを魅了したのかもしれない。
1940年代に入ると彼女はエレクトリック・ギターを使用し始め、「That’s All」というナンバーはチャック・ベリーに影響を与えることになる(ちなみに「That’s All」には、それ以前にアコースティック・バージョンもあるのだが、チャックのギター・プレイに直接的な影響を与えたのはエレクトリック・バージョンのほうだ)。
こうしたことからサープはのちに、“ロックンロールの母”と呼ばれるようになるが、それも当然だろう。
エルヴィスのデビューが1954年、チャックのデビューが1955年。その10年以上も前に、まだロックンロールなどという言葉がなかった時代から、神への愛を歌いながら、彼女はすでにロックンロールしていたのだから。
1944年に発表された「Strange Things Happening Every Day」は、“世界初のロックンロール・レコード”と称されることもある。
この曲での彼女のギター・ソロを聴くと、この世にギター・ヒーローが登場する前に、すでにギター・ヒロインが存在していたことに驚かされるはずだ。
サープのギター・プレイには、ブルース・ギター・マナーを取り入れた見事なテクニックと、時に繊細で、時にダイナミックなタッチがあり、正確なリズムと躍動するグルーヴが両立している。
彼女がいなかったらロック・ギターは、今とは違うものになっていたかもしれない。
謎も多い『The Gospel Truth』でのサウンド・メイク
そんな彼女が1960年代に愛用したのが、1961年製のギブソンSGカスタムだ。
この特集で何度か触れているように、SGは1961〜63年まではニュー・レス・ポールとして販売されており、彼女のものも当時のモデル名はレス・ポール・カスタムだ。
シリアル・ナンバーは“3749”。PAFピックアップを3基搭載、ポラリス・ホワイト・フィニッシュ、サイドウェイズ・ヴァイブローラ・トレモロ・ユニット付きというのがおもな仕様で、随所にゴールド・パーツが配されているところに最上位機種としての誇りを感じさせる。
このSGカスタムを使うようになったのとほぼ同時期のこととして特筆しておきたいのが、歪みサウンドの採用だ。
1962年にリリースされたアルバム『The Gospel Truth』を聴くと、のっけから飛び出してくるSGカスタムの歪んだサウンドに驚かされる。
このサウンド・メイクの詳細は不明だが、いくらPAFピックアップにパワーがあるとは言え、当時はマスター・ボリュームなしのアンプを使用していたはずだから、ここまで歪むだろうか?という疑問が湧く。
また、もしここまで歪むほどアンプの音量を上げたとしたら、ほかの楽器とバランスが取れなくなり、当時のレコーディング環境ではまともに録音するのが難しかったのではないかとも思われる。
そう考えると、1962年に市販品としては世界初のストンプ・ボックス型のファズ、Fuzz Tone FZ-1がマエストロから発売されているのだが、これを使った可能性はないだろうか?
このモデルが一般的に認知されるようになったのは、1965年にキース・リチャーズがローリング・ストーンズの「(I Can’t Get No)Satisfaction」で使用してからだ。
もしサープがキースに先んじてこれを使ったのだとしたら、彼女こそが世界で初めてファズ・ペダルをレコーディングに用いた人物となるのかもしれない。
多くの人々の記憶に残った“ブルース&ゴスペル・キャラバン”
1964年に彼女は、マディ・ウォーターズやオーティス・スパンらと共に、“ブルース&ゴスペル・キャラバン”の一環としてヨーロッパ・ツアーに参加。
英マンチェスター公演では、廃駅のプラットホームで彼女たちが演奏し、逆側のプラットホームから観客が観るようになっていた。
雨の中での開催となったが、この時の観客の中には、若きエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、キース・リチャーズ、ブライアン・ジョーンズがいた。彼らの目にサープは、そして真っ白なSGカスタムは、どのように映っただろうか?
この公演の模様はテレビ放映されたが、“あのステージをテレビで見てエレクトリック・ギターを手にした若者は多いだろう”と、やはり彼女のことを敬愛するボブ・ディランはのちに語っている。
だが、彼自身が1965年にフォーク・ギターからエレクトリック・ギターに持ち替えたことを考えれば、ひょっとしたら彼もサープに感化されたうちの一人だったのではないか?という気もしてくる。
そうした一方で、世俗的な、もっと言えば“悪魔の音楽”であるブルースを取り入れ、ロックンロールの基礎を作ることになった彼女のスタイルは、敬虔なキリスト教信者たちを激怒させ、彼女は大きな批判を受けることにもなった。
しかし、彼女をこの世に遣わせてくださったことに対して、我々は神に感謝を捧げるべきだろう。
アーメン。
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