NEEの変幻自在な音色を支える、夕日のラック・システムとペダルボード NEEの変幻自在な音色を支える、夕日のラック・システムとペダルボード

NEEの変幻自在な音色を支える、夕日のラック・システムとペダルボード

一度は中止と発表された、NEE史上最大規模の単独公演“東京、夏のサイレン”。ただ、3人は諦めなかった。すべては4人で立てた計画を実行するために。雨天決行された2024年6月23日(日)の日比谷公園大音楽堂にて、夕日(g,vo)が使用したサウンド・システムを紹介しよう。夕日のサウンドを目指しているギタリストへ、本人からのアドバイスも貰ったので、ぜひ最後まで読んでみてほしい。

取材・文=原田右恭 機材撮影=星野俊 協力=夕日

Yuhi’s Rack System

夕日のラック・システム

【Rack List】
①Roland / RE-101(テープ・エコー)
②Orange/ Pedal Baby 100(パワー・アンプ)
③Neural DSP / Quad Cortex(マルチ・プロセッサー)
④Flying Teapot / Delta Fourth(オーバードライブ)
⑤Line 6 / Helix Rack(ギター・プロセッサー)
⑥TASCAM / Celesonic US-20×20(オーディオ・インターフェース
⑦Behringer / PX3000 ULTRAPATCH PRO(ジャンクション・ボックス)
⑧Classic Pro / PD12 II(パワー・ディストリビューター)

プロセッサーを駆使したNEEサウンドのためのラック・システム

夕日のサウンド・システムの接続順を簡潔に述べると、ギターから出た信号がペダルボードとラック間を2往復し、PA卓に送られるということになる。これを念頭において、読み進めてほしい。

まずギターからの信号は、ボード内の⑨Level Set Bufferと⑪JB-21(ジャンクション・ボックス)のみを通過し、⑦PX3000でパッチベイする形でラック内に入る。そして⑥Helixのピッチ・シフター系のエフェクターを並べた1段目のチェーンと④Delta Fourthを通過し、⑥HelixのSENDから⑦PX3000に戻る。そこから再度、ペダルボード内へ信号が送られるという流れ。

ペダルボード内に置かれた13台のコンパクト・エフェクターを通過したのちに、㉕CE-1のアウトから⑦PX3000にイン。再びパッチベイされ、⑥Helixに入った信号は、モジューレションや空間系のエフェクターを並べた2段目のチェーンを通過する。このチェーンのFXループ内に①RE-101が接続されていた。その後、⑥HelixのOUTPUTから③Quad Cortexに接続される。この③Quad Cortexがアンプとキャビネットの機能を担っている。最後に、③Quad CortexのOUT 1からPA卓にステレオで送られるという流れだ。

ラック・システム内のドロワー

③Quad Cortexでのサウンドメイクについて見ていこう。今回のライブでは、アンプは全曲共通してUS DLX Vibrato(フェンダーのブラック・フェイス期のDeluxe Reverbのモデリング)を使用。キャビネットは410 US Basslad PR10(JensenのP10Rが搭載されたフェンダーのBassmanのモデリング)を使用していた。マイクはDynamic 57(ShureのSM57のモデリング)とRibbon160(beyerdynamicのM160のモデリング)をミックスする形で設定。

①RE-101はおもにバッファーとして使用。⑥Celesonic US-20×20は⑦PX3000のパッチベイを使って、同期音源用に使用されている。

Yuhi’s Pedalboard

ペダルボードその1

【Pedal List】
⑨Fender / Level Set Buffer(バッファー)
⑩VOX / VXT-1(チューナー)
⑪FREE THE TONE / JB-21(ジャンクション・ボックス)
⑫BOSS / NS-2(ノイズ・ゲート)
⑬Guyatone / Wah Rocker(オート・ワウ)
⑭Wampler / EGO Compressor(コンプレッサー)
⑮DigiTech / Whammy Ricochet(ピッチ・シフター)
⑯Old Blood Noise Endeavors / Signal Blender(ノイズ・ゲート)
⑰MXR / Duke of Tone(オーバードライブ)
⑱Keely / DS-1 Ultra Mod(ディストーション)
⑲BOSS / DS-2(ディストーション)
⑳Nozzo Effects / NOZZ rite(ファズ)
㉑September Sound / Bass Fuzz(ファズ)
㉒Ibanez / WH10 V1(ワウ)
㉓WARM AUDIO / Ringer Bringer(リング・モジュレーター)
㉔BOSS / CE-3(コーラス)
㉕BOSS / CE-1(コーラス)
㉖BOSS/ FS-5L(専用フット・スイッチャー)
㉗Line 6 / Helix Control(専用フット・スイッチャー)
㉘Mission Engineering / EP1-L6(エクスプレッション・ペダル)
㉙Route-R / RI-FP3MG(USBフット・スイッチ)

ジョン・フルシアンテをリスペクトしながら、自己流を模索したボード

夕日のペダルボードは計2枚。歪み系のコンパクト・エフェクターが中心の1枚(画像A)と、フット・スイッチャー(画像B)が中心の1枚で構成されていた。

まずはAボードの接続順について解説する。ラック内の⑦PX3000からの信号は、まず⑫NS-2に入る。その後⑬Wah Rocker、⑭EGO Compressor、⑮Whammy Ricochetを通過し、⑯Signal Blenderにイン。⑯Signal Blenderのループには、⑰Duke of Toneと⑱DS-1 Ultra Modの2台が接続されている。

⑯Signal Blenderのアウトからは⑲DS-2に接続され、その後㉕CE-1まで直列でつながれており、ラック内の⑦PX3000に戻るという流れだ。⑩VXT-1は⑨Level Set Bufferのチューナー・アウトに接続されていた。

Aボード内の各エフェクターについて解説していこう。⑯Signal Blenderは最近導入したとのことで、⑰Duke of Toneと⑱DS-1 Ultra Modをミックスしたサウンドを出力することが可能。加えて原音を混ぜることもできるので、夕日は“自分らしいサウンドメイクに一役買っている”とコメント。⑲DS-2は1989年の日本製。⑳NOZZ riteは個人ビルダーであるNOZZO氏が、MosriteのFUZZ riteをモデルにハンドメイドで製作したクローン・ファズ。㉑Bass Fuzzの筐体のデザインは、夕日の母によって直筆で描かれたものだ。㉒WH10はV1で、最初期に発売されていたグレーの筐体のもの。

⑲から㉒までの流れはジョン・フルシアンテを愛する、夕日らしいチョイスだ。

㉔CE-3はモノラル・アウトで使用。本機はACA駆動であるため、⑫NS-2のOUTから電源供給されていた。㉕CE-1は右側のアウトのみを使用しウェット音だけ出力。

㉓Ringer Bringerは、NEEのサイケデリックなサウンドを作り出す核となるエフェクター。Moogerfoogerのリング・モジュレーターをモデリングしたものだ。夕日はギターを始めた頃、ギタリストにとってリング・モジュレーターとオーバードライブは、同じくらい必要性のあるエフェクターだと誤認(?)していたそう。その影響からか人一倍研究を重ねたため、シンセサイザーとギターの中間にあるようなエレクトリックなサウンドを、脳内のイメージどおりに再現することができるという。

ペダルボードその2

ハの字側に配置されたボードの上手側、フット・ペダルを中心にまとめられたのがBボードだ。㉗Helix Controlは⑤Helixの空間系のエフェクターを操作するためのもの。「不革命前夜」などで使用し、㉓Ringer Bringerだけでは足りないモジューレションの成分を追加するためのプリセットをバンクしていた。

㉘EP1-L6は⑤Helixのチェーンに配置されているワウのかかり具合を、足下で操作するためのもの。㉙RI-FP3MGはおそらく未接続だ。

Interview

歪み成分とクリーンの音を混ぜることで
芯がありながらも凶悪な音を作る。

夕日さんのサウンドを目指しているギタマガWEB読者に向けて、サウンドメイクのポイントを教えて下さい。

もとをたどると、Djent系のエレキ・ベースの音作りから影響を受けていると思います。歪み成分とクリーンの音を混ぜることで、芯がありながらも凶悪な音を作るという発想から、クランチやソロのサウンドにも原音(クリーン・サウンド)をミックスしているんですね。そうすることで、強く歪んでいるのにコードがキレイに聴こえるというサウンドを得ることができました。

このように音をジャンルで限定せず、自分が得意なスタイルを持ち込むことも大切だと思っています。もちろん、エフェクトを自由に操るには自分が持っているエフェクターでどのような音が出せるのかをよく知っておく必要があるので、お気に入りのセッティングだけではなく、思いつく限りの方法で、時には大胆にツマミを回しながらギターを弾いてみましょう。思わぬところで発振したり、特定の位置で聴いたこともないような音と出会ったりすることができると思います。

ノイズが酷い場合の対策として、なるべく休符がないフレーズを採用して、自分が弾いた音しか鳴らないようにしています。フレーズ次第で酷い音がカッコいい音に変わるので楽しいです。

皆さんも持っている機材のポテンシャルをさらに引き出せるように、その筐体と睨み合っていただきたいです。

夕日のピックとメンバーで撮ったチェキ写真
今回のライブでは、ペダルボード横にいつも置かれていたマニピュレーション用のMacBookがなくなっていた。夕日曰く、その理由は“今日はギター・ボーカルにも専念するからです”とのこと。代わりにその位置にはライブ前にメンバー3人で撮った写真が、お守りとして置かれていた。