GRAPEVINEが2024年7月13日(土)に開催した日比谷野外音楽堂でのワンマン・ライブ、“The Decade Show:Summer Live 2024”。多種多様なギターを巧みに使い分け世界観を演出する、田中和将(vo,g)と西川弘剛(g)のサウンドにフォーカスしたライブ・レポートをお届けしよう。
取材/文=伊藤雅景 写真=垂水佳菜
ファン垂涎の楽曲を詰め込んだアニバーサリー・ライブ
GRAPEVINEは2014年にポニー・キャニオンを離れ、現在のビクター/スピードスター・レコーズへ移籍。今年(2024年)はちょうど移籍後10周年を迎える節目の年でもある。
今回のワンマン公演は、その周年を記念したアニバーサリー・ライブとして開催された。セットリストは移籍後にリリースしたフル・アルバム(『Burning tree』~『Almost there』)を中心に組まれ、ファンの間でもその“ディープでドス黒い”セトリが話題となった。
当日は開演前ギリギリまでスコールに見舞われるなど、あいにくの空模様だったが、ライブは予定時刻どおりにスタート。
会場BGMが流れる中メンバーが登場し、1曲目に披露されたのは「サクリファイス」。田中和将(vo,g)が爪弾くアルペジオと、西川弘剛(g)のファジーなサウンドが曇天の日比谷野音に響きわたる。
田中が「サクリファイス」でチョイスしたギターは、「超える」のMVなどで登場するレイク・プラシッド・ブルーのAmerican Vintage 60s Telecaster。GRAPEVINE中期から活躍している1本だ。
西川は、近年メインになりつつある2019年製のSGスタンダードで図太いファズ・サウンドを奏でる。このSGは、前回の取材(2023年)時点では使用曲を検討している段階だったが、今回のワンマンでは後述する黒のレス・ポールと並ぶメイン・ギターに抜擢。
西川は曲中もアンプ(マーシャル/JCM800)のツマミを微調整しサウンドを整えており、ギター側のボリュームもセクションごとに開度を変え、サウンドを無段階に変化させていた。
もちろん足下にも歪みペダルが置かれているが、手元のコントロールだけで無限に歪み感やダイナミクスを変化させていく様は、まさに職人。
GRAPEVINEのギター・テック曰く、ライブ中に西川へギターを渡す際はボリュームのツマミを少し絞った状態にセッティングしてから渡すそう。
続く「The milk (of human kindness)」、「EAST OF THE SUN」では、田中がテレキャスターからアコギに持ち替える。
今回のライブでは、以前から弾き語りなどで頻繁に使用していたギブソンのSouthern Jumboではなく、エピフォンの“Inspired by Gibson Custom”1957 SJ-200が登場。野外で雨風もある環境の中でもしっかりと抜けるサウンドが心地良い。
「EAST OF THE SUN」では西川の伸びやかなクリーン・アルペジオが楽曲を牽引していく。この曲のサビで聴けるような、“歪んでそうで歪んでいない”絶妙な塩梅の音色で弾く裏メロは、西川の専売特許とも言えるギター・プレイだろう。アウトロのオクターブ・ファズ・ソロは、音源の100倍増しといった感じで実に痛快!
多種多様なギターが絡み合う円熟のアンサンブル
3曲を終え、ここで本日初のMC。“千代田区のアモーレたちよ、GRAPEVINEです! そんなわけで今日も最後までよろしく~”と、田中節の挨拶から「Big tree song」へとなだれ込む。西川はお馴染みのメイン・ギター、56年リイシューのレス・ポールに持ち替え、ジューシーな音色を奏でる。
ライブ中盤では、前半のゆったりとした雰囲気から徐々にハードなセクションに。「雀の子」で田中が弾いていたアノダイズド・ピックガードのジャズマスターは、ドライで攻撃的な音色が特徴の1本だ。
本人曰く『新しい果実』(2021年)の時期に入手したとのことで、『Almost there』(2023年)のリリース・ツアーでは「Ub(You bet on it)」などでも使用。「雀の子」では、田中が本器で単音のリード・フレーズを、西川が低音のコード・ストロークをそれぞれ担っていた。
次曲は今回の日比谷野音直前に配信リリースされた新曲「NINJA POP CITY」。
軽快なビートに乗っかる田中の歯切れの良いカッティング、西川のムーディーで不穏なアルぺジオ、エフェクティブに掛け合うギター・ソロなど、近年のGRAPEVINEが持つ魅力を詰め込み、研ぎ澄ましたような1曲だ。
“田中の歯切れの良いカッティング”を聴ける楽曲といえば、「NINJA POP CITY」のほかに「MAWATA」(『Burning tree』収録/2015年)、「レアリスム婦人」(『ROADSIDE PROPHET』収録/2017年)、「目覚ましはいつも鳴りやまない」(『新しい果実』収録/2021年)、などが挙げられる。今回のライブでは中盤に「MAWATA」が演奏された。その際のギターは、田中がソニック・ブルーのMade in Mexicoのストラトキャスター、西川が黒の56年リイシューのレス・ポールという組み合わせだった。
田中と西川はここまで、ストラトキャスター、テレキャスター、ジャズマスター、レス・ポール、SG、アコギ……(ここからもギブソンS-1やカジノなどが登場)とギターを頻繁に持ち替えており、毎曲ごとに変化していく音の相性、絡みが聴いていて非常に楽しい。
もしかすると、GRAPEVINEのワンマン・ライブに行けば、王道なギターのサウンドをタイプ別にほとんど聴くことができるのではないだろうか……?
個人的に驚いたのは、「HESO」でいきなり登場した田中のギブソンS-1。1970年代後半に生産されていたモデルだ。シェイプはマローダーと非常に似ているが、S-1にはビル・ローレンスが設計した3つのシングルコイル・ピックアップが搭載されているのが特徴。
ほかにも今回のライブでは「リヴァイアサン」、アンコールの「Ready to get started?」の合計3曲で使われていた。田中のS-1は良い意味で“雑味たっぷり”なサウンドで、そのザラついたドライブ感がアンサンブルの中で非常に映える。
終盤は「さみだれ」、「Gifted」と続き、『Almost there』のラストを飾る「SEX」で本編が終了。アンコールでは今までの雰囲気から一転、霧が晴れたように清涼感のあるナンバーを立て続けに演奏した。
「Ready to get started?」では西川&田中のツイン・リードが炸裂。向き合って弾くギター・ソロもオリジナルなフレーズが盛り込まれており印象的だった。
そしてアンコールの締めとなる「Arma」ではサポートの高野勲(k)もアコギをプレイし、重厚なトリプル・ギター編成のサウンドを披露。高野のアコギ・パートは、ライブ版の「Our Song」などでも聴くことができるので、ぜひチェックしてみてほしい。
SETLIST
1.サクリファイス
2.The milk (of human kindness)
3.EAST OF THE SUN
4.Big tree song
5.Scarlet A
6.ソープオペラ
7.雀の子
8.NINJA POP CITY
9.弁天
10.吹曝しのシェヴィ
11.MAWATA
12.ミチバシリ
13.楽園で遅い朝食
14.Ub (You bet on it)
15.雪解け
16.HESO
17.リヴァイアサン
18.さみだれ
19.Gifted
20.SEX
encore
21.Ready to get started?
22.SPF
23.Arma
田中和将 楽曲ごとの使用ギター
サクリファイス | Fender/American Vintage 60s Telecaster |
The milk (of human kindness) | Epiphone/Inspired By Gibson Custom” 1957 SJ-200 |
EAST OF THE SUN | Epiphone/Inspired By Gibson Custom” 1957 SJ-200 |
Big tree song | Epiphone/Inspired By Gibson Custom” 1957 SJ-200 |
Scarlet A | Epiphone/Inspired By Gibson Custom” 1957 SJ-200 |
ソープオペラ | Fender/Made in Mexico Stratocaster |
雀の子 | Fender/Jazzmaster |
NINJA POP CITY | Fender/American Vintage 60s Telecaster |
弁天 | Fender/American Vintage 60s Telecaster |
吹曝しのシェヴィ | Fender/American Vintage 60s Telecaster |
MAWATA | Fender/Made in Mexico Stratocaster |
ミチバシリ | Epiphone/Inspired By Gibson Custom” 1957 SJ-200 |
楽園で遅い朝食 | Epiphone/Inspired By Gibson Custom” 1957 SJ-200 |
Ub (You bet on it) | Fender/American Original 60s Telecaster |
雪解け | Fender/American Original 60s Telecaster |
HESO | Gibson/S-1 |
リヴァイアサン | Gibson/S-1 |
さみだれ | Fender/Made in Mexico Stratocaster |
Gifted | Fender/Made in Mexico Stratocaster |
SEX | Epiphone/Casino |
Ready to get started? | Gibson/S-1 |
SPF | Fender/American Vintage 60s Telecaster |
Arma | Epiphone/Casino |
西川弘剛 楽曲ごとの使用ギター
サクリファイス | Gibson/SG Standard ’61 |
The milk (of human kindness) | Gibson/SG Standard ’61 |
EAST OF THE SUN | Gibson/SG Standard ’61 |
Big tree song | Gibson/Les Paul 1956 Reissue |
Scarlet A | Gibson/Les Paul 1956 Reissue |
ソープオペラ | Fender/American FAT Telecaster |
雀の子 | Gibson/SG Standard ’61 |
NINJA POP CITY | Fender/American FAT Telecaster |
弁天 | Fender/American FAT Telecaster |
吹曝しのシェヴィ | Fender/American FAT Telecaster |
MAWATA | Gibson/Les Paul 1956 Reissue |
ミチバシリ | Gibson/Les Paul 1956 Reissue |
楽園で遅い朝食 | Gibson/Les Paul 1956 Reissue |
Ub (You bet on it) | Gibson/Les Paul 1956 Reissue |
雪解け | Fender/American FAT Telecaster |
HESO | Gibson/SG Standard ’61 |
リヴァイアサン | Gibson/SG Standard ’61 |
さみだれ | Fender/American FAT Telecaster |
Gifted | Fender/American FAT Telecaster |
SEX | Gibson/Les Paul 1956 Reissue |
Ready to get started? | Gibson/Les Paul 1956 Reissue |
SPF | Fender/American FAT Telecaster |
Arma | Gibson/SG Standard ’61 |
LIVE INFORMATION
GRAPEVINE The Decade Show : Club Circuit 2024
- 2024年08月31日(土)/金沢EIGHT HALL
- 2024年09月01日(日)/長野CLUB JUNK BOX
- 2024年09月06日(金)/札幌ペニーレーン24
- 2024年09月08日(日)/仙台Rensa
- 2024年09月14日(土)/松山W studio RED
- 2024年09月15日(日)/岡山CRAZYMAMA KINGDOM
- 2024年09月21日(土)/福岡DRUM LOGOS
- 2024年09月23日(月・祝)/名古屋ダイアモンドホール
チケット:スタンディング5,500円(税込、整理番号付、ドリンク代別)
作品データ
『Almost There Tour extra show at Zepp DiverCity 2024.03.28』
GRAPEVINE
ビクター
DVD-Video / VIBL-1150
2024年9月25日リリース
―Track List―
01.雀の子
02.Neo Burlesque
03.Ub (You bet on it)
04.EVIL EYE
05.マダカレークッテナイデショー
06.それは永遠
07.TOKAKU
08.ねずみ浄土
09.停電の夜
10.アマテラス
11.Ophelia
12.The Long Bright Dark
13.Loss (Angels)
14.Goodbye, Annie
15.実はもう熟れ
16.Glare
17.Scare
18.超える
19.Ready to get started?
20.SEX
ENCORE
21.阿
22.God only knows
23.Shame
24.Arma
―Guitarists―
田中和将、西川弘剛