Interview|奇妙礼太郎×内田勘太郎 『アイコトバハ』で感じた名コンビっぷり Interview|奇妙礼太郎×内田勘太郎 『アイコトバハ』で感じた名コンビっぷり

Interview|奇妙礼太郎×内田勘太郎 
『アイコトバハ』で感じた名コンビっぷり

奇妙礼太郎と内田勘太郎ーー“奇妙なカンケイ”と題したふたりのライブを知った時、“この組み合わせは?”と驚いたファンも多いだろう。アコースティック・ブルースの名手=内田勘太郎が選んだのは、奇妙礼太郎という鬼才。この出会いで生まれた『アイコトバハ』は、憂歌団とは別のベクトルのセクシーさを帯びた奇妙の歌声、内田による脱力した優しい音色のアコースティック・ギターが絶妙に溶け合った名作に仕上がった。さっそくその制作の模様について聞いていこう。

取材・文=福崎敬太 写真=極東楽音

テレビCMで気になる声が流れていて、
それが奇妙さんだったんだよ。(内田)

緊急事態宣言の直前に、沖縄でレコーディングしたんですよね?

内田勘太郎 去年の11月くらいから“ふたりで何かやろう”って決めていたから、沖縄でいつも僕が録ってるスタジオを押さえてあったのね。それが3月だったからレコーディングできたけど、奇妙君が帰ったあとから、出入りができなくなった感じだったね。

“奇妙なカンケイ”やYOKOHAMA MEETINGでの共演から今作『アイコトバハ』につながると思うのですが、そもそもふたりの出会いは?

内田 2015年に知り合いの音楽プロデューサーが主催したパーティーに行ったら、いたんだよね? そこでセッションをしたんですよ。

奇妙礼太郎 何をしたか全然覚えてないですけど、ありましたね(笑)。

内田 東京のスタジオに入って録音さえしたんじゃない? CCRの「雨を見たかい」をやったような気がする。

奇妙 ああ! 小さいところに入って、やりましたね。

勘太郎さんは初めて奇妙さんを知って、すぐにセッションするまで意気投合したんですか?

内田 いや、その前からテレビCMとかで気になる声が流れていて、それが奇妙さんだったんだよ。しかも1個のCMじゃなくて、いくつかあったの。で、実際に会ってみて、改めて“すごくいいな”って思ったんだよね。心惹かれる声というか。

奇妙さんの声のどういう部分に惹かれたんですか?

内田 初めて会った時は大阪の方だってことは知らなかったんだけど、関西出身の人にはめずらしく、“が・ぎ・ぐ・げ・ご”みたいな鼻濁音が出る人だと思って。それでいて関西の人たちの“むくつけき良さ”もある。自分はその鼻濁音のある音もすごい好きなんですよ。

その後、2016年3月には勘太郎さん主催の“YOKOHAMA MEETING”に奇妙さんが参加されますよね?

内田 そう。“いいな”と思った人に声をかけているから。で、奇妙さんとはほとんど練習しないし、打ち合わせも何もないんだよね。ソロのミュージシャンとして完全にできあがってるから、彼の歌とギターだけで十分なわけ。僕はそれについていくだけで、ステージングも全部奇妙さんに任せて。たまには俺が先行するんだけど、それに奇妙さんは絶対に食らいついてくるんだよ。すごく耳がいいっていうか、“聴く人”なんだよね。そういう人ってたくさんいそうで、実はそこまでいない。

そこからアルバムを作るまでは、どういう流れなんですか?

奇妙 アルバムを作ろうと言われて、最初は“勘太郎さんが作っているアルバムに、チラッと参加する感じかな?”と思っていたんですよ。それで沖縄に遊びに行くくらいの感覚で行ったら、“ガッツリやるなあ”と思って……。

(笑)。ライブやアルバムの誘いを受けた時、どういう気持ちでしたか?

奇妙 僕はただのファンなんで(笑)。もちろん憂歌団のアルバムも聴いているし、VHSとかも大学生の時に探して観てましたから。だから最初はやっぱり緊張しましたね。気を遣うというか“距離あるな”と思っていて……ただ、今はもう友達だと思ってますけど(笑)。

ところで、奇妙さんはアコースティック・ブルースで好きな人はいますか?

内田 (ボソッと)憂歌団って言え。

奇妙 (笑)、でも本当にそうですね。YouTubeに上がってる憂歌団の白黒の映像とかすごく好きなんですよ。延々と観ちゃいます。「パチンコ」はブレイクしてからもう1回入るんですけど、それが居合い斬りみたいな感じで(笑)。もう誰にも真似できない。すごい空気を支配してるけど、全然重くなくて。それを19~20歳くらいの人がやってると思ったら、“おそろしいな……”と思います(笑)。あれは感動ですよ。

今回のレコーディングでその斬れ味を感じた瞬間は?

奇妙 沖縄の空気もあるし、そういう斬れ味みたいな部分とはまた別の、自分と勘太郎さんの世界になってると思いますね。でもやっぱり勘太郎さんの音色が自分にも染み込んでますし、タイミングや音が……ずっと幸せを感じてました(笑)。

今作に入っている楽曲、
全部丸ごと“勘太郎さん”ですよ。(奇妙)

今作は勘太郎さんのスライドが少ないですが、これは奇妙さんの歌声のレンジ的に必要がなかったからなんでしょうか?

内田 別にそういうことではないかな。今回も本当にジャムのように録音していて、“ここまで行ったら、次は間奏ね”っていうような打ち合わせもほぼないわけ。だから、“次、ソロ行くよ”みたいなきっかけを自分から出さないといけない時に、スライドバーがあるとちょっと邪魔なの。

ジャムならではですね。

内田 そう(笑)。でも、“ここで間奏だよな”みたいなところで、奇妙さんとは異様に息がピッタリなのよ。たぶん昔、夫婦だったんじゃないかな?

前世で(笑)。

内田 わからないけど(笑)。コンピングすら何も決めてないし、“こうやるよ”っていうのも事前に言ってないもんね。構成も漠然と自分の中ではあったけど、なぜか話さないまま始めちゃうんだよな。

奇妙 (笑)。

内田 「こんにちはブルース」から録り始めたけど、できちゃうもんだからドンドンやってしまいました。

(笑)。「こんにちはブルース」は勘太郎さんのフレーズはアクセントが表で、奇妙さんが2拍、4拍で支えるようなバッキングになっていますよね。アレンジの打ち合わせはしなかったそうですが、これは“なんとなく”っていう感じなんですか?

奇妙 そうですね。普段からあんまり考えながらやるタイプではないので、“ちょうどよくなるように”っていう感じで弾いていたと思います。

歌のガイドのように弾くイメージが強いんですか?

奇妙 自分は完全にそうですね。

内田 奇妙さんのリズムって、“ファンクネス”があってすごくいいんですよ。4拍子でも16分的な考え方で弾くから、そこにファンクを感じる。それがすごく斬新で、やっていて楽しかったね。

その奇妙さんのファンクネスに引き出されたようなフレーズはありましたか?

内田 「アイコトバハ」はそういう感じで弾いたかも。奇妙さんのリズムが屋台骨になっていて、僕がそっちに寄せていく……というか徐々に寄っていっちゃって(笑)。奇妙礼太郎さんからの影響が非常にあったね。

「アイコトバハ」は一回聴いたら覚えられるキャッチーなメロディですよね。口ずさみやすいですし。こういうメロディは作るというより、降りてくるという感覚ですか?

内田 「アイコトバハ」は、特にそうだったな。今年の1月に大阪のmusic bar SORa.の周年で奇妙さんと一緒にライブをやったんですよ。毎年ライブが終わったらお客さんとジャンケン大会をするんだけど、奇妙さんに“ジャンケンのかけ声出してね”って言ったら、“最初はグー”で始まって。“おお、最初はグーか”、と。で、“最初はグー、ジャンケンポンっていう曲を作ろう”と思って、ちょっと寝ながら考えていたら“アイコトバハ〜”っていうフレーズが曲になって出てきたんだよね。

奇妙さんは勘太郎さんの楽曲を歌ってみて、“らしさ”みたいなものは感じましたか?

奇妙 もう今回のアルバムに入っている楽曲、全部丸ごと勘太郎さんですよ。“らしさそのもの”っていう感じだったので、僕はそこに入っていくような感じでしたね。

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最新作

『アイコトバハ』 奇妙礼太郎と内田勘太郎

極東楽音/KTRO-0003/2020年8月26日リリース