Interview|奇妙礼太郎×内田勘太郎 『アイコトバハ』で感じた名コンビっぷり Interview|奇妙礼太郎×内田勘太郎 『アイコトバハ』で感じた名コンビっぷり

Interview|奇妙礼太郎×内田勘太郎 
『アイコトバハ』で感じた名コンビっぷり

ジャズを勉強したわけではないけど、
そういう和音が好きなんだよね。(内田)

「ホームタウンブルース」はジョン・リー・フッカーの「Boom Boom」のようなリフから、奇妙さんがブルージィに歌って、サビではGのメジャーに展開していきますよね。

内田 その展開は予定はされていたんだけど、ああいう歌の入れ方をするのには、“おっ、来たな”と思ったよね。想像していたとおりのトーキング・ブルースっぽい感じ……。奇妙さんはすぐに“その中”に入ってやっちゃうから、“名人だな”って思いますよ(笑)。

奇妙 (笑)。

この曲では奇妙さんのソロも聴けます。

内田 “入れて”とも言わずに弾き出したんだけどね(笑)。

奇妙 勝手に(笑)。

内田 このソロもすごくいいから……“負けたな”と(笑)。やっぱり歌を歌う人のギターっていうのは特別だからね。タイム感というか、やっぱり“呼吸”。あと、奇妙さんのギターはリズムからリードに入っても痩せないでとおる。

奇妙さんのソロが聴けるのは、「スクールデイズ」もあります。「ホームタウンブルース」は勘太郎さんのソロが奇妙さんの流れを汲んだ入り方ですが、「スクールデイズ」は奇妙さんが男らしいマイナー・ペンタで、勘太郎さんはメジャーも織り交ぜたキャッチーな雰囲気という対比がおもしろかったです。奇妙さんはこの2曲のソロをどういうイメージで弾きましたか?

奇妙 “やるしかない”っていう感じで弾きましたね(笑)。たくさん音を入れられるなら入れたいんですけど、自分的にはあれが限界のスピードなので、自分の最速が入ってます(笑)。いつも自分の最大が入ってるんですけど、今回も頑張りました。

完全にアドリブですか?

奇妙 そうです。でも、よかった記憶はありますね。

自分の作品でソロを弾く時もアドリブなんですか?

奇妙 いや、自分の曲だと事前に作ることが多いですね。歌っているメロディをそのままギターでパッて弾けるといいんですけど、わりと練習しないとできないんです。スケールとかもあまりわかっていないから、やっぱりペンタトニック寄りのことになりますし。でも、自分のタイミングっていうのは決まっていて、それにバッチリ合わせるか、わざとズラしてみるとか、そういう感じでギターを弾いてます。もう高2くらいから、あんま変わってないです(笑)。

そしてようやく、「胸がじんじん」でスライドが入りますね。

内田 この曲はイントロのメロディに沿ったアレンジをハッキリと考えていて。“あのメロディを少し崩したようなソロをスライドでやろう”って、曲の途中で思いついたんですよ。それと、“あっ、今回スライド全然弾いてないや”と思って、スライド・バーがあったからっていうのも理由のひとつ(笑)。

(笑)。続く「月曜日」は奇妙さんがバッキングで、弾き語りでも成立する感じですよね。

内田 あれはさ、ブギーでもあり、4ビートでもあり、「Stormy Monday Blues」のいろんなフレーズを散りばめてるわけね。イントロも裏から入ってたり、意外とびっくりだと思うんだけど、ブルースが好きな人だったら“ああ、あれね”っていう感じが1曲の中にたくさん散りばめてある。だけど、そのブルースという枠にすごくこだわりのなさそうな奇妙さんが、いい感じでリズムを弾いてる。

それこそさっき言っていた“ファンキーさ”というかビートの強さみたいなものを感じますよね。

内田 ね? やっぱり、ああいう曲にもファンクネスを感じるんだよ。シャッフルをハッキリ打ち出しているロバート・ジョンソンみたいなものから、どんどん発展してファンクになっていく流れがすごくわかるというか。

アコースティック・ブルースの延長線上にファンクがあるという。

内田 うん。T-ボーン・ウォーカーがいてジョニー・“ギター”・ワトソンがいる、みたいな。

「月曜日」はブルースが下地にありつつ、ジャジィな要素もありますよね。

内田 和音の使い方がね。それこそT-ボーン・ウォーカーがよく使っているような和音もあるし。9thとか♭5thとかそういう音が昔から好きなんだけど、当時はコードの名前とかはよく知らなくて。で、最初にウエスト・ロード・ブルース・バンドの塩次伸二さんに9thっていうものを教えてもらった時から、和音の扉が開いたんですよ。その頃はまだC7とかしか使ってなかったら、“伸ちゃん、モダンなブルースはどうやってるんですか?”って聞いたら、“ああ、あれは9thっていうやつや”って教えてもらって。それに僕はアコースティック・ギターだから、その響きが如実に出るんですよ。特にジャズを勉強したわけではないけど、そういう和音が好きなんだよね。

その流れは「ブルース君」のII-Vに向かう動きにも出ていると思いました。

内田 だと思うんだけど、それも話し合ってないからね。奇妙さんはわりとそのままストレートに弾いているうえで、俺が違う動きをしても濁ってない。むしろそれがピッタリと合う瞬間もあっておもしろいよね。

「ブルース君」もふたりのソロが聴けますね。ちょっとジャジィな展開ですが、ソロを弾く時にコード進行はどのくらい意識しているんですか?

奇妙 “今、どの辺りかな?”っていうのはなんとなく意識はしていますね。でも、“次のコードはこれやから、ここいっとこか”みたいな感じは特にないかもしれないです。

奇妙さんが歌う「10$の恋」も素晴らしかったです。

内田 これは録音の最終日に、奇妙さんがレンタカーで「10$の恋」を爆音で聴きながらスタジオに入ってきたの。それで僕がちょっと弾いていたら、奇妙さんが歌い出して。奇妙さんとしては木村君のコピーをしてるつもりで歌ってたらしいんだけど(笑)。“奇妙さんが歌うんなら……”と思って、“これ、ちょっとやってみる?”っ聞いたら“いや~”って言いながら……それで録りました。

奇妙 (笑)。

奇妙さんが車で爆音でかけていたのはなぜ?

奇妙 沖縄に行く前の打ち合わせの時に、“憂歌団で何かやりたい曲ある?”って勘太郎さんに言ってもらって、“どうしようかな?”といろいろ聴く中で「10$の恋」も聴いていて。“いや~、名演やな”と思いながら聴いてただけなんですよ(笑)。で、“録ってみる?”みたいなって……。まずはやっぱり“木村さんと同じように歌えるかな”と思って、歌ってみたんですけど、やっぱり木村さんには寄らない(笑)。自分が歌ってる「10$の恋」っていうのは、どういうものなのかなっていうのはわからないですよね(笑)。

内田 いろんな人が歌ってくれたけど、ここだけの話、奇妙さんがトップだったね。

奇妙 そうですか……これは無料ですか(笑)?

え、勘太郎さんの褒め言葉、有料ですか(笑)!?

ギターはおもしろいので、
一緒に楽しみましょう。(奇妙)

奇妙が手にしているのが1919年製マーティン0-28で、内田が手にしているのが1947年製000-21。

レコーディングで使ったギターは何ですか?

内田 僕はChakiとマーチンの000-21をメインで使いましたね。1919年製のマーチンも少し使ったかもしれない。あと、高知の作家さんが手がけたフラメンコ・ギターも使ったな。もう亡くなってしまったんですけど、秋山実さんっていう美空ひばりバンドの最後のギタリストだった人がいて。その秋山さんのご遺族からお借りしているギターのうちの1本で、フラメンコ・ギターにしてはすごく柔らかくて好きな音がするんです。

奇妙 僕は1本で、マーチンの00-18っていうやつですね。一昨年くらいにクロサワ楽器店さんからお借りして。

奇妙さんは最近マカフェリを入手したみたいですね?

奇妙 買いましたね。あれでしか出ない音がやっぱりあるんで。趣味ですね(笑)。

今後、奇妙さんと勘太郎さんのライブでマカフェリは……さすがにないですかね(笑)?

奇妙 もしかしたら……あるかもしれないですね(笑)。

内田 僕のマーチンはけっこう古いやつだから“飛行機に乗せるのがアレだな”と思ってライブでは弾けず。だからレコーディングとかで使ってるんですけど、“リモートでライブがもしできるんだったら、いろんなギターが使えるという楽しみはあるな”と思ってますね。

奇妙 それはいいですね。今のご時世ならでは。勘太郎さんが使ってたマーチンは、勘太郎さんが買うまでみんな見てて“欲しいな”って言ってたんですよ(笑)。ある日突然なくなってて、“誰が買ったんかな?”みたいになってて、そしたら勘太郎さんが買ってたんですよね(笑)。有山じゅんじさんが言ってましたね。

大阪のコミュニティーが(笑)。勘太郎さんのギター、奇妙さんは弾いてみました?

奇妙 はい、お家にお邪魔した時にいろいろ弾かせていただきましたね。全部ビンテージ・ギターでどれもいいんですけど……ギブソンのSuper400があったんですよ。知り合いで持ってる人は勘太郎さんだけで(笑)。あれは超カッコ良いですね。

内田 これも、秋山実さんのご遺族から預かってるものなんですよ。本人がギブソン社に行って注文したらしいよ。ただね、ものすごく重いのよ。

(笑)。さて、昨今の新型コロナウィルスの騒動で、アコギがすごく売れているらしいんですよ。そういうアコギを始めた人も、このアルバムは聴くべき1枚だと思っていて。最後に、そんなアコギ奏者たちに、メッセージを。

内田 このアルバムは絶対に聴かないとダメでしょ。3枚くらい買って、親戚にも配って(笑)。

奇妙 ギターはおもしろいので、一緒に楽しみましょう(笑)。

内田 ずっと一緒にやっている鈴木智雄さんっていうベテランのエンジニアさんに録ってもらって、生音でふたりでやるアコースティック・ギターがすごく良い音で録れているので、ぜひ聴いて下さい!

最新作

『アイコトバハ』 奇妙礼太郎と内田勘太郎

極東楽音/KTRO-0003/2020年8月26日リリース

内田勘太郎

うちだ・かんたろう◎1954年、大阪府生まれ。1975年に憂歌団のギタリストとしてデビュー。カルピスの瓶で作ったボトルネックからくり出される切れ味鋭いスライド・プレイが絶品の、日本が誇るブルース・ギタリストだ。ソロ活動のほか、奇妙礼太郎や甲本ヒロトとのブギ連など、さまざまなアーティストとコラボしている。

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>公式ブログ「丘の上勘ちゃん食堂」

奇妙礼太郎

きみょう・れいたろう◎1976年生まれ、大阪府出身。1998年頃からプロとして活動を始め、2005年にボーカルを務めるアニメーションズで1stアルバムをリリース。その後、2008年に“奇妙礼太郎トラベルスイング楽団”、2013年に天才バンドを結成する。現在はソロ活動を中心に、ライブなどでさまざまなアーティストとコラボしている。最新作は2018年リリースの『More Music』。

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