Interview|青木ロビン(downy) “ギタリスト”としての覚悟 Interview|青木ロビン(downy) “ギタリスト”としての覚悟

Interview|青木ロビン(downy) 
“ギタリスト”としての覚悟

2018年に青木裕が亡くなってから2年が経った。それでもdownyは歩みを止めず、3月には新たな作品『第七作品集「無題」』をリリース。青木裕が生前に残したギター・サウンドも生かしつつ、今年正式メンバーになったSUNNOVAによるシンセも加わり新たな空気も纏わせた1枚で、青木ロビンのギター・プレイも含め“進化”を遂げている。今回は2020年11月1日に行なわれる有観客配信ライブ“雨曝しの月”のリハーサルで東京に来ていた青木ロビンに、最新作にまつわるエピソードや近況、そしてライブへの意気込みについて話を聞いてみた。

取材/人物撮影=尾藤雅哉 機材写真=本人提供

裕さんがいないから
ギターは俺が弾くしかなくて

まずは改めて、青木裕さんが亡くなられてから、『第七作品集「無題」』が完成するまでの経緯を聞かせてもらえますか?

 2018年の3月19日に亡くなってしまったんですが、それまで本人も“絶対に治すから”って言っていて。僕らも“前向きに考えよう”としか思うことができなかったので、体調を崩して動けなくなったりする前にアルバムを作ろうっていうムードだったんです。それで曲を作って、“ライブで「砂上、燃ユ。残像」を演奏しよう”と話している途中、急に再入院となってしまい……。そこで一度止まってしまったんですけど、みんなで膝を突き合わせて話をして、“よし、やっぱりやろう。残してくれたギターの音もあるし、完パケろう”という目標で作っていったんです。今年、三回忌の命日までには完成させようって話をしていましたね。

その間のトピックとしては、ずっとサポートで入っていたSUNNOVA(sampler,synth)さんが今年の初めに正式メンバーになりましたね。これはどういう経緯だったんですか?

 まず、SUNNOVAくん以外のメンバーで決めたのが、“ギタリストを入れるのはやめよう”っていうことなんですよ。永久欠番じゃないですけど、やっぱり裕さんがいるので。で、SUNNOVAくんはずっとサポートで入ってくれていたし、学生の頃からdownyを聴いてくれていたから、楽曲の理解度が高いんです。あとはやっぱり、裕さんの音を大切に使ってくれていたんで、“一緒にやろうぜ”と。ただ、これは制作しながらでしか一緒にやれるかはわからない。SUNNOVAくんもいきなりギターの役割をやらされるわけですし、彼の意思もあるので、作りながら決めていこうということになったんです。で、やってみたらすごく良くて。

SUNNOVAさんの加入で変化はありましたか?

 もともと僕はフレーズを作る時に、“シンセで作ったものをギターに起こす”っていう作業だったんです。だから、SUNNOVAくんが弾くことで、僕としては頭の中のイメージにどんどん近くなっていくっていう感じがあって。逆に今までは裕さんがそれをギターに置き換えて“ヤバイ音”になって、“ギターでこれやるんだ!”っていう驚きもあったんですけどね。

それで裕さん独特のフレーズが生まれていたんですね。

 僕は周波数で“ここにギターが欲しい”って足し引きするような曲の作り方なんですが、そこはあまり変わらずにできたと思います。で、SUNNOVAくんもトラックメイカーだから、僕よりもパソコンで作業できる人間で。彼から“こういうほうが分離が良いんじゃない?”みたいなアイディアをもらったりもしましたね。

今作の制作にあたり何かコンセプトはありましたか?

 “SUNNOVAくんが入ったらこうなるだろうな”っていう雰囲気は裏切りたいと思っていましたね。あとは、古き良きプログレのような形をとりたいなっていうのがあって。それは展開だったりバランスという部分なんですけど。で、そこに新しい楽器がいる、というイメージがありました。サウンドはバンドなのに、テクノでもヒップホップでもない新しいものを作りたいというか。

今回、作曲の時に手に取る楽器は何が多かったですか?

 今回はアコギが多かったかな? 裕さんがいないからギターは俺が弾くしかなくて、“もっとギターががんばらないと”って思いながら練習をしていたんですよね。その流れで作っていたから、たぶんギターが多かったと思います。

全員主役、全員リフ、
でもまとまると、ひとつの楽曲になる。

今作は「stand alone」で聴けるシングルコイルの暴力的なリフみたいに生々しいものもあれば、「角砂糖」のようにアタックが消えたエレクトロっぽい音もあり、とギターのアプローチも幅広いですよね。

 「角砂糖」と「砂上、燃ユ。残像」は裕さんのギターなんですよ。で、僕がサイドチェイン(注:別楽器の入力に応じてエフェクトを施す処理)を使った曲作りがしたくて、ギターができないかなって裕さんと話し合っていたんです。「角砂糖」のアタマが消えているのは、サイドチェインでキックに合わせると消える感じで。それをちゃんとライブで表現できる方法がないかなって思って、ペダルで再現しています。

アタックがないギターの音をビートに乗っけてバンド・サウンドとして聴かせるって、相当シビアに足下を操作しないといけないですよね?

 そうですね。でも、今日リハーサルでやってきましたけど、バッチリでしたよ(笑)。

さすが(笑)。ギターが楽曲の芯になる部分を担っていたり、匂いづけのような時もあったり、役割が曲によってガラッと変わりますが、各パートの役割はどういう風に考えているんですか?

 “全員が主役”っていう感じですね。で、歌も合わせて5つのパートが鳴っている時が、実はピークではないっていう。抜いた時がサビだったり、既存のロック・バンドの作り方ではないっていうのはずっとテーマにしていて。全員主役、全員リフ、でもまとまるとひとつの楽曲になる。どこから見ても変わらない、“球体”のような音作りというか。

逆に全員主役であるからこそ、“歌がメインじゃない”というとらえ方もできますよね。曲が始まって2分以上歌が出てこなかったりするじゃないですか。

 downyではザラですね(笑)。今日リハで「stand alone」をやっていたら、“あれ、こんなにイントロ短かったっけ?”ってなりましたから。“イントロ短えな”って思っちゃったりとか、けっこうありますよ(笑)。

「コントラポスト」の後半に登場する電子音っぽいシーケンス・フレーズはギターですか?

 あれは最初にライブでやったんですけど、その時はギターで弾いていたんですよ。それをアルバムではシンセにしましたね。そっちのほうが淡々としてこの曲には合うかなと。あと、この曲は1曲目にしようって決めていたので、アルバムに“ギターないんだ!”みたいな空気も欲しかったんですよ。

ちょっとスケールアウトしたような部分もありますよね?

 あれはカオスパッドを使ってグリッチで遊んで。

裕さんやロビンさんだったら、あの感じもギターで弾いたりするかもって思って、シンセかどうかわかんなかったんですよ(笑)。

 (笑)。ライブではワーミーでやっていましたね。

「砂上、燃ユ。残像」の24フレット以上の音域までいったフレーズがありますが、あれは?

 あれはギターですね。「砂上、燃ユ。残像」は基本的に全部ギターです。よく裕さんとやる方法なんですけど、僕がグリッチでバーって作ったシンセの音を裕さんに渡して“これをギターでやって下さい”って。本人に渡すと、体調が悪いはずなのに見事に作ってくる。俺らも“すげぇ~~!!!”ってなって、全然イメージを超えてくるんです。

その無茶ぶりを超えてくる裕さんは本当にすごい……。「視界不良」は一番ギターっぽいレイヤーの積み方で、音色でコントラストをつけている感じがあります。裏で鳴っている歪みの質感が変わることで、音圧自体が変化していくような。

 そうですね。それはSUNNOVA効果というか、演奏しながら音を手でいじることができるのが大きいですよね。単純にフィルターひとつで音階が変わったような効果が得られるので、それを活かしたいと思ってました。で、上モノはエレクトリックなアイディアなんだけど、ドラム・ベース・ギターは感覚としてはハードコアな姿勢でやっているっていう曲にしたかったんです。あのノイズ音はシンセで、SUNNOVAくんがいろいろと彩りをつけてくれていますね。

配信ライブとなると
多面的に考えなくてはいけない

今作は、裕さんがいなくなってしまったことで、“ギタリストとしての青木ロビン”が一番色濃く出ている作品になりました。でも、“再現”ではなく、これまでのdownyを超えていく姿勢が明確にある印象があって。

 そうですね。超えなきゃいけないですしね。裕さんも冗談で、“もし自分に何かあっても……ダサい曲作んないでね”みたいなことを言っていて、“絶対超えようね”っていうのはみんな思っていたところで。

ギタリストとして自分の中に変化はありましたか?

 僕は今までだと歌いながら弾くことを前提にしていたので、そんなに難しいことはやっていなかったんですよ。難しいことは裕さんやマッチョ(仲俣和宏/b)がやるっていう方向に持っていってたから。でも今回はやるしかなくて……。レコーディングだと曲ごとにチューニングをけっこう変えているんですけど、今まではライブで毎回変えるのは面倒だから“まぁこうやれば届くし、いいや”って乗り切っていたんです。でも、今回はポジションもめちゃくちゃ移動するから、さすがに無理で。例えば「視界不良」は4カポでC♯メジャー・チューニングにするんですけど、「ゼラニウム」はそこからまた変わるし……テックを入れるしかないかなって思って。一応ポリシーとして、テックは入れたくなかったんですよね。

今まで入れていなかったんですか?

 自分はね。ボーカル・ギターが仰々しく何回も変えるっていうのは……そういうバンドもあるし、それ自体がよくないって思っているわけじゃないんですけど。自分はもっと飄々としているというか、“俺はコンポーザーであって、ギタリストではないからね?”っていう感じのたたずまいでいたかったんです。でも今回は無理だなって。やっぱり裕さんのストラトも弾いてあげたいし、アコギの曲はもちろんアコギでやるしかない。だからギターを何回も変えなくちゃいけなくて……海外でのライブ、どうすれば良いんだろうって思いますよね。

(笑)。“ギタリストではないから”はもう難しいですよね。

 「砂上、燃ユ。残像」は弾きながら歌えるのはこの世に俺しかいないんじゃないかって思うくらい、難しいんですよ? 変拍子だし変小節だし……よく歌ってんなって思いますよ(笑)。

11月1日には配信ライブ『雨曝しの月』が控えています。SUNNOVAさんが加入したバージョンで以前の楽曲もリアレンジしていると思うんですが、改めて感じたことはありましたか?

 裕さんがライブ用に残してくれた音源もあるので使ってはいきたいんですけど、せっかくSUNNOVAくんもいろんなものをブラッシュアップしてくれているので、11月1日は古い曲も音を作り直してリニューアルしようかなって思ってるんです。で、配信をするので“ここのブレイクは超重要”、“ここはドラムが目立つので撮って下さいね”みたいのを、1曲ずつカメラマンさんなどに伝える必要があって。今回は改めてそこを考える機会になって、“あ、この部分を自分はすごく大事にしていたんだな”とか“本当に見せたいのはここなんだな”って再発見しましたね。20年くらい前に作った曲も“この音好きなんだよな~、もうちょっと再現してみるかな”とか、もっと曲が愛おしくなったというか。

観客を入れたライブも久々ですよね?

 そうですね。もともと僕はライブってそんなに好きじゃないんですよ。でも、さすがに15ヵ月もやっていないと、“やりたい!”っていう気持ちが強くなってきて。休んでいるとアイディアもどんどん出てくるし、古い曲もリフレッシュした状態でできそうだなっていう手応えがありますね。

ちなみに配信ライブは初ですよね?

 初めての試みで、いろいろサポートをしてもらっています。ライブってお客さんと演者の相互にしか方向性がなかったのが、配信となると多面的に考えなくてはいけないので、原点に立ち返っているような気がしているんですよ。“今までこの配置だったけど本当にこのままで良いのか”とか、“映像も2枚にしてみる? 床にも映してみようか”みたいに、今まで“これで良いや”ってなっていた部分が“これじゃよくないかもしれない”って考え直すチャンスなんじゃないかなと。やるからには前向きにアイディアを出していくし。

こういう状況があったことでそういう話し合いもあったり、メンバー間のつながりも強くなったりしましたか?

 そうですね。この状況下でフラストレーションも溜まりますし、口論じゃないですけど、向かい方をどうするのかみたいな。こっちは“じゃあ東京に行って話そうか?”ともなるけど、“せっかく沖縄にいるんだから、今は東京に来ないほうが良いよ”って、ちょっとずつのズレというか。そこを最後は音楽でやろうぜってなっていって、結局音の話をしていくとどんどんそっちにフォーカスしていくのは、“ちゃんとバンドしてるな”って感じますよね。チームとしてはけっこう一枚岩になってますね。これからの自分たちの表現がもっとグレードアップするんじゃないか楽しみです。

AOKI ROBIN’s GEAR

GUITARS

1962 Fender Jazzmaster
【1962フェンダー・ジャズマスター】レコーディングのメインとして活躍した愛器=62年製ジャズマスター。一時期はプリセット・スイッチに誤作動防止用のテープが貼られていたが、現在は剥がされている。

1960 Fender Stratocaster
【1960フェンダー・ストラトキャスター】青木裕のストラトキャスターは、青木ロビンの手に渡っている。1960年製をベースにほかの個体のパーツと組み合わせて作り上げた1本だそう。

Gibson B-15
【ギブソンB-15】アコースティック・ギターのパートのほとんどで聴けるのが、このギブソンB-15のサウンド。67年〜70年という短い期間のみ生産された、ギブソンのスチューデント・モデルだ。

Gibson Hummingbird
【ギブソン・ハミングバード】弾き語りでたびたびお目見えするギブソン・ハミングバード。本作では1曲使ったか、くらいで登場場面はほとんどなかったそう。

PEDALS & AMPS

ライブ用に組み上げた青木ロビンのペダルボード。接続順はギターから①に入りその後は番号順に直列。“OD-880(②)をプリアンプみたいな感じで、そこで逆に音痩せさせる感じ。で、裕さんのNaked Machine(④)が基本”とのこと。ペダルリストは→へ。

PEDAL LIST

①TC electronic/polytune(チューナー)
②Maxon/OD-880(オーバードライブ)
③EarthQuaker Devices/Tone Job(イコライザー/ブースター)
④CAMURO/Naked Machine(プリアンプ/ブースター)
⑤L.R. Baggs/Align Series Session(アコースティック・シミュレーター/イコライザー)
⑥EBS/MultiComp(コンプレッサー)
⑦Eventide/Pitch Factor(ハーモナイザー/ピッチ・シフター)
⑧Electro-Harmonix/Deluxe Memory Man(ディレイ)
⑨ELECTROGRAVE/RIPPER FUZZ RF-1(ファズ)
⑩TC electronic/Flashback(ディレイ)
⑪TC electronic/Flashback Mini(ディレイ)
⑫BOSS/RV-3(リバーブ/ディレイ)
⑬EarthQuaker Devices/Transmisser(リバーブ)
⑭EarthQuaker Devices/Sunn O))) Life Pedal(オクターブ・ディストーション/ブースター)
⑮TC electronic/Ditto X2 Looper(ルーパー)

Egnater Dual Tone 100 Combo
【イグネーター・デュアル・トーン100コンボ】2015年頃に知人から譲り受けたイグネーターのデュアル・トーン100コンボ。10インチ4発のコンボ・アンプで、2チャンネル仕様のレアな逸品だ。自宅でのレコーディングでは本機を使用し、東京でレコーディングする際はフェンダーのVibro Kingを使ったそう。

最新作

第七作品集『無題』 downy

rhenium records/RHEN-0001/2020年3月18日リリース

―Track List―

01.コントラポスト
02.視界不良
03.36.2°
04.goodnews
05.角砂糖
06.ゼラニウム
07.砂上、燃ユ。残像
08.pianoid
09.鮮やぐ視点
10.adaptation
11.stand alone

―Guitarists―

青木ロビン

Live Infomation

ワンマン・ライブ 『雨曝しの月』

生配信日程:11月1日(日)19:30〜
※11月2日(月)23:59までアーカイブ視聴可能

ライブ映像作品 『雨曝しの月を見ている』

プレミアム配信期間:11月29日(日) 18:00〜12月1日(火)23:59予定

ともにPIA LIVE STREAMにて配信予定


【チケット情報】

  1. 11/1生配信視聴チケット ¥2,000(税込)
  2. 11/29映像作品プレミアム配信チケット+MIX配信音源データ ¥3,000(税込)
  3. 11/1生配信視聴チケット+11/29映像作品プレミアム配信チケット+MIX配信音源データ ¥4,000(税込)

ちけっとぴあ(https://w.pia.jp/t/downy/)にて10月5日(月)20時から販売開始

downy 公式HP>