Interview|亀本寛貴(GLIM SPANKY)ギター・ソロの魅力を再確認させる『Walking On Fire』 Interview|亀本寛貴(GLIM SPANKY)ギター・ソロの魅力を再確認させる『Walking On Fire』

Interview|亀本寛貴(GLIM SPANKY)
ギター・ソロの魅力を再確認させる『Walking On Fire』

GLIM SPANKYの2年ぶりの最新アルバム『Walking On Fire』は、ギタリスト亀本寛貴も“明らかに今までとは違った感覚で制作に臨んだ”と語る、彼らのネクスト・ステップを刻んだ1枚に仕上がった。現代的なビートもふんだんに盛り込んだトラックにより、パッとスポットライトが当たったように亀本のギター・プレイが浮かび上がる。しかも、このサウンドの質感でギター・ソロがほぼ全曲に入っている、というのもギタマガ的には万歳!! ということで今回は、作中のソロ・プレイを軸に、彼が“ギター・ソロ”という役割をどう考えているのか聞いてみた。

取材=福崎敬太 写真=HAJIME KAMIIISAKA


ギター・ソロは退屈になる要素じゃない。

今回は最新作『Walking On Fire』の話を軸に、ギター・ソロについて詳しく聞きたいんです。ほぼ全曲にソロが入っている、しかも現代的なビートに合わせたこういう作品ってすごく新しい気がしていて。大袈裟かもしれませんが、現代のギター・ソロの在り方を提示しているようにも思いました。

 ありがとうございます(笑)。僕は海外のインディー・シーンに疎くて、わりとメジャーな音楽を聴いていることが多いんです。で、そういうのを聴いていると、“ギターは鳴ってるけどな~”って感じるんですよ。例えば、2019年のグラミー授賞式でデュア・リパが「One Kiss」をセイント・ヴィンセントとコラボレーションで演奏していて。4つ打ちのダンスチューンなんですけど、セイント・ヴィンセントがファズでギター・ソロを弾くんです。ほかにも、去年に出たポスト・マローンの最新アルバム(『ハリウッズ・ブリーディング』)でオジー・オズボーンとトラヴィス・スコットとコラボしてる曲(「テイク・ホワット・ユー・ウォント」)があるんですけど、そのアウトロ1分くらいは“ランディ・ローズ登場!(編注:ギターはアンドリュー・ワット)”みたいな(笑)。僕の中では、世界の先を行ってる人たちは、ギターがどうとか関係なく“これ、カッコ良いよね”っていうものをどんどんミックスして新しいポップスを作っているんですよ。

ギター・ソロもひとつの要素として、カッコ良くミックスすれば良いんですよね。

 ギター・ミュージックが“退屈だ”、“今じゃない”と思われるのは、単にその音楽が当時のテンプレートの音をバーって鳴らしているだけだからで。“ギター・ソロは退屈になる要素じゃない”っていうのは、自分の中では当たり前なことなんですよ。ちゃんとメロディがあって、音色にも必然性とか華やかさがある。それが、エモーショナルな人間の感情が剥き出しになっている表現であれば、ポップスの中でも退屈にならないんです。逆に言うと、そういう演奏をしなきゃいけないというか。

なるほど。今作の1曲目の「Intro: Walking On Fire」からギタリストはブチあがるんじゃないかと。言ってみれば全編ギター・ソロですよね。

 今回のアルバムで大きかったところが、松尾(レミ/vo,g)さんが、ほぼギターを弾いてないことで。“ライブ・アレンジはまた別で考えればいいや”っていう感覚でギターのアンサンブルを考えていくようにしたんです。ボーカル・ギターの人が固定で、絶対にその人がいる、弾かなきゃいけないってなると、どうしてもパワー・コードやローコードでジャカジャカするパートが出てきて、“それを絶対に入れなきゃいけないって……ちょっと難しいんですけど”みたいな(笑)。

(笑)。

 アンサンブルとして隙間がなくなるし、リズムがのっぺりしがちなんですよね。ほかのミュージシャンがやっているのは全然いいんですけど、無意識になんとなく自分が入れているっていうのは“ちょっと嫌だな”と思っていて。

その違和感って、音楽を始めた当初からあったんですか?

 最初の頃からありました。そもそも最初、僕が音楽を好きになったきっかけがGLAYだったんですよ。GLAYは伴奏でもツイン・ギターなので、カッティングがザ・ローリング・ストーンズみたいに分かれているわけで。いわゆるボーカル・ギター・スタイルのギター・ロックはあまり通ってこなかったので、それが普通だったんです。そういう風に考えて作っていくと、自分ひとりでも2本のギターを入れられるので、よりアンサンブルも考えられるんですよね。

東京ディズニー・シーの街並みのようなイメージなんですよね。

「東京は燃えてる」は、ワウのソロはもちろん、スライドのオブリも聴きどころですね。

 自分の演奏の中でもスライドが好きで、スライドを入れると自分っぽさが出ると思っているんですよ。そういうところから僕たちの音楽性が見えるというか。やっぱりスライドって、ブルースやサザンロックだったり、そういうものをイメージしやすいじゃないですか。だからスライドは“GLIM SPANKY印”を付けやすいプレイだと思っていて、こういう今までと少し違う雰囲気の楽曲には “より必要だな”と思うんですよね。ワウのソロも同じ理由で、今までと違うからこそ、“ES-345をTONE BENDERとワウにつないでマーシャルに1959で弾ける”っていうところがありましたね。

「こんな夜更けは」のソロはジャジィなアプローチで、「By Myself Again」はスティール・リックで締めたりしています。こういったオールドスクールな要素とはどう向き合っているんですか?

 「By Myself Again」のようなカントリー・テイストに関しては、もともと松尾さんのソングライティングにフォークやカントリーの色が強いっていうのもあるので、少しずつ取り入れていて。で、60年代後半のクリームやレッド・ツェッペリンとか、エアロスミスやガンズ・アンド・ローゼズのような80年代のギター・サウンドって、“ロック・ギターはそれだけでよくない?”っていうくらいカッコ良いんですよ。だから逆に“そこは避けよう”っていう考えも時にはあるんですよね。ジャジィなアプローチにしても、例えば「こんな夜更けは」だったら、今のギタリストならストラトとTwin Reverbっていう感じになると思うんです。

ストレートにやろうとしてもフルアコのクリーンとかですよね。

 だからそこを避けて。40~50年代くらいの“アンプのボリュームを上げたら歪んじゃった”っていうような音なら、“うわ、ギター出てきたよ”っていう重さもないし、いい意味でのレトロ感も出せる。デフォルメされたレトロ感というか……個人的には、東京ディズニー・シーの街並みのようなイメージで。入口から左側に入っていくとヴェネチアのような景色があったり、その横に行くとゴールドラッシュ時代のアメリカがあったり(笑)。“デフォルメされた旧時代”。そういうレトロな音と今のポップスのリズムやサウンドが絡んでいるほうが、モダンに聴こえると思うんですよ。いわゆるロック以前のルーツ・ミュージックが僕の中で逆にオシャレな感じがあって。

なるほど……確かに音は40年代みたいな、ピッキングがすごく強い時代の歪みの感覚はわかります。

 そうです、それがすごくオシャレだなと。これがジョージ・ベンソンだったりマテウス・アサトのような音色で弾いてしまうと、“このトラックにそれはベタ”だと思っちゃって。まぁ、ああいう風にも弾けないですし。じゃあ“自分のルーツ感が出せるものは何だろう?”って考えていった結果、そういうところに行き着いたんですよね。

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