Interview|弓木英梨乃“イマの世代”にも響くエディの音 Interview|弓木英梨乃“イマの世代”にも響くエディの音

Interview|弓木英梨乃
“イマの世代”にも響くエディの音

エディ・ヴァン・ヘイレンの音は世代を飛び越えて響き続けている。そして、イマの音楽にも影響を与えているのだ。それを体現しているのが弓木英梨乃、平成生まれの実力派ギタリスト。彼女のプレイやサウンドの方向性には、知らず知らずのうちにエディの影響があるという。ハードロック・ギタリストではなく、またリアルタイム世代でもない彼女が、どのようにエディに惹かれていったのかを探っていこう。

取材/文=近藤正義 写真=廣田達也


テクニカルなのにポップでキャッチーなことに衝撃を受けました。

初めて聴いたヴァン・ヘイレンの作品は何でしたか?

 1stアルバム(『炎の導火線』/1978年)ですね。私は父の影響もあって中学生でビートルズを聴いてギターを始めたんですが、その時にもっといろんなギタリストを聴かなくちゃ、と思って音楽雑誌でチェックしたギタリストの名前が入ったCDを片っ端からレンタルして聴き漁っていたんです。そこで“ヴァン・ヘイレン”という名前も出てきて、タッピングで有名な人だと知りました。そうしたら、家で父が持っていたヴァン・ヘイレンの1stアルバムを発見して、そこで聴いたのが最初だと思います。ちなみに、それ以来そのCDは私のモノになっています(笑)。

その当時のことは覚えていますか?

 当時の私は、渋いところならスティーヴィー・レイ・ヴォーンのようなブルース・ロック、そうでなければスティーヴ・ヴァイやエリック・ジョンソンみたいなテクニカルなギターが好きで、ディープ・パープルやガンズ・アンドローゼズみたいないわゆる70年代タイプのハードロックはあまり好きではなかったんです。でも、ヴァン・ヘイレンもハードロックのジャンルだと思って聴いたんですが、これにはハマちゃったんですよ。

なぜハマったのでしょう?

 テクニカルなのにポップでキャッチーなことに衝撃を受けたんだと思います。明るいイメージで、ハードロックのアルバムというよりポップ・アルバムに近い気分で聴けたからかもしれません。その頃、私は真剣にギター・ヒーローになりたかったので、“これがわたしの目指す姿だ!”と思いました。まだ細かく分析し始める前ですから、その存在に影響を受けた、という感じでしたね。

気がつくと、わたしもあの音色を目指して音作りしています。

実際にコピーはしましたか?

 すごく聴いてはいましたが、正確なコピーはそんなにしていません。タッピングも目立ちたくてやっていただけで、我流でしたから。でも、あとから映像でしっかりと見てみると、タッピングにもいろんなバリエーションがあることに気がつきました。分散和音みたいなパターンもあれば、もっとトリッキーなアプローチもしています。タッピングに関してわたしはマニアックではありませんが、アイディアをたくさんもらったように思います。タッピングは手が小さくてもハンデにはなりませんからね。

エディのプレイから影響を受けた点はありますか?

 エディのハミングバード・ピッキングや右腕の動きに関してはかなり研究しました。右腕の振り方が、ストローク、カッティング、オブリ、ソロなど、ギターを弾くすべての場面に通じるスムースな良い動きなんです。だからあの脱力させるタイミングや加減、手首の回転の仕方などをぜひとも習得したいと思って、いろんな映像を何度も観ていましたね。今でも、あのエディのピッキングを意識しながら弾いています。

サウンド・メイクについてはいかがですか?

 あの音色には影響されましたね。ある程度歪んでいるのに耳に痛くないきれいな音だと思います。私自身にとっても、一番弾きやすい音なのかもしれません。知らず知らずのうちに影響されて、わたしもあの音色を目指して音作りしていることに気がつきました。

あのステージングや弾き姿からは何か影響を受けましたか?

 やっぱり笑顔で弾くことにも影響されましたね。ステージングにおける“笑顔の師匠”が私には2人いて、ひとりはアナム&マキのアナムさん。どんな悲しい歌を歌う時も笑顔なんです。そしてもう1人がエディ・ヴァン・ヘイレン。難しいフレーズを笑顔で弾いているのを見て驚きました。だから、エディみたいになりたいと思って、私も鏡の前に立って弾きながら、意識して笑顔を作る練習をしていました(笑)。笑顔を作る余裕を持てるって、相当練習しないとできることではないんですよ! なんとかしてあの域に達したいものです。

勝負の日の朝は「パナマ」を聴いて出かけます。

弓木さんがヴァン・ヘイレンで一番好きなアルバムは?

 やっぱり一番よく聴いた1stアルバムです。曲は「イラプション」と「ユー・リアリー・ガット・ミー」で、この2曲はセットで続けて聴くものだと思っています。で、アルバムをもう1枚あげるなら『1984』。勝負の日の朝は「パナマ」を聴いて出かけるようにしているんですよ(笑)。

そうなんですね(笑)。では、好きな曲を1曲だけ選ぶとしたら「パナマ」ですか?

 そうなるとまた変わってきて(笑)、「キャント・ストップ・ラヴィング・ユー」。純粋に曲として好きなんです。初めて聴いた時も、ずいぶん昔から聴いていたような錯覚にとらわれてしまいました。

エディの演奏で、“最も好きな一瞬”を教えて下さい。

 「イラプション」のハミングバード・ピッキングのところです。右腕の動きは、わたしがギターを練習するときにこだわってきた箇所なので、その原点としてのエディによる一番思い入れのあるフレージングです。でも……迷うなぁ(笑)。

もう1曲、あげてもいいですよ(笑)。

 やった! ちょっと変わったこと言いますけど、いいですか(笑)?。「キャント・ストップ・ラヴィング・ユー」の歌が1コーラス終わったところで一瞬入る、アコースティック・ギターのような音色のフレーズです。この一瞬が、この曲の印象をさらにポップでキャッチーなモノにしていると思います。自分で曲を作る時にも、こういうフレーズを入れたりするんですよ。

知らないうちに影響を受けて、いつの間にか自分の意識の中に染みついている。

エディ・ヴァン・ヘイレンのギター・プレイは、弓木さんにとってどのような存在ですか?

 わたしの音楽からの影響の受け方には2パターンあって、ひとつは中学生の時に聴いたビートルズのように難しいことを考えなくても身体が反応して好きになるパターン。もうひとつは、もっとギターを弾けるようになってから聴いた音楽の場合によくあるのですが、頭で分析して好きになるパターン。ヴァン・ヘイレンは前者で、知らないうちに影響を受けて、いつの間にか自分の意識の中に染みついています。

弓木さんのようなエディに影響を受けたアーティストを経由して、これからもヴァン・ヘイレンは新しい世代へと引き継がれていくと思います。そんな次世代のギタリストたちに向けて、エディの魅力を改めて教えてくれますか?

 ヴァン・ヘイレンは商業的にも大成功して幅広く大衆に受け入れられて、音楽ビジネスが巨大だった時代に活躍しました。ぜひ、ライヴ・ビデオなどでエディが満員のスタジアムのステージで輝いていた姿を、その存在感を見て体験して下さい。私はギター・ヒーローという存在に憧れた人なので、そんなエディの姿を見て震えてしまいます。“ギタリストはこんなにカッコ良いんだぞ!”、“ギターでこんなに私たちの心を酔わせてくれるんだ!”、そういうところを感じ取ってほしいです。そのうえで掘り進んでそれぞれの曲を聴いてもらえたら、今の時代にも受け入れられるポップでキャッチーなロックであることがわかってもらえると思います。

最後に、エディに伝えたいことはありますか?

 エディの演奏は、派手でうますぎて真似できなくて……それなのに本人は笑顔で軽く弾いている。それがメチャメチャ、カッコ良い。そして、テクニカルなのにポップで、みんなに受け入れられている。そんなエディのギターが大好きな私は……うん、今日決めました。私もそんなギター・ミュージックを作ります!

弓木英梨乃が最も好きなエディの“一瞬”

弓木が好きなエディの一瞬は「キャント・ストップ・ラヴィン・ユー」のサビが終わったあと。盛り上がったサビから2番Aメロにつなげる5度から1度への見事な解決フレーズで、続く小節アタマのコードはA。

COLUMN:ヴァン・ヘイレンの全盛期を知らない、あと追いの世代

 弓木英梨乃は2009年にシンガーソングライターとしてメジャー・デビュー。ギタリストとしての腕を買われ、2012年よりライブ・サポートやスタジオ・ミュージシャンとしての活動を本格化させる。そして、2013年からは6人編成となった新生KIRINJIの正式メンバーとして活躍。また、2019年からはソロ・プロジェクトとして“弓木トイ”を始動させた。さまざまなシンガーへの楽曲提供やアレンジも行ない、近年では秦基博、土岐麻子、柴咲コウ、吉澤嘉代子などのライブにもギタリストとして参加している。

 彼女のギター・プレイには、なぜか1970年代や80年代というロック・ミュージック全盛時代のテイストが感じられる。その要因は彼女が父親から受けた影響にある。中学生でビートルズに興味を持ち、ビートルズ・カバー・バンドの出演するクラブに連れて行ってくれたのは父親であり、ギターの練習を始めたいと言い出した時に自分のコレクションの中からギターを1本与えてくれたのも父親。そして、ヴァン・ヘイレンのCDも父親から拝借したモノだという。

 1990年生まれの彼女はヴァン・ヘイレンの全盛期をリアルタイムでは体験していない。そんな彼女がいかにしてヴァン・ヘイレンのファンになったのか? その行程は、そのままそっくりこれからの若者にも当てはまるような気がする。つまり、彼女はヴァン・ヘイレンのファンとはいえ全盛期を知らない、あと追いの世代なのである。

 おそらく彼女は同世代の中では古い音楽をたくさん聴いてきたはず。ちょっとルーツ・ロック的なテイストの彼女のギター・プレイは、彼女の世代にしては珍しい。だからこそ、1970年代や80年代を聴いて育った世代の感性にも訴えかけるモノがある。それは小手先のテクニックのことではなく、バッキングにおけるカッティングやオブリ、ソロにおけるフレージングなどの、演奏全般に現われているピッキングやフィンガリングのニュアンスにこそ潜んでいる。きっと彼女自身も意識することなく、知らず知らずのうちに身体に染み付いた弾き方なのだろう。

最新作

『みんなおもちゃになりたいのさ』 弓木トイ

ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス/YMCL-30005/2019年4月24日リリース

―Track List―

01.ハッピーバースデーをもう一度
02.キャベツのようなもの
03.2人だけのデート
04.CCSC
05.カァカァカァ
06.シュローダーのセレナーデ

―Guitarists―

弓木英梨乃

『ギター・マガジン2021年1月号』
特集:追悼 エディ・ヴァン・ヘイレン

12月11日発売のギター・マガジン2021年1月号は、エディ・ヴァン・ヘイレンの追悼特集。全6偏の貴重な本人インタビューを掲載しています。