JUDY AND MARYでメガヒット曲を多く生み出し、お茶の間にロック・ギターを響かせたTAKUYAもまた、エディ・ヴァン・ヘイレンに魅入られたギタリストのひとりだった。エディの訃報が届いたすぐあと、献杯から始まった彼のYouTube配信からは、やり切れない思いと尊敬の念がひしひしと伝わってくる。改めて、不世出のギター・ヒーローについて、TAKUYAの視点から語ってもらおう。
取材/文=近藤正義
ギターとドラムのパートだけで、
曲の80%はできあがっている。
TAKUYAさんとヴァン・ヘイレンとの出会いは?
リアルタイムの体験は「ジャンプ」の時です。80sの曲を聴いている中で、その一環として耳に入ってきたのが出会いでした。まだギターを始める前の、中学生の頃です。あのキャッチーなシンセのイントロが世の中に響きまくったわけですから、エディはギターのみならずシンセ奏者としても時代の先駆者だったんでしょうね。
ギターを始めてから改めてヴァン・ヘイレンを聴いた時、どんな感想を持ちましたか?
僕がギターを始めた頃になると、ナイトレンジャーの8フィンガー奏法とか、もういろんな人がライトハンド奏法をやっていたんですよ。でも、その中でもやはりエディの演奏にはほかの人にはない独特の味がありましたね。で、いろいろと分析しながら聴いていると、バッキングをやっている時もリズムが物凄く良いんですよ。それから、拍の入り方が不規則だったりリズムのとり方が独特だったりするんですが、これはリフのギター・フレーズありきでアンサンブルを考えないとできない。たぶんドラムと呼吸で合わせているのでしょうね。もともとルールなんてなくて、あるのは兄のアレックスと培った阿吽の呼吸によるタイミングで。ギターとドラムのパートだけで、曲の80%はできあがっていますからね(笑)。
当時、エディのコピーはしましたか?
部分的なコピーはしましたけど、まるまる1曲のコピーはしていないんですよ。学生の頃にコピーしようとしても解読不可能な部分が多かったし、そもそもバンドでやりたくてもあんな風に歌えるボーカリストがいませんでしたから。正直なところ、プロになってからも、そしてこの年齢になってからも、エディのギターに手を出すことはためらってしまいます。
コピーして演奏してみたら、
笑ってしまうほど難しい。
ヴァン・ヘイレンのコンサートには行きましたか?
残念ながら、とうとう行けなかったんです。でも、ビデオではよく見ていました。MTVなら「オー・プリティ・ウーマン」のシャレの効いた演出のビデオ・クリップが印象的で、ステージングでは、笑顔で楽しそうに飛んだり跳ねたりしながら弾いているのが印象的でした。実際にコピーして演奏してみたら、フレーズを生み出す発想とか運指の難しさにもう笑うしかない。僕は、そんな理由で弾きながら笑顔になってしまいました。笑ってしまうほど難しい、ということです(笑)。
笑顔や弾き姿など、視覚的にも惹かれる部分が多いですよね。
衣装もおもしろかったですしね。スリムな革パンなんかが主流だった時代に、エディはぽわっとしたパンツを履いていたり、ランニング・シャツだったり、すべてがゆるくて自由。ギターに自分でペイントしたのが、そのままデザインになってしまったり。
TAKUYAさんが思う、サウンド的なエディの特徴は?
強いピッキングありきのサウンドですよね。ほかのヘヴィ・メタル系の人は弦に対してアグレッシブに弾くのではなくて舐めるように弾く人が多いので、エディのように立った音にはならないんです。エディの場合は強いピッキングで、弦に当てる角度も場合によって変えているんですよ。それから、後年にはピックを3本の指で持つようになっていて、それは僕も同じなんですよ。角度を変える時にやりやすいですし、2本指で持つより安定するんです。
ブラウン・サウンドと呼ばれる、なめらかなドライブ・サウンドの秘密はどこだと思いますか?
実は歪んでいると言うよりも、音量が大きいことがポイントなんです。ボリュームを上げれば、歪ませなくてもサステインは得られますからね。それが、ラウドなのにきれいなサウンドである秘密です。僕もそのようにしています。もうひと押し欲しい時には、さらにモニター・スピーカーの音量を上げればギターのピックアップが拾ってくれて、フィードバックも得られます。
小さな音で弾いていると、サステインが欲しいからどうしても必要以上に歪ませてしまいますよね。
エディのように自由に弾く人が現われたらいいのに……と思いますが、日本の、特に都市部における生活環境では難しいでしょうね。エディたちは子供の頃から、家の大きなガレージとかにドラムやギター・アンプを持ち込んで、爆音で遊んでたんですよ。たまにはちょっと感電したりしながらね(笑)。ヴァン・ヘイレンのサウンドを目指すなら、とにかくデカイ音量とそれを操ることのできるピッキングが重要なんです。
テクニックの散りばめ方、聴かせ方がうまい
好きなアルバムと曲を教えて下さい。
僕にとってのヴァン・ヘイレンの2大アルバムは『1984』と『5150』です。曲については、エディが亡くなった時にトップ5を考えたんですよ。5位が「パナマ」、4位「ホット・フォー・ティーチャー」、3位「ドリームス」、2位が「ジャンプ」、そして1位は「5150」です。
その中でも最も好きな“一瞬”は?
「ジャンプ」のギター・ソロで、最後のところです。このソロは短い中で起承転結が構築されていて、ドラマチックに仕上がっています。要するにテクニックの散りばめ方、聴かせ方がうまいんです。良い曲はギター・ソロも短くまとめられていて、「ドリームス」の最後のソロなんて、ソロ自体が短いのにさらにライトハンドは一瞬だけ。それでも「ありがとうございました!」と手を合わせてしまう(笑)。
一瞬たりとも惰性で弾いている箇所がない。
そこが凄いところ。
これからヴァン・ヘイレンを聴く世代に、注目ポイントを教えてもらえますか?
テクニックという点では、ものすごく練習したんでしょうね。まぁ、それもさることながら作曲能力、構成の組み立て方が素晴らしい。それから、歌の最中にもバックで必ず何か面白いことをやっていて、歌の合間になるとさらに面白いことをやる。しかもソロを弾いたらアレですから、つまり全部が面白い(笑)。曲の最初から最後まで、あの手この手を使って楽しそうに弾いて楽しませてくれますからね。一瞬たりとも惰性で弾いている箇所がない。そこが凄いところです。
エディは音楽の歴史上、どういうギタリストだと思いますか?
間違いなく、世界最高のロック・ギタリストです。これまではジミ・ヘンドリックスが神格化されてナンバー・ワンでしたが、これからはその座をエディ・ヴァン・ヘイレンが奪うんじゃないですかね。なぜならヒット曲の数が違いますから(笑)。
TAKUYAさんにとってエディ・ヴァン・ヘイレンはどんな存在でしたか?
彼なしでは現在の僕は考えられないと言って良いほど、最も影響を受けたギタリストのひとりです。僕の中では3~4割がエディ・ヴァン・ヘイレン、あとそれと同じくらいでナイル・ロジャース、そして残りがアンディ・パートリッジやアンディ・サマーズのようなブリティッシュ系のギタリストですね。とにかく、エディはギタリストとしてシーンやジャンルを超えていました。もともと神にような存在だったのが、亡くなってしまった今はもう神以上の存在ですよね。
TAKUYAが最も好きなエディの“一瞬”
TAKUYAが選んだエディのプレイは、「JUMP」のソロ。ドラマチックに組み立てられた名演から、起承転結の“結”の部分、レガートのかけ上がりフレーズを参考に譜例を作成してみた。
COLUMN:CDの売り上げ全盛期を知るメジャー・ギタリストから見たエディ・ヴァン・ヘイレン
TAKUYAは1993年にJUDY AND MARYのギタリストとしてメジャー・デビュー。同バンドの中期以降はソングライターとしても貢献した。2001年のJUDY AND MARY解散後、2002年よりROBOTSやTAKUYAソロ名義で活動。ギタリストとしての活動はもちろん、作詞、作曲、プロデュースも手がけている。
彼のギター・プレイはJUDY AND MARYのプロデューサーだった故・佐久間正英が、(当時はもちろん)晩年になってもフェイバリット・ギタリストに挙げていたほどのお墨付き。エッジの効いたカッティングやアルペジオからはXTCのアンディ・パートリッジのようなテイストを感じさせ、ボーカルのバッキングであっても変則的に動き回るトリッキーながらもメロディアスなプレイは、もしかするとエディ・ヴァン・ヘイレンからの影響なのかもしれない。
ヴァン・ヘイレンに関しては1984年の「ジャンプ」からがリアルタイムの体験だという彼であるが、CDの売り上げ全盛期にメジャー・アーティストとして大成功を収めたことから、ヴァン・ヘイレンに共通する何かがあるように思えてならない。産業ロック華やかなりし時代のような、スケールの大きな世界を知っていることは、ヴァン・ヘイレンを語るにあたって何かしら独自の視点があるような気もしてくる。
そんな彼の語るエディ・ヴァン・ヘイレン。そのサウンド分析には、なるほど流石と唸らせるモノがあっただろう。ここにもハードロックやメタルのジャンルだけにとどまらない、ヴァン・ヘイレンからのギター・ミュージック全般への影響を垣間見ることができる。
『ギター・マガジン2021年1月号』
特集:追悼 エディ・ヴァン・ヘイレン
12月11日発売のギター・マガジン2021年1月号は、エディ・ヴァン・ヘイレンの追悼特集。全6偏の貴重な本人インタビューを掲載しています。