Interview|スカート澤部渡がギターと歩んだ10年の“ストーリー” Interview|スカート澤部渡がギターと歩んだ10年の“ストーリー”

Interview|スカート澤部渡がギターと歩んだ10年の“ストーリー”

ギター然としたプレイを嫌うスカート澤部渡。彼の最新作『アナザー・ストーリー』は、既存楽曲を今のフィーリングで再録した1枚だ。それぞれの楽曲を既発バージョンと聴き比べてみると、アレンジがより整頓され、ギターがよりアンサンブルに馴染んだような印象を受けた。ボーカル・ギター的ではなく、セッション・ギタリスト的な立ち位置でバック・バンドに溶け込んだようなプレイは、“逆にギタリスト然としているのでは?”とも思う。スカートは今年10周年。本作の話を中心に、澤部とギターとの関係がこれまでどのように変化していったのかを探っていこう。

取材=福崎敬太


より“バンドっぽい”アルバムになった。

今作は既存楽曲を再録したアルバムですが、ギター的に以前と変わったことはありましたか?

 今までのレコーディングは基本的にリッケンバッカーの360がメインだったんです。でも、今回は360を買うより前に使っていたレス・ポール・スタジオをけっこう使いましたね。

それはなぜ?

 トライアドなコードが多い楽曲もあって、そういう曲はレス・ポールのほうが似合うと思ったんです。和音が混み合ってくるとリッケンのほうが響きがいいんですけど、力強い音を出したい時はレス・ポール・スタジオが良くて。

演奏面での変化はありましたか?

 例えば「ストーリー」は、ギターをしっかりアンサンブルに組み込んだっていう感じはしますね。以前はシンガーソングライター+バンドみたいなイメージがどこかにあったんですけど、今作はより“バンドっぽい”アルバムにはなったかな。

たしかに以前は“ボーカル・ギターとバック・アンサンブル”だったのが、“ボーカルと、ギターを含めたアンサンブル”という感じに聴こえました。今、歌とギターの関係性はどう考えていますか?

 曲を作っている時は、ギターと歌でどうしても1対1なんですよ。でも、理想とするのは“ギターはパーツのひとつであるべきだ”と思うんですよね。だから、ギターがワーッと出てきてっていうより……そういう曲は今作にももちろんありますけど、本来はドラム、ベース、キーボードと同等の扱いを受けるべきというかね。

どの曲も以前のバージョンよりもリズムがタイトになったと感じたのですが、リズムの考え方はこの10年で変わりましたか?

 違うとするならば、やっぱシマダボーイ(perc)が加入したっていうのが大きいと思いますね。彼の加入したことで、全員リズムのとらえ方は変えざるを得なくなったような気がします。それまでは、4人でガムシャラにやるしかなかったのが、練習熱心で洗練されたパーカッショニストがひとり入ったので(笑)。“たくさん弾いてもあまり意味がないかもしれない”みたいなことを、僕も佐藤優介(k)も、佐久間裕太(d)さんも思ったんだろうなと。

“シンプルな音色”は、
ずっとテーマのひとつ。

何度か録音している「返信」のカッティングは、ギタマガでも「遠い春」発売時にフィーチャーしましたが、今回は『ひみつ』収録のブラス入り版に近いですね。いろんなバージョンがある中でも、今回はラインっぽいシャキっとしたサウンドという印象ですが、音はどう決めていったんですか?

 これはすごく迷ったんですよ。「遠い春」の時はマネージャーが持っていたストラトキャスターで弾いたんですが、それがどうもうまくハマってない気がして、今回は普段のライブでも借りているテレキャスターを使ったんです。それでようやくハマった感じがありますね。で、ラインではなくてアンプで録っています。ミツメの(大竹)雅生君から借りたVOXのAC30だったかな? “ラインで録りゃよかったな”とも思ったんですけどね。

「千のない」はバンド・アレンジになっていて、『エス・オー・エス』収録版だとソロも少しベンチャーズっぽい感じでしたが、今回はちょっとロックなサウンドですよね。

 そうそう(笑)。でも、この感じは『エス・オー・エス』リリース直後のライブでよくやっていたんですよ。今回はレス・ポールで、雅生君から借りたVOXで歪ませました。

今作ではエフェクターはほとんど使っていない?

 そうですね。追加の歪みでSick As Overdriveなどを使ったのと、フェイザーがかかるところはずっと使っているMXRのPhase90。「千のない」のギター・ソロはレス・ポール・スタジオを持っていって、椅子みたいな大きさのAKGのスプリング・リバーブをかけて、“ああでもない、こうでもない”って言いながら調整しましたね(笑)。

でも、『エス・オー・エス』の時より控えめなリバーブですよね。

 バッシャン・バッシャンにはしなかったですね。前のテイクは隙間があったから、ああいう突飛な音にしても映えたんですけど、今回のあのパートに限って言うと、突飛にし過ぎるとハマらなかったんですよ(笑)。

「サイダーの庭」のイントロも以前の印象的な深いエコーはなくなって、音色がシンプルになりましたよね。

 “シンプルな音色”というのは、ずっとテーマのひとつではあるんですよ。エフェクターを踏むことがひとつのエゴにつながる気がしていて。ただ、こないだNegiccoのKaedeさんをスカートでサポートしたんです。Lampの方や佐藤優介くんやいろんな人が作った曲をいっぺんにやったんですけど、その時は普段使ってるボードの長さが全然足りなかった(笑)。普段なら4つくらい置いたらオッケーみたいなボードを使ってるんですけど、その時はもう6~7つ足下に置かなきゃいけなくて。だから、“音楽性の話なんだろうな”っていう気はしましたね。

機材が必要か、必要でないか。

 そうです。昔はたくさんエフェクターを踏んでる人があまり信じられなかったんですが、この10年で“やっぱり、音楽性によるな”って改めてよくわかった感じはしますね。特に僕らがバンドを始めた頃って、みんなフェンダーのギターで、足下は要塞みたいにエフェクターを置いているような時代だったんですよ。それで出ている音を聴くと“果たしてそれは魅力的なのか?”って思うことが多くあった。僕のスタンスはそれへのアンチテーゼというのもあったと思いますね。