Interview|平部雅洋(reGretGirl)哀愁を演出するコード・マジック Interview|平部雅洋(reGretGirl)哀愁を演出するコード・マジック

Interview|平部雅洋(reGretGirl)
哀愁を演出するコード・マジック

昨年メジャー・デビューを果たした大阪発の3ピース・ロック・バンド=reGretGirl。切ない歌が若い世代から支持を集める彼らの最新作『生活e.p.』では、歌詞が持つ哀愁をさらに強めるようなコード進行のフックが随所で聴ける。ギター・ボーカルであり全楽曲のコンポーザーを務める平部雅洋に、コード・アプローチを中心に作品でのギター・アレンジについて話を聞いた。

インタビュー=福崎敬太 写真(reGretGirl 忘れたくないワンマンツアー “Life goes on”2022.1.9@大阪 なんばHatch)=雷

バンドに足りなかったのがギター・ボーカルだったんです

ギタマガWEB初登場ですので、まずはギターを始めた経緯から聞かせて下さい。音楽に興味を持ち始めたきっかけは?

 両親がバンド好きで、小さい時から音楽と触れ合える環境で育ってきたんです。父親がずっとドラムをやっていたので、僕もその影響でドラムをちょっとやったり。だから、“音楽に興味を持った”と言うと、子どもの時ですね。

子どもの頃に触れてきた音楽はどういうものだったんですか?

 父母が好きなザ・ビートルズとかもそうなんですけど、イーグルスやドゥービー・ブラザーズみたいな西海岸系のロックとかも聴いていましたね。あとは、スティーヴィー・ワンダーとか、ちょっとオールドな感じの洋楽が家でずっと流れてました。

ギターをやり始めるのは何歳くらいなんですか?

 ドラムをやっていたので、中学の頃は吹奏楽でパーカッションとかをやってたんです。で、高校に入った時に“バンドを始めたい”と思って、軽音楽部に入ったんですね。ただ、僕はそこでもドラムをやろうと思っていたんですが、その軽音楽部は人数も少ないし、ちょっと陰気な子が多くて。仲良くできそうな子たちのバンドに足りなかったのがギター・ボーカルだったんです。でも、どうしても軽音楽部に入りたいから、ドラムじゃなくて“じゃあ、僕が歌う。ギターも弾こう!”って言って始めたのがきっかけでしたね。

フロントマンになりたい人が少なかったんですね。ちなみに初めてのギターは何でした?

 僕が最初に入手したのは、父親のバンドでギターをやっていた人がくれたグレコのSGでした。

軽音部では当時どういった曲をやったりしていましたか?

 みんなが聴いてたのもあって、軽音楽部に入ってからは日本のロックに目覚めて。で、当時はRADWIMPSを耳にタコができるくらい聴いてました(笑)。実際にRADWIMPSのコピー・バンドをやったりもしてたんですけど、始めはちょっと難しくて。ASIAN KUNG-FU GENERATIONとか、ギターが弾きやすいバンドのコピーを始めていきましたね。

基本的な練習は楽曲のコピーでしたか?

 そうです。最初は軽音楽部内でコピー・バンドとして始めたので。耳コピもできないから、楽器屋さんにタブ譜を買いに行ったりしてコピーしてましたね。

影響を受けたギタリストは?

 ギタリストに影響受けてるかな……(笑)。僕はギターを弾いてきたし好きではあるんですけど、やっぱりボーカルとしてやってきてたので、あまりギタリストを意識してないかもしれないです。

レコーディングだとオブリなどもけっこう弾かれていますが、こういう上モノのルーツ的なところは?

 それで言うと、オアシスがめちゃくちゃ好きで。最近の作品には多いんですけど、邦ロック感はありながらも、フレーズやギター・ソロとかはノエル・ギャラガーから影響受けているなって感じますね。

『カーテンコール』でやったことを研ぎ澄ました感じ

それでは最新作『生活e.p.』について聞かせて下さい。前作『カーテンコール』は帯域を埋めるアレンジの印象でしたが、今作はその中の必要な部分だけでシンプルに構成されているように感じました。ギターも含めてサウンドは少し重心が下がっているというか。

 『カーテンコール』は初めてアレンジャーさんとかと一緒にやらせてもらったし、自分たちとしても“今までにない感じでやっていこう”みたいな風に作り始めたんです。なので、思い付くことをどんどんハメていくような感じで、帯域もガッと……。そういう感じやったんですけど、今回は前にやったことを研ぎ澄ました感じで、不必要なものはしっかり省いてスッキリとさせていった結果、こうなったとは思っていて。

まさしくそういった印象を受けました。

 あと、ちょっと意識したのもあるんですけど、初期の頃にreGretGirlがやっていたような音の良さと新しいところを掛け合わせた感じもあって。原点回帰と言うと大袈裟かもしれないですけど。それもあって、今作のスッキリした感じになったのかなっていうのは思っています。

それぞれの楽曲についてもお話を聞いていきたいのですが、まず1曲目の「ロードイン」のチューニングは半音下げですか?

 半音下げです。

冒頭はE→EM7→A→Am(キー=E♭/プレイ・キー=E)という進行で、サブドミナント・マイナーの響きがすごく切なさを出している感じですよね。平部さんはけっこうサブドミナント・マイナーを使うイメージがあるのですが……。

 あ〜、もう何にでも使っちゃいますね(笑)。

この進行はどういうイメージで作っていくんですか?

 手癖でやってしまってるところもあるんですけど、それだけ僕が気に入ってる流れなんだと思います。そこにメロディを置きに行きやすいんだなって、今になって思うようになってきましたね。ただ、ほかの曲だとロー・コードでAからAmに行くんですけど、「ロードイン」は今まであんまり使ってこなかったハイ・ポジションで弾いたりして、自分的にはニュアンスを少し変えたつもりで。それがいい風に作用してるかなとは思います。

ほかの曲もそうですが、フックを持たせるようなコード進行が多いですよね。作曲の段階ではどうやってコードを探していくんですか?

 あんまり大きい声では言えないですけど(笑)、色んな音楽を聴いてて“このコード進行いいな”みたいな曲って、やっぱ一杯あるじゃないですか。それをね、けっこう拝借してます(笑)。

(笑)。「ロードイン」だとサビでA♯dimが入ってきますが、冒頭のAmとの対比もあってすごくオシャレなアレンジだと感じました。

 あれも、大きい声で言いますけど(笑)、誰の何の曲とは言わないんですが、途中でディミニッシュな感じになる曲を聴いた時に“これは自分らに使わない手はないな”と思って(笑)。ここはちょっとうまくハメさせてもらいました(笑)。

ギター・ソロはサブドミナント・マイナーにいくところもコードトーンで追っていたりしますが、どのように作っていくんですか?

 ぶっちゃけて言ってしまうと、あんまりスケールとかは把握してないんですよね。だから、歌メロを作るのにちょっと近いかな。とりあえずギターのコードを弾きながら、口でギター・ソロっぽいのを歌ってみて、それをギターに落とし込んでいくっていう作業をしてます。

「シャンプー」のCメロからの展開だと、ギターのオブリはDマイナー・ペンタでロックな感じのアプローチですが、ああいうのも歌って作っていくんですか?

 そうですね。歌うとまではいかずとも、自分の弾き心地のいいのをひたすら何回も弾いて合わせにいくっていう感じですね。

ピアノを弾くことで、自分の中になかったコード進行がどんどん生まれてきたんです

「シャンプー」はAメロのギターがDで白玉を弾いてから、ボーカルとドラムだけになるじゃないですか。で、キーはDですけど、ギターが戻ってくる時のコードがCadd9でハッとしました。

 ありがとうございます(笑)。Gじゃないんですよね。「シャンプー」自体は、実は数年前からデモとしてあった曲なんですけど、その時は普通にGに戻ってたんです。けど、そっから何年も経って、自分の中でそこに戻ってしまう味気のなさに嫌気がさしてしまって(笑)。“何かできへんかな?”ってなった時にハマったのがCadd9でした(笑)。

そういったリアレンジの時やコード進行を変えたいと思った時、どういう風にコードを探していくんですか?

 これも、“とりあえず片っ端から当たってみる”みたいな感じが近いですね。僕、ちょっとピアノを弾いたりもするので、コードで煮詰まった時はピアノで考えてみることもあります。ギターとピアノじゃ、自分から出てくるコード感が変わってきたりするので、そこでギターのコード進行にもいい刺激が出てきてるなっていうのは最近思いました。

作曲をピアノでやることもあるんですか?

 最近はピアノでもちょいちょいやっています。でも、やっぱりまだギターが多いですね。

「オールディーズ」はちょっとピアノっぽい楽曲だという印象を受けたんですが……。

 すごい……そのとおりです(笑)。

ギターで作る楽曲と、ピアノで作る楽曲にはどういう違いがあると感じますか?

 シンプルにピアノで作り出すと、コードが多くなるっていうのがありますよね。弾くようになってから思いましたね。“絶対にギターじゃ、こんな2拍ずつで変えへんやろ”みたいなことをピアノじゃ平気でできてしまうのが面白いなと思います。ギターで何曲も作ってきて、曲のコード進行が自分の中で大体決まってきてしまってたんですけど、ピアノを弾くことで自分の中に今までなかったコード進行がどんどん生まれてきたんです。で、ギターで作る時もアプローチがけっこう変わってきてるなって最近思いますね。

「シャンプー」でギター的なお気に入りポイントはありますか?

 特にAメロなんですけど、クリーンのギターが“シャンプー”な感じ(笑)。これまであんまりクリーンな音でリード・ギターを弾くことはなかったんですけど、この曲はクリーン・サウンドの清潔感みたいのを意識してやったので、そこを聴いてもらえたら嬉しいですね。

「オールディーズ」はピアノやアコギも入っていて上モノが多いですが、ギターのアレンジはどう進んでいきましたか?

 普段は歌メロができてからギターを入れることが多いんですけど、「オールディーズ」は同時進行に近くて。場所によってはギターのほうが気持ちよく弾けたあとに、歌を入れるっていうのも多かったです。で、reGretGirlはバラードでギターを聴かせるようなことは全然やってなかったんですけど、この曲は“リードギターを聴いて欲しい曲だな”と思っていて。コーラス的な感じのギターに90年代初頭のオアシス感みたいなのが滲み出ているので、けっこう気に入っていますね。

ギターが最近やっとうまくなってきた

「LDK」はサビのうしろで♭6th、♭7th、1度みたいな感じで上がっていくところがありますが、「ロードイン」にも同じようなエモーショナルな感じのフックを使っていますよね。このコード進行は、平部さんの中でどういう役割ですか?

 こういう全音→全音みたいな動き方は、初期の段階からやっていて。特にサビを作るうえで、キモになってるなっていうのは思います。悪く言ってしまうと手癖っぽさはあるんですけど、reGretGirlの隠し味的な要素になってるとは感じますね。

イントロもキャッチーですよね。

 「オープニングのリフが印象的な感じはあるんですけど、僕が気に入ってるのは間奏で。これはぶっちゃけて言うと、完全にザ・ビートルズの「I Am the Walrus」のコード進行をパクりながら作りました(笑)。うまく曲にハマったのが気持ちいいなと思っているので、そこをちょっと面白がってもらえたら嬉しいですね。

では、今作の使用機材についても聞かせて下さい。登場したギターは?

 ES-335はめっちゃ頑張ってくれました。リード・ギターはほとんどこれで弾いています。あとはサイケデリズムのシンラインもけっこう使いました。

チャーリー・クリスチャン・ピックアップが載っているHOLLOW-Tですよね。これはどういう仕様なんですか?

 人から譲り受けたもので僕もあまり把握してなくて。ただ、いい音は鳴ってくれてます(笑)。シンラインだから、シングルだけど深みがあるというか。このモッタリした感じが使える場面があって、けっこう助けられましたね。

P-90が載っているサイケデリズムの青いTLタイプは今回登場しなかった?

 「シャンプー」か何かのバッキングで1回くらい弾いたかな。あともう1本、「シャンプー」のリードでSTタイプを使いましたね。それはグレコなんですけど、僕の母が40年前くらいに買ったやつで。母はギターをすぐ挫折しちゃって、勝手にジャパン・ビンテージみたいになってたんですよ(笑)。それを譲り受けて。

アンプはレコーディングでもディバイデッド・バイ・13がメインですか?

 今はもうそれしか持っていなくて。スタジオにあるマーシャルとかも借りたりはしたんですけど、ほとんどディバイデッドで録ってます。

ペダルは使いましたか?

 Blues Driverにお世話になりっぱなしやったかな。Blues Driverの音は聴き馴染みがあるというか、安定してる感じが気に入っています。あと、何かあった時にすぐ代替を用意できるっていうのも僕的にはすごい魅力で(笑)。あと、曲によってはAC Boosterも歪みとして使いました。

では最後に2022年のギタリストとしての抱負を聞かせて下さい!

 そうですね……ギターが最近やっとうまくなってきたので、今まではギター・ボーカルでも“歌を頑張るぞ”っていう感じだったんですけど、2022年は器用にやっていきたいなと思っています。

ちなみに理想のギター・ボーカルは?

 自分がなれるかどうかは、ちょっと微妙なラインなんですけど、群馬に秀吉っていうバンドがいて。そのギター・ボーカルの柿澤秀吉さんが、“ようそんなん歌いながら弾けるな”みたいなことを弾くんです。それがすごくカッコ良くて、憧れていますね。

Hirabe’s Gear

Gibson ES-335 Pelham Blue 2016 Limited Run

2019年頃に入手したギブソンES-335が現在のメイン器である。ES-335を探していた時に出会い、消費税率の引き上げタイミングもあり購入を決意。決め手は見た目で、青色好きの平部にとってベストな1本だった。基本的にはリア・ピックアップを選択し、ボリューム&トーンはフルで使う。『生活e.p.』では、おもにリード・ギターで活躍したそうだ。

Divided by 13 RSA 31

平部のメイン・アンプはDivided by 13のRSA 31。知人から譲り受けたもので、当初は赤いトーレックスだったが、平部のテーマ・カラーである青に張り替えた。サウンドの印象は、“お利口さんな感じがしますね。邪魔にならないけど、欲しいところを上げればしっかり出てくれる。高価なものだなって思います(笑)”とのこと。

セッティングはレコーディング時はギターごとに細かく調整するが、ライブではほぼES-335を使うためそれ用に固定。フル出力でツマミはBASS=2時半、MID=1時半、TREBLE=10時、VOLUME=8時半程度に設定している。

Pedalboard

【Pedal List】
①BOSS/TU-3(チューナー)
②BOSS/BD-2(オーバードライブ)
③Xotic/AC Booster Limited Edition Blue(ブースター)
④Xotic Custom Shop/AC Comp(ブースター/コンプレッサー)
⑤One Control/Minimal Series Black Loop(スイッチャー)
⑥Shin’s Music/Dumbloid Boost(オーバードライブ/ブースター)
⑦BOSS/DD-20(ディレイ)
⑧Bixonic/EXP-2000(オーバードライブ)
⑨Vital Audio/VA-01(パワーサプライ)

平部のライブ用ボードがこちら。ギターから①~⑤を番号順にとおりアンプへ。スイッチャー⑤の右チャンネルに⑥&⑦をインサート、左チャンネルはオーバードライブ⑧だが現在はほぼ使っていない。

基本のドライブ・サウンドは②をベースに、歪みがもっと欲しい場合は③、④を順に追加していく。ソロ時は⑤の右チャンネルをオンに。オーバードライブ/ブースター⑥とディレイ⑦が同時にかかる。ディレイはうっすらかかる程度に設定している。

Information

reGretGirl 忘れたくないワンマンツアー “Life goes on”

2022.1.27 東京 Spotify O-EAST
https://www.regretgirl.com/live

作品データ

『生活 e.p.』
reGretGirl

コロムビア/COCP-41654/2021年12月29日リリース

―Track List―

01. ロードイン
02. シャンプー
03. LDK
04. オールディーズ

―Guitarist―

平部雅洋

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平部雅洋