D.W.ニコルズの“CRAFT WORKS”シリーズは代表曲をアコースティック楽器のみでリアンレンジしたセルフ・レコーディング作品で、第二弾となる『CRAFT WORKS 2』が2月にリリース。新型コロナ・ウィルスによる世の中の変化に対して、彼らがファンのことを第一に考え、出した答えが、“人の温かみが感じられる手作りの作品”だった。その優しい雰囲気の根幹を担うアコギの音色について、ギタリストの鈴木健太に話を聞いていこう。
取材=福崎敬太
“今までよりも、もっと身近に感じてほしい”って思ったんです。
この“CRAFT WORKS”というアイディアはどのように生まれたものなんですか?
やっぱり2020年の新型コロナ・ウィルスの騒動で、バンドとしての活動がガラリと変わってしまったんですよね。ほとんど何もできない状態の中で、“自分たちに何ができるか”を模索していて。今一番大事なのは、マスに対しての活動ではなくて、自分たちのファンをいかに楽しませられるかっていうところだと思ったんです。そう考えた時に、いろんなアーティストが配信ライブをやっているけど、自分たちに果たしてそのスタイルが合っているかっていうのが疑問で。なので、ただの音楽ライブではなく、ちょっと面白い配信を企画しようということになったんです。配信でレクリエーション的なことをやってみたり。で、“じゃあ配信ライブという選択肢以外で、自分たちなら音楽で何が届けられるのかな?”って考えた時に、“今までよりも、もっと身近に感じてほしいな”って思ったんです。それが“CRAFT WORKS”のスタートでしたね。
制作はどのような流れで進んでいったんですか?
すでにアコースティック編成でやってた曲もあったので、それはそのまま形にしていく感じでした。ただ、僕はプロのエンジニアじゃないからノウハウもないし、レコーディングの作業にちょっと時間がかかるんですよ(笑)。例えば、“この楽器のEQはこうするといい”みたいな知識もあまりないので、“マイキングでEQする”みたいな感じで。なるべく知識がないとできない操作を少なくしたんです。ギターだったら録り音の時点で“そのまま使えるような感じで、自分が生で聴いている音で録りたいな”とか。そういうところに時間がかかりましたね。あと個人的に、世の中に今出回っているアコースティック楽器の録音物っていうのが、それはそれでいいんだけど、本当の生の音色とは違うなって常日頃思っていて。
ある程度加工されてしまっている?
そうそう。聴きやすいところが持ち上げられてたり、滑らかに処理されていたり。今回は“そういうのじゃないのを作りたいな”っていうのも考えながら録りました。プロのエンジニアがレコーディングしたものに追いつこうとしても絶対に無理だから、自分ができるレコーディングとミックスを考えたんです。その中で、“自分ならではのものって何だろう?”と思ったら、“生楽器の音色に対する思い入れ”なんですよね。例えばアコギだと、ローがボーンって鳴っているポイントがあったり、“ここ細っ!”みたいなところがあったり、完璧なバランスっていうのがないじゃないですか。なので、逆にそういうのは味として活かしたいと思ったし、細かいノイズとかも構わずありのままで録ったんです。
楽器の特色や匂いを一番生かせるプレイさえしてればそれでいいんです。
『CRAFT WORKS 2』は、第一弾とは別で制作しているんですよね?
そうです。『CRAFT WORKS』が自分たちの感触としてすごくよかったから、“こういう感じで録ったら良さそうな曲はまだまだいっぱいあるな”と。なので、リリースして間もなく作り始めましたね。
その間にはアコースティック・セットでのライブも行なったりしていましたが、それを経て、前作からアコギのプレイやサウンドに変化はありましたか?
アコースティック・セットの時って、バンド以上に“歌が大事だな”と思っていて。特に僕らが奏でる音楽は、やっぱり歌を聴いてほしい音楽なんですよ。で、例えばギターだったら“名脇役でありたい”。それをより強く感じたんですよね。もちろん『CRAFT WORKS』の制作時からなんだけど、それをライブでやることで、さらにその考えが強まったかもしれない。だから『CRAFT WORKS 2』も、なるべくシンプルなアレンジを心がけて、音色を生かしたアンサンブルを目指しましたね。あとはいろんな楽器が入ってるんですけど、パートの役割分担をプレイでどうのっていうよりも、音色で分けた感じなんですよ。僕は“楽器の音色”自体が好きで、バンジョー、ウクレレ、マンドリン、ドブロにしろ、その楽器の特色や匂いを一番生かせるプレイさえしてればそれでいいんです。
「休日前夜」はドブロのスライドもバンジョーもアコギも同じウェイトで入っていて、どれかが目立つわけでもなく、歌を際立たせるためのアレンジと感じました。
そういう“歌を引き立たせるための楽器”っていう感じは、『CRAFT WORKS』より『CRAFT WORKS 2』のほうがより押し出したつもりですね。たぶんミックス的にもボーカルが上がっていると思うんですよ。『CRAFT WORKS』は1作目なのでかなり気合いが入っていて、“生楽器でのレコーディングだ!”っていう部分にも重点が置かれていたところもありましたしね。
アコースティック楽器の良さを活かして、楽曲の別の魅力を引き出したい。
『CRAFT WORKS』のラスト「夢のような毎日」のブルージィなイントロと8小節進行のソロを聴いて、“そうか! 『Unplugged』か!”って気づいたんですよ。
あれを、ひとりにでもわかってもらえて満足(笑)。
“CRAFT WORKS”のコンセプトからして、あそこでそう感じた人は多いと思いますよ(笑)。『Unplugged』からの影響はありますか?
それはもう、アコースティック・セッションといったら、僕世代はクラプトンの『Unplugged』ですから(笑)。僕は当時中学生でしたけど、ギターも始めたばかりで思いっきり影響を受けましたし。『Unplugged』のすごいところって、原曲とアコースティック・アレンジでまったく別の良さが出ているところなんですよね。なので自分がリアレンジする時にも、“アコースティック楽器の良さを活かして、楽曲の別の魅力を引き出したい”っていうのがあるんですよ。そういう意味でクラプトンの『Unplugged』の影響っていうのはすごく大きいですね。
ほかに制作のうえで意識したアーティストや楽曲はありますか?
ニコルズの大きなエッセンスとしてカントリーやフォークのエッセンスっていうのは入ってきますよね。“誰”っていうのはないですが、そういう音楽全般が意識の中に常にある感じです。カントリーって明るく響くし、今のこういう時代には“せめて音楽くらいは、聴いて少し楽観的になれるものにしたい”っていう思いもあって。特に昨年はいろんな自粛とかがある中で、さまざまなアーティストの曲が出ましたけど、内向的なものがすごく多く感じたんです。でも僕たちは、そんな中だからこそ“聴いて元気が出てくるような音楽を奏でたい”と思っていて、そういう面でもカントリーやブルーグラスの雰囲気はすごくうってつけだと思うんです。だから、アコースティックといっても、ブルースよりはカントリーやフォーク寄りな感じでいきたいっていうのはありましたね。