ドブロのスライドって“匂い”がすごいから、“ブルージィ!”ってなっちゃう。
今作はいろんな楽器があったり、いろんなレンジのサウンド感だったり、全体的に立体感のあるアレンジでバリエーションにも富んでいます。楽器の配置やバランスは、どういう風に考えているんですか?
カッコ良い言い方をすると、基本的には“曲が呼んでるものを入れていく”っていう感じ(笑)。でも、今“立体的な”って言ってくれたけど、それが僕のアレンジのど真ん中の考え方なんですよ。言い方を変えると、“支え合ってる”というか。ただ上に積んでいくんじゃなくて、それぞれの楽器にそれぞれの配置があってひとつのものになっているイメージなんです。例えば、“この曲にはリズミックな感じが欲しいからバンジョーを入れよう”とか、“転がりが欲しいから、ウクレレを入れよう”みたいになった時に、ただ重ねるんじゃなくて“ウクレレがこの役割をするから、ギターのアレンジはそこを空けてこれくらいに引き算しておこう”みたいに。それぞれの楽器の役割分担を大事に考えて配置していくっていうことですね。
楽曲でのプレイについても聞かせて下さい。「春うらら」はスライドの間奏が入りますが、これはゆったりとしたスティール風なアプローチです。どんなイメージで弾きましたか?
僕は曲の歌詞からヒラメキを得ることが多くて、「春うらら」は軽快な春らしいアレンジにしたんです。で、“ウキウキだけじゃなくて、ちょっと切なかったり、のんびりしちゃったりするのも春だな”ってことをずっと思っていて。原曲だと短かいところを間奏にして、そこで“のほほんとした陽だまり”というか、ちょっと暖かくなってきた季節感みたいなのを出してみようと思ったんですよ。それにはちょっと“大きな”感じの音が欲しくて、スライドを弾いたんです。ただ、スライドを普通に入れるだけだと、土臭くなり過ぎるんですよね(笑)。ドブロのスライドって“匂い”がすごいから、“ブルージィ!”ってなっちゃう。だからあそこはオープンGで、ちょっと春をイメージして弾きました。
「41」もスライドのソロが入りますが、これは逆にメロディを押した感じで、少しブルージィな雰囲気も入りますね。
「41」ってエモーショナルな感じもあるので、スライドのソロひとつですごくアツい感じに転んじゃうんです。バンドでの原曲のアレンジはそういうストイック寄りなサウンドですけど、あの曲ができてから何年も経った今の自分たちが演奏するなら、“その時のストイックさと違う感情で表現できるな”っていうのがあったんです。それでまず弾いたのは、やっぱりメロディアスなスライド、ジョージ・ハリスン的なアプローチだったんですけど、それはそれで淡白で。ギタリストとしては、弾いた瞬間に“ドブロ最高!”と思うわけですよ(笑)。湧き上がったそういうイメージの入りから、メロディアスな感じだけで終わっちゃうとなんか物足りないんですよね。だから、最後の後半あたりではブルージィな雰囲気を入れたんです。このソロはすごく気に入ってます。
「あの街この街」はイントロもソロも原曲とは違いますが、これはどう作っていったんですか?
この曲のアコースティック・アレンジはライブで以前からやっていたんですけど、リードのフレーズで“これだ!”っていうのがずっと見つからなかったんですよ。これまでもいろんなフレーズを試してたんですけど、今回作品にするにあたって“よし!ここで、いい加減、決めるぞ!”と。で、原曲はけっこうロックな感じですけど、アレンジのバックボーンにはソウルっぽいイメージがあって。僕の中でこの曲はメロウなソウルみたいな印象がずっとあったので、それをアコースティックに落とし込みました。それこそ、ドラム、ベース、アコギ、ガットギターを立体的に組み上げて、ソロでは欲しいリズムを入れた感じというか。メロディというよりはリズム的なアプローチに近いですね。
みんなで歌えるライブがやりたい。
前作、今作での使用ギターは?
スライドはすべて79年製のドブロ60Dで、あとはD-28とOO-18がほとんどですね。フィンガーはOO-18で、ピックがD-28っていうセオリーはやっぱあるんすけど、D-28のフィンガーも張りがあってすごくいいので、曲によって変えたりしてます。
今回はセルフ・レコーディングですが、マイクなどはどう選びましたか?
マイクを選び出したら大変なことになっちゃうので、いつも一緒にやってくれているエンジニアの古賀健一君に相談しましたね。『CRAFT WORKS』の時は、古賀君にマイクを2本くらいだけ借りてやったんだけど、次はマイクも自分たちで買おうってなったので、その時に借りたやつと同じようなタイプのマイクを買いました。audio-technicaのAT4047/SVかな? あとAKGのC451Bの2本立てて録って、ミックスしたり合うほうを使ったりみたいな感じで進めていきました。だから、良いプリアンプを使ったりもしていないし、すごく安いオーディオ・インタフェースを使って、Pro Toolsに最初から入っているプラグインで録っていますよ(笑)。
“CRAFT WORKS”は続編も考えていますか?
まだまだ、アコースティックで録りたい曲はたくさんあって。だから、いつでも作る準備はしてます(笑)。
今後の新曲でも“CRAFT WORKS”にマッチする曲が出てくる可能性もありますしね。
そうですね。あとは、“CRAFT WORKS”をシリーズ化するのもひとつの方法だとは思うし、普通のアルバムの中にこういうセルフ・レコーディングのアコースティック曲が何曲か入っているっていうのも良いなって思っていて。以前は、ひとつの作品の中で耳触りを変えたくないって思ってたこともあったんですけど、今回2作品を作ってみて、“これはこれで良いな”って自信もついたんですよ。なので、今後は普通の作品の中に肩を並べる感じで、こういう曲が入っててもいいのかなって。
さて、『CRAFT WORKS 2』に絞って、個人的にお気に入りのプレイをあげるとしたら?
「41」のソロは好きですね。あとは「あの街この街」の弾きまくっている感じ。歌のうしろでも“これ、要るか?”みたいなフレーズを弾いてたりするんですよね(笑)。これは宅録で弾いた、ならではっていう感じですよね。
では最後に、もうすぐこの新型コロナによる騒動も沈静化して平時に戻るという希望を込めて、改めてニコルズとして、ギタリストとして、どういう活動を行なっていきたい?
僕らは年間100本くらいライブをやってきてたんです。それが、もうパッタリなくなっちゃったんですよね。それでも全国のファンの方たちがすごく熱い気持ちで応援し続けてくれてるから、また動けるようになったらそのお礼をしに全国に会いに行きたい。あとは、みんなで歌えるライブがやりたい。オーディエンスとみんなで声を出して歌えるライブがやりたいですね。
作品データ
『CRAFT WORKS 2』
D.W. ニコルズ
haleiwa Records/HLIW-031/2021年2月2日リリース
―Track List―
01. 休日前夜
02. 春うらら
03. あの街この街
04. アドベンチャー
05. あくび
06. うえい
07. 41
08. カフェオレさん
―Guitarists―
鈴木健太、わたなべだいすけ