Interview | 小原綾斗(Tempalay)×さかしたひかる(ドミコ) 2人で築き上げた『ゴーストアルバム』でのサイケデリア Interview | 小原綾斗(Tempalay)×さかしたひかる(ドミコ) 2人で築き上げた『ゴーストアルバム』でのサイケデリア

Interview | 小原綾斗(Tempalay)×さかしたひかる(ドミコ) 2人で築き上げた『ゴーストアルバム』でのサイケデリア

エフェクティブなギター・サウンドで極上のサイケデリアを描くTempalay。彼らのメジャー・デビュー作となる4thアルバム『ゴーストアルバム』は“コロナ禍での1年に感じたこと”を主軸にしたもので、そのギター・サウンドは相変わらずの異形に満ちたものだった。本作には同じく国内シーンで異彩を放つ2ピース・ロック・バンド、ドミコのさかしたひかる(vo,g)がギター・テックとして参加。かねてから親交がある2人に登場願い、レコーディングについて話を聞いた。

取材・文=新見圭太 写真=小原啓樹


ひかるくんが“音色と機材が被らないというルール”を設けてくれたんです。 (小原)

まずは2人がどういった経緯で交友を深めていったのかを教えて下さい。

小原 もともと僕がドミコのファンだったんですよ。それで2014年頃に、ライブで音源を渡したりして、そこから一緒に飲みにいくようになって。

さかした 最初は拒否ってたんですけどね(笑)。もらったCDを半年後くらいに聴いてみたら“なんだこれ? 彼らの音楽って良いんだ”となって。

小原 当時、住んでた場所が近かったっていうのもあるかな。

そこから共催のフェス“BEACH TOMATO NOODLE”やMONO NO AWAREを交えての中国ツアーなどでさらに仲良くなっていったんですよね。Tempalayもドミコも現代の日本のロック・シーンでは異彩を放つバンドだと思うんですけど、お互いのバンドをどう思っていますか?

小原 ドミコは化石ですね。日本の音楽シーンで最後のロック・バンドやと思ってます。あ、でも化石になったらアカンのか(笑)。

さかした (笑)。僕は普通に好きだから聴いてるんですけど、ほかのJ-ROCKを聴いたあとに聴くと、改めてヤバさに気づくというか。普通の音楽は水や空気みたいなもので楽しめないけど、あとから“こんなにおいしいものを普通に食べていたんだ”という“ありがたみ”がわかるような感じです。それと僕は音楽を好きになる時、歌メロから好きになることが多いんですよ。Tempalayも強烈なフックを持った歌メロがあるし、しかもサウンドはトガってますよね?

小原 Tempalay愛が止まらないじゃないですか(笑)。

(笑)。今作にギター・テックとして参加することになった経緯は?

小原 そもそもは一緒にやっていたギター・テックがいて、自分とその人でやれるレパートリーの幅がけっこう限界を迎えてるように感じたんですよ。で、ひかるくんってファズ・マニアだから、最初はファズだけ貸してもらう話になって。それでそのテックと一緒にレコーディングに来てもらったんですけど、余計なエフェクターまで持って来ていて。

余計な(笑)。

小原 で、試しにひかるくんにテックをやってもらった時、“この人はめちゃくちゃ頭おかしい”ってなって(笑)。あとは次のレコーディングの日に、テックのスケジュールがNGだったんですよ。それに1回目の録音の時、ひかるくんが悔しそうにしていて。“自分の100%出せへんかった”みたいな。それでほかの曲も任せてみたらドンハマりしたっていう。

悔しそうだったというのは?

さかした 僕は歪みの部分だけやるつもりだったんです。でも、実際に現場に入ってみると、テックとしての意見を求められていて。その日の録音がほとんど終わるくらいのタイミングで“ああ、もっと自分を出して良かったんだ”ってことに気がついたんですよね。

ただ機材を貸しに来た人ではなく。

さかした そうなんです。僕がどのくらい介入して良いのかがわからなくて。悔しいと言うよりは“もっとやれたんか”と思ったんです。

2回目は小原さんからお願いしたんですか?

小原 そうですね。全曲やっちゃいなよって。すごく嫌がってましたけど(笑)。

さかした そんなことない(笑)。2回目のレコーディングも1週間前くらいに急に呼ばれたし。

小原 違う人にもオファーしたんですけどNGだったので、ひかるくんに連絡しました(笑)。最初に来てもらった時に録った「EDEN」のギターがめちゃくちゃ良かったんですよね。だから何かしらお願いしたいと思って頼んでみたら、スケジュールがゴリ空いてたっていう。

さかした そうです。単純に(笑)。

2回目はどんな作業を?

さかした 綾斗と話し合って2人の意見で制作を進められたので、凄くラクになりましたね。自分が好きなものや良いと思うものを出せるフィールドになったというか。事前にデモを聴いて、現場で機材同士を組み合わせて音作りをしていきました。行き当たりばったりなスタイルだったので、「シンゴ」という曲のサビだけで半日くらいかかっちゃって。周りの“ヤバいんじゃない?”っていう空気で、ようやく時間がかかり過ぎていることに気づきました。

小原 めっちゃ帰りたかったですもん(笑)。

オファーした小原さんのほうが(笑)。

小原 でも、ひかるくんは“今までの音源を加味して、音色と機材がいっさい被らないギター・サウンドを入れる“というルールのようなものを設けてくれたんですよ。僕は音色が被っても全然平気だけど、ひかるくんの中では許せないみたいで。

さかした 許せないというよりは、注意したんです。綾斗に音色の好みを聞いたらビブラート系に寄ったりしていて、そうするとアルバムを通して聴いた時の印象が偏ってしまうんですよね。

小原 その感覚は今までになくて。だから凄いなと思うし、ストイックだなと思いました。でも、2回目の時は“この音でいこう”と決めた時、誰もその音を聴いてなかったよね(笑)。

さかした しかも夕方くらいになって誰も喋らなくなってた(笑)。

小原 ずっと“ビヨン、ビヨン”って聴こえているわけですからね(笑)。

さかした 長過ぎてNatsuki(John Natsuki/d)、帰っていったもんね(笑)。

小原 ゴールがないからムズ過ぎたってのはあるかも。

さかした うん。3回目は曲を聴いて事前にある程度、機材を決め打ちしていて。3回目でようやく掴めてきた感じですね。

その時は小原さんも間違いないなという印象だったんでしょうか?

小原 いや、またそこから吟味しましたね。マイクを通したり、アンサンブルと重なった時に違う聴こえ方をしてしまうことがあったので。

3回のレコーディングを経て、さかしたさんのギター・テックとしての印象は?

小原 歪みを作るのがとにかく上手い。面でガッと来るような歪みなんですよ。歪みって難しくて、音色だけでリッチにもチープにもなってしまうけど、その塩梅が上手いというか。アンプの鳴らし方を知っている人ってイメージですかね。

さかした 僕はペダルっぽい歪みの音が好きじゃなくて。そういう音はバンドって感じの音がしないし、寂しいと感じてしまうんですよ。

なるほど。2人に共通する音色選びのポイントはあったりしますか?

小原 うーん、共通項はないですね。だからこそ頼んでいるところもあって。聴いていた音楽やエフェクティブなギター・サウンドが好きというのはあると思うんですけどね。

発想は違うけど、ルーツが近しいものがあると。

さかした 面白いって思う瞬間が一緒と言うかね。だから、今回のギター・テックは仕事という感覚はあまりなかったです。自分が納得するものを提示すれば良かったですから。

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