Interview|西川弘剛&田中和将(GRAPEVINE)“ギター・バンド的ではない”アレンジ Interview|西川弘剛&田中和将(GRAPEVINE)“ギター・バンド的ではない”アレンジ

Interview|西川弘剛&田中和将(GRAPEVINE)
“ギター・バンド的ではない”アレンジ

GRAPEVINEが最新作『新しい果実』をリリースした。ギター・パートを担う西川弘剛&田中和将は、口をそろえて“ギター・バンド的ではない”と答えるが、ロック・バンドという枠組みの中でのギターという楽器の可能性を押し広げているようにも感じる。少ない音数でグルーヴさせるカッティングや、エフェクティブに背景を彩るオブリなど、興味深いアプローチがそこかしこで姿を見せる1枚なのだ。作品中のギター・アレンジについて、ふたりに話を聞いていこう。

インタビュー=福崎敬太 写真=山川哲矢 協力=佐藤悠樹

フェンダーのデラックス・ツイードを買いました。
──田中和将

この1年ほどで作られたアルバムのインタビューをしていると、コロナ禍で制作環境が変わって“結果それも良かった”という声をよく聞きます。今作の制作で何か変化などはありましたか?

西川弘剛 いや、特にコロナ禍で変わったことはなかったですね。ただ、リリースが予定よりも半年ズレて、制作を始めるのも半年遅れたんですよ。強いて言うなら、時間がたっぷりあったので、ゆっくりと作れたのは良かったかもしれないです。

自宅時間が増えてギターに対しての向き合い方は変わったりしましたか?

西川 YouTubeはすごく観ましたね。プレイを教えてくれたり、機材をレビューする動画とか、比較動画みたいのがあるじゃないですか。そういうのはたくさん観てましたけど、自分ではギターは全然弾かなかったですね(笑)。

ここ1年くらいで何か新たに入手した機材はありますか?

田中和将 僕は新しいジャズマスターくらいですね。ペダルはちょいちょい買ったりはしてますが。……あ、バンドでは使ってないですけど、フェンダーのデラックス・ツイードは買いました。

自宅用ですか?

田中 ゲストで呼ばれた時とか、Permanentsで使おうかなと。

西川 僕もエフェクターはちょくちょく買ってますけど、大きいものは買っていないですね。安いアコギを買って、縁にラインが欲しかったので、1人で一生懸命に塗ってました(笑)。

バインディングみたいな(笑)。

西川 見た目が良くて、白いラインがあったら可愛いだろうなって思って塗っていたんですけど、曲線を塗るのってけっこう大変なんですよね(笑)。泣きました。

田中 何で塗るんですか?

西川 最初は水性の塗料で塗ってたんだけど、その上からコーティングをしたり。でも、曲線をマスキングするのがすごく難しいんですよね。それで調べてみたら、プラモデル用の曲線をマスキングするためのテープがあるんですよ。それを通販で買ってやってみたら、シワにならないんです。タミヤのやつでしたけど。

さすが世界のタミヤ(笑)!

下手したらコード進行を知らない曲もあるかもしれない(笑)。
──西川弘剛

それでは最新作『新しい果実』についても話を聞かせて下さい。まず、結果的に今作のギターはどうなったと感じますか?

田中 ますますギター・バンド的じゃないアプローチが多くなりましたよね。その中で、ギターが何をやるべきかっていうのは考えながらやっていました。

西川 僕も、コードを弾くこともほとんどないですし、やっぱりギター・バンド的ではないと思いますね。僕が同時に弾く和音も2音くらいですから、下手したらコード進行を知らない曲もあるかもしれない(笑)。でも、その分スペースがたくさん空いているので、曲の緊張感もありますよね。

確かにスペースがあるアレンジも多いですが、逆に弾かないことでグルーヴを感じさせるプレイがカッコ良いです。「ねずみ浄土」のカッティングは、少ない音数でも16分でグルーヴしていますよね。

田中 計算しているわけではないですけど、そこを感じさせたいっていう意図はしっかりあるかな。例えば、気持ちハネている曲でも、アレンジではそうじゃない感じで作ることも多いんです。ギターはザーン、ザーン、ザーンっていうのが基本にありつつ、ちょっとハネるところで、しっかりとリズムを感じさせる。そういうことはよくやっている気がしますね。

「目覚ましはいつも鳴りやまない」は冒頭から2音目が16分裏で“チャッ”と入って、ギターだけなのに16分のリズムが頭の中で鳴るんですよね。

西川 あそこはもうちょっと長い音符で弾くこともできるんです。そこを長くするのが良いのか、めちゃくちゃ短いほうが良いのかっていうのはプリプロでよく話してましたね。長く弾くと全然雰囲気が違うんですよ。

田中 結果、短くしましたね。ただ、長く弾くほうがこっちとしては安心なんですよ。隙間が空くと難しいので(笑)。

“点で弾く”ってすごく難しいし、ギターだけなのでミスれないですよね。

田中 そうなんですよ(笑)。しかもテンポが速い曲じゃないので、次の音までが長い。

(笑)。「目覚ましはいつも鳴りやまない」にはワウとファズをかけたソロもありますが、これはオブリからの流れがそのままつながった感じです。上モノとしてはキーボードもありますが、フレーズ作りはどのように進めていくんですか?

西川 キーボードやハモもあるので、その隙間をお互い観察しながら作っていますね。“ここはいくのか、いかないのか”みたいに。あとは、同じセクションで必ず同じように入るのも退屈に感じるので、“次は裏切ったところから入りたいから半拍裏から入ろうかな”みたいなことを考えながら弾いています。

どんどん変わっていく様をイメージして作っている感じですね。
──西川弘剛

「阿」はすごくフリーなギター・アレンジで、同じセクションがないですよね。こういう流れは全体が一気にできあがっていくんですか?

西川 PC上で入れ替えたりしながら、どんどん変わっていく様をイメージして作っている感じですね。そこからみんなで話をして、“ちょっとここが退屈だから違うコード進行が良いかな”っていう意見があったら、“じゃあこんなのは?”みたいに当ててみたり。

トライ&エラーのくり返しなんですね。

西川 そうですね。ほかの曲もアレンジしている時は、それをプリプロでくり返している感じです。今回のアルバムではなかったですけど、最初と全然違う構成になる時もありますよ。

「Gifted」のバッキングでは、タイム感の違うアルペジオが左右で鳴っていて奥行きを感じます。2本の住み分けはどのように考えているんですか?

田中 相手の出方を見つつ弾いているだけです。だから、被るところは思いっきり被ってますよね。

西川 あと、「Gifted」はドラム・サウンドでほとんど埋まっているので、逆に言うとギターはどう弾いても大丈夫で。なんならテイクごとに弾いていることも違ったかもしれないです。

田中 あれはドラムが顔みたいな曲なので、上モノに関してはざっくりしているかもしれないですね。

ドラムと上モノ、バッキングっていうのはどういう順番で組み上がっていくんですか?

西川 リズムが最初だと思いますね。グルーヴっていうのかわからないですけど、そこは最初に相当話します。テンポ感やリズム・パターンによって、弾く内容や曲のとらえ方も変わりますからね。

BPMはどういう風に決めるんですか?

西川 それも難しいんですよ。日によって感じ方が違うので。

田中 基準を設けているわけでもないので、曲の印象でしかないんですが、昨日はそのテンポで作ったけど、次の日それで録ってみたらすごく遅く感じて上げてみたり。そういうことのくり返しですね。

西川 朝イチは必ず遅く感じるんですよ。朝って言っても13時ですけど、そこで聴くとどんな曲でも遅く聴こえる(笑)。でも、夕方くらいに同じテンポで聴くと“ちょっと速いなぁ”って感じたり。

時間帯にもよるんですね(笑)。

西川 不思議ですけどね。人間にはそういうのがあるのかもしれないですけど。時間の感じ方というか、“テンポをそんな正確に感じてないんだな”って思いますね(笑)。

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