Interview|西川弘剛&田中和将(GRAPEVINE)“ギター・バンド的ではない”アレンジ Interview|西川弘剛&田中和将(GRAPEVINE)“ギター・バンド的ではない”アレンジ

Interview|西川弘剛&田中和将(GRAPEVINE)
“ギター・バンド的ではない”アレンジ

ファースト・インプレッションは大事ですよね。
──田中和将

「居眠り」のギターは“ビブラートがテーマなのかな?”という印象です。ただ、拍に合わせたビブラートではないので、少し不安定な雰囲気がありますね。

西川 マック・デマルコっているじゃないですか。あの人がけっこう音痴なキーボードのフレーズを弾くんですよ。たまにすごいズレているような音を弾いたりするんですけど、あれがやりたくてビブラートを使ってみたんです。アースクエイカーデバイセスのビブラート(Aqueduct)を買って。それがランダムにかかっているような使い方ができるんですよ。それでより音痴感が出てくる。

マック・デマルコがインスピレーションの源という。

西川 僕だけですけどね。曲全体としてはポップスだと思うんですけど、そういう浮遊感がピッタリ合うなって思っていて。“歌いにくいだろうな”とは思いながら(笑)。

田中 実際歌いにくかったです(笑)。プリプロの時はそうでもなかったんですけど、歌入れの時に“あれ?!”ってなって。こんなに音取れないのかっていう(笑)。それはギターのせいだけでもないんですけど、すごく難しかった。

西川 マック・デマルコは自分で弾いて自分で歌っているので、自己責任だからいいんですけど。ウチの場合はそうじゃないので、怒られても仕方ないなとは思いますね。

(笑)。こういうビブラートのアイディアだったり、歪みの深さやコーラスのかけ方とか、サウンド選びはどういう風に決めていくんですか?

田中 まずはそれぞれが思ったことをやってみて。それに対して自分なりに“もうちょっと歪んでたほうが良いな”って変えてみたり、人が指摘したりもありますね。あと最終的には、長く一緒にやっているエンジニアの宮島(哲博)さんの意見も大きいです。

例えば「居眠り」のビブラートだと、楽曲アレンジのどの段階で出てくるんですか?

西川 これは最初に演奏した時からかけていましたね。イメージがあったのか、ただ使いたかっただけなのかはわからないけど(笑)。

田中 でも、最初にそれがあったおかげで、この曲の顔になったりするので、そういうファースト・インプレッションみたいのは大事ですよね。

ボトルネックで弾くと勝手にニュアンスがついてくれるんですよ。
──西川弘剛

「ぬばたま」ではスライドが入りますが、音響的な使い方ですよね。ギタマガ本誌のスライド特集(2019年5月号)のアンケートでは、お気に入りのプレイヤーにジョージ・ハリスンとブレイク・ミルズを挙げてくれましたが、どちらかと言うと後者に近いような。

西川 そうですね。ちょうどその頃、アリエル・ポーゼンが大好きで、すごく聴いていたんです。で、この曲はダウナーな感じで低い弦でのスライドが合うかなと思ったんです。アリエル・ポーゼンがドロップCとかで弾いている曲があるんですが、その低いところのスライドが素敵だなと思って。

じゃあチューニングも変えたんですか?

西川 いや、「ぬばたま」はレギュラーだと思います。

「最期にして至上の時」でもスライドが入りますが、GRAPEVINEの楽曲でスライドを入れるのってどういう曲の時が多いですか?

西川 ポップな楽曲の時が多いですね。どっちかというとジョージ・ハリスン的な使い方のほうが。単純なメロディを指で弾くのってすごく難しくて、ボトルネックで弾いたほうが簡単に良い感じになるんです。それが使う一番の理由です。

簡単に良い感じに?

西川 単純なフレーズって押弦で弾くとマヌケになるじゃないですか。電子ピアノでメロディを弾いてもカッコ良くない感じというか。もちろん上手く弾く方もいますけど、僕はあまり上手く弾けなくて。でも、ボトルネックで弾くと勝手にニュアンスがついてくれるんですよ。ビブラートもつけれるし勝手にポルタメントもしてくれる、チューニングも勝手に悪くなってくれる。なので、シンプルなフレーズを弾くのに重宝していますね。

話は変わりますが、最近聴いているアーティストや注目しているギタリストはいますか?

田中 僕はギタリスト目線では聴いてなくて、アンサンブル的なことを聴いていることが多いかな。最近は、ブラック・ミディとか。あれはギターもカッコ良いですよね。

西川 僕はさっきも言った、アリエル・ポーゼンが最近のギター・ヒーローですね。曲がものすごくポップなんですけど、ギターはちょっとイナたい。ジョン・メイヤーをちょっと男らしくしたような。変則チューニングでどうしてもコピーできないのも良いです。

田中 ブルース系の人なの?

西川 なんでも弾けるんやと思う。曲はジョン・メイヤー。見た目は髭もじゃだけど(笑)。ギターは“ザ・ギタリスト”。

田中 トム・ミッシュもそうだし、そういう人増えてんのかもね。あ、今思い出しましたけど、今作を作ってる頃、クルアンビンを聴いてましたね。あれはわりとギタリスト目線で聴いてました。

クルアンビンですか! ギター・マガジンでマーク・スピアーがお気に入りのレコードを紹介してくれる連載が始まったんですよ。

田中 えぇ! この人がどういう音楽をとおってきているかが想像しにくい音楽性ですし、興味深いですね。読ませていただきます(笑)。

作品データ

『新しい果実』
GRAPEVINE

ビクター/VICL-65501/2021年5月26日リリース

―Track List―

01. ねずみ浄土
02. 目覚ましはいつも鳴りやまない
03. Gifted
04. 居眠り
05. ぬばたま
06. 阿
07. さみだれ
08. josh
09. リヴァイアサン
10. 最期にして至上の時

―Guitarists―

西川弘剛、田中和将