Interview|細井徳太郎(SMTK)ジャズとノイズの狭間 Interview|細井徳太郎(SMTK)ジャズとノイズの狭間

Interview|細井徳太郎(SMTK)
ジャズとノイズの狭間

気鋭のドラマー、石若駿が率いるバンド=SMTKが2ndアルバム『SIREN PROPAGANDA』をリリース。メンバー全員がジャズを共通の基盤としつつも、加えてハードコアやメタル、ヒップホップ、ロックなど様々な要素が渾然一体となり、予測不能なサウンドを展開する1枚だ。ノイジーでフリーキーなプレイで楽曲を駆け回るギタリストの細井徳太郎に、プレイヤーとしてのバックグラウンド、そしてSMTKでの制作について話を聞いた。

取材=田中雄大


“ジミヘンはなんでこんなに長いソロを
弾けるんだろう?”って疑問からジャズへ。

ギター・マガジン初登場ということで、まずはギタリスト的な遍歴から教えて下さい!

 4歳くらいから高校3年生までずっとバスケットボールばっかりやっていたんですけど、中学校の時、バンドでベースをやっていた従兄弟が楽器を持ってきたことがあったんです。で、僕がコタツでくつろいでいる時にいきなりベースを弾き始め、それを見て“すごい、カッコいい!”と思って(笑)。その時に教えてもらったのが最初ですね。

では最初はベースから?

 その従兄弟がベースとギターを両方弾ける人だったので、これ見よがしに2本とも持ってきていて(笑)、ギターも触らせてもらいましたね。そのあと、中学校2年生の時にお年玉で1万円くらいのギターを買ってもらったんですけど、かなりハマってしまって、バスケをやらなくなったんですよ。そうしたら母にめちゃめちゃ怒られたので、ギターを封印して、高校3年生で部活が終わるまでは弾いてなかったです。結局部活は夏の大会で負けたんですが、ちょうど大会の少し前に中学時代の友達から“ライブやるからギター弾いてくれない?”って連絡がきていたんですよ。それに“負けたからライブやります”って返事をして、部活を引退した2週間後くらいに初めてのライブがありました。ほぼ素人みたいな状態でしたけどね。3年生の時はそれからずっとギターを弾いてました。いわゆる進学校だったんですが、受験期はほんとにギターばっかりで、何回も職員室や校長室に呼び出されたり(笑)。

(笑)。その頃はどんな練習をやっていましたか?

 今でもそうなんですが、ジミ・ヘンドリックスがめちゃくちゃ好きだったんですよ。当時はお風呂場が僕の練習場だったので、そこにCDラジカセを持っていって、ジミヘンの曲を流しながら一緒に弾いたりしていましたね。

高校生でジミを愛聴するって、なかなか渋いですよね。

 地元の高校生に1年生の頃からバンドやってるようなうまいギタリストがいっぱいいて、その中の仲が良かったヤツが“ジミヘン、知ってんの?”みたいに言ってきたんですよ(笑)。それで“知らない”って言ったらCDを貸してくれたんですけど、正直全然良さがわからなかったんですよね。でもわからないのが悔しくて、試しに風呂場で一緒に弾いてみたりしているうちにどんどん好きになって。

ギター弾くならジミを知っとけ!みたいな(笑)。最新作『SIREN PROPAGANDA』でもそうですが、今の演奏を聴くとそこからさらに色々な道のりを経ていると感じます。特にジャズの基盤は大きいですよね?

 そうですね。その流れを説明すると、ある時図書館に行ってジミヘンの本を読んだんですよ。“ジミヘンってなんでこんなに長いソロを弾けるんだろう?”っていう疑問があったんです。当時は“ここからここまでがギター・ソロね”みたいな考えしかなかったので。そうしたら、本にマイルス・デイヴィスとジミヘンの関係性の話が出てきたりしたんですよね。そこからジャズを知って、“即興のソロやセッションはジャズをやればできる!”と思い込んじゃって。そして大学に入って、軽音楽部とジャズ研の両方に入ったんです。

ジミ経由でジャズに興味を持ったと。ジャズ研ではいわゆるオーソドックスなジャズを?

 そうです。その頃面白かったのが、部室の廊下がめちゃめちゃ反響するリバーヴィーな場所で、風呂場と同じ環境だったんです(笑)。それが気持ち良くてクリーンで弾くのが好きになり、だんだんスケールも覚え始めていくうちに、“ロックよりもジャズのほうがすごいじゃん!”なんて勘違いをしてしまって、少しの間ロックをやめてしまったんですよ。ジミヘンのソロを目指してたはずなのに、本末転倒なんですが(笑)。そういう大学生活でしたね。本当にずっとジャズをやってました。

その頃好んで聴いていたギタリストは?

 ジャズ・ギタリストと呼ばれるような人は軒並み聴いていましたけど、特にジム・ホールはめちゃめちゃ聴きましたね。今でも好きです。

ハード・バップばかりやっていたら
ある時イップスになってしまって。

SMTKにおいてはジャズだけでなく、ノイジーな要素も細井さんのプレイの特徴になっていますが、それにはどんな由来がありますか? 

 大学を出たあと“俺はジャズ・ギタリストになる!”って上京して、新宿ピットインでバイトしつつ、去年亡くなってしまったんですが橋本信二さんという素晴らしいジャズ・ギタリストに習いに行っていたんです。そんな感じでハード・バップばっかりやっていたんですけど、ある時、無理がきたみたいでイップスになってしまって。ソロが弾けなくなっちゃったんですよ。

イップスというと、それまで当然のように行なっていた体の動作が突然できなくなる症状ですね。ゴルフのスイングなどでよく耳にします。

 そうです。それでしばらく困っていたんですが、バイトしていたピットインなどで、いわゆるアンダーグラウンドなジャズ界隈の即興やノイズをやっている人たちを見ていたら次第に“自分もこうしたいのかも”って思えたんですよね。自分の中でハード・バップをやらなきゃってイメージが強く固まっていたんですけど、本当に自分が弾きたいことをやろうと。それでまたロックのアルバムを掘ってみたりして。

なるほど。ちなみに、そのロック方面で影響を受けている人は?

 ロックでひとまとめに言うのは違うかもしれないですけど、名前を挙げるとしたらトム・モレロ、ジョン・フルシアンテ、ジョニー・グリーンウッドの3人は強いですね。そしてその上にいるジミヘン、みたいなイメージ(笑)。今回のアルバム(『SIREN PROPAGANDA』)の曲で言うと、例えば「Ambitious」はちょっと変というか、ユーモラスな感じのジョニー・グリーンウッドみたいなイメージで弾いてました。「Headhunters(feat. Dos Monos)」はいろんな人から影響を受けているとしか言いようがないけど、強いて言うなら内橋和久さんの感じは出てるかなと思います。「マルデシカク(feat. TaiTan)」はネイキッド・シティなのかな。僕がイメージするハードコア系というか、パンクの音ですね。ぐしゃっと潰れた感じ。ほかには「Love Has No Sound」は一番ヘヴィなリフを弾いていて、これはメタルとグラインドコアを合わせたような感じで弾きました。

ノイジーなプレイについてはメンバーからのリクエストもあるんでしょうか?

 弾く内容のリクエストは基本的にないですね。“絶対こういう風に弾いて!”っていうところは多少ありますけど。

それは決め打ちのフレーズなど?

 フレーズだったり、あとはコードのボイシングですね。(石若)駿(d)や松丸(契/sax)はコードのイメージをすごくしっかりと持っているんです。このアルバムで“いいコード弾いてるな”っていう部分はだいたいこの2人のアイディアかもしれない(笑)。そのほかの部分は本当に全部任されていて、その時々のアイディアを弾いている感じです。

ではレコーディングも即興の要素が強いんでしょうか?

 基本的にそうです。レコーディングの前日か前々日くらいに“こういう曲書いてきたよ”って出し合う場があって、その場で1曲につき2~3回セッションするんですよね。そこから各々がアイディアを考えてきて、数日後に“せーの”でベーシックを録る感じです。本チャンのRECも、ベーシックをみんなでやるのは多くて3回くらいで、多くて5回とか。その後に重ねるものは各自が録る流れです。

そういう姿勢は非常にジャズ的ですよね。その場の新鮮さを重視するといいますか。

 ジャズもそうだし、ロックの要素でもメンバーみんなジャム・バンドみたいなほうが好きだと思うんですよ。ミスタッチも入ってます、みたいな。少なくとも僕はそういう気持ちでレコーディングしています。

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