出身地ミシシッピ州北部の電話市外局番を冠した、クリストーン・“キングフィッシュ”・イングラムの最新作、『662』。現在進行形のブルースを表現した、作品中でのギター・プレイについて、じっくりと話を聞いていこう。
インタビュー=トミー・モリー 質問作成=福崎敬太 Photo by Johnny Louis/Getty Images
曲が求めてくる音を逃さないように心掛けている
1st作『Kingfish』に続き、新作『662』もバラエティ豊かな楽曲が並ぶ聴いていて楽しい作品ですね。
ありがとう!
今作の曲作りはどのように進んでいきましたか?
今回の作品は、バディ・ガイのプロデューサーのトム・ハンブリッジとリチャード・フレミングと一緒にzoomを介してセッションして詰めていった。トムから“君は今、どんなアイディアを持っている?”と聞かれて、僕が色々と披露したり、彼らがアコースティック・ギターを弾いたりしながら、一緒に曲を書いていったよ。僕らの生活もかなり大きな変容を迎えようとしていたから、そういった思いも反映して作っていったね。
アレンジはどのように進めていったんでしょうか? 例えば「That’s All It Takes」は感動的なソウルで、ホーン・セクションも入ったゴージャスなアレンジですが。
僕が実際のライブでホーンと一緒にプレイすることはないけど、作曲の段階でそういったパートが必要だと感じたものはトムに助けを求めている。こういったホーン・セクションのサウンドとなると、彼がアレンジを考えてくれているよ。もちろん僕自身、作曲の段階で聴こえているようなパートもある。僕は特にサム・クックにかなり影響を受けていて、「That’s All It Takes」には彼に通ずるフレーバーがあるよね。
「662」や「Long Distance Woman」は力強いリフが印象的です。
「662」のリフはトムとzoomでセッションをした時にできたものの1つだね。あの時に出た様々なアイディアを組み合わせて試していた。彼のほうから“ここをちょっといじってみたら?”と言われることもあれば、僕から提案することもあって、色々弾いている中でトムが“もう1回それをプレイしてみて!”って言ってきたのが「662」のリフだったんだ。スタジオで多少整えたところはあったけどね。「Long Distance Woman」のリフは何年か温め続けていたものなんだけど、作曲のセッションの時にプレイしたらトムが気に入ってくれたんだ。これはスタジオでけっこう大々的に整えて、今の形になったね。この曲は歌詞との相性も中々良いものになったと思っている。
ゴスペルもメジャーの使い方のヒントになる。
最新作もギター・ソロが満載でテンションがあがりました! 「I Got To See You」のギター・ソロはメジャー・スケールの織り交ぜ方が素晴らしいですが、こういったキャッチーなメロディ・メイクのコツを教えてもらえますか?
R&Bやネオソウルと呼ばれているスタイルの音楽を聴くことをお薦めしたいかな。あぁいったスタイルでプレイされるリックやメロディはメジャー・キーが多くて、僕のバックグラウンドのひとつにもなっている。あとはゴスペルもメジャーの使い方のヒントとなっているよ。
「She Calls Me Kingfish」は逆にかなりロックなアプローチで、ギター・ソロはかなり長尺ですね。長い尺のインプロヴィゼーションでオーディエンスの耳を離さないためには何を意識すれば良いのでしょうか?
特定のスケールに固執しないこと、そしてひたすらくり返すようなサウンドにさせないことがポイントだ。あと、ダイナミックスを意識すること。最初から最後まで速いもしくはゆっくりとさせるのではなく、それらをうまくコントロールして緩急を作り出す。それでいて聴きやすいものを作ることが大切だね。
「Another Life Goes By」のソロだと少しジャジィなアプローチも聴けます。
この曲はマイナー・キーの曲で、アウトした音をたくさん使って別のフィーリングをもたらすことも意識したね。ずっとペンタトニック・スケールの中に収まり続けないようにしたよ。
ちなみにこの曲は打ち込みを生かしたリズムも現代的で印象に残ります。
昔はスローな曲を作るのがとても苦手で、どうもアップテンポな曲に偏りがちだったんだ。でもプログラミングしたビートは生のドラムとまったく異なったフィーリングになって、決まりきった枠組みから足を一歩踏み出して考えることができる。それでもブルースを感じることができるんだよ。
「That’s What You Do」を初めて聴いた時、シンプルなリックでありながらテイスト豊かに独特にプレイしているところがスティーヴィー・レイ・ヴォーンやアルバート・キングに通じるものを感じました。
それはあるね(笑)。レコーディングの時点からああいったスタイルを明確に求めていた。ストラトをプレイしていたから自然とスティーヴィーっぽいトーンを求めるようになったところもあるだろう。もちろんそれだけじゃなくて、アルバート・キングのリックが僕の体から滲み出てしまうくらい、僕にはああいったタイプのサウンドが備わってしまっているんだ。