Interview|エディ・クレイマーが回想するジミ・ヘンドリックスとの思い出 Interview|エディ・クレイマーが回想するジミ・ヘンドリックスとの思い出

Interview|エディ・クレイマーが回想する
ジミ・ヘンドリックスとの思い出

9月18日は最も偉大なギター・ヒーロー、ジミ・ヘンドリックスの命日だ。そこで本記事では、生前の彼をよく知る数少ない人物であり、多数のジミ作品に携わってきたレコーディング・エンジニア、エディ・クレイマーによるジミへの回想をお届けしよう。

(本取材は2020年11月に行なわれたものです)

取材=田中雄大 翻訳=トミー・モリー 写真=Chris Lopez


ジミから真夜中に電話がきて、
朝5時まで仕事をすることもあったよ。

ジミ・ヘンドリックスは1970年9月18日に亡くなりましたが、もしもあと2~3年生きていたら、アルバムをもう1枚作っていたと思います。ジミの死後に発表された『The Cry of Love』は、そうした作品の方向性を示唆するものだったと言えるのでしょうか?

 そう言っていいだろうね。もしジミが生きていたら『The Cry of Love』をしっかりと完成させて、新たな曲も書き加えられていたことだろう。彼は常に作曲をしていたからね。そして、その後も活動を続けていたら、ひょっとしたらオーケストラのアルバムを作っていたかもしれないし、ジャズのアルバムを作っていたかもしれない。ジミはとても発明的な人だったんだ。

『The Cry of Love』収録の「Freedom」や「Ezy Rider」は、ジミが当時求めた新しい音楽性を感じさせるサウンドです。このような曲が作られた当時、あなたもスタジオでともに制作作業にあたっていましたか?

 もちろんさ! 僕らは69年にエレクトリック・レディ・スタジオを作り始め、70年の3月~4月にかけて完成し、僕らがレコーディングを行なったのは5月から8月の4ヵ月間のことだった。ひたすらミックス、ダビング、レコーディングといったことをくり返したよ。その音源が『The Cry of Love』の収録曲になったんだ。

 スタジオの中はプロフェッショナルな空気で溢れ、音楽を作る純粋な喜びが感じられた。ジミにとって第二のホームと呼ぶべき場所で、実際、彼が住んでいたのはスタジオから歩いて5分くらいの場所だったんだ。夜7時のセッションの時間になったら必ずジミは準備万端の状態でスタンバイしていて、コントロール・ルームから彼の姿を覗き込むことができた。ジミの表情にはこのスタジオを所有することへの誇りが垣間見えたよ。どんなアーティストでも自慢のスタジオを所有していたらクリエイティブにならざるを得ないだろう? 彼はまさにそのとおりだったということさ。

ジミは毎日のようにスタジオでの模索を続けていたんですね?

 スタジオに10時間以上こもってジャムをしていたこともあったね。その中で新しい方向性を見つけていったんだ。ただ僕はその頃、レッド・ツェッペリンやウッドストックのプロジェクトなんかも抱えていたから、つきっきりで作業ができたわけではなかったけどね。

 しかし、僕がどこのスタジオにいようとも、ジミから真夜中に“今すぐスタジオに来て手伝ってくれないか?”と電話をもらうこともあった。すぐに駆けつけて早朝5時まで仕事をして、9時になったらほかの現場に行ったりもしていたよ(笑)。とにかく忙しい毎日だったんだ。

当時、『The Cry of Love』のミックス作業はどのように進めて行ったのですか?

 あのアルバムはそもそも2枚組のアルバムになる予定で、そのための十分な素材はそろっていた。でも不運なことに僕がミックス作業に入ったのは70年の8月、つまりジミがイギリスに旅立つ目前のことだったんだ。そしてジミは渡航先のイギリスで亡くなってしまった。彼と一緒にミックスできたのは「Dolly Dagger」や「Night Bird Flying」を含む4曲のみだったけど、それらはジミがあのアルバム全体をどんなサウンドにしたかったのかを教えてくれるヒントとなったんだ。

ジミとの仕事の中で、最も心に残っている瞬間は?

 そうだな、一番を決めるのは難しいかな……その代わり、面白い話があるよ。ある時ジミに“水の中にいるような音が出したいんだ。どうにかできないか?”と言われたことがあってね。僕は難しいと思ったんだけど、ジミが何度も相談してくるものだから“わかったよ、作ってあげるから見ててくれ!”と言い返したんだ。

 そこで、当時僕が抱えていたアシスタントを8番通りにあったクレイジー・エディというレコード屋に行かせた。いわゆるチェーン店だったけれど、ステレオ機材だったり、サウンドに関するものがなんでも置いてあるクールな店だったよ。そこで小さな8インチ・スピーカーが搭載されたプラスチックのエンクロージャーを買って来てもらって、スタジオでバケツの中に水を入れ、そこに向けてスピーカーを立てて、水面から跳ね返る音をマイクで録ったんだ。そうしたらスピーカーが滑ってバケツの中に落ちてしまい、マイクで“ボコボコボコッ”という音を拾ってしまった。ジミもその場にいたから“ほら、これが水の中の音さ。どうだ!”と言ったら、それ以降ジミが“水の中のサウンドを録りたい”と言うことはなかったよ(笑)。とてもおかしな話だろう?

作品情報

『The Cry of Love』 ジミ・ヘンドリックス

ソニーミュージック/SICP-4308/1970年発表

―Track List―

01.Freedom
02.Drifting
03.Ezy Ryder
04.Night Bird Flying
05.My Friend
06.Straight Ahead
07.Astro Man
08.Angel
09.In From the Storm
10.Belly Button Window

―Guitarist―

ジミ・ヘンドリックス