Interview|ナイア・イズミ『A Residency in The Los Angeles Area』での独創的アレンジ Interview|ナイア・イズミ『A Residency in The Los Angeles Area』での独創的アレンジ

Interview|ナイア・イズミ
『A Residency in The Los Angeles Area』での独創的アレンジ

ナイア・イズミが満を持してリリースしたデビュー作、『A Residency in The Los Angeles』。ライブではルーパーやボイス・パーカッションを用いた1人バンド・スタイルでの演奏も多いが、本作はバンド・セットというのも注目ポイントだ。そして、これまで歌モノのネオソウルでギターが活躍することは少なかったが、本作では醍醐味のひとつとして味わえるうえ、素晴しいクオリティの楽曲が並んでいる。世界中が注目するこのデビュー・アルバムについて、本人にたっぷりと語ってもらおう。

インタビュー=トミー・モリー 質問作成/文=福崎敬太 Photo by Svet Jacqueline

実はこのアルバムの録音は、2年前にはもう終えていたんだ。

『A Residency in the Los Angeles Area』はデビュー・アルバムということで、Tiny Desk Concertでも披露した「Soft Spoken」や「As It Comes」、代表曲「Voodoo」なども入った、自己紹介的な1枚だと思います。まずこの作品があなたにとってどんな作品なのか聞かせて下さい。

 世界に向かって一歩目を踏み出したアルバムだと思うね。それでいて、これは僕が初めてコラボレーションを行ったアルバムでもある。オータム・ロウ(編注:共同作曲で参加)とコラボレーションした楽曲があり、キーボーディストのサマー・スウィーサインが参加した曲もある。彼女らとはすぐに意気投合して、僕の家で話しながらギターやパソコンを触ってナチュラルな形で作っていったね。

 プロデュースをしてくれたトニー・バーグはピーター・ガブリエルやネヴィル・ブラザーズを手掛けたこともある人で、僕に様々なコードの使い方を教えてくれた。僕はボーカル・メロディを先に作ることが多くて、それに対して少しぶつかるようなコードをつけてしまう癖があったんだ。ライブだと気にならないけど、録音すると目立つところがあって、そういった箇所をトニーは指摘してくれた。逆に、僕が弾くクレイジーなコードを効果的に使って、歌をより引き立てるようなアドバイスをくれたこともあったね。あと、ミシェル・ンデゲオチェロとプレイしているエイブ・ラウンズも参加してくれて、特別な1枚となったよ。

レコーディングはどのように進んでいったんでしょうか?

 実はこのアルバムの録音は、2年前にはもう終えていたんだ。2019年の日本でのライブは、録音直後に羽を伸ばしに行ったようなところがあったんだよ。

そんなに前にできあがっていたんですか!?

 そうなんだ。COVID-19が流行する前だから、レコーディングの時は誰かしらスタジオに遊びに来てくれていた。タル・ウィルケンフェルド(b)みたいなハイレベルなミュージシャンも顔を見せてくれたし、ファミリー感があったよ。トニーも知り合いを見かけたら“この曲でちょっとベースを弾いていかないか?”なんて声をかけていた(笑)。レコーディングの日になって“この人に声をかけたら今日空いているかな?”なんて具合にドラムを叩いてもらった人だっていた。あれこれ指示せずにとりあえず感覚的にプレイしてもらうのが僕は好きで、世の中がこんな風になる前にそういったやり方ができてラッキーだったと思っているよ。

僕がやっていることはバッハと近いと思うんだ。

今作に収録された楽曲は作曲した時期なども違うかと思いますが、曲作りをどのように行なっていきましたか? 

 リズムマシンや口でビートを作るところから始めることが多かったね。リズムが何よりも大事で、話し方にだってリズムがあると思っている。そしてビートにマッチしたメロディを考えるんだ。で、次にそれを伴奏するための最も低い音を考えるのだけど、必ずしもそれがコードの中の音である必要ないと思っている。

 そうやってパートを少しずつ加えていって、時にはマルチトラックで録音することもあるし、譜面に書き出していくこともあるね。こうしていくとメロディに対して実験的なベースラインが組めるんだ。そのうえでギターを弾くと興味深いコードが発見できるし、変なフィンガリングの転回形を見つけることができたりするんだよ。

「Natural Disaster」や「Soft Spoken」のタッピングでのバッキングや、「Voodoo」の変拍子リフなど、どの曲も印象的なギター・フレーズがあります。楽曲作りの中で、その曲の顔になるようなフレーズはどう生まれるのでしょうか? 

 何よりもメロディが最初にあって、その合間で音を詰めていく。グッドなフィーリングを得るまで実験していくんだよ。

例えば「Honesty」はコードとアルペジオから始まり、後半は数本のギターが絡み合う複雑なアンサンブルに変わっていきます。こういったギター・アレンジはどのように組み立てていくのでしょうか? 

 これも色々と実験する中でグッドな感じになったら、いつの間にかオーケストレーションができあがっていたという感じかな。基本的にはプレイしているコードの中の音を組み合わせているのだけど、僕がやっていることはバッハと近いところがあると思うんだ。彼のベースラインって、オーケストラ全体でプレイしているコードの中から選んだ音でインプロヴァイズするように作られているんだよね。

 僕も同じようなアプローチでオーケストレーションを組み、コード・トーンを分解して複数のラインとして譜面上に書き出すようなことをしていて、リズムをキープしながらそれぞれの配置を実験していくんだ。だから、それが複雑なものになったとしても、全体のコードとして表現していることには変わりがないってわけ。様々なラインを組み合わせるのは少しパズルに近いような感覚もあるかもね。