Interview|久米優佑(PAM)7弦ギターで広げたプレイの可能性 Interview|久米優佑(PAM)7弦ギターで広げたプレイの可能性

Interview|久米優佑(PAM)
7弦ギターで広げたプレイの可能性

トリコンドルの久米優佑(g)とELLEGARDENの高橋宏貴(d)が組んだ2人組のインスト・バンドPAMが、約1年振りとなる新作EP『TWO SIDES OF THE SAME COIN』を発売した。新作はPAMらしいテクニカルな部分はそのままに、よりキャッチーな作品に仕上がっている。ここでは技巧派として知られる久米に、本作の聴きどころやギタリストとしてのこだわりについて話を聞いた。

インタビュー=井戸沼尚也 写真=櫻木ひとみ(ライブ写真)/Gatten(機材写真)

キャッチーだけど、よく聴くと難しい
そういう作りになっています

まずは、新作のコンセプトについて聞かせて下さい。

 今回のEPのタイトル、『TWO SIDES OF THE SAME COIN』は、日本語に訳すると“表裏一体”という意味があって、そこに2つの思いを込めています。1つは、コロナ以前とコロナ禍以降の大変な時期に、社会が大きく変わったように感じますが、実は根本の部分は変わらず、表裏一体なんじゃないかという思い。もう1つは、僕と高橋さん自身のことです。高橋さんの自由奔放な部分がジャケットでは自然や空という形で表現され、僕のテクニカルなところは機械的なイメージで表現されていて、2人は表裏一体であるということですね。

前作の1曲目はゴリゴリでしたが、今作の1曲目「Moon Light」はかなりキャッチーですよね?

 そこは大切にしたところですね。以前ならバッキングまで凝っていたところを、比較的シンプルにして、メロディを大事に聴きやすさを重視しています。と言っても、普通のフレーズだと自分自身が飽きちゃうんで、よく聴くと難しい。そういう作りになっています。

2曲目の「Two Sides Of The Same Coin」では、久米さんのシグネチャー・リックとも言えるアルペジオ+タッピングを全編で聴くことができますが、展開によって歪みの量が違いますね。

 同じフレーズでもクリーンだったり、歪みだったり、緩急をつけたかったんです。僕らの曲はインストですけど、曲を作る段階でAメロ、Bメロ、サビみたいな構成を考えて、そこに最適な音色を作っていく感じです。

この速すぎず遅すぎないテンポで、音色が変わっても綺麗な発音でアルペジオ+タッピングを聴かせるのって、実はもの凄く難しくないですか?

 めちゃめちゃ難しいですよ。今回、手癖はあまり出していなくて、出したい音や聴かせたいフレーズからメロディを作っているので、けっこう練習しました。当初の予定では、この曲はBPMが今よりも10くらい速くて、その時のほうが楽だったんですけど、メロディを生かしてBPMを落としたんです。それでこのパートはピックも使っていないものだから、強弱が出すぎてかなり難しくなりました。でも、基本的にはクリーンで弾ければ歪みでも弾けるので、クリーンで完璧に弾けるように練習しましたね。

後半、ちょっとメカニカルなフレーズに変わって、倍速になりますが、ハモリは人力ですか?

 あ、人力ですね。そこのフレーズは実はめちゃめちゃ簡単です(笑)。

ライブではどうするのでしょうか。

 僕がハモリの上のパートを弾いて、あとは同期させますね。

とにかく聴きどころの多い作品ですが、ギター・プレイのポイントは?

 ギター単体のタッピング・フレーズやアルペジオ・フレーズもそうなんですけど、バンドの中でのギターの音色の移り変わりというか、クリーンから歪ませた時のニュアンスの差、弾き方の違いを意識して聴いてもらうと面白いんじゃないかなと。フレーズがけっこう複雑にはなっているのですが、もう一歩踏み込んで音色とかを聴いてもらうと、もっと面白いかもしれません。

スライドを多用するのは
音の上がり方がメカニカルになるから

久米さんは、自分自身ギタリストとしての特徴はどんなところにあると考えていますか?

 やっぱりクリーンの音の良さや綺麗さ、タッピングやアルペジオのフレーズ、それからディレイの使い方ですね。ディレイは同じ空間系でもリバーブより好きで、ディレイを使っていない曲はないんじゃないかというくらい使っています。

確かに新作でもディレイの使い方は印象的でした。派手な符点8分とかではなく、滲ませたり、広げたり、奥行きを出したりといった、渋い使い方が楽曲を引き立てていますよね。

 ありがとうございます。実はそこに凄く時間をかけていますね。符点8分の追っかけディレイも好きなんですけど、派手なことよりも、裏で玄人っぽく聴かせることのほうがかっこいいなって最近は思っていて、そっちに寄っていますね。

あとは、オールドスクールのギタリストと違って、チョーキングをほとんどせずに音程を動かす時はスライドを多用しますよね。

 あ、そうですね。確かにチョーキングは全然しないですね……最後にいつやったかな(笑)。チョーキングって、音の上がり方がナチュラルじゃないですか。それに対してスライドは、音の上がり方がメカニカルになるんですね。あとは音の跳び方がチョーキングでは追いきれないということもありますね。

以前、ギター・マガジン本誌のインタビューでポール・ギルバートへの愛を熱く語っていただいたのですが、ポールだけの影響ではそういったスタイルにならないと思うんです。

 そうですね。それこそELLEGARDENの生形真一さん、STRAIGHTENERの大山純さんにはめちゃくちゃ影響を受けています。生形さんのアルペジオ、大山さんのディレイの使い方やフレージングには触発されましたね。他にも、ChonとかPolyphiaなどのバンドの音作りも参考にしたり、気になるバンドの楽曲や音作りの面で影響を受けることも多いです。

久米さんには“テクニカル”という冠がつくことが多いと思うのですが、練習はかなりしたほうですか?

 僕は中2でギターを始めて、中3で部活を引退してからは朝から晩までギターばかり弾いていました。1日8時間はやりましたね。

決まったメニューはあったのでしょうか。

 いや、とにかくいろいろな人の曲を弾く感じで、やっていました。ジョン・ペトルーシのフレーズをコピーしたり。基礎トレーニングはあまりやっていなかったんですよ。やったほうがいいのかな。もう少し右手、いけるんじゃないかと思っています(笑)。