Interview|告井延隆【Part 1】デビュー作『センチメンタル・シティ・ロマンス』 Interview|告井延隆【Part 1】デビュー作『センチメンタル・シティ・ロマンス』

Interview|告井延隆【Part 1】
デビュー作『センチメンタル・シティ・ロマンス』

告井延隆がセンチの三部作制作秘話を語った貴重なインタビューを、全3回に渡ってお届けする。まずは1975年にリリースされた、記念すべき1stアルバム『センチメンタル・シティ・ロマンス』から。作品紹介とともにチェックしていこう。

取材=河原賢一郎

『センチメンタル・シティ・ロマンス』1975年

1975年/CBSソニー

収録曲
1 うちわもめ
2 うん、と僕は
3 あの娘の窓灯り
4 庄内慕情
5 籠時
6 暖時
7 恋の季節 Part1
8 小童
9 おかめとひょっとこ
10 マイ・ウディ・カントリー
11 ロスアンジェルス大橋Uターン

テレキャスターとラップ・スティールが爽快に歌う記念すべきデビュー作にして世紀の大名盤

 1曲目のツイン・リードが流れ出した瞬間に、どうしようもないほどに心が浮き立ってくる。75年に発表されたセンチメンタル・シティ・ロマンスの記念すべきデビュー・アルバム。全国のファンが、このサウンドをどれだけ待ち望んでいただろうか。

 「うちわもめ」での“兜の緒をしめる”といった古風な言い回しや、やはり同じく「うちわもめ」になるが、“縁がにゃあ”といった名古屋弁の使い方など、その言語感覚とウエストコースト風のサウンドとの融合がとても新鮮に感じられた。「おかめとひょっとこ」における、昭和初期のモボ・モガの時代を思わせるようなノスタルジックな光景も、同時期の日本語のロック・バンドには思いつかない発想だった。

 細野晴臣がセンチを気に入った理由は、すごくよく分かる。西海岸風のロックとしてだけではなく、日本語のロックの血脈として、自分とおなじ資質を感じたからではなかったのだろうか。中野督夫と告井延隆によるギターの掛け合い、叙情感にあふれるペダル・スティールの音色、これらが重なれば恐いものなし。デビュー作にして、大きな金字塔をうち立てたアルバムだ。

(小川真一)

告井延隆 特別インタビュー
三部作秘話 PART1

センチ三部作について、ギター、ボーカル、マンドリン、ラップ・スティールなどでサウンドの方向性を決定づけていた告井延隆に話を聞いた。知られざる名盤の制作秘話に迫る。


70年代当時、センチのようなバンドは日本にいなかったんじゃないですか?

 いたかもしれないけど、たしかにレコードとして聴いた覚えはないですね。

では当時、最先端のものを作っているという感覚はありました?

 うーん、でも、あの頃に音楽やってるやつはみんなそうでしょう。俺が一番新しいって、思ってたと思いますよ。

2本のエレキ・ギターのアレンジという意味では、センチが最初期だと思うんですが、その辺はどうですか?

 いえいえ、そんなことはないですよ。シュガー・ベイブだってかなりのアレンジをしていたし、四人囃子も同期だしね。そもそも、はっぴいえんどが相当色んなことやってましたから。

結成当時、サウンドの方向性などはあった?

 そういうものを話し合ったことはないですね。 “ウエストコースト的なサウンドにしよう”なんて思ったことは一度もないです。結果的に、そうなった曲が多かったのかもしれないけど、ラテンもビートルズっぽいのもありますし、よく聴いてみると全然ウエストコーストじゃないんですよ、ウチは(笑)。

1stの曲作りはどのように?

 中野(督夫/ボーカル、ギター)の自宅がガソリンスタンドで、国道に面していた凄くやかましいところだったので(笑)、そこの2階で練習をしてましたね。練習がなくても暇な時は遊びに行くし、一種のフリースペースでした。そこで例えば中野がやってるのに、僕が合わせていくっていう感じかな。譜面も一切なくて、何もないところから誰かがやり始めたら、誰かがついていくという、そういう作り方です。だから、「うちわもめ」も「うん、と僕は」も最初は全然違う曲だったんですよ。フォークみたいな曲でした。それを“こうしたらどうか”って変えていったわけですよ。その場でギターで音を出せたから、そういう意味では今思うと奇跡ですよね。もちろん、そういうフレーバーを理解するメンバーじゃなかったら、僕が何を言ったってできないから嗜好性が凄く似てたんでしょう。で、録音までは練習に次ぐ練習。フレーズを覚えて、その通りにちゃんとできるかっていうのが1stのレコーディングでした。

ペダル・スティールとエレキの絡みがセンチの特徴ですが、昔からペダル・スティールは弾いていたんですか?

 録音の1ヶ月くらい前かな? ペダルスティールを売ってくれるという人がいたので、それを買ったんですよ。だから、1枚目のペダルスティールの演奏は相当稚拙ですね。

え? 現物を1ヵ月前に入手したばかりだったんですか?

 そうです(笑)。手に入れる前は、エレキ・ギターを膝の上に寝かせて、弦高を上げるために弦と指板の間に鉛筆を挟んで、ちょっとチューニングを変えてペダル・スティールのように弾いてたんですけどね。

なんと……。

 ちなみに1枚目と2枚目に関しては、僕は間奏のエレキ・ソロは一切弾いてないんですよ。なぜかって言うと、まだその頃はいつ辞めるかわからないと思っていて、“とにかくこのバンドを一人前にしなきゃいけない”という気持ちでずっとやってたので。だから、自分が前に出ることは避けていたんです。

つまり、ギター・ソロは、ほぼ中野さんの演奏ということ?

 そうです。2枚目までは完全にそうです。ツイン・リードは2人で弾いてますけどね。僕がフレーズを作って、“ここはこういう風に弾いて”みたいな感じで。

こと1stの中野さんのソロはメロがしっかり構築されていて、アドリブというよりは、書き譜のようにも聴こえます。

 そう、1stのソロはアドリブじゃないですね。あの人はね、そういう意味での完璧主義者だった。間奏があると、家で一生懸命作ってから録音するんですよ。ジョージ・ハリスンもそうだったらしいですけどね。だから、家で作ってきていないものを録る時は8小節に2時間くらいかかったりしたけどね(笑)。まぁどっちにしても、あの人のギター・ソロはいつも時間がかかったんだけどさ(笑)。

▲中野の愛器である72年製のテレキャスター。デビュー前に新品で入手し、1stのエレキのパートはこれで録音したとのこと。(撮影:星野俊)

ギター・マガジン2021年10月号には、本記事に加え、センチメンタル・シティ・ロマンス三部作のギター・フレーズ分析も掲載しています。

ギター・マガジン2021年10月号

●川谷絵音
●センチメンタル・シティ・ロマンス三部作物語
●『All Things Must Pass』とジョージ・ハリスンの魂の開花
●ナッグス・ギターズ トップ・ビルダーが練り上げる美しきハイエンド・ギター