2020年にメジャー・デビューして以降、勢いを増している3人組4ピース・バンド=ハンブレッダーズから最新作が届いた。タイトルはストレートに『ギター』ということで、ギタマガWEBとして、これは無視できない! 今回はギター&ボーカルのムツムロ アキラに、イントロやソロのこだわりなど、ギター愛たっぷりに語ってもらった。
取材=福崎敬太 写真=松本いづみ
“幅広く取り入れたほうがタメになる”っていう考えがあった。
今回初登場ですので、まずはギターを始めた経緯から教えて下さい。Wikipediaには“剣道が嫌になってクラシック・ギター”を始めたと書いてありましたが……(笑)。
(笑)。父親が僕が通っていた学校の教師をやっていて、“ギター・マンドリン部”の顧問だったんです。関西ではチラホラあるんですけど、クラシック・ギターとマンドリン、ローネ、コントラバスとかで合奏するクラシックの部活で。だから家には昔からクラシック・ギターがあったんです。で、剣道部に中学1年の時入ったんですけど、めちゃくちゃ体育会系だし厳しい先輩もいて、“なんとかしてここ辞めたいな”って思ったんですよね(笑)。曲がった理由ですけど、父親に“ギターやりたいんだよね”って言ったら辞めさせてくれるんじゃないかなっていうのもあって。
それがいつ頃?
中1の終わりです。中2からギター・マンドリン部に入ったので、そこがギターとの最初の出会いでしたね。
部活ではどういう楽曲をやるんですか?
クラシックの曲です。コンサートの中ではみんな知ってるJ-POPゾーンがあったりもするんですけど、基本的に練習するのはクラシックの楽曲でしたね。
そこからエレキ・ギターを弾くようなるのはどういう流れでしたか?
ちょうど中学2年に入ったくらいに、ゆずや19のCDを吉野(注:ハンブレッダーズの元ギタリストで、その後サポート・メンバーになった吉野エクスプロージョン)に借りて。で、“アコギでの弾き語りも面白そう”と思うようになったんですけど、家にはクラシック・ギターしかなかったので、タブ譜を見ながら弾き語るっていう生活を中2の時にずっとやっていたんです。そのあと、父親の弟、おじさんが“アキラこれ知ってるか?”って、ELLEGARDENのビデオを見せてくれたんですけど、“なんだこれすごいカッコ良い!”ってなって。それまでは指で19を弾いていたのが、“ピックっていうものがあるんだ”って意識したのはELLEGARDENに出会ってからだと思うんですよね。
それで中2くらいにエレキを買うんですか?
中3になってバスカーズのLPタイプを買ってもらったんですよね。で、そのエレキ・ギターを持ってニコニコ動画の前に年中いるような生活をしてました。
バンドを始める経緯は?
高校1年生になって、アニメの『けいおん!』を観た吉野から“バンドやりたいんだけど、一緒にやろうよ”って話を持ちかけられて始まりました。それから1ヵ月もしないくらいで、急にその文化祭に出ることが決まって。そこでは、僕のルーツとしてELLEGARDENの「Missing」と、吉野が好きだった『けいおん!』のエンディング・テーマだった「Don’t say “lazy”」をやったんです。
当時はどんな曲をコピーしていましたか?
高校時代は、いっぱいコピーしましたよ。自分たちの中で、“一回演奏した曲をもう一度やるのはダサいんじゃないか”みたいな変なノリがあって。毎回ライブの曲を変えるっていうのをずっとやっていたんです。で、レディオヘッドの「Just」とeastern youthの「青すぎる空」を同じライブでやって、銀杏BOYZで終わるみたいなこともありました(笑)。“幅広く取り入れたほうが、あとあとタメになるんじゃないかな”みたいな考えが薄っすらあったんでしょうね。だから、オジー・オズボーンの「クレイジー・トレイン」をやったりもしましたよ。
プレイヤーとして影響を受けたギタリストを挙げるとすると?
大阪のハヌマーンはすごく好きですね。アメリカン・フットボールも好きで、アルペジオの感じはすごい意識して作ってます。あと、凛として時雨のTKモデルを高校2年の時に買って、それからずっと使ってたんですよね。なのでTKもルーツにはあると思います。
“イントロでギターを聴かせてくれよ”っていうのは世の中に言いたいですね!
それでは最新作についても聞かせて下さい。今作はズバリ『ギター』ということで、我々としては見逃せないタイトルです(笑)。まずタイトルに込めた意味から聞かせて下さい。
この1年半くらい、コロナ・ウィルスが蔓延してから家にいる時間が長くなって、孤独感や閉塞感みたいなものを感じた人がいっぱいいると思うんです。自分も例に違わずそうで、そういったマイナスな感情を全部吹き飛ばすアルバムにしたいなと考えていたんです。で、できあがった曲を並べてみたら、ずっとギターが鳴っていたんですよね。じゃあ、もうシンプルに『ギター』でいいんじゃないかと。前作は『ユースレスマシン』ってダブルミーニング的なタイトルをつけたんですけど、今回はストレートなほうがわかりやすいと思ったんです。で、もうジャケもギターでいいんじゃないかと(笑)。これもちょっとギタマガっぽくしようかなって思って……失礼しました(笑)。

いやいや、機材企画の扉ページですね、わかります(笑)。このアルバムにおけるギターの役割はどのようなものになりましたか?
主役だと思いますね。今までは自分の好きなメロディと歌詞を書ければそれでいいと思ってバンドをやってきたんですけど、トイズファクトリーに所属してから、ギターの音作りも含めて1つ1つの音色にちゃんとこだわる時間が増えていったんです。だから、ギターだけでも主役になれるぐらい良い音になってるんじゃないかなと思っています。
これまでもそうですが、今作もギターのイントロが曲の顔になるようなものが多いですよね。ハンブレッダーズはイントロにかなりこだわっていると思うのですが、いかがでしょう?
イントロって2つ目のサビだと思っていて。やっぱりイントロでグッとくるかこないかで、そのあと聴くか聴かないかみたいなところもあるし、そこは手を抜けないですよね。最近はサブスクの影響もあって、歌始まりの曲が多いじゃないですか。やっぱりそれはちょっと寂しいんですよね。“イントロ聴かせてくれよ!!”っていう(笑)。“サビがいいのはわかるから、イントロでギターを聴かせてくれよ”っていうのは世の中に言いたいですね!
それはぜひ広く活動いただきたい(笑)! イントロは楽曲制作のどの段階でできあがってくることが多いですか?
けっこうあとのほうで、一番最後にサビを意識して作るかな。イントロの感じがサビでリフレインするのが気持ち良いというか、伏線回収みたいだなと思っていて。だからコード感も似ていることが多いと思います。
そのギターでの伏線回収は、表題曲「ギター」でも出てきますね。
これは最初からループものにしようと思っていたので、Bメロは以外は[Ⅳ-Ⅴ-Ⅰ-Ⅲ]の進行だけで曲を作って。で、サビの“錆び付いたギターでぶっ壊す/もう全部 全部 全部”っていうシンプルな言葉と歌詞が出てきたので、ここまでストレートに言ってるんだったらメロディも全部スケールの中の音でいいんじゃないかなと。それと合わせてイントロのリフも作って、ちょっとだけチョーキングするかな、みたいな作り方ですね。シンプル・イズ・ベストな曲だと思ってます。
「ガチャガチャ」のイントロ・リフは、ハードロックな感じもありつつキレもあってカッコ良いです。
あれはレッド・ツェッペリンを意識しましたね。リフものの曲が欲しくて、ダークなギター・リフから始めて。あと、最近の邦ロックはシングルコイルのストラト、テレ、ジャズマスターが多いので、コテコテのリフをハムバッカーで弾く曲が欲しいなと思って(笑)。だからドラムもそのリフに合わせて、クサめな曲にしようと思って作った曲ですね。
「スローモーション」や「名前」などのアルペジオで聴かせるものもハンブレッダーズらしさの1つですよね。
そうですね。あれはアメフトあたりを意識して作ってます。なんかテレビからそういうアルペジオが流れてきたら面白いかなっていうのもあって。単純に7thだったりadd9だったり、シンプルなおかずを加えたメジャー・コードなんですけど、それが2本でロー・フレットとハイ・フレットで絡み合ってるのが凄い好きなんですよね。これからもやっていくんじゃないかなと思います。
この綺麗なクリーンのアルペジオは楽曲に対してどのような効果があると思いますか?
ずっと聴いてきたからかもしれないけど、一番落ち着くイメージがあって。2本のアルペジオが絡まってることで、自分の中ではASMRみたいなヒーリング効果があるというか(笑)。2本が絡み合うことで共振して、倍音が鳴って満たされる感じがあります。
今作でのお気に入りのイントロは?
やっぱり「ガチャガチャ」ですかね。あとは「STILL DREAMING」も良い意味でJ-POPっぽくなったなと思っていて、すごく気に入ってます。あのブリッジ・ミュートだけでリード・ギターが進む感じっていうのも、大人っぽいんじゃなかなと(笑)。
“笑えるギター”が好きなんですよね。
今作にとってのギター・ソロとはどんな存在だと思いますか?
うき(g/サポート)くんのソロがほぼ全曲にあるので、やっぱり聴いてほしいです。最後のほうは編曲段階で“ギター・ソロをどう入れないか”っていう方向になったくらい、ずっとソロがあるぞっていう感じになっちゃいましたから。自分たちもそこにグッときてたので、やっぱり“見せ場”ですよね。ギター・ソロはこれからのバンドにもちゃんと存在してほしい。
ソロのフレーズはどうやってできあがっていくんですか?
新しいことはしてない、オールドスクールな作り方な気がします。で、耳に残ってほしいのでメジャー・ペンタで弾いている曲が多いし、逆にうきくんはそれとは違う方向でブルージィなフレージングにしてくれてるんじゃないかなっていうのはありますね。あと、ブルース/ロックンロールあるあるだと思うんですけど、2度から3度と5度から6度へのチョーキングが普通にめちゃめちゃ好きで。「ギター」のリフもそうなんですけど、チョーキングの導入は2度から始まってほしいっていうのはあります。
うきさんがソロをとる時は、わりとお任せですか?
お任せですね。うまいのでバツを出すこともあんまなくて。
ムツムロさんのお気に入りのうきさんのソロは?
「ワールドイズマイン」のギターの速弾きがアホっぽくて好きですね。“今どきそんなギター弾く?”みたいな(笑)。
最後のツイン・リードっぽい感じもクサくて良いです(笑)。
あのドラゴンフォース感が強いとこですね(笑)。あそこはもともとデモでは僕が弾いていたんですけど、うきくんに“メロスピみたいにアホっぽくしたいんだよね”っていうオーダーをしたら、“やっぱりハモリっしょ”と。なんか笑えるギターが好きなので、そこは意識しましたね。
今作で使った機材について教えて下さい。
ディレクター所有のギターもけっこう使いましたね。あと、大阪の心斎橋にある“八弦小唄”っていう工房が作ったTLタイプがめちゃくちゃ良くて。それをよく使ってました。
どんなモデルですか?
’62ぽい感じで、ローズウッド指板のアッシュ・ボディで黄色いフィニッシュです。けっこういろんなTLタイプを試奏しに行って、フェンダーカスタムショップの100万円くらいするものからXoticカリフォルニアのXTCシリーズも弾いたんですけど、なかなか50~100万円は踏ん切りがつかずにいて。で、三木楽器でパッと弾いた“八弦小唄”のモデルがすごく良かったので、その場で買っちゃいました。
アコギも登場しています。
アコギはJ-45ですね。これはビンテージの個体で、ディレクター所有のものです。あ、あとリッケンバッカーの12弦ギターを使いました! 「スローモーション」の単音で抜けてくるようなフレーズはそれです。Mr. Childrenが印象的な単音のフレーズで12弦を使っているって聴いて、参考にしたんですよね。
アンプも色々な種類を使い分けた?
そうですね。レコーディング・スタジオにあるマッチレスのDC-30だったり、テックさんに持ってきてもらったDivided by 13やマーシャルだったり。今回はその中でもマーシャルが多かったかな。
歪みは基本的にアンプ側で作る感じですか?
アンプ側と、足下はケンタウルスやJ. Rockett Audio Designのアーチャー使ったりしましたね。
では最後に、ずばり『ギター』のギター的な聴きどころを教えて下さい。
やっぱりギタリストには「ガチャガチャ」のギターを聴いてほしいな。リード曲でもないんですけど、こういう古めかしい音が好きなバンドがいるよっていうことを知ってほしいですね。「名前」のギター・ソロも良いし、「天国」の枯れた感じを意識して録った音も捨てがたい……。まぁ全部なんですけど(笑)。「プロポーズ」のソロはアルバムの中で一番いい気がしていて、うきくんの持ち味が出てる感じがします。
「プロポーズ」のソロは前半と後半で一気に風景が変わるようで面白いですね。
そうですね。途中でトリルをして“行くぞー!”っていう瞬間があるんですけど、それがバカっぽくてかなり気に入ってます(笑)。
レコーディング中のメンバーのテンションはどんな感じですか?
もう爆笑ですね(笑)。拳突き上げるみたいな。弾いてる最中とかも、みんな声出しながら録ってますよ(笑)。
そういった楽しそうな雰囲気も伝わってくるアルバムですね。
ありがとうございます。そういうオールドスクールなギターは今後も弾いていきたいですね。
Mutsumuro’s Gear
Pedalboard
【Pedal List】
①TC Electronic/Polytune3(チューナー)
②Guitar Tribe/Ibanez TS808 Mod.(オーバードライブ)
③Bogner/Ecstasy(オーバードライブ)
④Xotic/EP Booster(ブースター)
⑤Xotic/RC Booster(ブースター)
シンプルなムツムロのペダルボードは、①〜⑤まで番号順に直列でつながれている。
②は大阪のビンテージ・ギター・ショップが手がけたTS808のモディファイ品で、SRVサウンドを再現したもの。DRIVE=12時、TONE=2時、LEVEL=11時にして踏みっぱなしで使用。
③は歪みサウンドの時にオンにするのみで、ブースト機能は使用しない。サビなどでは④で、ソロの際は⑤でブーストさせる。