日本音楽シーン屈指の腕利きロック・ギタリスト=DURANによる2ndソロ・アルバム『Kaleido Garden』。打ち込み主体で構築された前作『FACE』(2018年)とは異なり、バンド編成による一発録りの生々しいサウンド、そして実験的なトラックの数々がぎっしりと25曲詰め込まれた渾身の1作である。“このスタイルは気持ちよく自分でいられる”と語るDURANに、制作について話を聞いていこう。
取材=田中雄大
人と音を出すことで生まれるもの、
そういう音楽を残したいなと。
今回の『Kaleido Garden』は1st作『FACE』(2018年)から様々な点で変化した作品だと感じました。サウンド的にも前作は打ち込みや宅録が中心でしたが、今回はスタジオでのセッションがほとんどでバンド的ですよね。
『FACE』の時は、それまでずっと色んなバンドをやってきたところからソロになるということで、人と作るよりも打ち込みを中心にして1人で全部やってみようと思ったんですよね。あと、父親がベーシストということもあってロックだけじゃなくブラック・ミュージックも聴いて育っていたので、そういう影響も一度自分の中で整理しておきたかったんです。でも今回は逆にバンドでのレコーディングに戻りましたね。コロナ禍の中ずっとライブもできないし、人と会うこともなかったので、やっぱり人と音を出したいなと思って。それによって生まれるものってあるじゃないですか。そういう音楽をちゃんと残したいなと。
現在は再開しつつありますが、あれだけライブがないのは本当に想像もできない状況でしたよね。
ライブができないのって自分の中で相当キツいんだなと思いましたよ。特に僕の場合はライブ向けの人間というか、作曲家やアレンジャーとしてではなくステージに立つプレイヤーとして呼ばれることがほとんどなので。ミュージシャンでも配信とかYouTubeとか、器用に色々できる人はできるじゃないですか。でも僕はそういうタイプじゃないので、自分にできる音楽を作るしかないなと改めて思いました。
収録曲数は25曲と多いですが、バンド的な生々しい曲もある一方、30秒~1分くらいの実験的なトラックも多く挟み込まれています。その意図は?
僕はライブでも曲間が気になるタイプで、静かになるよりずっと何か鳴ってるほうが好きなんですよ。だからアルバムも1枚通してトータルで聴けるようにつなげたいなと思って、音遊びみたいな実験的な曲を入れてみました。ギターのノイズの上でビンを叩いたり(笑)。前回はそういう遊びを忘れてたなと。でも面白いのが、30秒の曲でもライブでは7分くらいのセッションに発展できたりもするんですよね。
レコーディングはどうやって進めて行きましたか?
バンドで演奏してる曲は4日くらいで一気に録りました。ほとんど一発録り。いつもライブを一緒にやってくれているメンバーを呼んで、レコーディングの当日に“こんな感じで!”って曲を渡したりもしてましたね。やっぱり練習して来られちゃうとその通りにしかいかなくなるから、その場で演奏してもらったほうが瞬発力で面白くなったりすると思うんですよ。何も決めずにその場でセッションしたテイクをそのまま収録したりもしています。
ストイックですね! 何テイクかやり直したり、苦戦した曲はありましたか?
最高でも4テイクくらいまでしか自分にもメンバーにも許してなかったので、苦戦したっていうのはなかったですかね。むしろミスしてもいいやっていう感じだったので。あまり気付く人はいないかもしれないけど、例えば「Phantasmagoria」は僕が弾き間違えたままのテイクが入ってたりするんですよ。今ってデジタルの音楽制作がすごく発展していて、言ってしまえばGarageBandとかを使って素人でも音楽を作れるじゃないですか。でも僕はプレイヤーのパワーを信じてるので、あえてそういうところも残したほうが面白いのかなと思うんです。
プレイヤーの力という意味で、「Revive feat. Katsuma(coldrain)」は曲の半分以上がギターとドラムと歌だけのパートで構成されていますが、それでまったくアンサンブルの強固さが薄まらないのは腕のなせる技だと思いました。
それは嬉しいですね。僕はドラマーと遊ぶのが好きで、よくドラムと2人でスタジオに行ったりするんですよ。8ビートに合わせてひたすら弾いたりして。ああやってリフ一発とドラムでいけるのはそのおかげかもしれないです。
ストラトのノイズを取り除くと
良いところが残せないんですよ。
アルバムを通してギターの音がとにかくカッコ良くてシビれました! 機材に関して、ギターはいつものストラトですか?
何年か前に撮影してもらった時からほとんど変わってないです(笑)。レイ・ヴォーンの影響もあって、結局どうやってもストラトとフェンダー・アンプとTS808の音に自分の耳がなってしまうんですよね。どんな機材を使ってもその音に寄せちゃうというか。
1曲目「Answers」はギターと歌だけのシンプルな楽曲ですが、この曲のギターの音は本当にレイ・ヴォーンかと思いましたよ。
ありがとうございます。この曲は弾きながら録ったので、歌のマイクのほうに生のギターの音も入っちゃってるんですよ。よく聴けば聴こえるからエンジニアの人は気にしてたんですど、僕としてはそれもリアルで良いかなって。
たしかに、弦をヒットした時の音が聴こえますね。バンドでの曲はほとんど一発録りということでしたが、そちらはどんな手法でレコーディングしましたか?
スタジオの大きい部屋の中にギター・アンプもベース・アンプも入れて録りました。ヴァンス・パウエルという僕が好きなアメリカのエンジニアの人がいるんですけど、その人のスタジオは1つの部屋に全部入れて録るみたいで。それを見てると全然いけるなと。音楽性にもよると思いますけどね。
今作の音のカッコ良さにはそうした録り方も大きく影響していそうです。ちなみに、ストラトを良い音で鳴らす秘訣ってどんなところにあると思いますか?
僕はけっこうノイズが好きなんですよね。“ジーッ”っていうハムノイズ。そこがシングルコイルの良いところだと思っていて、あれって特にレコーディングだと嫌がる人が多いと思うんですけど、ノイズを取り除くと良いところが残せないんですよ。
なるほど! 弦の太さなどは?
ほとんどいつも半音下げなので.010-.052が基本です。レギュラーの時は.046くらいですね。
半音下げにするメリットとは?
開放弦の鳴り方が圧倒的に違うと思うんですよ。テクニカルなところはわからないですけど、弦の揺れ方というか鳴り方が好きなんですよね。普通にレギュラーでCを弾くより半音下げでC#を弾いたほうが気持ち良いです。どこかの現場に呼ばれても半音下げで行っちゃうから、自分だけ押さえてる位置が違うんですよ。ベーシストにやり辛いって言われます(笑)。
(笑)。ほかのギターやアンプを試したりすることはないんですか?
強いて言えばオールドのマーシャルは欲しいですかね。それでファズフェイスをブースターにして、完全にジミヘン(笑)。
さて、リリースの直後ではありますが、すでに次の作品の予定はありますか?
もう作り始めてます。どんどん音を残してくしかないですから。またある程度曲ができたらまとめて、次はレコードにしてもいいかなと思ってます。次回も打ち込みというよりは今回みたいなスタイルになると思いますね。
個人的にですが、バンド的なスタイルのほうがさらにDURANさんの持ち味が出ている印象です。
このスタイルが一番やりやすいし、気持ちよく自分でいられるのはここかなと思いましたね。音楽やってると多少は世の中のトレンドを探ったりするじゃないですか。今までそうやって色んなこと気にしてたけど、もういいかなって。それはほかに素晴らしいミュージシャンがいっぱいいるから、僕は僕の音楽を残して死ねばいいかなと(笑)。僕みたいなギタリストは絶滅危惧種みたいな部類だと思いますけど、自分ができることをひたすらやるしかないですから。