Interview|キダ モティフォ(tricot)新境地を切り拓くためのスクラップ&ビルド Interview|キダ モティフォ(tricot)新境地を切り拓くためのスクラップ&ビルド

Interview|キダ モティフォ(tricot)
新境地を切り拓くためのスクラップ&ビルド

聴き手の耳をつかんで離さない独創性に溢れたバンド・サウンドに、力強くも可憐で繊細なボーカルが絶妙にマッチすることで、唯一無二の音世界を生み出すtricot。彼女たちが約1年2ヵ月ぶりとなる新作『上出来』を完成させた。スリリングに展開する幾何学的なリフ・ワークを始め、感情を爆発させた長尺のギター・ソロ、多彩な表情を描き出すエフェクティブなサウンド・アプローチなど、音楽を魅力的に輝かせるギターが高らかに鳴り響く会心作と言えるだろう。バンドを牽引するギタリストのキダ モティフォに、アルバム制作について振り返ってもらった。

取材:尾藤雅哉(SOW SWEET PUBLISHING

どの曲にも“ギターっぽくない音”を
入れてみようと考えていました

1年2ヵ月ぶりの新作で、メジャーでは3枚目のアルバムになりました。今回、制作にあたってイメージしたことはありますか?

 イメージは特になく……ただ、どの曲に関しても、できるだけ“ギターっぽくない音”を入れてみようっていうことは考えていました。あくまでギターを使ってですけど。

たしかにこれまでの楽曲と比べて、音色の幅が大きく広がったように感じました。歪みだけでなく、モジュレーション、トレモロ、ワウなど、様々なエフェクターを駆使していますね。

 色々やってますね。前作(『10』/2020年)の制作時にコロナ禍になって、リモートで曲を作るようになっていったんです。それで、GarageBandでデモを作ることが多くなって。それがきっかけでソフト・シンセを触るようになり、“こういう音をギターでも出せないかな”って思ったことがきっかけかもしれないですね。あと、Line 6のHX Stompを新たに手に入れたことも大きかったです。あれはなんでもでき過ぎちゃう(笑)。色々とエフェクトを遊びながら試して“この音は曲に使えそうやな”って感じで取り入れていきました。ただ、時間をかけて作り込んでいったというよりは、感覚的に“このフレーズにはこの音がよさそう”って、直感で出てきたものを使うって感じでしたね。

となるとライブで使用するエフェクターが増えたりは?

 機材としては足下にHX Stompが増えただけなんですけど、操作がけっこう大変で……踏み替えに頭が追い付かなくてワタワタしてます。一杯一杯ですね(笑)。

リモートでの楽曲制作は、バンド・メンバーと一緒に音を出しながら作るのとは違いますか?

 最終的には全員でセッションして音を合わせながら作っていくんですけど、そこにたどり着くまでにちゃんと下準備していくようになりましたね。

設計図の段階から、メンバーとしっかり楽曲を共有してセッションに臨むようになったんですね。

 そうですね。でも設計図って言うほどちゃんとしたものではなくて、ギターの音だけとか、短いリフのアイディアとか、そんな感じのデモですけどね。その段階ではあまりエフェクトはかけてなくて、素の音で合わせながら、“こういう音色にしたらいいんじゃないか”と変化させていくこともありました。

DAWソフトでの制作は、いつまでも作業ができてしまうから終わりがないという話をよく聞きます。

 ただ、“あれもいいな、これもいいな”ってなっても、大体、アイディアは何個かに絞れてくるんですよね。絞った選択肢をとりあえず全部聴くと、いくつか似ていたりするので、自然と進むべき方向性はけっこう定まってると思うんです。なので、あとはもう自分のグッとくるものを選んでいく感じですね。

SRVが弾くジミヘンのカバー曲の
イメージでソロを弾きました

本作では、これまでの作品と比べて2本のギターがどちらもすごく自由な感じがしました。

 ギターがより“上モノ”になった感じはありますよね。ほかのバンドやったらピアノやキーボードで色付けするようなことを、今回はけっこうギターでやっています。

キダさんと中嶋イッキュウ(以下、イッキュウ)さんのツイン・ギターの役割について、イメージしたものはありましたか?

 イッキュウにはおもにコードを弾いてもらっているんですけど、単音のフレーズだけで寂しい時とか、サビでガツンといきたい時なんかに、バッキング要員としてギターを弾いてもらうというイメージでした。今回のアルバムだと、イッキュウがギターを弾いていない曲もいくつかあるんです。私が3、4本重ねていて。

ギターがより上モノ的な役割になったことで、アンサンブルの中には今まで以上にスペースができているようにも感じました。

 そうですね。あまり意図して削ったっていう感じもないんですけどね。ライブで鳴らせるギターは2本しかないし、そのうちの1本は“あるような、ないような”って感じではあるので(笑)、ベースとドラムと合わせたときにどうアレンジしたら音的に寂しくならないかってことは考えていました。

レコーディングの段階から、ライブでどう表現するかも見据えてアレンジを詰めていったんですか?

 いや、レコーディングとライブは別で考えていて。だから“レコーディングで3つくらいギターを重ねちゃったけど、ライブどうしよう?”みたいな楽曲はけっこうあります。

「夜の魔物」は、歌とギターだけというアレンジで後半に向けて進んでいきます。バッキングのギターにはモジュレーションがかかっていますが、こういうアレンジをチョイスした理由は?

 これも感覚的ではあるんですけど、曲の前半はギターと歌だけっていうのは最初から決めていて。それから“ドーン!”ってバンド・インする感じを想定していたんです。でも、素のギターの音と歌だけだとちょっと物足りなさを感じたので、“ギターの音を変えたほうがいいな”って。ピアノと歌だけで成立するような曲ってあるじゃないですか? そういうイメージに“ギターを使ってどうやって近付けられるか?”ってアプローチの仕方を考えていましたね。

この曲のラストでは1分半に及ぶ長尺のソロを聴くことができますね。今までのキダさんが見せてこなかったエモーショナルなフレーズで、すごく耳に残りました。

 ブルージィな感じ、出てますよね。この曲は、構成的にもアウトロの尺を長く取っていたので、“これだけ長かったら、たぶんギター・ソロなんやろうな”って。いつもどおりファズとかでジャーンとやってるだけでもよかったんですけど、“こういうのもできますよ”っていう(笑)。

個人的には名ソロだと思いました。フレーズはどのように作り込んでいったんですか?

 もう家でガチガチに作っていきました。じゃないと弾けないんで(笑)。イメージとしては、スティーヴィー・レイ・ヴォーン(以下、レイ・ヴォーン)。私の中ではレイ・ヴォーンによるジミ・ヘンドリックスの「Little Wing」のカバーのイメージでした……聴く人によっては全然違うと感じるのかもしれないですけど(笑)。

活躍した機材はHX Stompですね
ほぼ、あれの音が入っています

イッキュウさんはジェニーハイなど別のプロジェクトもやっていますが、それによって変化を感じる部分はありますか?

 今までイッキュウはtricotしかやってこなかったんですけど、ジェニーハイでは川谷絵音さんのプロデュース曲のように、バンド以外の人が作った曲を歌うじゃないですか。本人がどこまで意識してるかはわからないですけど、表現の引き出しは増えたのかな。人が作る曲だと、作ったその人の中に正解があって、それを自分で汲み取って表現しないといけないですよね。そういう経験を積んできているから、“表現力”なんかは今まであったものにさらにプラスされたんじゃないかな、と思います。

キダさんも赤い公園のサポートをやったりしていましたが、ほかの現場を経験すると変わる部分はありますか?

 自分のバンドしか知らないよりは、ほかの人のやり方を知ることができて勉強になりますね。“そういうやり方もあるのか”みたいな。

「餌にもなれない」は中尾憲太郎(以下、憲太郎)さんのプロデュース楽曲です。

 これまでの自分は“プロデュースされる”ってこと自体がどういうことなのかわかっていない部分があったんです。でも“憲太郎さんやったら感覚も近そうだし、そういう人にプロデュースしてもらったらどうなるんやろう?”って興味があったというか。好奇心ですよね。

ワウとシンセベースがフィーチャーされたtricot流のファンキーなナンバーですが、なぜこの曲を一緒にやろうと思ったのですか?

 一応、もう1曲候補があって、ふたつのデモを聴いてもらって選んでもらいました。普段、私はデモを持っていくと自分にはない視点を求めるというか、“自分が作ったものをぶっ壊すくらいのアイディアが欲しいな”って思うんですけど、憲太郎さんは最初のデモを「いいやん」って言ってくれて。だからデモに忠実に、さらにバンドでブラッシュアップして仕上げていきました。

一緒にやってみて、どうでしたか?

 曲や楽器のフレーズに対しては特に言及されないんですけど、とにかく“いかに熱量を出すか”をすごく大事にしていましたね。それと、アンプの設定や音作りなんかにもこだわったんですよ。私たちだけでやってると、音作りとかあまり細部までわからない部分もあるので、“もうこれでいいや”っていう風にしちゃってるところがあるんです。でも、1つのフレーズでも“こっちのアンプも試してみよう”、“ギターも換えてみよう”ってちゃんと憲太郎さんと一緒に突き詰めていきました。あと、自分たちだけではミックスもこだわり切れないんですよね。そこをしっかりと突き詰めてもらえるってありがたいなって。

色んなギターを試して音を決めていったんですね。

 この曲はバッキングの音がなかなか定まらなくて、結局イッキュウのギターを私が弾きました。ビンテージの赤いストラトですね。

レコーディングで使用した機材についても伺います。ギターはシグネチャーのAltero Custom Guitars(以下、アルテロ)ですか?

 アルテロのシグネチャー・モデルのSTタイプを2本(Astra KID-A/KID-A Mk-ll)と、フェンダーのジャズマスター(Made in Japan Hybrid II Jazzmaster)。あとはハムバッカーが搭載されたフェンダーのTroublemakerとストラト。ギターはその5本ですね。

アンプは?

 アンプはフェンダーのTwin Reverbです。ほかには「餌にもなれない」のバッキングとかでジャズコ(ローランドJC-120)を使ったくらいですかね。

なぜジャズコを?

 レコーディング・スタジオにあったアンプを使ったんですけど、憲太郎さんが“ギターを換えても音がアンプの音になっちゃうから、アンプも換えちゃおう”みたいな感じでしたね。

今回の制作で、活躍した機材をあげるなら?

 やっぱりHX Stompですかね。ほぼ、あれの音です。入ってるのは。

HX Stompを買えば、本作の曲のサウンドは出せる?

 はい、出せます(笑)。

キダさんのシグネチャー・エフェクターであるKAEDE-楓-の発売もトピックの1つですよね。すぐに完売してしまう人気ぶりでした。

 今はもう、販売終了しました。このペダルもレコーディングでけっこう使いましたね。細かくは覚えてないんですけど、大体の曲でメインの歪みエフェクターとして使ってると思います。

歪みといえば、「いない」ではファズっぽい感じが耳に残ります。アルバムの中では激しめなほうですよね。

 そうですね、このアルバムの中ではけっこう歪みの量は多いです。ただ何を使ったのかは……忘れました(笑)。ちゃんと記録してればいいんですけどね(笑)。たぶん、HX Stompに入ってるもの……のはずです。

活動を始めてから10年が経って
“こうじゃなきゃいけない”を
またぶっ壊してる感じですね

結成から10年以上経って、“tricotらしさ”って変わってきたりしましたか?

 10年以上やってきても、まだまだ知らないことというか、新鮮に思えることがあって。それを“いいな”と思えるのことが、tricotらしさかなと思いますね。プロデューサーを入れてみたり、色んな音色を使ってみたりとか。

長尺のソロも弾くようになったり。

 ね(笑)。初期では考えられなかったですけど。

ちなみにtricotには変拍子のイメージがありますが、「ひとやすみ」を聴いて、もうそこに囚われているわけでもないんだなと感じました。

 うん、そんなにこだわりはないというか、結果としてそうなっただけというか。もともとtricotを始めた時は、“こうじゃないといけない”みたいな既成概念をぶっ壊したい気持ちがすごく強かったんです。で、変拍子のフレーズを取り入れたりして。でも活動を続けるうちに“そういうバンド”って思われることが増えてきた。そうなると、逆にそっちに縛られちゃうのも何か違うなって。だから10年経って、“こうじゃなきゃいけない”を、またぶっ壊してる感じですね。

それでも、どうしても匂いは残ってしまうところはありますよね。

 まあ、そうなんですけど……“絶対やりたくない”とかでもなく、自然に出てきたもので、それがカッコよかったらOKって感じですね。

改めて、作品制作を振り返って一言お願いします。

 アレンジに関しても、ただ弾くだけじゃなくて、ギターとベースとドラムがどういうふうに絡むかをちゃんと考えるようになって。それプラス、歌のアンサンブルについても、ちゃんと考えようっていうふうにはなってますね。10年以上バンドをやってきて、“また新たに成長したな”、“これから先も変わり続けていくんだろうな”と思えるアルバムができたと思います。

作品データ

『上出来』 tricot

cutting edge/8902 RECORDS/CTCR-960061/2021年12月15日リリース

―Track List―

01.言い尽くすトークします間も無く
02.暴露
03.いない
04.ティシュー
05.カヨコ
06.餌にもなれない
07.Dogs and Ducks
08.スーパーサマー
09.いつも
10.夜の魔物
11.ひとやすみ
12.上出来

―Guitarists―

キダ モティフォ、中嶋イッキュウ