Interview|命(-真天地開闢集団-ジグザグ)快進撃を続ける異才のプロ意識。 Interview|命(-真天地開闢集団-ジグザグ)快進撃を続ける異才のプロ意識。

Interview|命(-真天地開闢集団-ジグザグ)
快進撃を続ける異才のプロ意識。

強固な世界観を打ち出していながら、ビジュアル系の枠を超えてアピールする力を持った楽曲作りで注目を集めている3ピース・バンド-真天地開闢集団-ジグザグ。彼らが3rdアルバム『慈愚挫愚 参 -夢幻-』を完成させた。同作はヘヴィになりすぎないキャッチーなギター・ロックとマニアックな要素が同居した1作。彼らならではの美意識が根底に流れつつ、玄人も唸る高度な演奏力が十二分に味わえる。バンドの中心的人物であり、ギタリストとして多彩な表現を聴かせる命に登場願い、新作について語ってもらおう。

取材=村上孝之 撮影=You Ishii
*本記事は『ギター・マガジン 2022年2月号』から転載したものです。

1曲を通して同じような雰囲気の
曲はすぐに飽きてしまう。

『慈愚挫愚 参 -夢幻-』の制作に入る前は、どんなことを考えていましたか? 

 作っていくうちに、今の自分たちが提示したいものが見えてきました。具体的に言うと、“歌もの”ですね。“歌を大事にしている楽曲”ということがテーマになったんです。

その結果、このたびの新作は非常にキャッチーな魅力に満ちた作品になっています。曲を揃えていく中で、キーになった曲などはありましたか?

 どうだろう? 印象が強いのは「ラスデイ ラバー」かな。でも、「僕ノ旋律」も悩ましいし……いや、決められないですね。今回はどの曲もすごく気に入っているし、全部がアルバムの中で大事な役割を担っているから。

なるほど。まず今作は「タガタメ」や「コノハ[AL ver.]」、「Requiem」など、意表を突く場面転換を生かした曲が多くなっていませんか?

 俺は昔からそういう曲が好きなんです。ただただハードだったり、1曲を通して同じような雰囲気の曲はすぐに飽きてしまう。ただ、いろんな要素を無理やりくっつけました、みたいな曲は好きじゃなくて。ちゃんと1つの作品としてまとまりがありつつ、でも一辺倒ではなくて、飽きないところに落とし込むのを大事にしています。

楽曲の展開は、曲を作っている時に自然と浮かんでくるのでしょうか?

 曲にもよりますけど、例えばイントロ、Aメロという風に流れで作っていくと、自然とサビで違う雰囲気にいきたくなって、アイディアが降ってくる、ということが多いですね。強引にひねり出すという感じではない。ほかの曲のデモからサビを持ってきたりすることも、たまにありますけど。

展開のための展開ではなく、心地良さを大事にしているんですね。それに、スロー・チューンの「昴」やパンキッシュな「ナニモシタクナイ」などもアルバムの好アクセントになっています。

 「昴」は前回の2ndアルバム(『慈愚挫愚 弐 ~真天地~』/2020年3月)の頃にデモができていたんですけど、2ndに入っている「忘却の彼方」という曲と張り合っていたんです。アルバムに入れるのは、どっちが良いかと。両方を本格的に歌ってみた時に「忘却の彼方」はバチッと決まったけど、「昴」は決まらなかったんです。それで、今回改めて「昴」をブラッシュアップして、キーも変えたりして歌ったら“おっ、いい感じだぞ”と。ようやく陽の目を見ることになりました。

 「ナニモシタクナイ」は仕事でモヤモヤしていて、なんだか何もやる気が起きない時があって、それをそのまま曲にしました。曲を作ったというよりは溜まっていたフラストレーションを吐き出したという感じで、気がついたらできていましたね。もう子供も、大人も、誰でもこの曲を叫んでいただけば、スカッとした気持ちになれると思います。

いかにコンパクトな環境で
プロフェッショナルな仕事ができるか。

続いて、ギター関連の話にいきます。今作を作るにあたり、ギターの面で大事にしたことは?

 これは自分の中でのこだわりですけど、あえて実機のアンプを使わないようにしているんです。

えっ、そうなんですか? それはなぜでしょう?

 “マイナー・バンドあるある”ですけど、まったく売れていなくて、お客さんが1人もいないようなバンドに限って、ライブの時にやたらいっぱい機材を持ち込んでいたりするんですよね。それを見て、カッコ悪いなと思ったんです。

 機材にこだわるのはいいんですけど、転換ですごく時間がかかってお客さんやほかのバンドに迷惑がかかっているのに気にしない。でもいざライブが始まったら、お客さんは無反応、という。そういう人たちに対して悪い印象を持ったし、逆にMac1台でカッコいい音を鳴らして人気のあるバンドが魅力的に見えたんです。

 そういうのを見て、音楽というのはどんな機材を使っているかではなく、結果としてどんな音を出しているかが大事だなと思うようになった。そういう思いのもと、ギターに限らず、とにかく環境をシンプルにしていったんです。

 昔はそれこそ大きいスタジオを自宅に持って、機材とかアンプをいっぱい並べて……というのに憧れましたけど、今は“いかにコンパクトな環境でプロフェッショナルな仕事ができるか”に魅力を感じています。今の時代ならではですけど、令和の今ならそれがカッコいいなと個人的には思います。

実際、今作のギターはオール・デジタルということを感じさせない音になっています。プレイ面では、まずは3ピース・バンドでいながらツイン・ギターを思わせるバッキング・アプローチを採っていることが印象的ですね。

 左右のギターが違うプレイをすることで生まれるステレオ感も好きなんですよ。なので、“3ピース感”ということにはとらわれずに、作品として納得のいくものに仕上げることを重視しています。気持ちいいステレオ感というのは、ただ単に2本のギターが違うことをすれば良いわけではないんですよ。そこはいつも気にしますね。

リード・ギターのアプローチが多彩かつ的確なところもポイントですが、ウワモノはどんな風に作っているのでしょう?

 頭の中で勝手に流れることが多いですけど、それが“ギターじゃないといけない”というこだわりはないです。俺がまともに弾ける楽器はギターだけだけど、それをどんな楽器に置き換えたら一番良いかと考えて、ギターが合えばギターにするし、ピアノが合うならピアノにする。ギターを持って、オケに合わせて色々弾いて……ということは少ない。だから、リフとかもそうですけど、自分の手癖みたいなものは出ていないと思います。

自身のギター・プレイで、今作で特に印象の強い曲を挙げるとしたら?

 それもたくさんありますけど、特に気に入っているのは「僕ノ旋律」。ちょっとプログレっぽいイントロで、弾いているフレーズは別にトリッキーではないけど、リズムの拍が変わっていて、アンサンブルになると気持ち良い。このイントロは面白い感じになったなと思いますね。あと、この曲は間奏に付点8分のディレイを使ったフレーズを入れました。俺は付点8分のディレイも好きなんですよ。昔は付点8分のディレイってお馴染みでしたけど、最近はあまり聴かないから逆に面白いなと思って入れることにしました。

「死神」と「コノハ [AL ver.]」のテクニカルなギター・ソロも聴きどころです。

 「死神」のギター・ソロはデモの段階でほぼ出来上がっていました。仮で、なんとなくこんな感じかなと弾いたソロが“カッコいいな”となって、それを清書したんです。後半のタッピングも自然と出てきました。逆に言うと、俺はこういうのしか引き出しがないんですよ(笑)。ギターで一番練習していたのがメタルだったので。だから、勢いで行ったソロという感じですね。

「コノハ [AL ver.]」のソロも最後に高速6連符が出てきて、なおかつハモッていて、“おおっ!”と思いました。

 ありがとうございます。ああいうのが好きなんですよね。自分の中では好きなことをやっているだけなので、聴いて気持ちが上がったとしたら嬉しいです。

上がりました。ギター・ボーカルの場合、ギターは二の次になる人も多い中、命さんの場合は両立していますね。

 俺はもともとギターから入ったタイプなんですけど、歌うようになってギターが煩わしくなりました。それで歌の練習ばかりしていて、完全に脳ミソが“ギタリスト脳”ではなくなってしまった時期が長かったんですよ。ここ数年でギタリストとしての部分が帰ってきた感じで、まだボーカリストという意識のほうが大きい。だから、今は“その気になれば弾けるよ”という感じ(笑)。

 今後はギターも、もっと突き詰めていこうと思っています。ただ、あくまでボーカリストとしてギターを弾いているので、一般リスナーに寄り添ってギターを弾けているのかなというのはあって。これ以上ギターが出しゃばったらうるさいなとか、逆にちょっと足りなくないかといった匙加減は、昔よりも上手になっていると思う。そこは大事にしていきたいですね。

ハイゲイン・アンプのクランチ。
これが理想だと行き着いた。

レコーディングで使用した機材も教えてもらえますか?

 ギターはフェンダーのテレキャスター(Player Plus Nashville Telecaster。写真で持っているもの)とHISTORYのTLタイプ(Cool-Z Series Z2M-CFS)。その2本しか持ってないんです(笑)。

2本の使い分けは?

 明確なポイントはないんですが、HISTORYのほうが分厚い音がするので、パワー・コードで“ベタッ”とさせたい時はよく手に取るかもしれない。反面、カッティングやロー・ゲインのクランチ・トーンでコード感を生かしたりする時はフェンダーが多い気がしますね。あと、2本ともリアPUはシングルコイル・サイズのハムバッカーに換えています。それから、アコースティック・ギターはヤマハのアコギ(LL6 ARE)を使いました。

ギター・ソロもテレキャスターですか?

 そう。テレキャスターっぽくないソロを、テレキャスターで弾いているという(笑)。

アンプはいわゆるプラグイン・ソフトを使っているんですか?

 全部シミュレーター系です。メインにしているのはポジティブ・グリッドのBIAS AMPとBIAS FX2です。アンプはメサ・ブギー系のメタルでハイゲインなモデリングを使うことが多いですね。そういうアンプをチョイスして、ゲインを1とかにして鳴らすんです。ハイゲイン・アンプのクランチが良いなと思って。色々試したんです、ハイワットとかVOXとか。でも、自分がイメージしている音とは違っていて、ハイゲイン・アンプを歪ませずに使うというイレギュラーなところに辿り着きました。

 最近は“目ではなくて、耳で判断する”ことの大事さを実感しているんです。リズムの縦とかも波形で見て合っていても、耳で聴くと気持ちよくなかったりするんですよね。逆に、波形をいじってリズムの縦を完全に合わせても心地よい音楽にはならないし。だから、バンドが出すグルーヴも、歌のピッチやリズムも、ギターの音作りも、すべて耳で判断しています。

それは本当に大事なことだと思います。さて、『慈愚挫愚 参 -夢幻-』は上質な楽曲やアレンジ、プレイなどが満載の充実した1作になりました。アルバムを完成させて、今はどんな思いですか?

 『慈愚挫愚 参 -夢幻-』は今までにもあったような楽曲も入っていますが、新境地の部分もいっぱいある。その結果、よりコアな音楽好きの人にも聴いてもらえるし、ライトな音楽好きにも楽しんでもらえるかなと思います。

 「僕ノ旋律」は、まさにそれを象徴するような曲ですよね。ポップスが好きな人にはナチュラルに良い曲だなと思って聴いてもらえると同時にプログレ的な要素もあって、音楽好きな人にも楽しんでもらえると思う。

 『慈愚挫愚 参 -夢幻-』はそういうバランスが今までで一番上手く取れたアルバムになったので、より多くの人に届くといいなと思っています。

作品データ

『慈愚挫愚参- 夢幻-』
-真天地開闢集団-ジグザグ

CRIMSON/CCR-043/2022年1月5日リリース

―Track List―

01.-夢幻-
02.Aria
03.ラスデイ ラバー
04.タガタメ
05.僕ノ旋律
06.昴
07.死神
08.いいこいいこして
09.コノハ [AL ver.]
10.Requiem
11.燦然世界
12.ナニモシタクナイ

―Guitarist―

作品データ

『慈愚挫愚 5周年記念禊 ~ハキュナマタタ~』
-真天地開闢集団-ジグザグ

CRIMSON/CXR-002/2020年1月1日リリース

―Track List―

01.あっぱれ珍道中
02.メイドカフェに行きたくて
03.コノハ
04.ニイハオ・ワンタンメン
05.其れでも花よ、咲け。
06.mc
07.さくら さくら
08.卒業
09.あいのかたち
10.忘却の彼方
11.mc
12.拙者忍者、猫忍者。~木天蓼三毛蔵と町娘おりん~
13.兎 girl
14.Requiem
15.Guru
16.愛シ貴女狂怪性
17.傷と嘘
18.キーウィのさんぽ道
19.影丸 -kagemaru- Drums solo
20.顔が好き
21.夢に出てきた島田
22.復讐は正義
23.きちゅねのよめいり
24.ええじゃないか
25.Promise

Disc2
01.卑弥呼-HIMIKO- ([関西編] at Zepp Osaka Bayside)
02.悪いのはバンドマン ([関西編] at Zepp Osaka Bayside)
03.キーウィの故郷 ([関西編] at Zepp Osaka Bayside)
04.ゴミはゴミ箱へ ([関西編] at Zepp Osaka Bayside)
05.off shot

―Guitarist―

『SPECIAL ARTIST BOOK -真天地開闢集団-ジグザグ』

愚かな者に救いの手を——ビジュアル・シーンを越え、今最も注目される3ピースバンド-真天地開闢集団-ジグザグ、待望のアーティストブックが登場。

品種ムック
仕様A4変形判 / 128ページ
発売日2021.12.21
ISBN9784845637034

*このインタビューはギター・マガジン2022年2月号から転載したものです。

ギター・マガジン2022年2月号
レイドバック期のエリック・クラプトン

レイド・バック=「くつろいだ、リラックスした」の意。1970年代中期、3年間の沈黙を破ったエリック・クラプトンは“レイド・バック”と呼ばれる穏やかな作風のアルバムを次々と生み出していく。スライド・ギターの大幅な導入やレゲエへの接近、アコギの多用といった豊かな音楽素材がブレンドされた自然体でゆったりとしたサウンドは、ちょっぴり肩の凝る今だからこそ染み渡るものがあるかもしれない。というわけで今月は、レイド・バック期の中でも1974年から76年の3年間にフォーカス。本誌初のレイド・バック特集、ごゆるりとご堪能ください。