Interview|布袋寅泰東京2020パラリンピック開会式への挑戦 Interview|布袋寅泰東京2020パラリンピック開会式への挑戦

Interview|布袋寅泰
東京2020パラリンピック開会式への挑戦

ギタマガ2022年3月号『ギタリスト 布袋寅泰のすべて』では、“15の挑戦”というテーマのもと46年のギタリスト人生を振り返ってもらった。その中から、「東京2020パラリンピック開会式への挑戦」を抜粋してお届けしよう。2021年8月24日に出演した東京2020パラリンピック開会式でのパフォーマンスは多くの感動を呼んだが、その制作はどのようなものだったのだろうか。

インタビュー=小林弘昂 写真=TAKAKI_KUMADA
※本記事はギター・マガジン2022年3月号『ギタリスト 布袋寅泰のすべて』から一部抜粋したものです。

“これは僕の集大成だな”っていう2曲ができたんです。

コロナ禍の中でも布袋さんは東京2020パラリンピック開会式へ出演し、世界中を盛り上げてくれました。オファーが来たのは去年の3月だったそうですが、その時はどう思いましたか?

 “きたか!”という感じでした。10年前に移住した時がロンドン・パラリンピックの年で、テレビをつけるとパラリンピックのオープニングをやっていたんですよ。初めて観て、もの凄く圧倒されて。“パラリンピックに関わってみたいな”と思いましたよ。3月に話が来た時は“片翼の飛行機が飛び立っていくストーリーに音楽を付けてほしい。パフォーマンスもお願いしたい”という内容だったんです。でも、その時はロック・ダウンが厳しかった時期で“引き受けても日本に行けなかったらマズイな”と思ったり、オリ/パラの開催に対して反対する意見も多かったし、すべてがネガティブな方向に連鎖していった時期ですからね。そういう流れの中で世間の矢面に立たされることはきっと家族も望まなかっただろうから、少し悩んだんです。

そうだったんですね。

 ただ、出演を考えていくにつれて“パラリンピックの精神を伝えるために自分が必要とされているのはとても光栄なことだし、BOØWYから始まった40年の中で、伝えきれなかった僕のすべてをここで出せるのではないか?”と思ったんです。ピアノからスタートして、ギターを始め、バンド時代を経たのち、映画音楽も作ったり……僕の音楽の根底はロックンロールですけど、それだけじゃない。そう思ったら断る理由なんて1つもないなと。むしろ頑張っている人々を音楽で応援するのは僕の目的で、一番の喜びでもあるわけで。そして引き受けてからは迷いなく作曲に取りかかりましたね。

作曲はどのように進みましたか?

 細かいオーダーがありました。初めのZoomミーティングで、演出家のウォーリー木下さんと会話をしながら片手でメモをしていったんですよ。“ここでデコトラが出てくる。グーっと回転して、それを囲んで障害を持ったキャストたちがワーッと踊り出す。そこからこうこうこうで……これがだいたい4分ですね”というわけです。それをメモしていったら、自分の中でほとんど完成形が見えてきて。“『シルク・ド・ソレイユ』みたいなサーカスティックなものはどうでしょう? 2曲目はピンク・フロイドみたいに少し壮大な世界観でも良いんですか?”と、僕からも色々と質問を投げて、その返答が頭の中で完全化しちゃって、ひと晩でデモ・テープを作っちゃったんですよ。それを次の日に送ったらみんなビックリしていて(笑)。

(笑)。

 そこに振り付けの森山開次さんから細かい指示があって。“何分何秒で誰々が回転する”とか、“何秒で主人公の心が揺れ動いて、ここで光をたぐり寄せる”とか、そういう演出ノートが届いたんです。それに合わせて曲を形にしていったんですけど、出来上がった2曲には、僕のすべてが入っているというか。ビートもあれば、泣きのギターも入っている。つまり、デヴィッド・ギルモアも入っていれば、エイドリアン・ブリューも入っているし、T・レックスもいるわけで。僕が好きなすべてのものが入っているんですね。

ルーツがすべて入っていると!

 音楽のアレンジも、サイモン・ヘイルというオーケストラ・アレンジャーの家に行って、細かく楽器の編成まで打ち合わせをして積み上げましたね。“これは僕の集大成だな”っていう2曲ができたんです。本来なら開会式には6〜7万人の観衆がいたわけですけど、無観客でね。でもそこには本当に多くの演者がいて、僕ばかりではなくみんなを映してほしい思いもあったんですけど、あのシーンはロック・アイコンとしての“ギタリスト布袋”の登場じゃないですか? 僕があそこでギターを弾く限り、ショウの中心人物としての存在感を発揮しなければならない。ストーンズの時もゲストとして華やかでいなければいけなかったように、僕は僕でなければいけない。そういうものを背負って引き受けましたけど、自分の中では出演者全員と共に、大切な演目を音楽家として創り上げたという意味のほうが大きいですね。

ギター・マガジン2022年3月号
ギタリスト 布袋寅泰のすべて

2022年3月号のギター・マガジンは、“ギタリスト 布袋寅泰のすべて”。昨年デビュー40周年、そして今年2月1日に60歳を迎え、新作『Still Dreamin’』をリリースした布袋寅泰を、140ページにわたる大ボリュームで特集!

作品データ

『Still Dreamin’』
布袋寅泰

ユニバーサル/TYCT-60190/2022年2月1日リリース

―Track List―

01. Still Dreamin’
02. Do you wanna dance?
03. Let’s Go
04. Starlight
05. コキア
06. オペラ
07. Pegasus (Album version)
08. 理由
09. Rock & Soul Music
10. Pure
11. 世界は夢を見ている
12. 10年前の今日のこと (Album version)

―Guitarists―

布袋寅泰、黒田晃年