2018年のフジロック・フェスティバル、フィールド・オブ・ヘブンを沸かせたグリーンスカイ・ブルーグラスという5人組を覚えているだろうか。彼らの最新アルバム『Stress Dreams』は、時に複雑なコード・プログレッションを聴かせ、時にエフェクトを駆使しながら、ブルーグラスを軸足に置きつつ、アメリカン・ルーツ・ミュージックの新たな可能性を提示してくれる。今回はフラットピッカー=デイヴ・ブラッツァに、作品の話からギタリストとしての来歴までたっぷりと語ってもらった。
インタビュー=トミー・モリー 質問作成/文=福崎敬太
ノーマン・ブレイクは確実に僕のフェイバリットなミュージシャンだよ!
今回のインタビューでは最新作『Stress Dreams』の話と合わせて、いちギタリストとしてのあなたについてもお話を聞いていきたいと思っております。まずはブルーグラスを弾くようになった経緯から教えて下さい。
グレイトフル・デッドが僕にとって大きな存在で、若い頃に伯父と一緒にライブを観に行ったりしていたんだ。で、最初はドラマーとして音楽に接してきたんだけど、“もしギターを弾くならブルーグラスをやろうかな”なんていう冗談を17歳くらいの頃に友人たちに言っていた。そうしたら実際にアコースティック・ギターを手に入れる機会があって、実際にブルーグラスをプレイしてみたら没頭していったんだ。あの頃はブルーグラスしかプレイしていなかったし、それ以降僕の大きな部分となっていったよね。
あなた自身はソロで弾き語ることもありますが、グリーンスカイ・ブルーグラスでソロをとる際もロー・ポジションを中心にコードを時おり鳴らしながら弾く、ノーマン・ブレイクのようなアプローチが多いように思います。
ノーマン・ブレイクは確実に僕のフェイバリットなミュージシャンだよ! “彼からの影響はあるのか?”って本当に多くの人から聞かれるんだ(笑)。君が彼を選んでくれてとても嬉しいね。もちろん彼は僕がやっているプレイにとても大きな影響を与えてくれたし、ほかにもトニー・ライスやザ・セルダム・シーンのジョン・スターリンも好きさ。でももっとシンプルなものをプレイするような人たちのほうが自分にとってシックリ来たんだよね。
そういったフラットピッキングのスタイルは、どのような練習で習得しましたか?
僕はとにかくレコードに合わせてたくさんプレイしてきたんだ。あとはバンドでみんなと一緒に演奏してきたっていうのも大きなことだったと思う。で、共通して言えるのは“よく音楽を聴いてプレイする”ということだ。一緒にプレイする人たちからインスパイアされ、必然的にそういったことも身に付いていったものだったよ。
201 Productionsでのソロ・ライブを観ましたが、カーター・ファミリーやジョン・ハートフォードなどから、ボブ・ディランやレオン・ラッセル、ジェシ・フラー、アーサー・クルーダップまで、トラディショナルといっても幅広い楽曲を取り上げていました。このような音楽とはどのように出会ってきたのでしょうか?
僕は常に好奇心を抱き、レコードを集めてたくさんの音楽を聴いてきた。叔父は古い音楽をまとめたテープをくれたり、また別の叔父と僕の兄弟が一緒にプレイしていて、従兄弟も僕らと一緒にプレイするような家族環境だったんだ。幼い頃からみんなで音楽を共有してきて、“これだ!”という何かを感じるようなアーティストに出会った時は、その人が参加した作品をひたすら掘りまくってきたね。きらめきを感じたものに対しては熱心に追っかけてきたよ。今もツアー中だけど、その先々のレコード屋で買い漁ってしまうし、ツアーが終わって家に帰る時はいつも両手一杯のレコードを抱えているんだ(笑)。
このバンドのメンバーで演奏したら悪いプレイなんて生まれてこないね
最新作『Stress Dreams』は素晴らしい1枚でした。まずは完成したこの作品を聴いて感じたことを率直に教えて下さい。
僕らは去年の8月から制作に取り掛かり、プロセスを重ねていく内にいつも通りかなりの時間がかかってしまった(笑)。でもレコーディングを進めていく過程でサウンドが変化していくさまを目にしていると、“よくここまできたなぁ”と特別なものを感じるよね。それでもやはり格別なのは世界に向けてリリースになった瞬間で、アルバム・リリース日のフィラデルフィアでの公演後にバスの中で大音量で聴いて、みんなで抱き合いお祭り騒ぎだったよ。このアルバムは僕らが過ごしてきたここ数年間を封じ込めたもので、それを一気に聴くっていうのは素晴らしい瞬間だったね。
伝統的なブルーグラスで開放弦が使いたい時などは、プレイ・キーがGやCになるようにすれば良いと思いますが、グリーンスカイ・ブルーグラスの場合はA-D-Fで構成された「Absence of Reason」のように複雑な響きのコード・プログレッションも少なくありません。カポの設定、プレイ・キーについてはどのように考えていますか?
僕らの音楽にカポは切り離せない存在だ。僕が書く曲はトラディショナルなブルーグラスの曲になりがちで、2フレットにカポなんていうのはよくやるテクニックだ。でも「Absence of Reason」みたいな曲だとカポを使わないでドロップDでプレイしている。サビに入った際のディープなコードのサウンドはまさしくこれによるものだ。こういった工夫はいくらでもできるけどカポはやっぱり僕の大切な相棒で、ローコードのGやCのシェイプでプレイするために活用しているよ。
「Grow Together」ではコンパクトなソロがあります。メロディはどのように思い浮かぶのでしょうか?
このソロはかなりシンプルだよ。この曲の中心となるメロディを覚え、それを骨格としながらもまた別のところへと発展させてプレイしているんだ。特に数小節しかないソロとなると、曲そのものに忠実な感じにプレイすることが大切なんだ。腰を据えて数回プレイし、メロディをしっかりと覚えることが取っ掛かりとして重要だね。
グリーンスカイ・ブルーグラスはスライド・ギターやマンドリン、バンジョーなどの弦楽器も多いですが、バンド編成の時にソロを取る際に考えていることやアドバイスはありますか?
僕はカウンター・ポイントを大切にしていて、バンド・メンバーに頼りながらプレイすることがけっこうある。自分でソロをプレイしていても、バンドのほうを聴いていることが多かったりするんだ。そもそもブルーグラスっていう音楽では、バンドでの相互作用や音楽的な対話が重要なんだよ。だから自分に課していることの多くは、“リラックスしてプレイする”ことだね(笑)。それだけこのバンドを信頼しているし、このバンドのメンバーで演奏すると悪いプレイなんて生まれてこないんだよ。
リズム・プレイだとパーカッシブに歯切れ良く弾くことが多いですが、リズム楽器としての役割をどう考えていますか?
リズム・ギターってかなり重要な役割の楽器だと思っている。そもそもリズムをしっかりとプレイできなければ、ソロだって満足に弾けないよ。もちろん曲によってその役割は異なっているけど、僕は最大限に曲を支えることを何よりも大切にしている。グリーンスカイ・ブルーグラスでの僕の役割について話すと、時折意図的に全体から離れたようなプレイをすることで、より大きなリズムを効果的に作り出すこともあるんだ。一度はずれてみてから再び5人が合わさってプレイすることで、さらにドライブ感が得られる。ちなみに、ザ・セルダム・シーンのジョン・スターリンはベストなリズム・ギター・プレイヤーの1人だから、ぜひ聴いてみると良いよ。
あなたのリズム・プレイはミュートも重要だと思います。特にキーがDの「New & Improved」などでは低音弦側のミュートがキモだと思いますが、何かコツなどはありますか?
本当に君の言うとおり重要なポイントなのだけど、基本的には練習あるのみだ。特にこういった開放弦を使ったDのコードでは、6弦は右の手のひらによるミュートが必要だね。この曲は、手のひらによるミュートで作り出すフィーリングを掴むための練習にもってこいだと思う。そして、最高の練習にするには、メトロノームを使ってみることも大事だよ。ゆっくりのテンポで弾いてみて、快適にプレイできるようになったら少しずつテンポを速めてプレイしてみるんだ。僕は普段からちょっとしたテクニックの練習はこういった方法でしているよ。
深い奥行きを作り出すためにディレイを使うんだ
レコーディングで使用したギターは?
基本的に3本のギターでレコーディングした。サンタ・クルーズによるカスタム・モデル“Honey Bee”、彼らとエンドースしていることで作ってもらったVintage Southerner、そして2003年からずっと使っているコリングスのD2Hの3本だね。Honey Beeはプリ・ウォー期のドレッドノートを再現したショート・スケールのギターで、マーティンのD-28みたいなマホガニーのバックとサイドだ。最近はステージのメインとして使っている。ヘッドにミツバチの美しいインレイを入れてもらっているんだ。Vintage Southernerはマホガニー・バック&サイドでスプルース・トップのモデルだね。で、コリングスのD2Hはインディアン・ローズウッド・バック&サイド、アディロンダック・スプルースのトップ板だよ。
ライブだとペダルボードも用意していますが、今回は使いましたか?
レコーディングでもいつもと同じようにペダルをとおしていて、必要となった時にすぐ踏めるようにしていた。結果的にアルバムに収録した曲はストレートなものが多かったから、あまりそれらを使うことはなかったかな。それでもグレイス・デザイン(Grace Design)のFELiX(プリアンプ/D.I.)を使えたことは、トーンの選択肢が得られたという意味で良かったと思っている。ただ、ネックに向けてロイヤーのSF-1リボンマイクを立て、ボディ側にはAKGの414を立てて録音しているから、実際に聴こえているのはこれらのマイクによる、部屋で録った実際のサウンドがメインなんだ。
ライブ用ペダルボードの構成や用途について教えて下さい。
FELiXは常に入っていて、よく使うのはピグトロニクスのEcholutionというディレイと、チェイス・ブリス・オーディオのThermaeも同じくディレイとして使っている。奥行きの深さを作り出すために僕はけっこうディレイを使うんだ。ほかにもチェイス・ブリスのWombtoneというフェイザーで、ちょっとしたグチャっとした音やヴァイブを作っていたりするね。あとはゲーム・チェンジャー・オーディオのPlus Pedalをそれ専用のアンプで鳴るように設定して使っていて、ちょっとしたテクスチャーやサウンドをホールドさせている。僕のペダルボードのポイントはD.I.ボックスのうしろにボリューム・ペダルを置いているところで、それでステージ後方にあるフェンダーのデラックス・アンプへの入力レベルを操作することで歪み具合をコントロールしているんだ。
フジロックでのステージは今でもたまに思い出すよ
ちなみに「Grow Together」のMVで、テレキャスターを弾いているポール・ホフマン(vo,mandolin)が映っていましたが、マンドリン・ソロの裏で聴ける音はエレキ・ギターによるものですか?
あれはスタジオに置いてあった僕のテレキャスターをポールが弾いて遊んでいただけだね(笑)。この曲で聴けるエレキっぽいサウンドは全部アンダース(・ベック)のドブロによるもので、アンプにつないで歪ませているんだ。
では「Stress Dreams」の歪んだソロもアンダースのドブロなんですか?
いや、あれはマンドリンだね。僕たちは普通じゃやらないようなことをやって実験するのが好きでね。
ブルーグラスをベースにしながらも、エフェクトやエレキ・サウンドなども導入する柔軟性があなたたちの魅力だと思います。グリーンスカイ・ブルーグラスの音楽にとってブルーグラスというのはどのような存在なのでしょうか?
僕らはみんなブルーグラスを愛している。この音楽をプレイすることは何よりも楽しいからね。ただ、自分たちがやることを特定のスタイルに制限すべきじゃないと思っている。もちろん僕たちだってライブでは正統派なブルーグラスもプレイしているけど、今は久しぶりに自分たちの最新アルバムを引っ提げてのツアーだから、どうしても自分たちの曲が中心になってしまうけどね。ただ僕らはブルーグラスのミュージシャンたちをリスペクトしているし、自分たちがやってきたルーツを大事にしている。それでいて、そこに何か自分らしさを常に加えられていると信じているよ。
話は変わりますが、2018年のフジロックでの演奏は覚えていますか?
もちろん! 僕らが今までプレイしてきた中でのベストなショウの1つだったと、バンドを代表して断言させてもらうよ。あれは本当に信じがたい経験だった。僕らはみんな日本で過ごした時間を楽しみ、あのフェスでのプレイは本当に凄まじかった。とても暖かくオープンに迎えられたライブとなったよ。セットが終わってステージを降りたあともオーディエンスの歓声が鳴り止まなくて、僕たちは気が済むまでアンコールをプレイして良いことになってしまった(笑)。とても特別な気持ちで一杯だったし、フジロックでのステージは今でもたまに思い出すようなことなんだ。子供の頃からずっと日本に行ってみたいと思っていたし、僕らはフェスの日だけじゃなくて9日間も日本に滞在していた。またいつの日か、日本に行く日が待ち切れないよ。
ぜひまた日本に戻ってきて下さい。簡単なことではないと思いますが、フジロックを超えるようなライブを期待しています!
わかったよ(笑)。僕らはどこにだって行くし、それが東京だろうと京都だろうと呼ばれればどこでもプレイしたいと思っているよ!
作品データ
『Stress Dreams』
Greensky Bluegrass
輸入盤/2022年1月21日リリース
―Track List―
01. Absence of Reason
02. Monument
03. Until I Sing
04. Stress Dreams
05. Give a Shit
06. Streetlight
07. Worry for You
08. Get Sad
09. Cut a Tooth
10. New & Improved
11. Screams
12. Grow Together
13. Reasons to Stay
―Guitarists―
デイヴ・ブラッツァ、アンダース・ベック(dobro)