Interview|田中ヤコブ(家主)滋味深いグッド・メロディとヘヴィさの融合体 Interview|田中ヤコブ(家主)滋味深いグッド・メロディとヘヴィさの融合体

Interview|田中ヤコブ(家主)
滋味深いグッド・メロディとヘヴィさの融合体

 編集部注目の新人アーティストを紹介する『OPENING ACT』のコーナー。今月は、4人組ロック・バンド、家主をピックアップした。

 彼らの持ち味は、キャッチーなメロディと琴線に触れるソングライティングにあるだろう。今や曽我部恵一やトクマルシューゴ、直枝政広(カーネーション)など数多くのアーティストから賛辞を集めている。

 そんな彼らのメジャー2ndとなる最新作『DOOM』は、滋味深いグッド・メロディとエッジの効いたサウンドが見事に融合し、キャッチーさとヘヴィさが絶妙なバランスで同居している。

 中でも、バンドを率いるフロントマンの田中ヤコブ(vo,g)は、ハードロックやメタルを彷彿させるヘヴィなサウンドとライブ感溢れる演奏で聴く者を惹きつける。これがバンドに特有のアイデンティティをもたらしているのだ。

 さっそく田中ヤコブに登場願い、彼の音楽的なバックボーンを探っていこう。

取材/文:錦織文子
※本記事はギター・マガジン2022年3月号にも掲載されています。

L→R:谷江俊岳(vo,g)、田中ヤコブ(vo,g)、田中悠平(vo,b)、岡本成央(cho,d)

僕の音楽ルーツには
メロディが必ず核にある

 僕の父がバンドをやっていて音楽好きだったので、物心付いた頃から家ではずっと音楽がかかっているのが当たり前だったんです。ジャンルも年代も様々ですが、ビートルズを始めとして、ビーチ・ボーイズやE・L・O、ジェリーフィッシュなどもよく聴きました。

 邦楽だと大滝詠一さんやカーネーション、スピッツなども幼い頃から聴き馴染んでいましたね。そういったポップなメロディのバンド・サウンドや歌ものには凄くハマって。そのおかげか僕の音楽ルーツにはメロディが必ず核にあって、そういう風に音楽を聴く耳が形成された気がします。

 ギターを始めたのは中学2年の時で、それが僕の人生の大きな転機でしたね。小学校からやっていた野球をその頃に辞めて、同じタイミングでTHE BLUE HEARTSに衝撃を受けてギターを始めました。

 僕はちょっと複雑な家庭環境で育ったんですが、野球をやっていた理由もあまり家の中にいたくないからというのがあって……辞めちゃってから自ずと家にいる時間が増えてしまった時に、ギターに自然とのめり込んでいったんです。

 だから家とか学校とか、辛い状況から逃げ出したい時にギターを弾くのが、ある種の救いにもなっていたんですよ。僕にとってギターは寄り添ってくれる友達でもあり、色んなことを教えてくれた先生でもありますね。

 次に現在のプレイ・スタイルに影響を与えたギタリストについて聞いてみた。

 自分の中での三大ギタリストがいるんですけど、その筆頭がXTCのデイヴ・グレゴリーですね。XTCの楽曲はもの凄く緻密なバランスを保ってできていて、昔はひたすらコピーしていました。それは今のアレンジにもつながっていると思います。彼に憧れて12弦ギターを買ったりして、それは最新作『DOOM』でも使いまくっていますね。

 次にピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモア。彼は特別速く弾くわけではないですが、1音1音に凄まじい説得力があって。マイナー・ペンタで構成されている彼のブルース的なアプローチや音色が好きで、そういったところにも影響を受けました。

 それから、人間椅子の和嶋慎治さん。スピードも重さもあるけど、その中に品格があるというか。あの類の音楽でのギターはテクニックやスピード競技になりがちな部分がありますけど、和嶋さんの場合はずば抜けたテクニックがあるのに、楽曲全体のまとまりやバランス感覚が絶妙なんですよね。それこそ10代の頃にやり場のない感情を抱いていた時には、心の拠りどころにもなっていました。

▲田中のライブでのメイン器は、高校生の頃に入手したというギブソン・カスタムショップ製のSG。
▲田中のライブでのメイン器は、高校生の頃に入手したというギブソン・カスタムショップ製のSG。所有している中で“一番優等生”だと言い、自分の手に合っていてローからハイ・ポジションまで最も弾きやすいそうだ。

日常の裏にある負の部分を
ギター・サウンドで表現した

 2ndアルバム『DOOM』は、耳残りのいいメロディはそのままに、前作よりもギターのヘヴィなサウンドが全面に押し出された楽曲が多いのが1つのトピックだろう。こうした作風はどういった経緯で作られたのか尋ねてみた。

 前作に比べてサウンドを重めにしたいという意図はなんとなくあって。僕らの音楽は何だか「穏やかな日常」を表現しているように受け取られることも多いみたいなんですけど、もうちょっと日常の負の部分を何か上手いこと表現できないもんかなと。

 そう考えていたら、自分の心の中のメタルとプログレが「僕たちがいるよ! 今まで一緒にやってきたじゃん!」みたいに声を掛けてくれた感じがあって(笑)。日常のプラスの面だけじゃなくて、その裏にある疎外感やイライラとか負の部分こそ自分の根幹であり、表現したいものなんだよなって思い立ったんです。

 人間椅子やピンク・フロイドも僕にとってはそういう部分を表現してくれる音楽として共感できるもので、僕のアレンジや音作りの指標にもなっていますね。

 だから作品全体を通して聴くと、曲ごとの雰囲気がガラッと変わるので躁鬱状態のようにもなっていて(笑)。1曲目の「近づく」から重めのサウンドで感情が爆発しているようなんですけど、中盤には急に我に返ったように穏やかな流れになり、かと思いきや終盤でまたイライラしてきたような曲調になる。そういう意味で、人間らしさのある作品にはなったと思うんです。

 本作では多様なギターの音色が聴けるのもポイントの1つだ。特に印象的なのは「飛行塔入口」で聴ける牧歌的でクルーンなバッキング、ソロでのクランチ ・トーン。こうした音色の数々を創出した機材について教えてもらおう。

 今回はもの凄くたくさんの楽器をフレーズごとに変えたりもしました。普段はハムバッカーのSGを使うことが多いんですけど、今回はストラトのシングルコイルの音も取り入れたり、12弦のアコギやガット・ギターも弾いたり。それによってサウンド面でのアプローチは格段に広がりました。「このフレーズはシングルコイルのキャリッとした感じが欲しい」とか、逆に「この歌のバッキングの刻みは箱モノでギャンギャン歪ませたい」とか、レコーディング前にサウンドを頭の中で思い描いてからベストな機材を選定しましたね。

 例えば12弦のアコギを使ったのが8曲目の「飛行塔入口」です。ベースの田中悠平さんが作った曲なんですけど、牧歌的な雰囲気を感じたので、エレキというよりも、カラッとした12弦のアコギがハマるだろうと思って。それありきでフレーズを練っていきました。それで言うと、ストラトを上手く使えたっていうのもこの曲でした。楽器の選択が上手くハマったなと思ってますね。

 最後にギタリストとしての展望を教えてもらおう。

 ギター・プレイは基本的に大喜利のようなものだと思ってやっているんですけど(笑)、そういう「その場凌ぎのクオリティ」を高めていきたいという気持ちがありますね。その時にたまたま出てきたフレーズが、結果的に一番良いのが理想だと思っていて、それが本当の自分の力っていうか。そういう偶然から生まれたものを大切にしながら、いいものを作れたらいいなと思います。

ギター・マガジン2022年3月号
『ギタリスト 布袋寅泰のすべて』

2022年3月号のギター・マガジンは、“ギタリスト 布袋寅泰のすべて”。昨年デビュー40周年、そして今年2月1日に60歳を迎え、新作『Still Dreamin’』をリリースした布袋寅泰を、140ページにわたる大ボリュームで特集!

作品データ

『DOOM』
家主

NEWFOLK/NFD-001/2021年12月8日リリース

―Track List―

01. 近づく
02. NFP
03. にちおわ
04. 夏の道路端
05. 路地
06. たんぽぽ
07. めざめ
08. 飛行塔入口
09. それだけ
10. 老年の幻想
11. The Flutter

―Guitarists―

 田中ヤコブ、谷江俊岳