Interview|田中義人 『TIME』変わる時代と変わらないトーン Interview|田中義人 『TIME』変わる時代と変わらないトーン

Interview|田中義人 
『TIME』変わる時代と変わらないトーン

ギタリスト/プロデューサーとして、ケツメイシやスガ シカオを始めとする数々のアーティストの作品/ライブに参加する田中義人が、自身名義では8年ぶりとなる2ndソロ・アルバム『TIME』を2021年12月8日にリリースした。MPCを駆使した現代的なサウンドのトラック、そしていつの時代も変わらないプレイヤーとしての普遍的なトーン。この二つの要素を両立させるために意識したこととは?

取材=田中雄大

もう一度MPCに火を入れてみようかなと。

今作『TIME』は1st『THE 12-YEAR EXPERIMENT』(2013年)から約8年ぶりのアルバムです。作り始めたきっかけは?

 まず前回のアルバムのあと、2018年にスガ シカオさんをフィーチャーした「Smells(feat. スガ シカオ)」をリリースして、その曲を収録した『Smells Like 44 Spirit』という4曲入りのEPをデジタル・リリースしたんです。それ以外にも日頃からトラックは作り溜めていたんですけど、やはりコロナ禍の影響が大きかったですね。

 2020年2月の後半にKREVAのツアーのリハーサルをやっていたんですが、ゲネプロをやってこれからツアーだ、という時に緊急事態宣言が発令されて、ライブが無期限延期になってしまって。KREVAのツアーに初参加ということで楽しみにしていたんですが、そのエネルギーやアイディアの行き所がなくなってしまったんですね。それが悔しかったので作品に反映しようと思って「Smells」以外の曲を作り始めていきました。

 「Smells」は2013年にはトラックは完成していたので、これだけ古い曲なんですけど、今作にもリミックス/リマスターして収録しています。

やはりコロナ禍が音楽業界に与えた影響は大きいですね。

 そう感じます。ただ、そのぶんイレギュラーに時間も出来たので、今回は自分で全部マスタリングまでやっているんですよ。そういう意味でコロナ禍は自分にとってネガティブなことばかりではなく、ポジティブな影響もあったなとは思いますね。

時間の猶予が生まれたからこそ形になったアルバムということですね。今作はイメージ写真がMPCだったりして、収録曲もビートが効いたものが多いです。サウンド面でのテーマはありましたか?

 実は20年以上MPCを使い続けているんですよ。MPC2000XL、MPC3000が2台、あとMPC4000とLINN DRUMを持っていて、これまでにプロデュースを担当した音源もほとんどMPCでビート、アレンジのベーシックを作っているんです。

 前作も何曲かMPC4000でプログラミングをして、あとは今のメインのDAWでもあるAbleton Liveを使ったりもしたんですが、そこから時間が経ってあまり触らなくなってきたんですよね。なので、この機会に改めてもう一度MPCに火を入れてみようかなと。それこそ「Okay(feat. DURAN)」なんかはギターのリフもMPCに入れていて、ビートも全部MPC3000なんですよね。

『TIME』のイメージ・アーティスト写真。
『TIME』のイメージ・アーティスト写真。

そうなんですね!

 ビートに関しても、高校の頃からずっとヒップホップを聴いてきた影響が大きいですね。LL COOL JやIce Cubeが大好きでした。今でこそ“ネオソウル”って言われて、ギタリストがヒップホップやR&Bに傾倒することが自然なことになりつつあるじゃないですか? でも自分がMONDO GROSSOやバードなんかで活動していた2000年代初頭とか、僕が前作を出した2013年頃までって、まだまだそんなことは当たり前ではなく”ギターあまり入ってないね”、とか“ギタリストの音楽なのにこんなにビートが効いてるんだ”、“もっとギターでメロディを歌う感じを期待してた”って言われたりもしたんです。

 そこから時間が経って、今はそういう音楽がより世間に認知されるようになってきてる。だからビートが効いた、必ずしもギターが主役ではない音楽をギタリストとしても作りやすくなったなという心境ですね。

まさにそうだと思います。

 あと、ギターのトーンに関して僕が常に考えているのはエリック・クラプトンやB.B.キングなんです。というのも、彼らは時代の流れに敏感だったなという印象があって。例えばB.B.キングはロンドンでレコーディングをしたり、フュージョン・ブームだった時にクルセイダーズを招いてレコーディングしたりしていましたよね。クラプトンも流行りに敏感で常に時代性をサウンドに落とし込んでいます。

 そうやってトラックは時代に合わせて変えつつも、B.B.もクラプトンも彼ら自身のギターのトーンは多少の変化すらあれど、ずっと同じところにいるじゃないですか。プレイヤーとして自分のトーンという普遍的なものがあって、その一方サウンド面、鳴りの部分でその時代に生きているということを作品に投影しているというか。楽器は違いますがマイルス・デイヴィスもそうですよね。そういう姿勢が僕は好きだなと思って、自分の作品でも常にイメージしています。

実は一番最初にやっていたのはメタルなんです。

B.B.キングやクラプトンの話が出ましたが、義人さんのギター的なルーツはその辺りになるんでしょうか?

 ルーツと言えるかどうかはわからないんですけど、実は一番最初にやっていたのはメタルなんです。僕が高校生の時にずっと一緒にバンドをやっていたドラマー(鈴木政行)が今LOUDNESSにいるんですよ。

メタルとは意外ですね!

 高校の時に札幌で“グスタフ”っていうバンドに所属していて、Outrageと対バンしたりとか、地元では名のあるバンドだったんですよ。

 その一方、当時習っていたギターの先生がいて、その方が古いアナログをものすごく持っていたんです。それこそB.B.やクリーム、ジミヘン、あとはロリー・ギャラガーやフランク・マリノとか、ブルース・ロック系の音楽をたくさん聴かせてくれたんですよね。あと初期のアース・ウィンド&ファイアーみたいなファンクや、ウェスを始めとするジャズもそうでしたけど、とにかく色んなアナログを持っている方で。その時の影響で僕のギター・スタイルの核がほぼ形成されたと思っていますね。

個人的に義人さんはブルースのフィールをベースに、要所でジャズのフレーバーを入れるスタイルだと感じているので、まさにそんな印象です。方向性としてはロベン・フォードみたいなスタイルといいますか。

 ロベン・フォードも大好きでしたよ。ロベンもそうだし、昔はそうやって“誰々っぽくなりたい!”って思っていた時期もあったんです。例えばウェスみたいになりたいとか、ジョージ・ベンソンみたいに弾きたいとか、ジョン・スコフィールドとか、スコット・ヘンダーソンだったりとか。それでガッツリその辺のコピーをしたりもしたんですよ。一時期はジャズ・ギタリストにもなりたいとも思っていましたからね。

 ただ、そういう人を手本にしつつも“俺はここは違うな”っていうところが必ず1つはあるんです。そこが良くも悪くも自分のこだわりというか、個性なのかなと今は思います。

なるほど。

 なので“誰っぽい”というのはよくわからないんですけど、強いて言うならB.B.キングみたいなトーンで、もう少しモーダルなでコード感を出した演奏をしたいなとは思っています。でも逆にコード感を出しすぎるとダサくなる曲もあるじゃないですか? 僕は楽曲のことを考えて演奏するプレイヤーだなと自覚しているので、その匙加減はいつも意識していますね。

僕とDURANが絶対避けそうなことを
あえてやってみるのもいいなって。

DURANさんとの「Okay」はギタリスト同士のコラボレーションということで、やはりアルバムの中でもギター的な楽曲です。義人さんからDURANさんを誘ったのでしょうか?

 そうです。この曲を作る1年くらい前に渋谷で2人で飲む機会があって、その時に色々と話をしたんです。DURANにはシンパシーを感じることがすごくあるんですよ。ギターも歌も、嫉妬というか悔しいなと思うこともたくさんあったんですけど、だったら一緒に音楽やればいいじゃん!と思ったんですよね。

(笑)。

 そこから緊急事態宣言下に入って、アルバムを作り始めて一番最初に作ったのがこの曲だったんですけど、MPCにギターをサンプリングしたらすごくプリンスっぽい感じになったんですよね。そこで“これ、DURANとできるな”って。

プリンスといえばDURANさんですね。

 そうなんです。で、DURANに“どう?”って聞いたら“絶対やります!”って言ってくれたんです。それでトントン拍子にコトが進み、“じゃあさ、恥ずかしいかもしれないけどギター・ソロのバトルみたいなのやって、最後にツインのハモリとかやらない?”って。そういう、僕とDURANが絶対避けて通りそうなことをあえてやってみるというのはすごくいいなと思って(笑)。あそこにユーモアがある気がするんですよね。

(笑)。ユーモアというのもすごくわかりますが、やっぱりツインのハモリには熱いものを感じます。

 熱いですよね、ギターで一番熱い要素だと思う(笑)。DURANが快く引き受けてくれたからよかったですけどね。“絶対嫌です!”とか言われるかなと思ったんだけど(笑)。

 それと、「Okay」を作っていた頃はステイホームや自粛が始まったかなり初期だったので、“こういう状況でも人と何か一緒にできる”ということを曲に盛り込みたかったんです。あのタイミングだからこそ、それぞれ家にいながらも2人でツイン・ギターのハモリだってできるんだ、というのがハッピーだなと思って。

今のお話を聞いて「Okay」のお二人のギターを聴くとより味わい深いですね。今作は現代的なパキッとしたサウンドの曲が多いですが、最後の「Old Letter」は雰囲気が変わり、古き良きギター・バラードという感じで印象的でした。

 僕はC.C.Kingというバンドをやっているんですが、そのバンドでのライブ用に“ギターで歌う曲を作りたいな”と思って数年前に作った曲なんです。人に聴かせると“ドラム生なの?”って言われるんですけど、実は打ち込みでバキバキなんですよ。こういう曲は全部を生楽器でやるとメロウになりすぎてしまうんですよね。その辺りのアレンジ/プロデュースの匙加減というのは僕が大事にしている部分ではあるんです。ただ、たしかにギターで表現したいなというのが形になった楽曲ですね。

ドラムは打ち込みだったんですね! 生なのかと思っていました。

 大神田智彦くんがベース弾いてくれているんですけど、彼がすごくヒューマンなプレイをしてくれるので、そのおかげでドラムもすごく生っぽく聴こえているところはあります。ほとんどの曲でベースを弾いてもらっているので、そういう意味では彼の存在がなかったら成立しないアルバムかもしれないなとは思ったりしますね。

60年製のストラト1本だけ。
ワン・トーンでやりたかったんです。

レコーディングで使った機材についても教えて下さい。

 ギターはハードテイル仕様の1960年製ストラトキャスター1本だけです。さっきの“自分のトーンは同じところにいる”って話とも関連して、ワン・トーンでやりたかったんですよね。

 1枚目のアルバムではES-335を持ったりとか、曲やプレイによって持ち替えたりもしていたんですけど、今は自分の出したいトーンがほとんど決まってきたので、あとは楽曲によってブルースっぽくなるのかジャズっぽくなるのか、その配合のバランスを自分の中で変えている感じです。

写真で手にしているのが『TIME』における全曲で使ったという1960年製のストラトキャスター。
写真で手にしているのが『TIME』における全曲で使ったという1960年製のストラトキャスター。トレモロ・ユニットがないハードテイル仕様なのが最大の特徴で、田中によると通常のストラトとは異なる独特の“押し出し感”があるそうだ。もともとサンバーストだったのを以前のオーナーがホワイトにリフィニッシュしており、現在はその塗装を剥がしまたサンバーストに塗り替えるためリペア中とのこと。

“これが自分の音だ”ということですね。トーンとしてはハードテイル仕様がポイントになりそうです。

 やっぱり普通のストラトらしからぬ感じが少しあって、“クンッ”ってところがうまく出てくれるというか、独特の押し出しがあるんです。自分のプレイにはすごく合っていて、今やりたいこととその楽器がすごくシンクロしているんですよね。それもあって1本でいけたのかもしれないです。ネックもすごく気に入っていて。

 ただ、最初のオーナーの方が自分でリフィニッシュしたみたいで、もともとサンバーストだったのが白に塗られているんですが、その塗装がすごく雑で(笑)。暑くなると塗装が溶けちゃったりするんですよ。なので今リペアに出していて、一度全部塗装を剥いで、薄いラッカーでまたサンバーストに塗り替えてもらっているんです。

さらに良くなりそうですね。1本のギターで色んな曲を演奏するというところで、ピックアップの選択や弾き方は曲によって変えていますか?

 ソロはフロントがほとんどだと思いますけど、あまり意識はしていなかったですね。今回はトラックを作りこんでいるので、ギターで色々な音を出してサウンドメイクするというより、ギターはシンガーとして最後にポンッと乗っかって“どうぞ”みたいな(笑)。不器用なギタリストが呼ばれるという設定というか、“俺はこれしかできないよ”みたいなことがやりたかったんです(笑)。

(笑)。録音の方法については?

 3通りあって、使っているアンプは全部フェンダーのデラックス・リバーブです。64年製かな? “Fender”ってロゴが入っていないものです。自宅で録る時はそれにUniversal Audio/OX Amp Top Box(ロードボックス)をつないで、例えば「Time Traveler」のソロなんかはOXでやりました。あと、「Old Letter」のソロはけっこう前に録ったので、Two Notes/Torpedo Live(スピーカー・シミュレーター/ロードボックス)を使いましたね。

 スタジオで録っているものは二子玉川のStudio Sound DALIを使っています。ここはケツメイシの「夏の思い出」やMONDO GROSSOの一連の作品でも使わせてもらった勝手知ったるスタジオなんですよ。

エフェクター類は?

 BamBasic EffectribeのYT-902というオーバードライブとBOSSのDD-6(Analog Man Mod)、EP-Booster、あとはワウをフィルター的に少し使ったりもしていて、エフェクトはその4つだけです。プラグインではValhalla DSPのVintageVerbというリバーブをよく使っていて、これはギターにもけっこうかけましたね。例えば「Time Traveler」のエコー感なんかはそれで作っています。

かなりシンプルですね! そういえば、「Timeless(feat. 中澤 信栄)」のアウトロのギター・ソロでは生音もミックスされているのかなと思ったのですが。

 あれは、僕がすごく信頼している岡田勉さんというエンジニアとDALIでギター・ソロを録っている時、たまたま彼が機転を利かせてトークバックのマイクを生かしてくれていたんですよ。それで僕のピッキングのニュアンスがうまく入るんじゃないかということでミックスしてくれたんですよね。

なるほど! かなりマニアックな聴き方かとは思いますが。

 でもね、けっこう実は言われるんです。みんなそんなところまで聴いてくれてるんだって(笑)。

しっかりと聴いております(笑)。デジタルでなんでもキレイに整えられる時代だからこそ、そういう生の部分を残すというのはカッコいいなと思いますね。

 その視点はすごくよくわかります。実際、キレイに整えると全然味気なくなっちゃって。今回もオケはある程度作り込みましたけど、ギターは本当に直さなかったですね。タイム感がモタったり、逆に突っ込んだりとか、そういうズレが気持ちよかったんです。計算して作ることは誰でもできるので、予測できない、偶発的に起きる何かが今一番大事なことなんじゃないかなと思いますね。トークバックを生かしてくれた彼の機転はまさにそうですよね。

最後に、今後の活動の予定について教えて下さい。

 先のことは読めないですが、色んなライブやツアーが入っているのでそれをやりながら、実は別のプロジェクトも進めようと思っているんです。もう楽曲も4~5曲できているんですけど、ソウル度が高いものをやりたくて。もっとギターがわかりやすくたくさん入るんじゃないかな。とにかく、やりたいことがありすぎてどれから手をつけようかなと思ってます。

INFORMATION

■田中義人Twitter
https://twitter.com/T12YExperiment

■田中義人Instagram
https://www.instagram.com/yoshito_tanaka_t12yexperiment

作品データ

『TIME』
Yoshito Tanaka

ユニバーサル/POCS-23019/2021年12月8日リリース

―Track List―

01. Time Traveler
02. Bxxxh Perfect(feat. Mummy-D)
03. Interlude to Smells
04. Smells(feat. スガ シカオ)
05. Okay(feat. DURAN)
06. Timeless(feat. 中澤 信栄)
07. Time Goes By
08. Hello(feat. Haru Ikeda)
09. Interlude to Rain
10. Rain(feat. さかいゆう)
11. Old Letter

―Guitarists―

田中義人、DURAN(M5)