Interview|五味孝氏(T-BOLAN) 28年ぶりのフル・アルバムとT-BOLANという“家” Interview|五味孝氏(T-BOLAN) 28年ぶりのフル・アルバムとT-BOLANという“家”

Interview|五味孝氏(T-BOLAN)
28年ぶりのフル・アルバムとT-BOLANという“家”

2017年に完全復活を果たしたT-BOLANが、フル・アルバムとしては28年ぶりとなる新作『愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~』を完成させた。バンドの真骨頂とも言える名バラードを始め、打ち込みをベースにしたロック・ナンバーなど、表情豊かな楽曲が収録された作品に仕上がっている。多彩なアプローチで楽曲の魅力を引き出す名手、五味孝氏にアルバム制作を振り返ってもらった。

取材:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング

森友の歌をイメージして書いた曲は
なぜか、だいたいボツになる(笑)。

28年ぶりとなる新作アルバムの完成おめでとうございます。T-BOLANは、活動休止と再開、森友嵐士(vo)さんの喉の病気と復活など、バンドの歩みがドラマチックですよね。

 そうですね。振り返ってみると、僕らもいろいろありました。90年代にT-BOLANがバンドとして継続的に活動していたのは正味3年半くらいしかないんですよ。活動休止前にやったライブ(『LIVE HEAVEN ’94~’95』)あたりから森友の声の調子が悪くなってしまって……そこからはもう実質活動が止まったような状態が続き、99年に解散して。その後、森友のリハビリを一緒にやったりと交流は続いていたんですけどね。

今回、楽曲制作はどのように進んでいったんですか?

 以前とはレコーディングの方法が全然違いますね。アナログ・テープに録っていた90年代は、現場に足を運んで、メンバーとずっと顔を突き合わせて一緒に作るという流れだったんですけど、今回はパソコンを介してのデータのやり取りがおもになっていて。自宅でも1人で作業できてしまうから、練り込もうと思えばいくらでも練り込めるけど……時間をかけたからといって良い曲が作れるわけでもないですよね。僕らの場合、凄く慌ただしい時期に時間がない中で作った曲が売れて、“もの凄く良いものを作ろう”と思って時間をかけたのに結果がついて来なかったっていうのはよくある話なんです。

資料には“メンバー同士でぶつかり合うこともあった”と記載されていました。

 90年代は凄かったですよ(笑)。特に僕と森友がぶつかることが多かったですね。

どういう内容で意見がぶつかったのでしょうか?

 例えばアレンジだったり……極端な話、ギターのフレーズ1つに関しても意見がぶつかることもありました。森友は楽器を弾く人ではないので、具体的に“こういう風に弾いてくれよ”っていうことは言わないんですよ。ただ“雨が降ってるような”とか“雪が降ってる感じ”みたいな……すごく抽象的なイメージを伝えてくるんです。だから僕も“どうやったらギターで雪が降るんだよ!”みたいな感じで(笑)、OKが出るまでひたすらギターを弾いて。常にそんな感じのやり取りをしていたから、当時、現場にいたスタッフからは“いつもケンカしてるようなイメージでした”って言われました。

そうだったんですね。今回の作品制作では?

 もちろん妥協したところは一切ないし、お互いに引かないところは引かないんですけど、遠く離れてのやり取りが増えたからか、以前よりもスムーズに進む場面は増えましたね。

今作には「祈りの空」のようにギターが鳴っていない楽曲も収録されていますが、五味さんはアレンジに対してどのような考え方でアプローチしているのですか?

 もちろんギタリストなんで、何でもギター中心に考えてしまうんですけど……その曲が持っている魅力をギターで引き立てられるんだったらギターで押していくし、そうじゃないんだったら別の方法を探す、みたいな感じでフレキシブルに考えるところがありますね。やっぱり楽曲に合ったアレンジというのが一番重要だと思います。

 「祈りの空」に関して言えば、最初にデモを聴かせてもらった時にあまりピンと来なかったんですよ。試しにワン・コーラスだけやってみたんですけど、森友も“ピンと来ないな”って感じで。でもキーボーディストの小島良喜さんに入ってもらって作ったアレンジがすごく良かったから、僕としてはそこにギターを入れる必要性を感じなかったんですよね。“バンドのギタリストなんだから、ちょっとくらいギターを入れさせてよ”って気持ちは全然なくて……僕は曲のことを優先して音楽を作っていきたいんです。

打ち込みのビートが印象的な「Re:I」は、五味さんのソロ・プロジェクトであるelectro 53で深めてきた表現の延長線上にあるような楽曲ですね。

 確かに、現代のテクノロジーを使った曲の作り方、アレンジの仕方っていうことに関しては、electro 53の活動からの影響は大きいですね。

ちなみに今回、森友さんの歌声をイメージして書いた曲はありましたか?

 それがね、ないんですよ。もちろん森友が歌うことをイメージして作った曲もたくさんあるんですけど……大体ボツになるんです。逆に何も考えずに作った曲に反応するっていう。これまでにも数え切れない新曲を作っては渡しているんですけど、“いいね!”ってなった曲に限って、森友をイメージして作ってないことも多くて(笑)。どうも僕が彼の歌をイメージして作ると、“キレイなメロディ”になってしまうみたいなんですよ。

それは良いことなのでは?

 僕もそう思うんですけどね……でもなんか引っ掛からないみたいなんです。ボーカリストである森友のほうが視野が広いと感じることも多いし、僕は彼の感覚を信じているので“お前が良いって言うならやってみよう”っていうのが多いですね。

90年代の僕は
ギターのことしか考えてなかった。

「ずっと君を」は、T-BOLANの真骨頂とも言える名バラードです。「Bye for Now」や「離したくはない」を始め、五味さんがバラードでギターを弾く時に意識している点は?

 曲に関して言えば……アレンジはただの服で、“本人”はやっぱりメロディなんですよ。身につけている服によってダサくも見えるし、カッコよくも見える。なので“どういう風に服を着させようかな?”って感じでアレンジのことを考えるようになりました。

 例えば「京恋唄」は、ミックス・バランスで言えばギターの音がかなり大きいんですよ。なぜかと言うと、この曲は作り込んでいく時に、森友が僕の弾いたギターに関して“違う”とか“あ、それ!”みたいな感じでディレクションをしているんです。そういうやりとりをしながら弾いたフレーズって、ボーカリストにとって邪魔になっていないから音量を上げたくなるんですよね。なので例えギタリストとしては“もっと弾いたらいいのに”と思うくらい間(マ)が空いてたりしたとしても、“良し”とできるようになりました。

 あと、90年代と今に分けて話をすると、90年代の僕はギターのことしか考えてなかったように思います。以前、森友にも“お前の弾くギターってギターのことしか考えてないように感じるんだよね”って言われたんですよ。“良い部分もあるけど、うるせえ”とか。当時の僕は何のことを言われているのかわからなかったんですけど、今ならよくわかる。ミックスをしている時もギター中心に聴いているから、“俺が、俺が”みたいになってしまっていたんでしょうね。

そういうディレクションに関して、森友さんは感覚的に判断されているのでしょうか?

 凡人には理解できない何かがあるんじゃないかな? やっぱり多くの人が聴いてるのはメロディなので、ギター中心に考えていたらいつまで経っても歌を活かすギター・ワークのアイディアは出てこないと思う。

T-BOLANの楽曲には五味さんのメロディアスなギター・ソロも欠かせないですが、フレーズはどのように作っていくのですか?

 頭でカッチリと考えて弾くことは少ないですね。自分の中から溢れてきた1stテイクの鮮度を重要視したいので、とにかくギターを持って弾いてしまうんです。それはソロに限らずバッキングも同じですね。それでOKな場合もあるし、録ったテイクを聴き直して“ちょっと弾きすぎかな”って音を間引いてったりすることもあります。あと、最近の曲は90年代に比べてコード進行がかなり複雑になっているので、フレーズがコードにうまく乗っていないなって感じた時は調整したりもします。でも……基本的には最初に弾いた時のパッションを大事にしたい。理論的に説明はできないですけど、おそらく何か理由があるからこそ、無意識のうちにその音を選んで弾いているはずなので。

使用機材について教えて下さい。ギターは何を使ったのですか?

 メインで使っているのがSeymour Duncan製のTLタイプ。20歳か21歳くらいの時に、ちょっとしたセミ・オーダーで買った新品のギターだったんですけど、ずっと使い続けています。メイプル指板にしたのは、“弾き込んで指板が黒ずんだらカッコいいんじゃないかな”という不純な動機なんですけどね(笑)。

五味さんの代名詞とも言えるギターですよね。

 僕がTLタイプにこだわっているのは、圧倒的な音の速さ。自分と一体になっているような感覚で弾けるんです。その分、ごまかしが効かない楽器でもあるから、それゆえに人によっては使いにくかったりもするし、ストラトほど華麗な音も出ない。でも、僕はこのギターじゃなきゃ嫌なんですよね。

黒いボディにローズウッド指板のフェンダー・テレキャスターも愛用されています。

 61年製のビンテージなんですけど、とても軽いから今はライブ専用ギターとして愛用しています。90年代にロンドンで購入したんですけど、価格は今の1/4くらいだったんじゃないかな? あとレコーディングでは、「NO CONTROL ~警告~」でLSL InstrumentsのTLタイプを使いました。

アンプは何を使ったんですか?

 データのやり取りも多かったので、アンプ・シミュレーターのAmpliTube3は活躍しましたね。ほかにもフェンダーのTwin ReverbやPrinceton Reverb、フェンダージャパンのFAT3、MatchlessのSC30を使いました。バラードのバッキングやソロなど、曲によって使い分けています。

エフェクト・ボードには歪みペダルの数が多いですね。

 そうですね。やっぱりギタリストは、死ぬまで“歪み探しの旅”を続けるんじゃないですかね(笑)。

確かに(笑)。今のお気に入りは?

 レコーディングに使ったペダルで言うと……(Y.O.S.ギター工房の)Smoggy Overdriveかな。T-BOLANでは、クリーン・トーンのエッジを少しだけ立たせるために使っています。パリンとした感じが気に入っていますね。idea sound productのRTXにも同じようなパリン感を感じます。あとは(VEMURAMの)Jan Rayも好きですね。

改めて今回のアルバム制作を振り返ってみて、どんな作品に仕上がったと感じていますか?

 T-BOLANが解散したあと、メンバーがいろんな活動を通して得てきた知識や経験をもとに作り上げた作品になったと思います。完成して改めて感じるのは、音の聴き触りは多少違ってても“あんまり俺は変わってないんだな”って再確認したアルバムでもありますね。

変わっていないと感じたポイントとは?

 もともと自分のことを器用なギタリストだと勘違いしていたところがあったんです。T-BOLANでデビューする前は特に。色んなジャンルを通ってきたし、けっこう何でも弾けるって……確かに何でも弾けるんですけど、いざレコーディングで“良い作品を生み出さなきゃいけない”と自分と向き合って弾いたギターを聴くと“俺にはこれしかできないのか”っていうくらい一緒なんですよ。それくらい自分のプレイ・スタイルは一貫しているように感じましたね。そんな中でも、ギターのサウンドメイクの仕方だったり、リズムの乗せ方といった部分では、多少は進化できたのかなって感じています。

五味さんにとって、T-BOLANはどういう存在ですか?

 T-BOLANって、結局、家なんですよね。例えば僕が家の外に出て、何か経験して帰ってきて、それを楽曲制作にフィードバックしたりとか。やっぱりT-BOLANがなかったらギタリストとしての今の僕はいなかったと思うし……自分の核になっている存在ですね。

T-BOLAN。左から上野博文(b)、青木和義(d)、森友嵐士(vo)、五味孝氏(g)。

作品データ

『愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~』
T-BOLAN

ビーイング/JBCZ-9128/2022年3月14日リリース

―Track List―

01. A BRA CADA BRA ~道標~
02. NO CONTROL ~警告~
03. 愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~
04. ずっと君を
05. 祈りの空
06. 京恋唄
07. Re:I
08. 俺たちのストーリー
09. ひとつの空 -no rain no rainbow-
10. 声なき声がきこえる
11. Crazy Me Crazy U
12. My life is My way 2020
13. ありがとうのうた ~あいのたね~

―Guitarist―

五味孝氏