鈴木茂の“地味練”&スペシャル・インタビュー 鈴木茂の“地味練”&スペシャル・インタビュー

鈴木茂の“地味練”
&スペシャル・インタビュー

普段プロ・ギタリストが欠かさずルーティンとして組み込んでいる練習メニューを“これでもか!”とばかりに編集部が深堀りした企画、題して“地味練”。今回教えてくれるのは、比類なきメロディ・センスで数々の名演を世に残し、日本のシティ・ポップ・シーンを牽引してきたギタリスト、鈴木茂。50年を超えるキャリアながら、今なお現役で活躍する鈴木に、第一線のギター・プレイヤーであり続けるための鍛錬を紹介してもらった。

取材:編集部 採譜・浄書:Seventh デザイン:山本蛸
※本記事はギター・マガジン2022年4月号から抜粋/再編集したものです。

“地味練”を教えてくれるのは……

鈴木茂

すずき・しげる◎1951年、東京都生まれ。68年にSKYEを結成したのち、69年にはっぴいえんどに加入。72年のバンド解散後にキャラメル・ママを立ち上げ、様々なアーティストのバックを務める。現在もソロ活動、ギタリスト、アレンジャーとして第一線で活躍中。

公式HP>
Twitter>
YouTube>

Ex-1:薬指と小指の筋力トレーニング

鈴木 薬指と小指は、ほかの指に比べて自由に動かしにくいんですよね。僕はこれを続けているうちに、リード・ギターで小指&薬指を併用したフレーズで引っかかったりするようなミスが少なくなりました。ポイントとしては、上手く弾けなくても気にせず弾き続けること。とにかく指を動かしましょう(笑)。

この譜面は6弦から下の弦に移動して、反対の動き(1〜6弦まで順に移動)で戻ってくるパターン。とにかく、ギターは薬指と小指を独立して動かせるようにすることが上達するうえでとても大切。習慣のエクササイズだと思って取り組んでみて下さい。

Ex-2:スケールの基本形を指に染み込ませるフレーズ

鈴木 Cのダイアトニック・スケールを活用したスケール練習ですね。最初はゆっくりなテンポから始めましょう。譜面には書いていないですが、僕は一番最後まで弾いたら今度は逆行で弾いてみたりして、その時々でアレンジをしています。こちらのスケールは、メジャー・スケールのキー・ポジションの基本形なので、まだスケールというもの自体に苦手意識がある人にもお薦めしたいです。

また、8分の6拍子なので、オルタネイト・ピッキングで弾いていくとダウン、アップが各弦ごとに変わっていきます。そこがピッキングの練習にもなりますね。

Ex-3:ニュアンスを鍛える「砂の女」風カッティング

鈴木 僕の曲「砂の女」のイントロを違うリズムで弾いたもの。特に難しくないけど、右手のニュアンス、左手のミュート加減をシビアに感じながら弾くと格段に難易度が上がります。

まずピック弾き、素手の両方で弾き、そのニュアンスの違いを感じる。それで僕の場合、“素手のニュアンスをピックで再現できるように”努力するね。それがなかなか難しくて。あとはピックの進入角度、持ち方、果たして今のピックが本当に自分に合っているのか?など、色々発見ができるんです。左手はいかに歯切れよくミュートができているか、とかもね。

Interview|鈴木茂
初心を持ち続ければ進歩できる。
何歳になってもね。

スケールはあくまでお手伝いさん。
支配されてはいけない。

茂さんは普段の練習ではどういった点を重視していますか?

 僕はスケール練習も、指のエクササイズも、コピーも、満遍なく取りかかるようにしています。そのあたりはいい塩梅が難しいんですけどね。理由としては、どこか1ヵ所だけを完璧にしても、人の心をつかむ演奏はできないと思っていて。例えば、ギターに限らずなんですけど、スケールが完璧なプレイヤーってスケールを曲中でゴリゴリなぞって弾いちゃうんですよね。そういったプレイは、“なんでステージでスケールの練習してるんだよ”って僕なんかは感じちゃうわけ(笑)。これってけっこう、ギタリストが陥りがちな落とし穴だと思いますよ。スケールの運指に囚われちゃうと、自由な発想から生まれるはずだったオリジナリティのあるメロディが出づらくなる。特にアドリブを弾く際に、一生懸命覚えたスケールの知識が逆に邪魔をしてしまうこともありますし。

確かにそうですね。

 極端に言うと、「One Note Samba」みたいな感じで、メロディが動かなくてもうしろでコードが変わっているだけで面白くなっちゃう時もあるじゃないですか。無理にメロディを動かさないほうが逆に曲にハマッたり。そういった発見も埋もれちゃいますよね。

スケールに支配されてしまう感じですね。

 そうそう。スケール練習っていうのは、あくまで自分のギター・プレイのお手伝いさんというか。お手伝いさんに支配されちゃいけないんですよ。頼りすぎてしまうと自分1人ではなにもできなくなっちゃう。なので、キーのポジションを覚える。指が滑らかに動くようにする。まずはこの2つにポイントを置けば、それ以上追求しすぎる必要はないんじゃないかなって僕は思うんですよ。あくまで自分の頭の中で思い浮かんだメロディが王様だから。バンドでも、ソロでも、ひらめいて形になったメロディは宝物じゃないですか。それらを大切にしないといけないってことですね。

なるほど。茂さんのフレーズがオリジナリティに富んでいるのも納得です。

 そうですね。僕はわりといろんな音使いのフレーズを生み出してきていますが、それは今までコピーしてきた無数の曲を自分の中で混ぜ合わせて、昇華して、そこから自分のスタイルが完成したからこそ弾けているというか。だから本当にコピーは大切。先人の知恵ですね。いろいろ工夫して作り上げたフレーズを教科書みたいにしてさ。初心者の人はまずコピーから入ると思いますが、いくつか覚えていくうちにだんだんとミックスできるようになっていきますよ。模倣を重ねることで自分のスタイルができあがっていくので。何かと似ていても、自分の中のメロディと混ぜ合わさったらそれはもう自分のものだって言い張って構わないし(笑)。

そうですね。

 コピーやスケール練習の話をしましたが、こうしてとにかく色んな視点に立ち返って、最終的にいつも自分のプレイをバイアスをかけずにフリーにして、何にも縛られなくなったら理想ですね。そこから各々のプレイ・スタイルが磨かれていくと思います。

では、自分のパフォーマンスを維持する努力はしていたりしますか?

 YouTubeを観ることかな(笑)。要するにいろんな音楽を聴くことです。世の中にはアイディアマンとかテクニシャンが本当に死ぬほどいるので、そういった色んなジャンルの人から常に新しい刺激を受け続けています。刺激がなくなったらやっぱり枯れていっちゃいますから。なんというか、ギターを始めた頃の初心っていうのかな。その感情があるうちはやっぱり進歩すると思うんです。何歳になってもね。そういう情熱というか、努力をしなくなったら成長は止まってしまいます。常に新しいものを探し続けるっていう気概は大事ですね。

ギター・マガジン2022年4月号
『歪祭 -2022-』

本記事はギター・マガジン2022年4月号にも掲載されています。本誌の特集は、注目の歪みペダル62機種をギタリストAssHが試奏する、“歪祭(ひずみまつり)”!