小沼ようすけの“地味練”&スペシャル・インタビュー 小沼ようすけの“地味練”&スペシャル・インタビュー

小沼ようすけの“地味練”
&スペシャル・インタビュー

普段プロ・ギタリストが欠かさずルーティンとして組み込んでいる練習メニューを“これでもか!”とばかりに編集部が深堀りした企画、題して“地味練”。国内ジャズ・ギター界のトップ・ランナー=小沼ようすけにもご登場願おう。バンド形態でのプレイはもとより、アコギ1本で深みのある世界を構築する小沼だが、今回はガット・ギターを片手に“地味練”をいくつか紹介してもらった。

取材:村上孝之 採譜・浄書:Seventh デザイン:山本蛸
※本記事はギター・マガジン2022年4月号から抜粋/再編集したものです。

地味練を教えてくれるのは……

小沼ようすけ

おぬま・ようすけ◎秋田県出身のジャズ・ギタリスト。14歳からギターを始めHR/HM系テクニカル・プレイヤーに傾倒したあと、ジョージ・ベンソンのアドリブに衝撃を受けてジャズ・ギタリストを目指すようになる。ピックを使用しないフィンガーピッカーとしても有名。

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Ex-1:休符への理解を深める練習フレーズ

小沼 1個のコード=Dm7(9)をくり返してグルーヴを身体に入れる練習ですね。そこから展開させていくパターンです。グルーヴを出し続けるには休符が大事なので、毎回正しい長さの休符を入れることを意識したいですね。慣れると色んなアレンジを加えていけるようになるんですよ。休符のところに入れるブラッシング音を強調したり、6弦の5fも織り混ぜてベース・ラインを弾いてみたり。合間に単音フレーズも入れられたりね。最初は簡単なフレーズから入れていって、慣れてきたら単音フレーズを1小節弾いたりすることにもトライしてほしいです。

Ex-2:遅いテンポでグルーヴにさらなる磨きをかける

小沼 譜例1の応用編で、コードが動くパターンです。これをBPM=48くらいでくり返す。これだけ遅いと“間”が耐えられないと思うんですよ。その“間”を楽しむことが鍵で、体内クリックを鳴らせるようになると格段にリズム感が良くなります。そして、これも合間に単音フレーズとかを入れていく。最後の2拍を必ず守るようにすれば、グルーヴは崩れないんですよ。僕だったら最後はソロを“バァーッ”と弾いて、またモチーフに戻って締めるという流れにしますね。こういうモチーフを使って自分の旅ができて、僕はいつもそれを楽しんでいます。

Ex-1:右手を鍛錬できるアルペジオ・モチーフ

小沼 色んなギターの刻み方に役立つパターンの練習の1つ。速く弾くとラテンっぽくなるし、ゆっくり弾いても雰囲気があるし、ミュートして弾いてもカッコいいので、お薦めです。それに、これをずっとくり返すと右手が鍛えられます。右手に関しては、僕は親指の側面ではなくて腹のほうを弦にあてています。親指以外の指も指先ではなくて、もう少し奥のところで弾いていますね。そして、手首から先は完全に脱力した状態で弾いている。フォームはこれが正しいというものはないので、自分にとって弾きやすいフォームを見つけてほしいです。

Interview|小沼ようすけ
最小の力で最大のことができるように
日々練習を工夫しています。

今の自分にできないものがあると
克服したくなるんです。

ギターの基礎連は、普段からよくしていますか?

 やってます。僕は自分が苦手なものとか、“これが弾けたらカッコいいけど今の自分はできないな”というものがあると克服したくなるんです。それで、自分が苦手なことを入れ込んだフレーズを考えて、それを弾く。もう毎日暇さえあればやってますね。スムーズに弾けて、なおかつずっとくり返せる持久力をつけるために延々と練習し続けます。

苦手なことには目を背けがちですが、弾けない原因を理解して克服するのが一番の近道ですよね。

 そう、集中攻撃が一番効果がある(笑)。“これは一生無理だろう”っていうフレーズでも、遅いテンポから始めて練習し続けていれば必ずできるようになるし、そうするとほかのフレーズも弾けるようになったりするんですよ。なので、ピンポイントで自分の苦手なところをくり返して練習するというのは普段からやっています。

さすがです。そうすると、わりと1日中ギターを弾いているタイプですか?

 昔は本当に暇さえあれば弾いていたんです。最近はギターと離れる時間もあるし、逆に何かひらめいたらもうずっと弾いているという感じです。ツアーの移動の車中でずっと弾いていることもあるし、入り時間まで暇な時は気づけばギターを抱えていたりする。弾いていてアイディアが浮かぶとガーッと入り込んでしまって、気がついたら何時間も経っていた……みたいなことはよくありますね。

テレビを観たりしながら弾くわけではなくて、弾く時は集中するんですね。

 僕はいつからかテレビを観るのをやめたんです。前はテレビを観ながら苦手なフレーズを克服できるように練習したりしていたけど、ほかの楽器奏者……例えば、ピアニストやバイオリニスト、サックス奏者といった人たちは、そんなことはしませんよね。楽器と向き合う時はオンの状態で、弾くことに集中する。僕もそういうスタイルが良いなと思うようになって、ギターを手に取る時は常にオンの状態で弾くようになりました。そして、いつしかテレビを観ない生活になっていったんです。

弾く時は集中するという点は見習いたいです。では、自身のスキルを保つために実践していることや心がけていることは?

 ツアーを回ったり、ライブをくり返していく中で、力が入ったままギターを弾いていると如実に身体に影響が出てくるんですよ。なので、力を抜くことは意識しています。最小の力で最大のことができるような奏法とか、フォームを考えますね。力を抜くといっても、弱く弾くということではないんですよ。上手い人が演奏しているのを見ると軽く弾いているように感じるけど、実はそんなことはなくて、力を抜いた状態で弦をしっかり鳴らしている。僕はこれからも末永くギターを弾いていたくて、そのためには身体のケアは大事なので、力まずに弾くことは心がけています。ただ、力まないといってもずっと力を抜いているわけではなくて、たとえばアドリブで高みに登りたいような、いざという時のパワーを使うために普段はリラックスするようにしています。

メリハリを大事にしているんですね。フィンガーピッカーとして気をつけていることなどもありますか?

 最近は昔よりも爪の手入れをしっかりやるようになっています。サウンドファイルというガラス製の爪ヤスリで、凄くいいヤツがあるんですよ。そのヤスリで爪を整えて、最終的にクラシック・ギタリストがよく使っている紙ヤスリでツルツルにする。そうすると、ギターの音がちょっと柔らかくなるんですよね。なので、そういうケアはちゃんとしています。

ギター・マガジン2022年4月号
『歪祭 -2022-』

本記事はギター・マガジン2022年4月号にも掲載されています。本誌の特集は、注目の歪みペダル62機種をギタリストAssHが試奏する、“歪祭(ひずみまつり)”!