独創的な歌詞世界で熱い注目を集める気鋭のシンガー・ソングライター、崎山蒼志が新作『Face To Time Case』を完成させた。今作には、崎山が“デビュー前からの憧れだった”という石崎ひゅーいやリーガルリリーとのコラボレーション曲を始め、様々な表情の楽曲が収録されている。インタビューは2部構成で、まずはアルバム制作を振り返ってもらった。“弾き語り”へのこだわりを語った後編は近日公開。
取材:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) Photo by KEIKO TANABE
ギターが一番曲を作りやすいし
自分自身を最も出せる楽器だと思う
1stアルバム『find fuse in youth』(2021年1月)は、コロナ禍のタイミングと重なってしまいました。音楽との向き合い方に対して、何か影響はありましたか?
コロナ禍が始まった頃には“これからどうなってしまうんだろう?”という不安や、世の中全体の暗い雰囲気などを受けとめながら過ごしていたので、明るいメッセージや優しい言葉で歌われる曲をよく聴いていて。その中でも藤井風さんの歌詞に励まされたりしていました。でも、もともと“怒り”や“憂い”を歌っている方々の曲も好きなので、そういう音楽を聴くことでかえって励まされる部分もありましたね。
『Face To Time Case』は1年ぶりとなるフル・アルバムですが、制作にあたりイメージしていたものは?
今回はドラマやアニメなどに関連した曲もあったので、それぞれの作品からインスピレーションをもらいながら制作しました。なので、色んなタイプの曲が入った作品に仕上がったと思います。自分の好きなミュージシャンの皆さんとのコラボレーションも実現できました。
石崎ひゅーいさんとの「告白」、リーガルリリーとの「過剰/異常」ですね。
制作をご一緒させていただいたことで、普段みなさんが“どのように音楽をとらえているか?”というところが勉強になったし、面白さを感じた部分でもありました。
「告白」では、ひゅーいさんと実際に一緒にスタジオに入って曲を作ったんですけど、フッと出てくるメロディがとにかくキャッチーで……改めて凄さを感じました。そして何より、僕自身がひゅーいさんのファンでもあるので、ひゅーいさんがちょっとしたフレーズを口ずさんでいるだけで、自分が音源を聴いていた頃の気持ちを思い出してしまって。あれは去年の“ベスト・エモ”な体験だったんじゃないかなと思ったりしています。
「舟を漕ぐ」は、マーティ・ホロベックさんのベース・ラインがとても印象的ですが、アンサンブルの中でのベースの役割についてはどのように考えていますか?
この曲はリズムがとても変わっているというか、独特で、ベースとドラムが主体の曲だと思います。最初に僕の作ったデモ音源があって、それをもとにセッションをしながら曲を仕上げていったんですが、セッションをそのまま収録してもOKなんじゃないかというくらいマーティさんと守真人(d)さんがカッコ良くて。とても素晴らしい仕上がりになりました。
「Helix」は緊張感が漂うヘヴィなサウンドが特徴です。どのように作り込んでいったのでしょうか?
僕が歌いながらアコギで作った曲を、akkinさんにアレンジしていただきました。akkinさんが作ってくれた「逆行」もそうですが、自分の作ったデモ音源に対して、意見を交換しながら徐々に形にしていった感じです。
「幽けき」の歌詞で「今日が薄れてく」という部分では絶妙な不協和音が使われています。
「幽けき」は、もともと『かそけきサンカヨウ』(2021年公開)という映画の主題歌として書き下ろした楽曲でした。作品タイトルにもある“サンカヨウ”は、美しさの中に儚さを感じような花で、そういう優しさや柔らかさの中にある危うさのようなものを表現しようと思い、不協和音なんかも意識しながら作った曲です。こういう変なコードを使うのは好きなので、スレスレな感じで入れているところはあります。最近では、そういうディスコードな響きなども音楽的に使いこなせるように音楽理論も勉強したいなって気持ちが強くなっています。
崎山さんにとって“ギターで曲を作る”というところにこだわりは?
やっぱりギターが一番曲を作りやすい楽器ですし、自分自身を一番出せるような気もする。それって自分にとって大きなことなんですよね。コードを弾きながら自由に曲を作るスタイルが、僕の軸になっている。“リズムが遊んでいて、歌が泳いでる”みたいなイメージ。自分の好きなタイミングで、好きな和音を作ったり、それを変化させたり……弾き語りだとわりと自由なことができるなってことに気がついて。そういう部分は、これからもっと深く掘り下げていけたらと思っています。
クリックなしの一発録りが
自分のスタイルの原点
ギターで生み出すグルーヴという意味では、その傾向は「逆行」に顕著に表われていると思いました。右手のバッキングは、高速の3連刻みを多めに入れていますよね。
そうなんです。もともとリズムや打楽器が好きなので右手のリズム感にも影響はあるのかもしれません。僕、バッキングが好きなんですよね。カッチリしてるビートの中で、ギターがリズミカルに動いている感じが面白いなって感じるんです。色んな音楽や様々な楽器から取り入れた要素がギターの演奏に表われているという部分が大きいのかなと。
どんなリズムをガイドに演奏しているのですか?
特定の音を聴くというよりは、リズムの中の4拍子と3拍子のグルーヴを同時に感じているのかもしれないです。リズム自体は4つでも、僕は3つで取っていたりして、それが12でハマってポリリズムになっている、みたいな。曲の中でもパートによってリズムの感じ方は変わっているかもしれないですね。
「タイムケース」は歌の呼吸に演奏が寄り添っていて、クリックに縛られていない間(マ)も重要な要素になっているように感じました。
弾き語りというスタイルだと自分だけの呼吸で物語を表現できるので、そこを大切にしながらクリックなしの一発録りで演奏しました。これが自分のスタイルの原点でもあって。
「タイムケース」には、“その場所に流れてきた時間を、その場所がそのまま保管している”という意味を込めていて。“ある場所に流れてきた時間と対面すること”をテーマにしているんです。例えば、雑踏の中に神社があって、その境内に足を踏み入れた瞬間に凄く静かになるといったようなイメージというか。
「通り雨、うつつのナラカ」では、過剰に歪ませたエレキ・ギターのソロが耳に残りました。
アコギが主体の楽曲だったので、“エレキがちょっとリードみたいな形で鳴ってくれたらいいな”と思ってデモを作って。サビでキラキラとしたエレキ・ギターがキュイーン!と入ってくるイメージだったので、それをエンジニアの林憲一さんと一緒に膨らませながら弾きました。
今後も自分でリードを取ってみたいという欲求はありつつも、その一方で“カッコ良いギタリストの方々を招き入れたいな”という気持ちもあります。今回のアルバムだと「嘘じゃない」でサトウカツシロ(BREIMEN)さんがギターを弾いてくださったんですが本当にカッコ良くて……僕もBREIMENのライブ映像を観たり、曲を聴いているとカツシロさんのギターが凄すぎて、なぜか観ている僕自身がうれしくなってしまうんです(笑)。
レコーディングで使用した機材について教えて下さい。ギターは何を使いましたか?
いつも使っているオベーションのAdamasとViperに加えて、「逆行」では1973年製のギブソンのSG Specialを使いました。SGは“灰野敬二さんが使っているものと一緒のモデルなんじゃないか?”っていう理由だけで手に入れたんです(笑)。あと「舟を漕ぐ」では、Juan Hernandezのクラシック・ギター“Profesor 松”を使用しました。
今回のアルバム制作で活躍した機材を挙げるなら?
活躍したのはオベーションと……事務所の先輩である堂島孝平さんからお借りしたマーティンのD-28ですね。D-28は「Helix」と「告白」で使用したんですけど、とても素敵なギターでした。
今作を作り終えたことで新たな表現の可能性は感じましたか?
今回、ひゅーいさんの作るキャッチーなメロディを聴きながら「告白」を作った時に、“自分っぽくないメロディ”を思いついたんです。とても新鮮な感覚だったので 、自分ではない声で歌う曲を作って、そのあとに自分で歌うという制作方法も面白いのかな、と思ったりしました。そうやって今回の制作で得た経験をこれからの音楽作りに生かしていきたいとも思っています。ほかにも1枚丸ごと同じバンド・メンバーで作るようなやり方にも憧れますね。
最後に、今回の作品制作を振り返って一言お願いします。
個人的には、作品を通じて色んな音楽のとらえ方や、これまでにない景色が見えた作品になりました。でも、それ以上にアートワークを描いてくださった星山耕太郎さんを始め、色んな方々が関わって下さって、本当に感謝の気持ちしかありません。そういった感謝の思いが詰まったアルバムを、ぜひ多くの皆さんに聴いていただけたら嬉しいです。
作品データ
『Face To Time Case』
崎山蒼志
ソニー/SRCL-11999/2022年2月22日リリース
―Track List―
01. 舟を漕ぐ
02. Helix
03. 嘘じゃない
04. 告白(崎山蒼志×石崎ひゅーい)
05. 幽けき
06. Pale Pink
07. 逆行
08. 水栓
09. 風来 -extended ver.-
10. 通り雨、うつつのナラカ
11. 過剰/異常 with リーガルリリー
12. タイムケース
―Guitarists―
崎山蒼志、石崎ひゅーい、たかはしほのか、akin、サトウカツシロ、江口亮