Interview|ミヤ(MUCC)精錬された“生感”で放つ16thフル・アルバム Interview|ミヤ(MUCC)精錬された“生感”で放つ16thフル・アルバム

Interview|ミヤ(MUCC)
精錬された“生感”で放つ16thフル・アルバム

結成25周年を迎えるMUCCが、2年ぶり16枚目のフル・アルバム『新世界』をムックの日=6月9日にリリース。新体制となったメンバーとディスカッションをくり返し、より一層力を入れて制作したという今作は、MUCCらしさがありながらも暖かく、生々しいギター・サウンドがアツい1枚となっている。ミヤが新たに導入したギターの写真とともに、今作のギター・ワークの真髄について詳しく聞いていこう。

取材/文=村上孝之 ライブ写真=冨田味我 ギター写真=星野俊

自分の中にある音楽を表現するためにギターを使います。

『新世界』は3人編成になって初めてリリースしたアルバムです。制作の面で以前と変わったことなどはありましたか?

 サポート・メンバーが2人いるので、前よりもデモを渡すタイミングを前倒しする必要があったんです。そのことが結果的に時間に余裕を持って作業することにつながったので、それはよかったと思いますね。

 あとは、サポート・メンバーにデモをそのままなぞらせるようなことはやりたくなかったので、曲を覚えてもらった段階で各楽器のアレンジを一から組み立てていきました。新しいメンバーでプロダクションを始めたら、どんなことが起こるのかなという期待感があったのでそれを大事にしたかったですね。

 それに、今回は制作に入る前にメンバー内で、どんなアルバムを作りたいかという話し合いをしたんです。今まではそういう話し合いすら一切していなかったんですよ。

 以前よりもメンバーが1人減ったということは、力が1人分減ったということなので、“より作りたいものを明確にしたほうがいいな”と思ったんです。なので、作りたいものを好きなだけ作るんじゃなく、アルバムの方向性に沿った曲を作っていくようにしました。そこからアルバムの選曲を始めたので、結果的にバランスの良いアルバムになりましたね。

新しい制作方法を試したんですね。その話し合いから、何か作品のキーワードなどは出てきたんですか?

 みんなで、それぞれの今の気分を話し合ったりしたんです。生きている中、生活の中での自分の気分=どういう音楽をやりたいか、ということにつながってくるので。そういう話をしたら“今は柔らかみのある音楽が聴きたいね”というのがみんなの共通した気分だったんです。

 普段は激しい曲も聴くけど、ずっとガツガツしている作品は聴き疲れするから聴きたくない……みたいな。だから、もちろんMUCCらしい激しい曲もあるけど、今回はそこを基本にはせずに、静かな曲を軸にしたソング・ライティングをしていました。

そうすると、曲作りは「未来」や「いきとし」あたりから始まっていたのでしょうか?

 そうですね。1番最初に形になったのは「未来」でした。最初に作り始めたのがどの曲かは覚えていないんですが、多分「星に願いを」、「HACK」あたりを作った気がします。

最初の段階で色々な曲を作られていたんですね。作曲についてもお聞きしたのですが、曲を作る時はギターを弾きながら作るタイプでしょうか?

 いえ、ギターは一切持たないです。持つと作れないので。

そうなんですね。ヘヴィなリフを考える時も持たないんですか?

 持たないですね。頭の中で鳴っているイメージを形にする時に、“どの楽器からスケッチを始めるべきか”というのがなんとなく自分の中にあるんですよ。“ギターから始めるとギタリストのエゴが出たアレンジにしちゃいそうだな”とか。ピアノがメインの「未来」も、ピアノを弾きながら作ったわけではないんです。

 この曲は、モチーフになっているピアノのフレーズが頭の中で鳴っていて、“こういう音色で、こういう音の積み方で……”ということをイメージして、それをピアノに置き換えました。

 ただ自分の作曲の手法だと、ビート・メイクから始めることが多くて。ビート・メイクをして、コード、メロディという基本の骨子を作ってから全体のアレンジを考えていく感じです。

そういう作り方をされていながら、ミヤさんは凄くギタリスト然とされていますよね。そこが少し不思議です。

 俺はギターのことを考える時間が1番少ないかもしれない。多分ギターが1番興味ないですね。ギター・マガジンのインタビューで言うことじゃないんですけど(笑)。ギターは自分が音楽を表現するためのアイテムとして選んだだけで、自分がやりたいのは“ギター”そのものではなくて、“音楽”なんですよ。自分の中にある音楽を表現するためにギターを使う、ピアノを使う、必要な楽器を使う、というスタンスです。

90年代のクリーン・トーンが逆に新しいものとして感じます。

それでも、ミヤさんのギターはギタリスト心をくすぐります。今回の『新世界』でも幅広い曲調に合わせて多彩なアプローチを採られていますが、ギター・パートはどのように作っていったのでしょう?

 たとえば、凄くレトロな曲でモダンなアプローチをしたら逆にカッコいいなとか、モダンな曲にレトロなギターを入れたらカッコいいなというような考え方をすることが多いですね。ギャップを活かすというか。

 俺は曲に寄り添っただけのギター・フレーズだと、聴いていて興醒めしちゃうんですよ。“理論的なだけじゃん……”みたいに感じてしまう。でも、自分はもともとそういう頭なので、“もっとロックな感じがしたんですよね”みたいなことが言いたいんじゃないかな(笑)。

ギャップという面では「COLOR」、「いきとし」といった透明感のある曲にファズ・トーンを入れていますね。

 曲調や歌詞に引っ張られて出てきたアイディアですね。凄く明るい雰囲気なのに、実は影があって暗いことを歌っているみたいな曲の時は、そのギャップを音で表現したくなる。その点「COLOR」は表に出しているメッセージに対して、隠れているものが凄く多い曲なんですよ。裏側にある言葉にできない狂気とか、えげつない感じがファズ・トーンと凄くマッチしたんです。

ファズが楽曲の雰囲気を深めています。では、今回ギター・アプローチの面で印象の強い曲をあげるとしたら?

 これも「COLOR」かな。間奏で、雅楽や能で使われている和楽器でしか鳴らせない音の重なり方をしたコードが出てくるんですけど、もともとのデモでは打ち込みの琴が鳴っていて、これを生のエレキ・ギターで弾いたほうがカッコいいんじゃないかなと思って。それでギターでコピーしてみたら、もう見たことがないような運指になってしまって(笑)。ギターでは押さえられない音の重なり方だったので、単音とアルペジオを混ぜたり工夫して再現しましたね。

 あと、新しいということでは、「HACK」でPRSのSTタイプを使いました。ジョン・メイヤー・モデルですね。見た目が気に入って購入しました(笑)。

どのような音の特徴がありましたか?

 フェンダーのストラトキャスターとはやっぱり違いますね。PRSのキャラクターが強い気がしますが、フェンダーよりも出音が落ち着いている。それにリア・ピックアップでガシガシに弾いても音が暴れにくいんですよ。ストラト特有のハーフ・トーンやフロント・ピックアップのおいしいところはそのままで、いい意味で主張し過ぎない。だから、凄く使いやすいです。

Paul Reed Smith/Silver Sky
Paul Reed Smith/Silver Sky
トレモロ・ユニットの4本のスプリングと共振止めのスポンジ。
トレモロ・ユニットはボディにベタ付け。
4本のスプリングの裏に共振止めのスポンジが挟められている。

いい出会いがありましたね。前述の「HACK」と「未来」では、ミヤさんならではのしなやかなカッティングを聴くことができます。

 今作の落ち着いている曲では、今まで以上にカッティングやアルペジオが増えましたね。俺は“ラウドなギタリスト”というイメージが強いかもしれないんですけど、ギターのルーツは布袋(寅泰)さんなんですよ。だから、自然とそうなりますよね。それに、90年代の“デジタルいいぜ!”みたいなクリーン・トーンが今は凄く使いやすいというか。逆に新しいものとして感じるし、その当時にリアルタイムでそのサウンドを聴いている人間としては嬉しさもあるし、クールにも見えるので多用しました。

クリーン・トーンの質感や、エフェクターのかかり具合などが絶妙です。もう1つ、今作はギター・ソロが多いことも印象的です。

 結果的に多くなりましたね。今回のアルバムは“ノー・シンセサイザー”ということをテーマに掲げているんです。オルガン、生ピアノ、フェンダー・ローズ(エレピ)は使うけど、それ以外のキーボード類は使わないと決めていたので、自然とエレキ・ギターでリードを取る楽曲が多くなりました。

 特に、今まであまりやってこなかったクリーン・トーンでのギター・ソロを弾いている曲が増えたのが面白かった。クリーンは音が丸裸なので、ダイナミクスが少しでも揺らいだら破綻するんですよ。かといって歪ませてしまうと表情が変わってしまう。その塩梅が難しかったですね。

クリーン・トーンのテイスティーなソロは凄く魅力的です。その一方で、「Paralysis」、「零」ではテクニカルなギター・ソロを弾かれていますね。

 「Paralysis」はAllen(MUCCのサポート・ドラマー)が作ったんですけど、メタル・チューンで間奏が2バスじゃないですか。なので、Allenに盛り上がってもらえそうなクサいギター・ソロを弾きました。そしたら思ったとおり反応してきてくれて。“それ、めっちゃいいっスね!”って(笑)。

なるほど。エモーショナルなツイン・リードで始まって、トレモロ・ピッキングのハーモニー移る流れもカッコいいです。

 クサいというのは、言い換えると“ド定番パターン”ということですかね。いい意味ですよ。来てほしいものが来てくれた時の安心感とか快感ってあるじゃないですか。例えば、“こういう展開で間奏が2バスだったらツイン・リードで、そのあとは速弾きが王道でしょう……”と予想するリスナーに聴いてもらえたら、“キタァーッ!”となってくれるみたいな(笑)。そうやって喜んでくれる人に対して、このソロを弾いたっていう一面もありますね。

 そして「零」は、単純にX JAPANのオマージュを存分に入れた曲になっています。MUCCのライブは真面目でかっちりとした側面も多いですが、こういったオマージュがわかりやすい曲や、BPMが速い曲でバカみたいに騒ぐみたいな側面もライブの定番として定着しているんです。「零」はそういった役割の曲の最新版がほしいなと思って書いた曲です。

もっとMUCCらしくするためにはどうしたらいいか? 
というところまで突き詰められたんですよ。

ライブも楽しみです。続いて、『新世界』で使用したおもな機材も教えていただけますか。

 ギターは、ヘヴィなパートではハパス・ギター(SLUDGE727 Custom Shop Limited)を多用しました。ハパスにオーダーしていた緑色の新しいギターが、ちょうどレコーディングの2日前くらいに届いて。俺がもともと持っている赤黒のハパスはけっこう初期の設計らしく、そこから4~5年かけてアップデートされていった部分があるんです。

 たとえば、ネックが2ピースから3ピースになっていたり、ナットの上のミュート・バンドがデフォルトで付いていたりとか。音も赤黒ハパスと比べてちょっとタイトです。音の腰が高くてスピード感があります。今作で言うと「懺把乱」は緑ハパスで、「星に願いを」、「パーフェクトサークル」は赤黒ハパスといった感じでした。

Hapas Guitars/SLUDGE727 Custom Shop Limited
Hapas Guitars/SLUDGE727 Custom Shop Limited
デフォルトで装着されているミュート・バンド。
デフォルトで装着されているミュート・バンド。

ミヤさんの音は意外なほど歪んでいないこともあって、2本の音の違いが明瞭に聴き取れました。では、クリーンやクランチ系で使ったギターは?

 さっき話したPRSのジョン・メイヤー・モデルが多かったですね。「HACK」や「NEED」、「未来」、「COLOR」は確実に使っています。ほかには「R&R darling」で、ヤマハの新しいRevstarとフェンダー・テレキャスターを使いました。

Yamaha/Revstar RSP02T
Yamaha/Revstar RSP02T
今回入手したのはP-90タイプのピックアップが搭載された1本。
今回入手したのはP-90タイプのピックアップが搭載された1本。

 テレキャスターは、テックの峰守さんが20年前くらいに俺に貸してくれた個体とまったく同じものを今回も持ってきてくれたんですけど、俺は全然気づかなくて。“このテレキャス、めっちゃいいですね!”と言ったんですけど、“20年前はあまりよくないと言ってたよ”と言われて(笑)。20年経つと人は変わるんだねという(笑)。あと、「COLOR」はギブソンの64年製SG Jr.も使っています。それも峰守さんのギターですね。アコギはマーティンの69年製D-35を使いました。

いつもどおり厳選されたギター陣ですね。アンプは?

 ベーシックは“せーの!”で録るので、実機のメサブギーとディバイデッド・バイ・13を使いました。そこから先のダビングはケンパーを使う場合もありましたが、そこは適材適所というか、曲に合うほうを選びました。Lch.から実機のアンプの音が鳴っていて、Rch.からはケンパーの音が鳴っているといったセクションもあるのがけっこう面白かったんですよね。それに、デモのギター・ソロをそのまま採用した曲もあります。

実機を鳴らす時は、キャビネットもメサブギーでしょうか?

 今回はボグナーのキャビネットを使いました。15年越しくらいにメサブギーの以外のキャビを使ったかもしれないです。ボグナーのエクスタシー・シリーズの90年代のキャビネットが凄く好きだったんですが、なかなか見つからなくて。そしたらたまたまKuboty(ex.TOTALFAT/g)が“いいタマが出た!”みたいなのをインスタのストーリーで上げていて、それを即買いしました。だからKubotyのおかげですね(笑)。

感謝ですね(笑)。エフェクターは?

 以前も紹介していただいた、ライブで使っている自分のメイン・ボードをつないだ状態でベーシックをレコーディングしていました。ベーシック録りは4日しかなかったので、バァーッと録って必要な時に必要なエフェクターをインサートしたり、ケーブルを替えてみたり……という感じでした。ベーシックは1発録りなので、“ここはディレイで飛ばしたい!”みたいな時に足下で直感的に操作したいんですよね。なので、最近はレコーディングもライブのスタイルでやるというのがデフォルトになっています。

ミヤのメイン・ボード。2021年11月に公開したインタビュー記事より。
2021年11月に公開したインタビュー記事より。

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Interview|ミヤ(MUCC)
新体制で放つNEWシングル「GONER/WORLD」

ペダルボードの詳細は本記事で紹介しています。

より“生感”を活かした録り方をされていたんですね。さて、『新世界』はクオリティーの高い楽曲が揃っていて、ギターの聴きどころも多い必聴の一作となりました。

 制作が始まった当時にバンドの体制が変わったこともあり、どうなっちゃうんだろうなという不安もありましたけど、今回は本当に楽しかったですね。以前は、例えば“このグルーヴを演奏したい”となった時に、そのグルーヴを再現するまでで止まっていた。そこにいきつくまでのプロセスで、自分もバンドもいっぱいいっぱいになっていたんですけど、今回はそれが自然にできるようになって。

 そしてそこから先、もっとMUCCらしくするためにはどうしたらいいか? というところまで突き詰められたんですよ。だから凄くクリエイティブな制作だったし、ライブが楽しみですね。今は演奏することがとにかく楽しくて、リハーサルの時点でもう凄く楽しい。ライブではそれが何倍にもなるし、楽曲もさらに成長していくことになるから、いいライブを見せられると思います。ぜひそれを体感しに来てほしいですね。

LIVE INFORMATION

MUCC TOUR 2022「新世界」
〜Beginning of the 25th Anniversary〜

【SCHEDULE】

06/18(土)/新潟LOTS
06/19(日)/金沢 EIGHT HALL
06/25(土)/神戸Harbor Studio
06/26(日)/大阪 BIG CAT
07/2(土)/岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
07/3(日)/高松 festhalle
07/10(日)/仙台 GIGS
07/16(土)/札幌 cube garden
07/17(日)/札幌 cube garden
07/23(土)/浜松 Live House窓枠
07/24(日)/名古屋 DIAMOND HALL
07/26(火)/京都 KBSホール
07/30(土)/福岡 BEAT STATION
07/31(日)/福岡 BEAT STATION
08/19(金)/Zepp Nagoya
08/21(日)/Zepp Osaka Bayside
08/28(日)/Zepp DiverCity TOKYO

※チケット購入の詳細は公式HPまで
https://55-69.com/

作品データ

『新世界』
MUCC

朱/MSHN-163/2022年6月9日リリース

―Track List―

01.新世界
02.星に願いを
03.懺把乱
04.GONER
05.パーフェクトサークル
06.HACK
07.NEED
08.未来
09.R&R darling
10.COLOR
11.Paralysis
12.零
13.いきとし
14.WORLD

―Guitarist―

ミヤ