特別企画|おとぎ話『US』全曲解説【前編】by 有馬和樹&牛尾健太 特別企画|おとぎ話『US』全曲解説【前編】by 有馬和樹&牛尾健太

特別企画|おとぎ話『US』全曲解説【前編】
by 有馬和樹&牛尾健太

有馬と牛尾に新作『US』の全曲解説をお願いした。前編は1曲目「FALLING」から4曲目「ROLLING」まで。

取材・文=小林弘昂 人物写真=星野俊


「FALLING」

5分くらいのヒップホップも飽きないじゃないですか?
だから“大丈夫だ”と思って(笑)。
──有馬和樹

1曲目「FALLING」は先行配信されましたが、ループ・フレーズのサイケデリック・メロウ・バラードで、おそらくおとぎ話のファンはビックリしたと思うんですよ。

有馬 めちゃくちゃビックリしたでしょうね! 最初は“ヒップホップっぽい曲を作ろうかな”と思ったんですけど、おとぎ話はみんなヒップホップを聴く人たちじゃないから、“僕たち流”になっちゃうんですよ。だけど、ハイムの新しいアルバム(『Women In Music Pt. Ⅲ』/2020年)にルー・リードの「Walk On The Wild Side」(1972年)みたいな「Summer Girlっていう曲が入っていて、それが凄くカッコ良くて、“こういう感じで曲を作ったら良いかもしれないな”と思ったんです。

ハイムがキッカケだったんですか!

有馬 1ループの曲にするって決めていましたし、堀江さんのローズ・ピアノを頭の中に思い浮かべながら曲を作ったので、本当に新しい扉を開いた感じですね。ローズの音は入ってないんですけど。

牛尾 コードが今まで使ったことのないやつで、有馬のデモのギターも6弦のベース音だけが変わっていくみたいな。だから凄く面白かったですね。基本的にループで展開がないから、レコーディングの直前まで“どう聴かせていくんだろう?”って思いましたけど。

有馬 みんな完成形がどうなるか知らなかったよね。メンバーはコード進行だけを聴いているから、曲が出来上がった時に有馬がどれだけ才能があるかっていうことに気づくという(笑)。

(笑)。アコギもエレキも同じフレーズのループですが、飽きさせない工夫ってあったりするんですか?

有馬 不思議と5分くらいあるヒップホップの曲も飽きないじゃないですか? だから“大丈夫だ”と思って(笑)。

牛尾 あとはレコーディングの時に思いついたフレーズを入れたり、逆に抜いたり。そういうことをしているから同じループでも飽きないのかも。

有馬 ライブだと牛尾が音源よりもロックなギターを弾いているんですけど、“音源どおりに弾かない”って最初から決めていたかもしれない。裏と表になっているというか。

ライブと音源は別物という。この曲をライブで演奏する時、牛尾さんはどんな感じなんですか?

有馬 RAT踏んでるよね?

牛尾 いや……Big Muff。

もっと歪んでる(笑)。

牛尾 僕の中ではジョン・フルシアンテみたいなイメージですよ。ジョンも音源だとクリーン・トーンで弾いるフレーズをライブでは歪ませていたり。ずっと“そういうの良いな〜”と思っていたものが、今はできています。

有馬 そういうイメージはあるよね!

牛尾 ライブごとに違うアプローチができる曲というか。

有馬 「Scar Tissue」(1999年)ね!

牛尾 そうそうそう。でもね、“CDのほうが良いんだけど……“みたいな時もあるんですよ(笑)。

有馬 それも良いんだよね! 逆にそう言わせたいじゃん!

曲の最後はコードが下がっていきますよね。

牛尾 5弦ルートの△7thとm7th(♭5)だけを使っています。

有馬 僕と、堀江さんと、ASPARAGUSの渡邊忍(vo,g)さんの3人で弾き語りライブをやったことがあって。で、山下達郎さんの「パレード」(『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』収録/1976年)を歌うことになって、原曲にはこのフレーズはないんですけど、忍さんから“有馬、アウトロでこれ弾け”って言われたんですね。そしてみんなでやったらめちゃくちゃ気持ち良くて、“これ、おとぎ話で使っちゃおう”と(笑)。

牛尾 あれ、最初はなかったもんね。

有馬 そう。だから堀江さんと忍さんのおかげです。

この曲で使ったギターは?

有馬 僕のアコギがマーティンのD-41で、テレキャスで同じプレイをしています。

牛尾 僕はストラトですね。めっちゃ薄くPhase 95をかけていて、Speedはゼロ。

有馬 ミックスでフェイザーの音を持ち上げてくれたのかな?

牛尾 ビブラートみたいに揺れてるのは西村君の演出。あ、ストラトのピックアップはフロントで、これは録る前から決めてました! もうイメージどおり!

基本のトーンはアンプ直の音ですか?

牛尾 いや、基本はツマミがゼロのEP Boosterを最初につないで、次にF-SugarモディファイのErnie Ballのボリューム・ペダルをつないでいて。歪みはArcher Ikonを使う時が多かったですね。

有馬 Archer Ikonは大活躍でしたね。

いつものSD-1ではなく?

牛尾 SD-1も使いましたけど、Archer Ikonのほうが多かったかな。

有馬 僕が弾いたテレキャスもArcher Ikonですね。薄くかけていました。

なるほど。Archer Ikonが活躍したんですね。たしかにエレキのサウンドは輪郭がハッキリしたクリーン寄りの音で、Klon Centaurっぽさがあります。

牛尾 “物足りないな”っていう時に踏んでいました。ちょっとプッシュするくらいでね。Archer Ikon側で大きくキャラクターを変えることはなかったです。

有馬 あと、この曲はベースも牛尾が弾いています。真ん中に芯が通っている感じがするよね。

レコーディングでの牛尾の足下。ライブで使用している大きなボードから、楽曲によって必要なペダルのみを抜き出していた。
撮影:小林弘昂

「BITTERSWEET」

ギターが少なく聴こえる、
それが狙いです!
──牛尾健太

2曲目「BITTERSWEET」の軸となるアルペジオはどうやって考えたんですか?

有馬 これも2コードの曲で難しいんですよ。でも、それだけじゃあんまりおもしろくなくて、“せっかくだったら今までできなかったことをしよう”という話をして。ドラムのビートはCANとかNEU!みたいな感じで、そこに変なベースラインが乗っていて、そのうえに浮遊するギターを入れたいなと思っていたんです。ステレオラブっぽい感じというか。

なるほど!

有馬 それで付けたのがあのアルペジオです。“オルガンみたいなフレーズになってもいいかも”とも思っていました。

牛尾 あとはE-Bowですね。

フェードインするサウンドはE-Bowなんですね。

牛尾 E-Bowを使いながら、有馬の身振りに合わせてリアルタイムで足下のボリューム・ペダルも動かしました。

有馬 あとはエレハモのMicro Synthも使っています。リアルタイムで曲を聴きながら、僕がツマミをいじっていて。だからライブでの再現は不可能です(笑)。

それとサビの頭にTremulatorのトレモロがかかったストロークが一発入ります。

牛尾 あれはテレキャスです。ちょっとハッとする感じにしたくて。

この曲はテレキャスがメイン?

牛尾 いや、アルペジオはSGだった気がします。左右に入ってるから、それぞれピックアップを変えたかも。

有馬 太いほうが良かったんだよね。アコギはD-41ですけど、牛尾のRozawood RB-28も使ったかも。

では、この曲は4本ギターが入っているんですね。

有馬 そう聴こえないでしょう?

牛尾 それが狙いです!

お〜!

有馬 ここ太字で! “ギターが少なく聴こえる、それが狙いです!”。

牛尾 太字にするとこじゃない……。

「DEAR」

牛尾の伝説の発言がありますからね。
レコーディング中に“ギター、ムズい”って。
──有馬和樹

3曲目「DEAR」は牛尾さんのネオソウル風のフレーズが印象的です。

有馬 これはもう最高ですよ!

牛尾 ムズかった!

難しかったんですね。

牛尾 こんなフレーズ普段弾かないですもん。

有馬 僕、もともと16ビートの曲が凄く好きで。プレイヤーの「Baby Come Back」(1977年)とか、デヴィッド・ボウイの「Soul Love」(1972年)とか。“チチチチタッチチチ”っていうビートのかわいい曲が作りたくて、ようやくできたんですね。だからリズムが先にあったんです。

リズム先行なんですね。

有馬 その時ビー・ジーズとかを聴いていたから、コード進行はその影響もあるかもしれないなぁ。

牛尾 この曲のコードもわからなかったですもん。Aメロのコードが。

有馬 G△7thから下がっていくんだよね。

牛尾さんは感覚でフレーズを付けていったんですか?

牛尾 いや、わからないコードは全部聞きましたよ(笑)! “どうやってんの?”って。

有馬 ギター・ソロ以外は僕の頭の中に最初からフレーズがあったしね。

牛尾 うん。ギター・ソロだけはアドリブで。

Aメロのプリング&ハンマリングも良いですよね。

牛尾 ジョン・フルシアンテみたいで好きなんですよ。あれもイメージはストラトのフロントでした。でも、いざ弾いてみたら“ムズいな〜”と思って(笑)。

有馬 牛尾の伝説の発言がありますからね。レコーディング中に“……ギター、ムズい”って。

やば(笑)!

有馬 バンド・キャリア20年にして“ギター、ムズい”ですから。これも太字だね!

牛尾 やっぱりロックだけやってる人間が、ああいうことやるのは難しいんですよ(笑)。

有馬 これも太字!!

牛尾 弾いてみてわかった(笑)。それでAメロはいけたけど、ギター・ソロは無理でした。

有馬 ソロは何テイク弾いたっけ? 3〜4回?

牛尾 ストラトで1〜2回弾いて、“あ、無理だ!”と思ってSGに変えました(笑)。

ソロはSGなんですか!

牛尾 SGのフロントですね。サビとAメロのダブリングしたフレーズはストラトと有馬のStarfire Ⅲで弾いてるかも。

ソロはSGとは思えない音ですけど、音作りはどうやって?

牛尾 Archer Ikonを踏んでいたかもしれないです。

有馬 ディレイは?

牛尾 Empress EffectsのVintage Modified Superdelayのショート・ディレイは常にかけていて。

有馬 それでみずみずしく聴こえるんだな!

牛尾 あとリバーブはDeluxe Reverbのやつを少し。わりとシンプルですね。ミックスでちょっと変えているところもありますけど。

今回はアルバムを通してリバーブが薄めです。

牛尾 「VOICE」はけっこうかかっていますけど、ほかはそんなに。音数が少ない分、わりとドライですね。

「DEAR」のギターなんて凄く生々しいですし。

有馬 たしかにそうだ! こんなにリバーブがないの初めてかもね。今気づきました。

牛尾 そうだね。

有馬 ギター・ソロを録ってる時に牛尾が“こんなソロ弾いたことねぇもん!”って言ってましたから。名言!

それ言ってましたね(笑)。牛尾さん、1人で怒ってました。

有馬 “こんな曲、弾いたことねぇし!”って(笑)。

牛尾 (笑)。でもギター・ソロはよく弾けたかな。

有馬 オス・ムタンチスっていうブラジルのバンドとかって、こういうフレーズが入ってるんですよ。それを牛尾がやってくれましたね。素晴らしい。

「DEAR」もすでにライブで披露していますが、手応えはいかがですか?

有馬 凄く人気があるんですよ。なんでだろうね?

音源とライブでギターを変えているところは?

有馬 これはまったく一緒です!

牛尾 なんとか上手く弾けるように頑張ってます(笑)!

ライブで演奏する時、SGのピックアップはどこのポジションを?

牛尾 この曲はリアです。バンドで合わせたらリアのほうが良かったので。

「ROLLING」

今回は曲がギターを呼んでいたというか、
自分のイメージとハマったかなと思います。
──牛尾健太

4曲目「ROLLING」は、ベースがかなり歪んでいます。

牛尾 あれは西村君のミックスで歪んでいます。面白い。

有馬 個人的にはGSとか、モータウン・マナーで曲を作ろうかなって思ったんですけど、出来上がったミックスが面白くなりました。牛尾のフレーズはスミスっぽいよね。

牛尾 そうだね。スミスを意識していたわけじゃないけど。

有馬 何を意識したの?

牛尾 いや、有馬が言ってたからモータウンの感じを。

有馬 全然スミスです! 全然ジョニー・マー!

牛尾 でも、Bメロのアルペジオはスミスかな(笑)。サビとかAメロのダブル・ストップはモータウンのイメージ。

有馬 テンプテーションズの「My Girl」(1964年)とかね。

牛尾 うん。あのへん。トレモロをかけてるし。「ROLLING」良いよね。こういう曲がアルバムに入ってると良い。

わりと有馬さんの弾き語りの原型を保ったままバンドに落とし込んだ印象なんですよ。

有馬 あ、今回はそうです! 基本的にそれができるようになってきました。バンドになると“もとのイメージと違うなぁ”ってことがあって、バンド用のアレンジに変えることが今まで多かったんですけど。

牛尾 今回は妥協してない。

有馬 うん。初めて自分のやりたいアレンジになっています。そういう面でもプロデューサーとかを全部自分でやっているので。

外部のプロデューサーがいたら全然違う仕上がりになっていたでしょうね。

有馬 全然違ったと思う!

この曲で使用したギターは?

牛尾 メインはテレキャスです。これも決めていました。“絶対テレキャス!”って。ピックアップはミックス・ポジションかな。

有馬 テレキャスに告白した? “最初から決めてました!”って。

牛尾 今回は曲がギターを呼んでいたというか、自分のイメージとハマったかなと思います。

有馬 リズム・ギターは初めてStarfire Ⅲの生鳴りが良い感じにハマったよね。今まではオーバードライブをかけたり、エフェクティブにしていたんですけど、今回はそういうのがなかったから。

ギターとアンプだけの素の音というか。

有馬 そうそう。本当に60年代の昭和歌謡とかGS感になりました。

LIVE INFORMATION

おとぎ話
日比谷野外大音楽堂公演<OUR VISION>

2022年8月13日(土)
開場16:00/開演17:00
チケット発売中:全席指定¥6,600(税込)

【プレイガイド】
e+
チケットぴあ
ローソンチケット

作品データ

『US』
おとぎ話

felicity / P-VINE RECORDS/PCD-27063/2022年6月22日リリース

―Track List―

01.FALLING
02.BITTERSWEET
03.DEAR
04.ROLLING
05.RINNE
06.VOICE
07.VIOLET
08.SCENE
09.VISION
10.ESPERS

―Guitarists―

有馬和樹、牛尾健太